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interview with Boris

interview with Boris

スラッジ・メタルの異星、その現在を語る

——ボリス、インタヴュー

取材・構成:松村正人    Jan 27,2022 UP

僕らはバンドというものに対するこだわりは強いですよ。だけど、バンドの運営や方法論で音楽の可能性が閉じられるのがイヤなんです――Atsuo

さきほどAtsuoさんは自分が歌うとき、別のドラマーに叩いてもらっているとおっしゃっていましたが、フォーメーションみたいなもがどんどん変わっていっていいというお気持ちがあるということですか?

Atsuo:僕らはバンドというものにたいするこだわりは強いですよ。だけど、バンドの運営や方法論で音楽の可能性が閉じられるのがイヤなんです。

でもそれはアンビバレンスですよね?

Atsuo:はい。だから基本この3人で音楽の可能性を広げたい、新しいものを追究して作っていきたいという思いもあって、シュガーさんへサウンド・プロデュースをお願いしたり、新しい血としてサポートのドラマーに入ってもらったり、以前は栗原(ミチオ)さんに入ってもらったこともありました。

そうでした。最近なにかと栗原さんのお話をしている気もしますが、栗原さんが参加された『Rainbow』がペダル・レコードから出たのが2006年ですね。

Atsuo:その後で正式にサポートで入っていただいて、本格的にツアーをまわるようになったのは2010年から11年あたりでした。

Takeshi:栗原さんはサポートと言うよりも、僕らの認識としては4人目のメンバーだったんですよ。当時新しいアルバムのデモを作っていたときも、栗原さんがいる体でやっていましたから。

Wata:2014年の『Noise』だよね。

Takeshi:曲に必要なギター・パートが1本ではなくて2本、無意識にそうなっていたんですね。ある程度までかたちになってきたときに栗原さんが離脱しなくてはならなくなって、いままで作った曲をどうしよう?ってなったときに、4人のアレンジだったものを3人用にリアレンジをする必要になり、それでWataが死にそうになるという(笑)。

Wata:『Noise』の何曲かは栗原さんの音も入っているんですよ。デモで弾いていたテイクをそのまま使ったりしました。私は栗原さんと同じようには弾けないので、どうしようって(笑)。

Atsuo:3人であらためて完成形を作らなきゃならなかったので、それは大変でした(ため息)。

Wata:すごく助けてもらっていたので、いなくなったときは心細かったです。演奏面ではとくに。

Atsuo:でもあの時期があったのでWataもヴォーカルに集中できるようになった。

ボリスは3人ともヴォーカルをとるのがいいですよね。

Wata:ヴォーカルというほど歌えているかはわからないですけどね。

Atsuo:さっき言っていたエフェクターメーカーのSNSでWataのことを「ボリスのギター、ヴォーカル」と紹介していたんですが、「いや、ヴォーカリストじゃないし」と本人がつぶやいているのを耳にした憶えがあります(笑)。

Wata:ヴォーカリストというよりは楽器的な感じ、ヴォイスという言い方が近いです。主張とかメッセージを伝える役割ではなくて、楽器の一部として存在している声ですね。

でも『W』ではメイン・ヴォーカルをとっていますよね。プレッシャーはなかったですか?

Wata:最初から音響的という作品内でのイメージはあったので構えたりはしはなかったです。

歌メロはWataさんが書かれた?

Wata:メロディはTakeshiです。

Atsuo:ほとんどの手順としては楽曲ができあがって、仮の歌メロをTakeshiがインプロで作って、曲ごとに見えたテーマをもとにふたりで歌詞を書くんですけど、Wataが歌うという前提だと出てくる言葉も違ってきますよね。

Wata:私は歌詞にはタッチしていないですけどね。ふたりが書く詞も、言葉で風景が見えてくるような内容なんですね、主張とかメッセージではなく。

Takeshi:逆に『W』では自分だと歌わないような言葉を歌わせることができたともいえるんです。Wataの口から出てくるであろうと想像した言葉だったり旋律などを使えたりしたので。

Atsuo:歌詞においてはWataの担当は「存在」ですよね。

歌詞も全員で書いているというイメージなんですね。

Atsuo:その点もKiliKiliと考え方が通じているんですよ。僕らは楽曲の登録も連名なんです。たとえばWataはじっさい歌詞を書いていないけれども作詞者はバンドとして登録しています。それはWataの存在があるからその言葉が生まれてくるという理由です。バンドというのはそういうものだと思うんです。

それならメンバー同士のエゴがぶつかって権利問題に発展するということもなさそうです。

Atsuo:エゴを聴きたいリスナーもいるとは思うんですよ、誰が曲を担当し、歌詞を書いているのかということですよね。そこをはっきりさせたいリスナーは多い気がします。

