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Home >  Interviews > interview with Toru Hashimoto - 選曲家人生30年、山あり谷ありの来し方を振り返る

interview with Toru Hashimoto 1994年にDJ BAR INKSTICKでスタートした「Free Soul Underground」でDJプレイする橋本徹(SUBURBIA)。撮影をしたのは毎月このDJパーティに遊びに来ていた当時20歳のNujabes。

interview with Toru Hashimoto

選曲家人生30年、山あり谷ありの来し方を振り返る

──橋本徹、インタヴュー

取材:山崎真央(VINYL GOES AROUND)    Mar 01,2023 UP

橋本さんの拠点は渋谷のイメージがありますが、渋谷だったのはなぜでしょう?

橋本:もともと駒沢で生まれ育って、就職して出版社時代は2年半目白にいて、フリーランスになって渋谷に来ました。会社を辞めるタイミングでCISCOのすぐそばに引っ越したんですね。その後そこが手狭になってカフェ・アプレミディを始める99年のタイミングで公園通りの渋谷ホームズへ移って。だから90年代後半は15秒でCISCOにレコードを買いに行って、オルガンバーでDJやって、30秒で家に帰ってくるみたいな生活(笑)。(当時編集長を務めていたタワーレコードのフリーマガジン)『bounce』の編集部までも5分かからない感じ。でもなぜ渋谷だったのかというと、やっぱりレコード屋がたくさんあって近かったからでしょうね。

「Free Soul」を手がけたりコンパイラー生活を続けていくなかで、印象に残った事件や出来事があれば教えてください。

橋本:コンピレーションCDのオファーが来るタイミングのときは、短い期間にものすごい数のオファーが来ていたのね。たとえば2007年はアントニオ・カルロス・ジョビンの生誕80周年記念の年で、リオに行ったりしつつ、ブラジル関連のコンピレーションが増えたこともあって32枚作りました。2014年は「Free Soul」20周年ということで、もう毎週のようにコンピのリリースがあって、たしか、10週連続でコンピCDが出ているような状況だったと思う。すごく楽しいし気持ちも乗って、「世界は45回転でまわってる」っていう感覚だったけど、逆に近年はパタッとそういうオファーが来なくなって。「30年間続けてきた」という言い方もできなくはないけれど、「進んだり止まったりを繰り返してきた」っていうのがじっさいのところなのかなと。

人生って進んだり止まったりするもので、でも止まったときにそのまま止まっちゃう人もいますよね。でもそういう波は絶対にあるんだよっていうのは、若い人には知っておいてほしいです。

橋本:僕もいまなら言える。けっして30年間で350枚ちょっと、年に12枚くらいをコンスタントに作ってきたわけではなくて。仕事も気持ちも浮き沈みがある。2009~11年くらいは精神的にもピンチでした。気持ちがダウナーで、鬱みたいな雰囲気もあって。2000年代前半にカフェ・アプレミディが大ブームになって、その勢いでレストランやセレクトショップを作って、僕としては楽しかったんだけど、経済的には赤字が続いて。お金がなくなっていったり、まわりの人が離れていったり、気分が落ちたり。『Suburbia』のディスクガイドの1冊目が出た後や「Free Soul」が成功したりカフェ・アプレミディが大人気になったりしたときは、ものすごくたくさんの人が寄ってくるのよ(笑)。それがもう2010年ころにはなくなっていった。それで夜中の12時ごろから朝の4時くらいまでニック・ドレイクみたいな音楽ばかり聴いて、ぼわんとした生活を送っていた時期もありました。自死がよぎったことさえあったし、自殺したミュージシャンの音楽以外聴きたくないと思っていた時期もあったくらいで。2010年の終わりには駒沢に戻ったんだけど、そのとき海に行こうと車で迎えにきてくれた友だちにはほんとうに感謝しかない。そういうことで少しずつ心のリハビリをしていって。負のスパイラルを逆回転させてもとに戻すことって、当人だけじゃとても無理だと思う。無償の愛のようなものがないと難しいと思いますね。
 2009年の秋に加藤和彦さんが亡くなって、2010年にはNujabesが亡くなって、その翌年には東日本大地震があって、さすがにそのころは音楽を聴ける感じではなかった。当時出たばかりだったジェイムズ・ブレイクファーストが救いになったのを覚えていますね。何も聴けない状態だったのに、それだけは聴けて。コンピも作ってはいたけど、内省的なものが増えていって。もちろんそれはそれである層の共感を呼ぶし、大切な人たちが聴いてくれたんだけど、「Free Soul」やカフェ・アプレミディのように一般の方たちも巻き込んで劇的に売れるというような状況にはならなくて。
 でもいまはこうやってアニヴァーサリーを迎えたり、去年結婚式を挙げたりして、一緒に幸せにならなきゃいけない人ができたりすると、あのとき命をつなぎ止めておいてよかったなと思うことはあります。生きていればなんとかなるから。お気楽に幸運に30年間暮らしてきたように映るかもしれないけど、僕でもそういう時期はあったんですということは、最近亡くなる方が多いこともあって、お伝えしたいことですね。だから生死の一線を超えないように、互いが互いを大切にしながら生きていきたいなと思います。そういうときに助けてくれた友人ってやっぱり特別だし。

