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Oneohtrix Point Never - ele-king

 ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの来日までいよいよ1か月。ジム・オルーク&石橋英子の出演も楽しみな公演ですが、ここへ来てさらに嬉しいお知らせです。最新作『Again』がカセットテープにてリリースされます。フィジカル限定のボーナストラックもあり。これはTOWER VINYL SHIBUYAのリニューアルを記念した企画で、同店(と来日公演会場)のみでしか買えません。この機を逃さないように!
 なお紙エレ最新号にはOPNのインタヴューを掲載しています。来日に向け予習しておきましょう。

来日まであと1ヶ月!
最新アルバム『Again』が超限定カセットで登場!
待望のジャパンツアーとTOWER VINYL SHIBUYAリニューアルオープンを記念して
ライブ会場とTOWER VINYL SHIBUYAのみで
数量限定カセットテープの販売決定!

いよいよ来月、最新アルバム『Again』をひっさげた新たなライブセットをここ日本で世界初披露するワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(以下OPN)。ジャパンツアーには最新アルバムでも客演したジム・オルークが石橋英子と共にスペシャルゲストとして出演することも決定し、コーチェラ出演も発表されるなど話題が続く中、ジャパンツアーとTOWER VINYL SHIBUYAのリニューアルオープンを記念して、最新アルバム『Again』の数量限定カセットテープが、ライブ会場とTOWER VINYL SHIBUYA(タワーレコード渋谷店6F)のみで発売決定! こちらのカセットテープにはフィジカルフォーマット限定のボーナストラック「My Dream Dungeon Makeover」が収録されている。

ONEOHTRIX POINT NEVER『Again』数量限定カセットテープ
※タワーレコードではTOWER VINYL SHIBUYA(渋谷店6F)のみの販売となります。
※予約不可(店頭・電話・ネットからの予約は一切できませんのでご了承下さい)
※販売開始日:2024年2月29日(木)のリニューアルオープン日より
※商品の購入はお一人様1個までとさせて頂きます。
https://tower.jp/article/news/2024/01/29/ta001

ONEOHTRIX POINT NEVER
special guest: JIM O'ROURKE + EIKO ISHIBASHI

[東京]
公演日:2024年2月28日(水)
会場:EX THEATER
OPEN:18:00 / START:19:00
TICKET:前売 1階スタンディング¥8,000(税込) / 2階指定席¥8,000(税込)
※別途1ドリンク代 ※未就学児童入場不可
INFO:BEATINK www.beatink.com / E-mail: info@beatink.com

[Tickets]
● イープラス [https://eplus.jp/opn2024/]
● ローソンチケット [http://l-tike.com/opn/]
● BEATINK (ZAIKO) [https://beatink.zaiko.io/e/opn2024tokyo]

[大阪]
公演日:2024年2月29日(木)
会場:梅田CLUB QUATTRO
OPEN:18:00 / START:19:00
チケット料金:前売¥8,000(税込)(オールスタンディング)
※別途1ドリンク代 ※未就学児童入場不可
INFO:SMASH WEST https://smash-jpn.com

[Tickets]
● イープラス [https://eplus.jp/opn2024/]
● ローソンチケット [http://l-tike.com/opn/]
● ぴあ 【Pコード】254-196
● BEATINK (ZAIKO) [https://beatink.zaiko.io/e/opn2024osaka]

公演詳細 >>> https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13709

企画・制作 BEATINK www.beatink.com
INFO BEATINK www.beatink.com / E-mail: info@beatink.com

label: Warp Records / Beat Records
artist: Oneohtrix Point Never (ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー)
title: Again (アゲイン)
release: 2023.9.29 (FRI)

商品ページ:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13613

Tracklist:
01. Elseware
02. Again
03. World Outside
04. Krumville
05. Locrian Midwest
06. Plastic Antique
07. Gray Subviolet
08. The Body Trail
09. Nightmare Paint
10. Memories Of Music
11. On An Axis
12. Ubiquity Road
13. A Barely Lit Path
14. My Dream Dungeon Makeover (Bonus Track)

国内盤CD+Tシャツ

限定盤LP+Tシャツ

通常盤LP

限定盤LP

 2024年2月に東京および大阪での公演を控えるワンオートリックス・ポイント・ネヴァー。そのスペシャル・ゲストとして、なんとなんと、ジム・オルーク石橋英子の出演が決定! オルークは最新作『Again』にも参加していたわけだけれど、ここ日本でついに彼らがおなじステージに立つ、と。
 またこのアナウンスに合わせ、『Again』収録曲 “Nightmare Paint” のMVが公開されている。監督はアンドリュー・ノーマン・ウィルソン。目から出る光線でCDを焼く? なんとも印象的な映像なので、こちらもチェックしておこう。