レノン、マッカートニーもそうですし、はっぴいえんどでも細野さんの曲と大瀧さんの曲は違いますから、そういう腑分けの仕方も当然あるとは思うんですが、ボリスの場合みなさんはキャラが立っているのにエゴイスティックな打ちだし方はしていないですよね。

Atsuo:自然とそうなったんですが、共通している考え方は、いちばん大事なのは「ボリス」という存在、バンドということなんですよね。

そのスタンスをとりながら、今年で――

Atsuo: 30年。

エゴという意識は僕らは薄いと思いますね。自分にとって音楽、曲というのは、言いたいことを言う場ではないんですね。曲のかたちがだんだんできてきて、仮のメロディを乗せたときに、「こういう言葉が乗るよな」と導かれるというか委ねるというか。――Takeshi

30年といえば、ひとつの歴史ですが、長くつづけてこられた秘訣はなんですか?

Atsuo:さっきも言ったようなエゴとかが音楽の可能性の狭めるのが僕らはイヤなんです。

そこもCANと同じですね。リーダーがいない、けっして誰かが中心ではない。

Atsuo:傍から見たら僕がリーダーに見えるかもしれませんが、いちばん雑務をしている、ただのアシスタントなんですよ(笑)。

与田(KiliKiliVilla):その考えを持っているだけでバンド内の格差を生まなくなりますよね。イギリスはバンドに権利が帰属することが多いですが、日本だと作詞作曲で個人を登録する習慣があります。そういったことを長いことみてきて、イヤな思いもしてきたから若いバンドにこういう登録の仕方があるから、そうしてみない?とアドバイスすることもけっこうあります。ボリスはそれを自分たちでやっていたという驚きはありましたよね。

日本の場合芸能界の習慣ともいえますよね。

Atsuo:だからバンドの地位が低いといいますか、フロントマンとバックバンドという序列のヒエラルキーになっていく。そういうビジネスモデルが主体になっている気がします。

Takeshi:エゴという意識は僕らは薄いと思いますね。自分にとって音楽、曲というのは、言いたいことを言う場ではないんですね。曲のかたちがだんだんできてきて、仮のメロディを乗せたときに、「こういう言葉が乗るよな」と導かれるというか委ねるというか。音にしても、僕はほっとけば、ガンガン弾き倒しちゃうんですよ。でも、バンドやとその音楽を主体に考えれば、曲がそうなりたいであろうというコードストロークや弾き方に自然になっていきますよね。楽器をもっているミュージシャンのエゴではなく、楽曲のほうへ自分を寄せていくというか、ボリスで音楽を作っているときはそういう感じになっていますね。

Atsuo:CANとの違いは音楽的な教育を受けているかどうかということかもしれないです。僕らは独学ですからね。外部とは共有できるかはさておき、バンド内での音楽言語はいろいろあるんですけどね。

とはいえ共演は多いですよね。秋田昌美さん(MERZBOW)、灰野(敬二)さん、エンドン、カルトのイアン・アストベリーなど、ボリスはいろいろなバンドやミュージシャンと共演していますが、他者と同じ場を作るには共通言語を見出す必要があるんじゃないですか?

Atsuo:秋田さんは誰とでもできるし、誰とでもできないと言えますからね。

Takeshi:秋田さんとやるときはおたがい干渉していないよね。

Atsuo:それもエゴがないということなのかもしれないですね。自分たちの曲を放り出していますからね。秋田さんで埋め尽くされてもぜんぜんかまわないというか、それで自分たちの曲が新しく立ち上がる感じを聞きたいというのがまずあるので。シュガーさんにしてもバンドのグリッドレスな感じを尊重してくれたので、『W』ではうまくいったんだと思います。

■ボリスにとって今年はアニバーサリーイアーですが、アメリカ・ツアーのほかに計画していることがあれば教えてください。

Atsuo: 『W』もKiliKiliで30周年記念第1弾アルバムと言っているので、第何弾までいけるか挑戦しようと思っています(笑)。アルバムはだいぶ録り進んでいるし。

KiliKiliからは昨年暮れに「Reincarnation Rose」が出ていますが、あれを聴くとやりたいことをやったらいいやという感覚を受けますよね。極端なことをいえば、売れなくてもいいやというような。

Atsuo:そもそも売れようと思ったことはないですよ。

とはいえ「Reincarnation Rose」もメロディはキャッチーじゃないですか。

Atsuo:キャッチーさは大事ですが、売れたいというのは違うんですよね。ヘヴィな曲でもキャッチーかそうでないかという判断基準がある。楽曲の世界観がしっかり確立されたとき、初めてキャッチーと言えるのかもしれないですね。

さきほどソドムとか栗原さんとかの話が出ましたが、70年代、80年代、90年代とつづく東京のアンダーラウンド・ロックシーンの牽引車は片やボリス、片やゆらゆら帝国というような見え方もあると思うんですよ。このふた組にはアンダーグラウンド、モダーンミュージックのようなセンスをポップアートにしているような側面があると思うんですね。ゆらゆら帝国とボリスはぜんぜん音楽性が違うけど、出てきているところってすごく近いところだったりするじゃないですか?