それでは今回のコンピレーションの選曲について伺います。割と古めの音楽の比重が高いように思いましたが、それはどのような意図で?

橋本:まず、今回はメモリアルだという前提がありましたからね。僕のコンピレーションはおよそ350枚のうち27枚を〈Pヴァイン〉から出しているんですが、その「ベスト・オブ・ベスト」というのが今回の基本コンセプトで。ただ、それに加えて、自分が30年間やってきたことを、その断片でもいいから新しい世代やリスナーに伝えたいという気持ちも強くあって。昔からよく僕のコンピは、数が多すぎて初心者はどこから聴いたらいいのかわからないって言われていたので、そういう方のためになるものにするのもアニヴァーサリーにはふさわしいかなと思いました。コンピレーションのコンピレーションのような感じですかね。
 この場を借りて感謝すると、先ほど話した負のスパイラルを逆回転させるのが難しかったタイミングで、2013年に〈Pヴァイン〉から声がかかったんですよ。2014年の「Free Soul」20周年に向けて、『Free Soul meets P-VINE』と『Free Soul~2010s Urban-Mellow』を作らせてもらって。『Suburbia』の別冊扱いのディスクガイドも作ったことで現役復帰できるきっかけになりました。その少し前、2007年の「Mellow Beats」と2008年の「Jazz Supreme」も〈Pヴァイン〉がスタートでした。当時、現在進行形でよく聴いていて好きで選曲したいと思っていたテイストのものを、シリーズのファースト・リリースとして立ち上げてくれたのが〈Pヴァイン〉だったので、今回はその要素も反映させたいなと。だから、それらが全部サブタイトルに入っています。

難しいとは思いますが、今回のコンピレーションのなかから、あえて1曲選ぶとすれば?

橋本:うわっ、難しい(笑)。どれも本当に思い出深い曲ばかりだけど、「Free Soul」的にはその曲がかかると空間がとくに光り輝いていたのはアリス・クラークだよね。ジョン・ヴァレンティやジョイス・クーリング、12インチ探している人も多いDump「NYC Tonight」の坂本慎太郎ヴァージョンもだけど。カフェ・アプレミディ代表としては最後の2曲かな。ザ・ジー・ナイン・グループ “I've Got You Under My Skin” とメタ・ルース “Just The Way You Are”。「Mellow Beats」代表としては、プリサイズ・ヒーローとケロ・ワン。ボビー・ハッチャーソン “Montara” とアーマッド・ジャマル “Dolphin Dance” という僕の大好きなサンプル・ソース両雄をサンプリングしていて、共にシリーズ最初の『Mellow Beats, Rhymes & Vibes』に入れた曲でした。「Jazz Supreme」の観点からはやはり、もっとも思い出深いファラオ・サンダースを。

