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Home >  Interviews > interview with Boris - スラッジ・メタルの異星、その現在を語る

interview with Boris

interview with Boris

スラッジ・メタルの異星、その現在を語る

——ボリス、インタヴュー

取材・構成:松村正人    Jan 27,2022 UP

 幕開けとともに閉塞感が増しつつある2022年の世相を尻目にボリスは加速度を高めていく。起点となったのは2020年の夏あたり、最初の緊急事態宣言が明けたころ、主戦場ともいえるライヴ活動に生じた空白を逆手に、ボリスは音楽プラットフォーム経由で多くの作品を世に問いはじめる。新作はもちろん、旧作の新解釈やデジタル化にリマスター、ライヴやデモなどのオクラだし音源などなど、ザッと見積もって40あまりにおよぶ濃密な作品群は、アンダーグラウンド・シーンの牽引車たる風格にあふれるばかりか、ドゥーム、スラッジ、シューゲイズ・メタルの代表格として各界から引く手あまたな存在感を裏打ちする多様性と、なによりも生成~変化しつづける速度感にみちていた。
 なぜにボリスの更新履歴はとどまるところを知らないのか。そのヒントはルーツにある轟音主義に回帰した2020年の『NO』と、対照的な静謐さと覚醒感をもつ2022年の『W』——あわせると「NOW」となる2作をむすぶ階調のどこかにひそんでいる。
 取材をおこなったのは旧年12月21日。同月だけで彼らはBandcampにライヴ盤と3枚のEP(「Secrets」「DEAR Extra」「Noël」)をあげており、前月にはフィジカルで「Reincarnation Rose」をリリースしていた。いずれも必聴必携だが、クリスマス・アルバムの泰斗フィル・スペクターが聴いたら拳銃をぶっぱなしかねないドゥーミーな音の壁と化したワム!の「ラスト・クリスマス」(「Noël」収録)と、「Reincarnation Rose」EPの20分弱のカップリング曲「知 You Will Know」の水底からゆっくりと浮上するような音響性が矛盾なく同居する場所こそボリスの独擅場であり、その土壌のゆたかさはおそらく今年30年目を迎える彼らの歴史に由来する。
 そのような見立てのもと、最新アルバム『W』が収録する「You Will Know」の別ヴァージョンに耳を傾けると、浄化するようなサウンドと啓示的なタイトルに潜む未来形の視線までもあきらかになる。現在地からその先へ――Atsuo、Takeshi、Wataのボリスの3者に、30年目の現状と展望を訊いた。

スタジオでの作業は日々絵を描きつづけるような、どんどんアップデイトされていくような感じなんです――Atsuo

ボリスは海外を中心にライヴ活動がさかんですが、このコロナ禍で制約があったのではないかと想像します。実際はどうでしたか?

Atsuo:こんなに(海外に)出ていないのは何年ぶり? という感じだよね。

Takeshi:ぜんぜん行っていなかったのは2006年よりも前だよね。それ以降は毎年かならず行っていたもんね。

2006年より前というのは、いかに長く海外での活動をされているかということですよね。でも逆に、ライヴ・バンドのメンバーに取材すると、ツアーがなくなって最初は悲しかったけど、ツアーしない時間にいろんな発見があったという意見もありました。

Atsuo:前はツアーをしなければ食べていけないと思っていましたから。コロナに入ってアルバムをすぐに作ってBandcampで2020年の7月に出したんですけど、その反応がすごくよくて世界中のリスナーからガッチリサポートしてもらえたんです。Bandcampの運営とか、楽曲の管理を自分たちでやりはじめたらツアーに出るよりも、経済的によい面もあって、制作にも集中できた。あと、すごく大変なことをしていたんだ、という実感もあります、ツアーに出るということが(笑)。その反面、あらためて再開するのも大変かなと思っています。いちおう今年は米国ツアーを予定してはいるんですけどね。

アメリカはどこをまわられるんですか?

Takeshi:全米をほぼ1周する感じです。

「周」という単位を聞くだけでも大変そうですよね。

Atsuo:感覚を戻すのがね。ほんと体力も落ちているんで。コロナ以前の状態まで自分たちのコンディションを戻さなければならないというのはたしかに大変です。

Takeshi:オフ無しで7本連続とかね。

ツアーと制作中心の生活ではメンタル面での違いはありますか?

Atsuo:スタジオでの作業は日々絵を描きつづけるような感じなんです。そういった生活のほうが個人的には好きなんですけどね。新曲を作ってレコーディングしていると精神的にはめっちゃ安定するんですよ。日々新しい刺激が自分に返ってくると、やっぱりいいなと思います。コロナ禍で気づいたのは、自分の性質が絵描き的というか、描いて作られていく感覚に惹かれるということでした。いわゆるバンドマンとはちょっと違う感覚というか、描き続けていかないと完成しない、その感覚が強いです。

Wataさんはコロナ禍でご自分の生活や性格の面で新たな気づきはありましたか?

Wata:家にずっといてもけっこう大丈夫でした(笑)。

意外とインドアだったんですね。Takeshiさんは?

