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interview with 『映画:フィッシュマンズ』

interview with 『映画:フィッシュマンズ』

私たちがこの映画を作った理由

──プロデューサーの坂井利帆、監督の手嶋悠貴に訊く

取材:野田努    photo : Yasuhiro Ohara   Jul 08,2021 UP

調べれば調べるほど、フィッシュマンズのことがわからなくなったんですね。しかも佐藤さん、取材とかで本当のこと言わないじゃないですか。いつも嘘をつくというか(笑)。譲さんに聞いて後で知ったんですけど、取材とかで本当のことを話そうとすると佐藤さんから止められたって(笑)。

フィッシュマンズの描き方って時代背景もあるし、いろんな描き方があると思うんですけど、今回はバンドのインサイドストーリーに徹していますよね。それはまずは監督ご自身がバンドのことを知りたいと思ったというのがモチベーションだったということですが。

手嶋:そうですね。あとは10年後20年後にフィッシュマンズを知った人たちがフィッシュマンズのメンバーたちはどういう人たちだったんだろうか、あの途轍もない音楽はどうやって生まれたのだろうか、ってことをピュアな気持ちで掴めるヒントになればと。残すべき音楽ですし、ぼくら世代よりもまだ先の世代の方々にも聴いて欲しい音楽ですので。

例えばフィッシュマンズは90年代のバンドだし、90年代の東京の風景を出すという手もあったと思うんです。いろんな事件もあったし、そういうことをやらなかったのはなにか理由があってですか?

手嶋:最初から頭になかったですね。ぼく自身も90年代を生きてた人間ですけど。今回はフィッシュマンズという人たち、彼らの音楽を描くことだけに集中したかったんです。インタヴューを重ねながら気づいたのですが、みなさん佐藤さんのことを探していて。こちらから敢えて質問しなくても佐藤さんの話をしてくださるんですよね。僕も佐藤伸治をずっと探し続けてました。でも、それは言葉に出して大きく言えない空気というか、ムードというか。だから佐藤さんをみんなで見つける映画でもありつつ、同時に彼らがどのように音楽を作ってきたかっていうことを描けば、90年代の風景も自ずと見えてくるんじゃないかなと思いました。フィッシュマンズの音楽のようにこちらもストイックにやらないと。茂木さんにも「遠慮しないで、やりたいようにやっていいんだよ、フィッシュマンズはそんなに綺麗なバンドじゃないんだから、手嶋くんが思うようにやってくれたら」って背中を押されたのも心強かったですね。

なるほど。佐藤伸治がどんな人間だったのかが浮かび上がるような作品になっているのかなと思います。彼のニヒリスティックなところも垣間見れるとぼくは思ったし、よしもとよしとも君は青春映画として観ることもできるみたいなことを言ってましたけどね。

坂井:嬉しいですね!

手嶋:そういう見方もあるんですね。

バンドのひとつの青春。それはひとつの見方としてまっとうな見方ですよね。大学生のサークルのなかで生まれたバンドが世のなかに揉まれていってっていう成長物語じゃないですけど、そういう要素がありますよね。

坂井:それはすごく嬉しいです。観る人たちがいろいろと感じて欲しいですからね。こういうものっていうことをこちら側から発する作品であるべきではないと思っているので。

ぼく個人としては、『空中キャンプ』以前の映像を観れたのがすごく嬉しかったですね。観たことなかったから。

坂井:“MY LIFE”とかすごくないですか?

ところどころにああいう貴重な映像がありますね。ただもっとも驚いたのは、欣ちゃんが高校生じゃないかくらいに見た目が若かったっていうことですけどね(笑)。

坂井:本当に(笑)。

それに佐藤伸治のノートが出てくる場面も良かった。とくに、「わかりづらいことをわかりやすくする」という言葉がさりげなく出てくる。手嶋監督さんの意図としてはどういう風に物語を見せようと思われたんですか? 

手嶋:“ゆらめき IN THE AIR”を最後に使うことだけは決めていました。あとは、フィッシュマンズが結成から現在に至るまでどのように歩んできたのかという軸と、佐藤伸治はどういう人間だったのかという軸を融合させるかだけ考えていました。佐藤さんも言っていましたけど、「10年後20年後も聴ける音楽を俺はやっているつもりだ」って。実際に10年後20年後も聞ける音楽の力。それに目を背ける事なく映像で紡いでいけば、必然とフィッシュマンズの映画になるんじゃないかと。だから、作為的に何かやってやろうというよりは、とことんフィッシュマンズと向きあっていくことだけをやってきたという印象です。

もしぼくが作るとしたら『空中キャンプ』を特別視したろうから。『空中キャンプ』の曲をもっとかけて欲しいと思ってしまうくらいだから(笑)。

坂井:“BABY BLUE”とかはちょびっとだからね。あれじゃ物足りないわけですよね(笑)。

そう! あれはもっと聴きたかった(笑)。

坂井:“BABY BLUE”は名曲ですからね……。

あれはファンが一番好きな曲のひとつだから!