Atsuo:同じスタジオを使っていたり、近いようで遠い感じですか。いちばんの違いはメタル以降の文脈だと思うんですね。

ボリスはメタルにもリーチしていますよね。

Atsuo:海外では完全にメタル・バンドあつかいですね。

Takeshi:自分たちでメタルだと言ったことはないんですけどね。でも向こうから手を差しのべてくるんですよ。

メタルにもいろいろありますが、どのようなメタルですか?

Takeshi:メタル・シーンの裾野が欧米では広いというか、単純に規模が違います。

Atsuo:ドローン・メタルというジャンルがあるんですよね。僕らはそのオリジネイター的な扱いではありますね。SUNN O)))とかですね。あとはシューゲイズ・メタル、シューゲイズ・ブラックという呼び名もあって、そういった風合いも感じさせるようで、総じてポスト・メタル的な言われ方をします。

Takeshi:何かと後ろについてくるんですよ、メタルって(笑)。

Atsuo:日本と海外だとメタルという言葉がカヴァーする領域に差があると思うんですね。向うはものすごく広い。あのスリル・ジョッキーがメタル的な音楽性のバンドをリリースするくらいですから日本とは捉え方が違いますね。

日本だとどうしても様式的なものというイメージが強いですよね。

Takeshi:いわゆるカタカナの"ヘビメタ"のイメージなんですよね。

Atsuo:僕らは速く弾くよりはシロタマを伸ばしたいほうなので(笑)。もっとオーガニックなんですよね。音を伸ばしてそこでなにが起こってくるかというドローン・ミュージック的な方法を結果的にメタルに取り入れている。

一方でアメリカには日本のアンダーグラウンド・ロックの熱心なリスナーも多いですよね。

Atsuo:かつては音楽好きが最後のほうにたどりつく辺境という位置づけでしたよね。

いまではボリスや、それこそメルツバウやボアダムスのような方々の活躍で日本のアンダーグラウンド・シーンは一目置かれている気もします。

Atsuo:でも気をつけておきたいのは、一目を置かれると同時に大目にみられている部分もあるんですよね。日本人だからメチャクチャやっても許されるというか。

それを期待されているともいえないですか?

Atsuo:並びがボアダムス、ギター・ウルフ、メルト・バナナですよ。ルインズにしても。

ややフリーキーな音楽性ですが、いい意味で根がないからからフリーキーさなんじゃないですか?

Atsuo:それはそうかもしれない。

ボリスも、みなさんの佇まいも相俟って欧米の観衆に独特な印象を与えるのではないでしょうか? Wataさんなんかはすでにアイコニックな存在だし。でも「Reincarnation Rose」のMVはもうちょっと説明があってもいいかと思いました。

Wata:私以外のメンバーもあのなかに女装して参加していると思われていますよね。

そう思いました。検索してはじめて知りましたよ。

Atsuo:けっこうちかしい友だちからもAtsuoとTakeshiはどこにいるの? って訊かれましたもん。

ついにマリスミゼルみたいになるのか、いまからその展開は逆に攻めているというか、真の実験性とはこういうことをいうのだろうかと、いろいろ考えましたよ。それもアーティスト・エゴの薄さからくる展開なのかもしれないですね。あれは反響も大きかったですよね?

Atsuo:すごかったですよ。最初に写真を公開したときは、「ボリス、ヴィジュアル期に突入」とか書かれました。発表前はコスプレとか言われるかなと思っていましたけどね。

どなたのアイデアですか?

Atsuo:流れなんですよ。シュガーさんとTOKIEさんにMVに参加してもらうアイデアは最初からあったんです。それだったらドラムもよっちゃん(吉村由加)にお願いしようということになって。衣裳はpays des feesというランドにお願いして、TOKIEさんもWataも一緒にお店に行って衣裳合わせをして、メイクとウイッグに関してはビデオの監督のアイデア。当日ヘアメイクさんとかも入ってできあがったのがあれだったんですが、当日までメンバー自身どうなるかわからなかったです。

Takeshi:自分も知らなかった。PVの撮影だと聞いてスタジオに行ったら、あのメイクを済ませたみなさんがスタンバイしていて「えっ!?」って、なったんですよ。

Atsuo:写真を公開した直後の反応はこっちも不安になるような感じだったんですが、翌日にはMVが出て、音を聴いてもらえればふつうにロックですし、わかっていただけたと思います。

30年経ってもまだまだノビシロあるな、ボリスと思いました。

Atsuo:(笑)。でもそんなふうにみなさんの頭のなかにいろんな考えが湧き起こっていたのだとしたら、やってよかったと思いますよ。

取材・構成:松村正人(2022年1月27日)

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