Oneohtrix Point Never - ele-king

野田努

 ダニエル・ロパティンのアーティスト写真は、今回はいまいち表情が見えない。笑っているのか、それともしかめ面なのか。『Again』を聴いて最初に戸惑うのは、表現主義的と言えばいいのかもしれないが、その錯乱した展開にある。弦楽器によるクラシカルなアンサンブルにはじまるアルバムは、しかし、シュトックハウゼンの初期の電子音楽作品を茶目っ気をもってポップ化したように展開する。エレクトロニックで、断片的で、とりとめがない。このサウンドコラージュ作品は、コーネリアスの〝霧中夢〟にも似たイリュージョニズムの結晶体とも言える……が、ただ、音のスラップスティックというか、どたばたエレクトロニカというか、落ち着きがまるでない。アンビエントとグリッチ、クラシカルな響きとアメリカーナの記憶、幾何学的な目眩、アシッドなフィルターを通してミックスされたレジデンツのエキゾティシズム……。このアルバムのおそらく膨大な参照リストは、ワンオートリックス・ロパティン本人にしかわからないだろう。
 『Again』のアートワークは、我々が抱いているワンオートリックス・ポイント・ネヴァーに対するイメージを簡潔に表現している。たしか90年代後半あたりに一時的だがPC用に使われた卓上スピーカーの数々、いまや誰も用見向きもしないゴミ=ジャンクが束ねられているそれだ。「Web2.0以降におけるトラッシュ・アメリカーナの開拓者」、たったいま制作中の紙エレキング年末号における「2010年代の音楽」特集のなかの原稿で、僭越ながらぼくはOPNについてそう説明した。彼がシーンに登場したゼロ年代のUSインディは、ボン・イヴェールが60年代アメリカーナを、アニマル・コレクティヴは手当たり次第にアシッド・フォークやらビーチ・ボーイズやらをリサイクルしていた時代だった。フォーキーなトレンドに馴染めなかったロパティンはアメリカ的伝統主義とは断絶し、たわいのないノイズや光の当たらないジャンル、たとえば70年代ベルリン・スクールのシンセサイザー音楽をはじめ、嘲笑の的であったニューエイジ音楽のカセット作品、そしてインターネット上で拾えるあらゆるジャンクな音源を使って作品を作った。DVDR作品の『Memory Vague』(09)から『Returnal』(10)、そして『Replica』(11)といったOPNの傑出したアルバムは、オンライン文化がもたらした情報の過飽和状態における、皮肉めいた遊び心を感じさせる(ゆえにヴェイパーウェイヴとも接続する)、と同時に、エレクトロニック・ミュージックにおける表現形態の可能性を広げるものだった。『R Plus Seven』(13)がその集大成だが、これは、ダンス・カルチャーを母体として発展したエレクトロニック・ミュージックでもなければ、また、アンビエント・ミュージックに端を発したそれとも違っている。MACプラスの倒錯的ラウンジ・ミュージックもそうだが、ハイブローなアムネジア・スキャナー、ヘルム、ホリー・ハーンドンのようなプロデューサーによる、10年代の新種のエレクトロニカ作品のきっかけを作ったのはロパティンだった。(その先祖にはコンラッド・シュニッツラーがいるとぼくは思っている)

 ロパティンは、大学で図書館学を学んだほどの生粋のアーキヴィストで、誰もがマニアックな音楽から専門的な知識までを即時に入手できる現代にあっては、時代の申し子という言い方もできよう。そんな彼が自己言及を3回(*1)もやるのは、情報を酸素のように吸って育ったデジタル世代としては、じゃあ、いま俺の記憶に残っているものは何かという自己調査の必要があったのではないのだろうか、と訝しんでいる。ぼくのようなアナログな人間はシンプル極まりない。ロック、パンク、レゲエ、レイヴ、テクノ……世界を変えようとした音楽。しかし、Web2.0以降の情報過飽和環境で思春期を過ごした最初の世代であろうロパティンは、きっとそんな単純な話ではないのだろう。元ソニック・ユースのリー・ラナルドとジム・オルークのゲスト参加が、ロパティンにとってのアメリカ内におけるリスペクトを意味していることはわかる。が、『Again』のなかでときおり見せるマキシマリズム(過剰主義)は、面白がっているのか、感情の破片なのか。リスナーを困惑させるのはこの作品の欠点だが、じつは長所でもある。というのも、確実に言えるのは、これは念入りに作り込まれた作品であるということだから。いま彼は、後方を見ながら前方に突っ走っている。しかし、繰り返すが、問題はどこに向かって走っているのかわからないことだ。2年後に聴いたら印象は変わるかもしれない。