ホルガー・シューカイの “Persian Love” はちょっと意外でした。

橋本:“Persian Love” は本来であれば〈Suburbia Records〉の「Good Mellows」シリーズに入るようなテイストの曲だとは思うんだけど、2008年に『Groovy Summer Of Love』というコンピの選曲を依頼されたときにセレクトしているんだよね。イランのラジオ放送からサンプリングした歌声がほんとうに気持ちよくて。夏の海辺のDJではずっとかけつづけている曲で、自分のなかでは定番で、ある意味では僕の選曲を象徴している曲かなとも思う。一般的には元カンでジャーマン・ロックとされるけれど、バレアリックやスロウ・ハウス、サマー・チルアウトとして解釈してプレイしてきたということ。あと、中学生のころにサントリーのCMで聴いていたというのもある。そういういろんなパースペクティヴがあって思い出の詰まった曲なので、自分にとって重要な曲なんです。本当にグッとくる、心が洗われる大切な曲ですね。

今後のヴィジョンについて教えてください。

橋本:それほど大きなヴィジョンを抱いているわけではないけど、コンピCDをもうちょっとだけでも作っていけたらという気持ちはあります。「Free Soul」の30周年までもうひと頑張りできたらと思っています。今回これを作らせていただいたことで、そういう気持ちが湧いてきました。

最後に、これから何かを成し遂げたいと思っている若者にアドヴァイスをお願いします。

橋本:特にないですね(笑)。やりたいこと、やらずにはいられないことに忠実にというか……強いて言うなら、一歩踏み出す勇気みたいなものは重要なんじゃないかなと思います。

◆橋本徹(SUBURBIA)コンパイラー人生30周年記念インタヴュー
https://note.com/usen_apres_midi/n/n11d377e01339

◆橋本徹(SUBURBIA)コンパイラー人生30周年記念コンピ『Blessing』リリース記念トークショウ
3月4日(土)15時から16時半までタワーレコード渋谷店6Fにて
出演:橋本徹/柳樂光隆

◆橋本徹(SUBURBIA)コンパイラー人生30周年記念コンピ『Blessing』リリース記念パーティー
3月4日(土)17時から23時までカフェ・アプレミディにて
DJ:橋本徹/櫻木景/松田岳二/高橋晋一郎/三谷昌平/青野賢一/山崎真央/中村智昭/waltzanova/haraguchic/NARU/KITADE/MITCH/aribo/松下大亮
Live:サバービア大学フォークソング部(山下洋&安藤模亜)

橋本徹のコンパイラー人生30周年を記念したベスト・コンピ『Blessing ~ SUBURBIA meets P-VINE "Free Soul x Cafe Apres-midi x Mellow Beats x Jazz Supreme"』に連動したTシャツを発売。

VINYL GOES AROUNDでは過去350枚に及ぶ人気コンピレーションを監修・選曲してきた橋本徹(SUBURBIA)のコンパイラー人生30周年を記念したTシャツの受注販売を開始します。
90年代以降に全世界で人気を博したコンピレーション・シリーズ、『Free Soul』のロゴを使用し、30周年にちなんで30色のカラー・バリエーションで展開。
今回は完全受注生産になりますのでお早めにどうぞ。

橋本徹(SUBURBIA)
編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰。渋谷の「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・セレソン」店主。『Free Soul』『Mellow Beats』『Cafe Apres-midi』『Jazz Supreme』『音楽のある風景』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは350枚を越え世界一。USENでは音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」「usen for Free Soul」を監修・制作、1990年代から日本の都市型音楽シーンに多大なる影響力を持つ。現在はメロウ・チルアウトをテーマにした『Good Mellows』シリーズが国内・海外で大好評を博している。

VGA-1035
“Free Soul” Official T-Shirts

White / Black / Sport Grey / Ice Grey / Irish Green / Indigo Blue / Military Green / Mint Green / Light Pink / Lime /
Red / Royal / Safety Orange / Safety Pink / Safety Green / Tan / Daisy / Natural / Orange / Cardinal Red /
Gold / Cornsilk / Sand / Sky / Purple / Pistachio / Prairie Dust / Vegas Gold / Heliconia / Maroon

S/M/L/XL/XXL

¥3,000
(With Tax ¥3,300)

※商品の発送は 2023年4月下旬ごろを予定しています。
※Tシャツのボディはギルダン 2000 6.0オンス ウルトラコットン Tシャツになります。
※期間限定受注生産(〜2023年3月31日まで)
※限定品につき、なくなり次第終了となりますのでご了承ください。

https://vga.p-vine.jp/exclusive/vga-1035/

取材:山崎真央(VINYL GOES AROUND)(2023年3月01日)

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