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Home >  Interviews > interview with Big Thief (James Krivchenia) - USフォーク・ロックの至宝による壮大なる傑作

interview with Big Thief (James Krivchenia)

interview with Big Thief (James Krivchenia)

USフォーク・ロックの至宝による壮大なる傑作

──ビッグ・シーフ、インタヴュー

質問・文:木津毅    取材・通訳:坂本麻里子  photo: Alexa Viscius   Feb 14,2022 UP

想像力を働かせることで、物事は何もかもディストピアンなわけじゃないんだ、と思うことは大事なことじゃないかと思う。この世の終わりだとしても、そこでイマジンできるようにならなくちゃ。

資料によると、はじめ制作が難航するなか “12000 Lines” が突破口になったとのことですが、その曲のどのような点が、あなたたちにインスピレーションを与えたのでしょうか?

JK:ああ。思うに……まあ、あの曲自体が実に、とても美しいものだしねえ……。ただ、僕が思うのは、今回のアルバム向けにおこなった複数のレコーディング・セッション全体のなかで、はじめて何かが起こったのがあの曲だった──というのも、あの曲を録ったのは最初にやったセッションでのことだったし──からじゃないかと。僕たち全員があの曲を高めている、そんな手応えがあった。だから、録り終えた音源を聴き返すまでもなく、プレイしたあの場で即座に、自分たちには……「いまの、すごかったよね? 絶対なんか起きたよ、かなりやばくない?」とわかっていたっていう(笑)。だから、僕たちはあのときやっと、フィジカルな面での正しい状態──各人がどこにポジションを占め、同じ空間でどんな風にお互いの音を聴けばいいのか、そこを発見したっていうかな。だから、あの曲はある意味突破口になったんだね、あれをプレイバックしてみたとき、みんなが(驚いたような表情を浮かべつつ)「……うん、素晴らしい響きじゃん! これ、すごくいい!」と思った(笑)。

(笑)。

JK:(笑)いや、でもさ、最初の段階だと、そういう風に自信を与えてくれる要素って必要なんだよ、はじめのうちはいろいろと試すものだから。ドラムの位置をあれこれ変えたり、エイドリアンの立ち位置を取っ替え引っ替えしたり……そういう技術面での、エンジニア系の作業のすべてを経てみるし、ところが、いざ出た音を聴いてみると──「まだ『音楽』に聞こえないなぁ……」(苦笑)みたいな気がしたり。

(笑)。

JK:(笑)要するに、まだレコードになっていないし、いずれなんとか形になってくれますように、と願いつつやっていく。だから、あれ(“12000 Lines”)は、はじめて「うん、これはグレイトな響きだ」と思えた1曲だったっていうか。

“Time Escaping” や “Wake Me Up To Drive” のように、ユニークなリズムを持った曲が目立つのも本作の面白さだと思います。このようなリズムの工夫は、どのように生まれたのでしょうか?

JK:その多くは、たぶん……このバンドのメンバーは誰もが、音楽的な影響という意味で、いろんなヴェン図を描いているからじゃないかな? もちろん、4人全員が好き、というものもちゃんとあるんだよ。だけど、全員の好みが重なる領域は狭いし、だからある意味、この4者がピタッと一致した中央のエリア、そこにビッグ・シーフが存在する、みたいな(笑)?

ああ、なるほど。

JK:(笑)それが主要部であって、そこでは全員が「ビッグ・シーフが好き!」ってことになる。でも、全員がそれぞれに、個人的に好きなものもたくさん含まれている。そこには被っているものもあるよ。だけど、たとえばバック、彼の背景は……ジプシー・ジャズにあるんだよ、ジャンゴ・ラインハルト系っていうかな。だから、バックは彼なりにとてもリズミックな音楽家だし、非常に独特なスウィングを備えている。一方でマックス(・オレアルチック/ベース)は、とんでもないリズム・キープをやってくれるひとで、彼もジャズ・ベース奏法をルーツに持っている。だからあのふたりはどちらも、テンポの維持っていう意味では、僕よりもはるかに腕がいいっていうのかな(苦笑)、ビートにジャストに乗っていくって面では、あのふたりはドラマーだよ。