(*1)ロパティンの最初の自己言及とその注釈めいた作品は2015年の『Garden Of Delete』、ロックやメタルばかり流すアメリカのラジオ環境に晒された思春期の体験が元になっている。前作にあたる2020年の『Magic Oneohtrix Point Never』は、OPNをはじめたばかりの頃を回想しながら作られたアルバム。そして今作『Again』は、ロパティンいわく思弁的自伝(スペキュレイト・バイオ)だそうで、つまり、勝手に想像してみた自分史ということ。

■ 紙エレキング年末号では、ダニエル・ロパティンが彼の無名時代を振り返りつつ、まだ仕事をしながら音楽を作っていた時代(2010年前後)の話、ニーチェの影響、マーク・フィッシャーへの共感、『Eccojams』再開への意欲など、自分語りしまくりの興味深い話満載です。ご期待ください。

野田努

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小林拓音

 ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー通算10枚目のオリジナル・アルバム『Again』は、これまでのOPNらしさと未知の世界、双方を探索する果敢な1枚に仕上がっている。
 いろんな音の断片が予想しづらいタイミングで入れかわり立ちかわり登場する点において、本作はコラージュ的だ。そこは『Age Of』と似ている。あるいは『Replica』までの彼を特徴づけていたJUNO-60とおぼしきシンセ音の挿入。それはすでに『GOD』『Age Of』『mOPN』でも試みられていたことだけれど、今回はだいぶ頻度が高い(ちなみに今年10周年を迎えた名作『R+7』がいまでも新鮮に響くのは、その音色に頼らなかったからかもしれない)。
 他方で『Again』は新しい試みに満ちてもいる。アルバムを円環構造にするNOMADアンサンブル(指揮はロンドン・コンテンポラリー・オーケストラ創設者のロバート・エイムズ)の演奏。ソニック・ユースのリー・ラナルド、ジム・オルーク、LAの実験的ロック・バンド、シュー・シューの参加。話題のOpenAI社製品の導入。けれどもそれらはあくまで全体を構成する要素の一部にとどまっている。
 今回の新作は「半自伝的」三部作の完結編であり、また「思弁的自伝」なのだという。ダニエル・ロパティンはキャリアの初期からずっと、過去や記憶にたいする強いこだわりを見せてきた。すでにそれは彼の作家性になっている。興味深いのは、『Again』が「半」自伝的であり「思弁的」自伝だと主張されている点だろう。つまり、本作は自伝ではないのだ。
 振り返れば、OPNが活躍した2010年代はネットやスマホやSNSの普及により、だれもかれもが手軽に自分をアピールできるようになった時代だった。みずからをダシにすることでロパティンは、そういうオンライン上にあふれる無数の「わたし」をアートとして表現しているようにも思える。
 だからこそいちばんグッときたのは “World Outside” のリリックだった。小刻みな電子音。パーカッション的な役割を果たす吐息。弦。『R+7』風の声楽。ロパティン本人によるキャッチーな歌。ノイズ。そしてギター。それらが主導権争いを繰り広げるこの曲では、「World Outside(外の世界)」なるフレーズが繰り返されている。
 インタヴューを読むかぎりこれは、20代はじめのティーンエイジャーでもなければオトナでもない微妙な時期に「外の世界(outside world)」の気まぐれに振りまわされたことを主題にしているのだろう。ただ本作が自伝ではないことを踏まえるなら、西海岸が用意した「わたし」だらけの世界の外部を希求しているようにも聞こえる。こんな世界は嫌だ、と。
 一見自分史をテーマにした『Again』はまさにそのコンセプトのおかげで、みなが自分へと向かう現代のすぐれた診断にもなっているのだ。

小林拓音

Oneohtrix Point Never - ele-king

 喜びたまえ。現代を代表する電子音楽家、大いなる期待を集める最新アルバム『Again』のリリースを今週金曜に控えるワンオートリックス・ポイント・ネヴァー。4度目の来日公演の決定である。しかも、ソウル、ベルリン、マンチェスター、ロンドン、パリ、ニューヨークとつづくワールド・ツアーのスタートにあたる公演とのことで、つまりOPNの最新パフォーマンスを世界最速で堪能できるってこと。
 ちなみに前回の来日は5年前、『Age Of』(2018)リリース後で、バンドやダンサーを引きつれてのライヴだった。はたして今度はどんなパフォーマンスを披露してくれるのか──まずは9月29日発売の『Again』を聴いて、妄想を膨らませておきたい。
 日程は来年2月28日@六本木 EX THEATRE と2月29日@梅田 CLUB QUATTRO の2公演。時期はまだ少し先だけれど完売必至と思われるので、ご予約はお早めに。

 なお、今週木曜9月28日には新宿の映画館で新作のプレミア試聴会&トーク・イヴェントが開催されます(https://twitter.com/beatink_jp/status/1703980222692106661)。そちらもぜひ。

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー
ニューアルバム『Again』をひっさげ待望の来日ツアー決定!
圧巻の最新ライブセットがここ日本で世界初披露!
アルバムはいよいよ今週発売!