坂井:(笑)。スタッフみんながそれぞれに思い入れのある曲を持っているので、「“ずっと前”は入らないんですか?」とか、編集途中でスタッフに訊かれることもありました。それぞれみんなが思い入れがあるから。それを受け止める監督は大変だったと思います。

ファンの思い入れの強いバンドだから、それは大変ですよ。だけどぼくは“Long Season”のところで奥多摩にロケに行ったところは感動しまたよ。あのシーンはクライマックスとしてあまりにもよくできすぎてるというか。

坂井:雨降ってね(笑)。

しかも、橋が壊れてて雨降ってて。

手嶋:あれは本当に皆さんにご迷惑をおかけしたというか。

坂井:譲さんと奥多摩に行くっていう日の前日に台風あったんです。地元の役場の方に、濁流がすごいので撮影なんかできませんと言われてしまって。それで撮影を1ヶ月伸ばしたんです。満を持して望んだ再撮影で、さらにまた雨ですっていう。でもやるしかない。譲さんも嫌がってました。「ぼくここ苦手なんだよね」と言いながら。撮影前にも、一回中止になっているし、濁流を心配するくらいなら「もう、代々木でいいじゃない?」とか、ご提案をいただいたりしたのですが。監督が奥多摩にこだわったんです。監督の狙いです。

すごい(笑)。

手嶋:あれは自然とそういう流れになっただけですよ(笑)。単純に譲さんに重要なことを訊きたかったから、雨であろうが、あの場所に行って話をしてもらいたかった。まあ雨と寒さで無理させてしまう形になってしまいましたけど(笑)。でも、あの撮影が終わったあとに譲さんから「ここまでやってくれたから、ここまで喋れたし、1日〜2日で終わるようなものでもなく、しつこく何度も付き合ってくれたから、安心したよ、本当に感謝しかないよ」と言っていただけたのは、忘れられないですね。

あのシーンはグッときましたね。また、奥多摩のシーンの映像の色味がすごく綺麗でした。『Long Season』のジャケットそっくりというか。

手嶋:あの場所を見つけるのがすごく大変でした。(マネージャーだった)植田(亜希子)さんも憶えてなくて。植田さんに「ここです!」と言われて、グーグルマップで見たら違ったんです。だから自分で探して、撮影日の朝早くに撮影部を連れて、豪雨のなか、ぼくが見つけていた場所をロケハンしたんです。それでやっとあの場所(※ジャケットに写っている場所)を見つけて撮影出来た。後から分かったんですけど、『LONG SEASON』の撮影で奥多摩に2回行ってるんですよフィッシュマンズ。1回目はジャケットの撮影で、もう1回はヴィデオ撮影で。もう昔のことなのでみなさん記憶が曖昧になるのは仕方ないですよね。

坂井:でも、ジャケットにも写っている同じあの岩がいまもあったのはすごいですよね。

では最後に、もういちどあらためて訊きます。佐藤さんが亡くなってからさらにバンドの名前が大きくなった。これは映画を作らなければと思ったと。これは、もっと言うと、どういうことでしょうか? まだ知らない人たちに向けて、作らないといけないと思ったということ?

坂井:実際の佐藤さんのステージを観たことがない世代の人たちに知って欲しいという気持ちもありましたし、サブスクが浸透した現代で、海外に音が届いてる状況を客観的に見て、フィッシュマンズをより多くの方に発掘してもらうきっかけに、映画がなると思いました。

フィッシュマンズをまだ知らない人たちにも、こういうバンドだったんだよと教えてあげたいと?

坂井:映画を作る上で恐怖というか心配はありました。最初の頃に茂木さんと植田さんに映画のご相談をしたときに、もしかしたら、いままで作り上げてきたものを壊してしまうかもしれないけど良いですか? と確認をしました。いままでおふたりが作りあげて、人気が出てきたものを壊してしまう可能性があるかもしれないけどいいですか? と訊いたんです。そこで言われたのが、「いいんだよ。フィッシュマンズは元々売れないバンドだったんだから、壊すものなんて何もないよ、そこには」と。これですごく気持ちが軽くなった。そこから、「よしっ作ろう!」って覚悟を決めたんです。

なるほど。

坂井:フロントマンを失くしてもバンドを続けるのはよっぽどのことじゃないとやらないじゃないですか。それを茂木さんが実際にやられていて、さらにそれによってファンがすごく増えている。もちろんフェスが増えている等の背景もあるんですけど。それにしてもこの現象はいったい何なんだろう? きっとそこには何らかの理由があるだろうと。

不思議ですよね。ぼくもこの前の闘魂に行って思ったんですけど、客層が若いんですよ。

坂井:そう!