Takeshi:ライヴができなかっただけで、あとはあまり変わらなかったですね。スタジオにもしょっちゅう入っていたし。音楽が生活に占める割合は変わらないどころか、逆に増えた気がします。

Atsuo:制作ペースは上がっているものね。

Wata:スタジオはふつうに使えていたので、思いついたらスタジオに入ってセルフレコーディングして家にもってかえって編集して。

Takeshi:前はその合間にツアーのリハーサルがあったりして、制作に集中できない局面もあったんですけど、コロナ禍では制作に没頭していました。

Atsuo:今回のアルバム『W』はリモート・ミックスなんですね。

リモート・ミックスとは?

Atsuo:担当していただいたエンジニアが大阪在住で、そこのスタジオの音響を「Audiomovers」というアプリで共有して、オンラインで聴きつつzoomで話し合いながらミックスを進めました。家の環境で聴けるのでかえってジャッジもしやすかったりするんですよね。

東京で録った素材を大阪に送ってミックスしたということですか?

Atsuo:そうです。今回はBuffalo Daughterのシュガー(吉永)さんに制作に入ってもらったので、シュガーさんに音源をいったんお送りして、シュガーさんからエンジニアさんへ素材が行き、確認しながらミックスという流れです。

通常のスタジオ・レコーディングとはちょっと違った工程ですね。

Atsuo:僕らはもう20年以上セルフレコーディングなんです。リハスタで下書きしたものを完成品に仕上げていくスタイルです。ミックスだけはエンジニアに手伝ってもらっています。

その前の曲作りの段階はふだんどのような感じなんですか。

Atsuo:曲はリハスタでインプロした素材をもとに編集して曲の構造を作り、必要であれば肉づけするというプロセスでできあがります。CANと同じです。

Wata:最初は作り込んでいたけどね。

Takeshi:初期のころはわりと普通のバンド的だったね。

Atsuo:うん、リフを作って、何回繰り返したらここでキメが入ってとか決めていたね。セルフレコーディングをはじめたあたりからいまの方法になっていきました。いわゆるレコーディング・スタジオではどうしても「清書」しなければならない状況になると思うんですよ。それが苦痛で(笑)。間違えちゃダメというのがね。でも間違えたり、逸脱することに音楽的なよさがあったりするじゃないですか。だったら自分たちで録れば、たとえ失敗しても問題ない(笑)。そのぶんトライできるというか。

Takeshi:曲を作る工程は、みんながそれぞれ素描をしていて「こんなのが描けたんだけど」と互いに見せ合うような感じです。そこでやり取りしながら色を入れていったり、線が決まっていったり、そういった感じです。

Atsuo:いわゆるバンド的な曲作りだと、下書きみたいなリハーサルを何度も重ねてレコーディングがペン入れみたいなイメージな気がするんですね。清書するというのはそういう意味なんですが、僕らはそうじゃなくて下書きから一緒にドンドン塗り重ねて描き上げていく感じですね。

KiliKIliVillaとはインディペンデントにおける基本理念を共有している感覚があります。KiliKiliVilaの契約は利益が出たら折半なんですね。それは欧米ではごく普通のことなんですが、国内でそれをやっているレーベルはある程度以上の規模では極端に少なくなる。――Atsuo

プロセスを重視するからなにがあっても失敗ない?

Atsuo:失敗も2回繰り返すと音楽になる。そういう観点から以前はガチガチに決め込んでいた構成も、失敗を受け入れられる意識になり、(演奏の)グリッドも気にならなくなりました。反対に、ポストプロダクション全開な作り方を試した時期もありましたけどね。同期などを使っていた時期です。いまは自分たちにしかできない方向、グリッドレスな方向に行っています。

方向性の変化はどんなタイミングでおとずれるんですか?

Atsuo:そのときどき好きなことをやっているだけです。これだけ長いあいだやっていると、なにをやっても世間的な評価は変わらないんですよ。であれば好きなことをやったほうが単純に楽しい。それこそカヴァーとかやると、高校のころやっていた楽しい感じを思い出したり。

若々しいですね(笑)。

Atsuo:(笑)楽しいことをやっていたいとは思いますよ。とくにいまのような状況下では各自の死生観みたいなものも露わになってきますし、楽しいことをしないと意味がないですよね。

とはいえコロナ禍で音楽をとりまく状況は厳しくなりました。たとえば今後どのようにバンドを運営していくかというような、現実的な話になったりしませんか?

Atsuo:ずっとインディペンデントでやってきてレーベルに所属することもなく、すべてを自分たちで舵取りしてきたんですね。原盤もほとんど自分たちで持っています。コロナ禍では自分たちで判断して行動するという、ずっとやってきたことがあらためて重要な気がしています。

KiliKIliVillaから出すのでも、いままでと体制は変わらないということですね。

Atsuo:体制は変わりませんが、環境はよくなりましたよ。たまたま知人を介しての紹介だったんですけど、KiliKIliVillaとはインディペンデントにおける基本理念を共有している感覚があります。KiliKiliVilaの契約は利益が出たら折半なんですね。それは欧米ではごく普通のことなんですが、国内でそれをやっているレーベルはある程度以上の規模では極端に少なくなる。レーベルの与田(太郎)さんからそういう契約だと聞いたときも、自分たちには普通のことなので、「はい、お願いします」――だったんですが、いざまわりを見渡すと日本でそれをやっているレーベルはあまりない。インディペンデントにおける価値観もシェアできるし、やりやすいですよね。そういうインディペンデントにおける美意識を共有している方がKiliKiliVillaのまわりにはたくさんいるので、いろいろなことがスムーズですね。

取材・構成:松村正人(2022年1月27日)

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