(苦笑)。

JK:その一方で、エイドリアンについて言えば、彼女のタイミングの感覚は彼女の運指のパターンに、フィンガー・ピッキングに多くを依っていて。だから、この4人はそれぞれが異なるリズム感覚を備えているってことだし、僕が思うに今回のアルバムでは、僕たちはそれらをごく自然に溶け合わせた、そういうことじゃないかと。だから、たとえば「これこれ、こういうことをやってみない?」って場面もあるわけ。言い換えれば、自分にもおなじみのフィーリングを追求するっていうか、過去の作品を参照することがある。「これはニール・ヤングっぽくやった方がいいんじゃない?」とか、「リーヴォン・ヘルム(※ザ・バンドのドラマー)っぽくやったらどう?」って具合にね。でも、今回のアルバムでは、僕はそれよりも「ここは、『僕たちならでは』でやってみるべきじゃないかな?」と示唆したっていう。うん……僕たちは全員リズムが大好きだし、リズムにグルーヴして欲しいと思ってる。それくらい、リズムには敏感なんだ。

「これは自分には不自然だ」と思うことって、おのずとわかるものだ、というか。で、それはオリジナリティがあるか否かではなく、自分が本当にやろうとしていることは何なのか、ということなんだよね。

ビッグ・シーフの音楽の魅力は、そのアンサンブルの濃密さによって4人の関係の緊密さ、ミュージシャン/友人同志としてのタイトさが音から強く伝わってくるところだと思います。何か、特別なことがここで起こっているぞ? みたいな。

JK:うん。

ただ、あなたたち自身はそのことを意識しているのでしょうか?──もちろん、そうは言っても、いわゆるニューエイジ的な「神がかった」スペシャルさ、という意味ではないんですけどね。

JK:(苦笑)うんうん、わかる。

意図的にやっているものではないにせよ、自然に生まれるこのケミストリーを、あなたたち自身は自覚しているのかな? と。

JK:確実にあるね、うん。だから……僕たちも、そういうことが起きているのは感じてる。そうは言っても、必ずしも四六時中いっしょにプレイしている、ってわけじゃないけれども。ただ、それでもつねに感じてきたというのかな。バンドの初期の頃ですら、自分たちはある意味気づいていたんだと僕は思うよ……「このバンドには何かが宿っているぞ」と。だから、僕たちが演奏していて互いにガチッと噛み合ったと感じるときには、何かクールなことが起きている、みたいな? 要するに、「ジェイムスはいいドラマーだし、マックスも優秀なベース奏者。エイドリアンはグレイトなソングライターであるだけじゃなくギターも達者だし、バックも上手い」的な、単純に各人の才能を足した総計、「ビッグ・シーフは全員優秀だよね!」という以上に大きい何かがある。いやいや、それだけじゃなくて、ビッグ・シーフにはちょっとした、特別なケミストリーが働いているんですよ、と。だから、いっしょにプレイすればするほど、僕たちはそのケミストリーをもっと感じることができる。そのぶんそこにアクセスしやすくなるし、化学反応が起きている/逆にそれが起きていないかも、すぐわかる。それは、録音音源からも聴き取れると思う。だから、たとえその曲にダラッとしたところやミスが残っていても、聴き手は「おーっ、ちょっと待った、これは……!?」と気づくんじゃないかな。それらのミスは、たとえば歌詞が間違っていたら直すし、ヘンなドラムのフィルもすぐに修正できるって類のものだよ。けれども、この演奏には他の楽曲以上に「僕たちならではの何か」がしっかり宿っているってこと、そこは聴き手にもわかるだろうし……(苦笑)第六感みたいなものだよね。だから、もちろん、それは言葉では表現しにくいわけで──

(苦笑)ですよね。

JK:要するに、これは一種の、「サムシング」だからね(苦笑)、僕たちの間に走っている、何らかのエネルギーなんだし。だけど、間違いなくリアルなものでもあるんだよ、ってのも、そのエネルギーが発生していないと、それも僕たちにはわかるから。たとえば、とある音源を聴き返してみたら、誰もがお互いに対してイライラして怒っているように聞こえるんだけど、どうしてだろう……? と思ったり(苦笑)。

(笑)。

JK:で、「そうか、たぶん自分たちには休憩が必要だな!」と悟るっていう(笑)。

エイドリアンさんの書く歌詞は感覚的なものも多いですし、パーソナルな感情や体験を出発点にしているように思えます。バンドのなかで、彼女の書く歌詞の感情や主題はどのようなアプローチでシェアされるのでしょうか?