リアルタイム世代がもっといるのかと思ったら、若い子ばかりなんですよ。特殊ですよね。

坂井:わたしの記憶のなかのフィッシュマンズは知る人ぞ知るバンドというイメージのまま。ところが、先日この映画の試写会を開催した際に会場前に貼られたポスターを見て、20代くらいの、いまどきのおしゃれな女の子3人組が「あれぇ〜フィッシュマンズやってんだ〜」って話している現場を目撃しちゃったんです。とても驚いてしまって。

それはすごい(笑)。

坂井:すばらしいことだと思ったんですけど、そこにあらためて不思議なものを感じました。もちろん茂木さんの思いとか、植田さんやメンバーの方の頑張りは絶対的にあるんですけが、それだけじゃない何かがあるんです。フィッシュマンズの音楽には。そしてきっといまの世のなかにも必要とされているものなんです。なので、この音楽の背景にあるストーリーを伝えたいし、映画を通じて伝えられることがあるじゃないかなぁと映画の可能性を楽しみにしています。映画をきっかけにさらに音楽に興味を持っていただけたら嬉しいですし。もちろん海外の人にも届けたいし。とにかくこのまま色褪せていくべき音楽ではない。

けっきょく映画のタイトルを『映画:フィッシュマンズ』にしたのは変化球はいらないなっていうことですか?

手嶋:ぼくのわがままでそうさせてもらって。このタイトル以外、絶対にないという感じというか。茂木さんにもタイトルは「フィッシュマンズ」でいかせてもらいますってお伝えして、「わかった!」って(笑)。この映画は「フィッシュマンズ」です。

(3月30日、渋谷にて)

【あらすじ】
90年代の東京に、ただ純粋に音楽を追い求めた青年たちがいた。彼らの名前は、フィッシュマンズ。プライベートスタジオで制作された世田谷三部作、ライブ盤『98.12.28 男達の別れ』をはじめ、その作品は今も国内外で高く評価されている。

だが、その道のりは平坦ではなかった。セールスの不調。レコード会社移籍。相次ぐメンバー脱退。1999年、ボーカリスト佐藤伸治の突然の死……。

ひとり残された茂木欣一は、バンドを解散せずに佐藤の楽曲を鳴らし続ける道を選ぶ。その想いに仲間たちが共鳴し、活動再開。そして2019 年、佐藤が世を去ってから20年目の春、フィッシュマンズはある特別な覚悟を持ってステージへと向かう――。過去の映像と現在のライブ映像、佐藤が遺した言葉とメンバー・関係者の証言をつなぎ、デビュー30周年を迎えたフィッシュマンズの軌跡をたどる。

佐藤伸治 茂木欣一 小嶋謙介 柏原譲 HAKASE-SUN
HONZI 関口“dARTs”道生 木暮晋也 小宮山聖 ZAK
原田郁子(クラムボン) UA ハナレグミYO-KING(真心ブラザーズ) こだま和文

監督:手嶋悠貴 企画・製作:坂井利帆
配給:ACTV JAPAN/イハフィルムズ
2021/日本/カラー/16:9/5.1ch/172分     
©2021 THE FISHMANS MOVIE

<公式HP> https://fishmans-movie.com
<公式Twitter> https://twitter.com/FishmansMovie
<公式Facebook> https://www.facebook.com/fishmansmovie
<公式Instagram>https://www.instagram.com/fishmansmovie/

7月9日(金)より全国公開
以下、現在上映が決まっている都道府県/劇場です。

都道府県劇場名公開日
東京新宿バルト97月9日(金)公開
東京渋谷シネクイント7月9日(金)公開
東京アップリンク吉祥寺7月9日(金)公開
東京池袋シネマ・ロサ7月9日(金)公開
東京T・ジョイPRINCE品川7月9日(金)公開
神奈川横浜ブルク137月9日(金)公開
千葉T・ジョイ蘇我7月9日(金)公開
大阪梅田ブルク77月9日(金)公開
京都T・ジョイ京都7月9日(金)公開
京都アップリンク京都7月9日(金)公開
福岡T・ジョイ博多7月9日(金)公開
石川シネモンド 7月10日(土)公開
愛知センチュリーシネマ7月16日(金)公開
宮城チネ・ラヴィータ7月16日(金)公開
鹿児島鹿児島ミッテ107月16日(金)公開
大分 別府ブルーバード劇場 7月16日(金)公開
群馬 シネマテークたかさき 7月17日(土)公開
長野 上田映劇 7月17日(土)公開
富山 ほとり座 7月17日(土)公開
広島 サロンシネマ7月23日(金)公開
北海道サツゲキ 7月23日(金)公開
福島 フォーラム福島7月23日(金)公開
山形 フォーラム山形7月23日(金)公開
沖縄 桜坂劇場7月24日(土)公開
愛媛 シネマルナティック7月24日(土)公開
大分 日田シネマテーク・リベルテ 7月26日(月)公開
栃木 小山シネマロブレ7月30日(金)公開
熊本 Denkikan7月30日(金)公開
佐賀 シアターシエマ8月6日(金)公開
静岡 静岡シネ・ギャラリー 8月14日(土)のみ上映
新潟 シネ・ウインド8月14日(土)公開
栃木 宇都宮ヒカリ座8月20日(金)公開
長崎 長崎セントラル劇場8月27日(金)公開
東京 立川シネマシティ近日公開
岩手 盛岡ルミエール近日公開
宮崎 宮崎キネマ館近日公開

【配給に関するお問い合わせ】
イハフィルムズ contact@ihafilms.com

【宣伝に関するお問い合わせ】
とこしえ info@tokoshie.co.jp

取材:野田努(2021年7月08日)

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