JK:うん……主題がデリケートになることもあるよね。そこに対する僕たち全員のメインのアプローチの仕方というのは、言葉と歌とをサポートしようとする、かつ、それを通じて人間としてのエイドリアンをサポートすることじゃないかと思う。これは特別だというフィーリング、あるいは傷つきやすい何かだというフィーリングが存在するし、それによってこちらも歌に対して一定の敬意を払わなくてはいけないな、という気持ちになる。なぜかと言えば、このひとはそれだけ覚悟して自分自身をさらけ出してくれているんだってことがわかるし、本当に、そのパフォーマンスを、そのひとが何を言わんとしているのかをしっかり感じ取ろうとするようになる。だから、その面をサポートしたい、それに向けてプレイしたいと思う、というか。それもあるし、そうすることで自分自身に対しても少しオープンになるってところもあるだろうね。僕たちはとにかくあれらの歌に惚れこんでいるわけだけど、いくつかの歌に至ってはもう、僕たちそれぞれが「うっわあ……この曲は『宝石』だ!」と感じるっていうのかな、だから、その曲の歌詞が僕個人にとってすごく特別な意味を持って迫ってくる、という。そんなわけで、うん、(歌詞/主題等)はデリケートなこともあるけれども、それもまた、歳月のなかで僕たちが育んできたリスペクトみたいなものの一部なんだと思う。エイドリアンは、僕たちは彼女の歌と歌詞とに心から気を遣っている、そう信頼してくれているし……だから、僕たちが歌を真剣に捉えずにふざけていたりして、そのせいで彼女が孤島にひとりっきりで疎外された気分にさせるつもりは僕たちにはない、というか? リードしているのは彼女だし、彼女の強烈さだったり、目指す方向性、僕たちはそこについていこうとしているから。

お話を聞いていると、あなたたちの関係は「トラスト・ゲーム」みたいなものですね。みんなが受け止めてくれるのを信じて、後ろ向きに倒れる、という。

JK:(笑)ああ、うんうん、トラスト・フォールね!

はい。それをやれるだけ、エイドリアンもあなたたちを信じているし、あなたたちもそれを受け止める、それだけ絆が強いバンドなんだなと思います。

JK:うん、その通り。

(カントリー/フォーク・ミュージシャンの)ジョン・プラインが亡くなったとき、バンドが追悼を捧げていたのが印象的でした。

JK:ああ、うん。

実際、あなたたちの音楽を聴くと、様々な時代の様々なアーティストの影響が豊かに入っていると感じられます。少し大きな質問になってしまうのですが、ビッグ・シーフはアメリカの音楽の歴史の一部であるという意識はありますか? ある意味、未来に向けてその松明を運んでいる、というか……。

JK:うん、言わんとしていることはわかる。そうだな、僕の見方としては……その「対話」の一部として参加している、という感じかな。僕たちの受けてきた影響ということで言えば、ジョン・プラインは本当に大きな存在だし……だから、ジョン・プラインはすでに世を去ったわけだけど、いまもなお、僕たちの音楽は彼の音楽と対話を続けているし、それに強く影響されている、みたいな? そうあってほしい。でも、と同時にそれは、彼の音楽に対する反応でもある、っていうのかな。たとえば、「ああ、あなたのその表現の仕方、好きだなあ!」とか。自分も同じことを言いたいと思ってるけど、あなたが表現するとこうなるんですね! みたいなノリで、一種の、クラフト(技術)とアイデアの交換が起きているっていう。で……うん、いろんなレコードとの間で、ある種の対話が起きているなと僕は感じているし──じつに多彩な人びとが、様々なやり方でいろんなことをまとめ、音楽的な合成をおこなっているわけだし、いまやクレイジーで手に負えないっていうか(苦笑)、とんでもない量だからいちいちフォローすることすら無理、みたいな。けれども、一種のスレッドみたいなものは存在するよね……様々な影響を取り入れるというか、自分の気に入ったもの、あるいは霊感を与えてくれる何かを取りこんで、そこから何かを作り出そうとする、というスレッドが。僕たちはそれをやるのがとても気持ちいいし、っていうか、自分たちがオリジナリティ云々に強くこだわったことって、これまでなかったんじゃないかと思うよ(笑)? 要するに、自分が「これだ、こう言うのが正しい」と感じる、あるいは逆に「これは自分には不自然だ」と思うことって、おのずとわかるものだ、というか。で、それはオリジナリティがあるか否かではなく、自分が本当にやろうとしていることは何なのか、ということなんだよね。

ビッグ・シーフはリアルな感情や人間関係を描きながら、同時に、本作でも宇宙やドラゴン、自然や動物、魔法といったファンタジックなモチーフが登場するのが面白いと思います。

JK:(笑)たしかに。

なぜこの世界にファンタジーが必要なのか問われたら、ビッグ・シーフはどのように答えるとあなたは考えますか?

JK:なるほど。思うに、このアルバムのタイトルに僕たち全員がとても強く惹きつけられた、その大きな要因は──はじめから、僕たちがこのレコードを作る前から、あのタイトルは存在していたんだ。だから、あのタイトルがレコードに影響を与えたっていうのかな、「これは、『Dragon New Warm Mountain I Believe in You』って感じがする音楽だろうか?」みたいな……あれはいろんなものを意味するフレーズだろうけれども、思うに、こう……あれはとにかく、世界にはこの「マジック」が存在するってこと、音楽(ミュージック)のなかにはマジックがあるんだ、そこを認めようとすること、というのかな。ほんとに……ロジックだの、物事の基本の仕組みが通用しない何かであって、それよりもずっと、ずっと大きなものだ、と。だから、たんに「ドラム、ベース、ギターがあって、そこで誰かが歌ってる」程度のものじゃないし──いや、たしかにそうなんだけれども、たんにそれらを足しただけじゃなくて、それとはまた別の何かが起こっているんですよ、みたいな(笑)。だから、僕たちのプレイの仕方、そして音楽への耳の傾け方のなかでは、何かが起きている、と。で、うん……この世界において、そういった抽象的というのか、空想的/突飛のないコンセプトなんかを想像力を通じて鍛える、それによって試されるのって、大事なことじゃないかと思う。そうやって想像力を働かせることで、物事は何もかもディストピアンなわけじゃないんだ、と思うことはね(苦笑)。この世の終わりだとしても、そこでイマジンできるようにならなくちゃ、みたいな。いまの世のなかはリアルじゃないし、そこに向かっていくのではなく、むしろ想像力を働かせていこう、と。というわけで、うん、とにかくそうしたマジカルな要素を持つのって、大事だと思う。というのも、僕たちだってみんな、音楽のなかにマジックが宿っているのは知っていると思うし──ただし、それって「これ」と名指しするのが難しいものであって。でも、僕たちとしては、「いや、たしかに何かが存在しているし、それはスペシャルなものなんです」ってところで。でも、たぶん……「それは何ですか?」と問われても、はっきり形容しがたい、というね、うん。

質問は以上です。今日は、お時間いただき本当にありがとうございます。

JK:こちらこそ、質問の数々、ありがとう。

近いうちに、あなたたちがまたツアーに出られることを祈っていますので。

JK:僕たちもそう思ってるよ、ありがとう!

質問・文:木津毅(2022年2月14日)

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Profile

木津 毅木津 毅/Tsuyoshi Kizu
音楽・映画ライター。1984年、大阪生まれ。2011年よりele-kingに参加し、紙版ele-kingや『definitive』シリーズにも執筆。

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