TOKYO 2024/2/28 (WED) EX THEATRE
OSAKA 2024/2/29 (THU) 梅田 CLUB QUATTRO

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(以下OPN)が音響アート/ミュージック・コンクレートのひとつの到達点とも言うべき、衝撃のニューアルバム『Again』をいよいよ9月29日に発売!音楽ファンやミュージシャンはもちろん、多種多様のアーティストやクリエイターからも大きな注目が集まる中、待望の来日公演が決定!ここ日本で最新ライブセットが世界初披露されることが明らかとなった。

テンションにテンションを重ねた得も言われぬ解放感とイマジネーションを拡張する圧倒的な世界観、息をのむ美しさ。名作『R plus Seven』を壮大なスケールにアップデートしたような大傑作だ。バラバラに散らばった断片たちが、時間を逆流し緻密且つ巨大な美しいアートピースを完成させるさま、カオスからコスモスへ、聴く者たちをカタルシスへ導く逆流アートの到達点がここに誕生した。

電子音楽、ヴェイパーウェイブ、ノイズ、アンビエント、コラージュ、カットアップ、ミュージック・コンクレート、、、当初はマニアックな実験音楽やサブカルチャーのカリスマだったワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(OPN)ことダニエル・ロパティンは、自身の作品のみならず、音楽プロデューサーとしてアノーニやザ・ウィークエンドを手がけ、映画『Good Time』(2017)ではカンヌ映画祭最優秀サウンドトラック賞を受賞するなど活躍の場をひろげて来た。2021年にはザ・ウィークエンドによるスーパーボウル・ハーフタイムショーの音楽監督を務め、シャネル 2021/22年 メティエダールコレクションショーでも音楽とパフォーマンスを担当。世界チャート1位を獲得したザ・ウィークエンドの『Dawn FM』では、エグゼクティブ・プロデューサーを務め、アルバム収録曲の大半で演奏も行っている。

今週ついにその全貌が明らかとなる最新作『Again』をひっさげたOPNの最新のライブセットが、ここ日本を皮切りに、ソウル、ベルリン、マンチェスター、ロンドン、パリ、ニューヨークという世界の主要都市をツアーすることが発表された。妥協なき美意識にもとづくその高い芸術性で、今や音楽カルチャーのあらゆる分野で引く手あまたの、現代を代表する音楽家、作曲家、プロデューサーとなったOPNことダニエル・ロパティンが魅せる圧巻のライブ・パフォーマンス!これは絶対に見逃せない!

公演詳細 >>> https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13709

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ONEOHTRIX POINT NEVER
JAPAN TOUR
出演:ONEOHTRIX POINT NEVER(サポートアクト:TBC)

[東京]
公演日:2024年2月28日(水)
会場:EX THEATRE
OPEN:18:00 START : 19:00
チケット料金:前売 1階スタンディング¥8,000(税込) 2階指定席¥8,000(税込)
*1ドリンク別途 
特記: 別途1ドリンク代 ※未就学児童入場不可

[大阪]
公演日:2024年2月29日(木)
会場:梅田CLUB QUATTRO
OPEN:18:00 START : 19:00
チケット料金:前売¥8,000(税込) オールスタンディング / 1ドリンク別途 
特記: 別途1ドリンク代 ※未就学児童入場不可

企画・制作 BEATINK www.beatink.com
INFO BEATINK www.beatink.com / E-mail: info@beatink.com

【TICKET INFO】
★ビートインク主催者WEB先行:9/29(金)10:00~
[TOKYO] https://beatink.zaiko.io/e/opn2024tokyo
[OSAKA] https://beatink.zaiko.io/e/opn2024osaka

[東京]
イープラス最速先行受付:10/3(火)12:00~10/9(月)23:59 [https://eplus.jp/opn-2024/]
一般発売:10/21(土)~ イープラス、LAWSON、BEATINK

[大阪]
イープラス最速先行受付:10/3(火)12:00~10/9(月)23:59 [ https://eplus.jp/opn-2024/]
一般発売:10/21(土)~ イープラス、LAWSON、チケットぴあ、BEATINK

Oneohtrix Point Never - A Barely Lit Path
YouTube >>> https://youtu.be/_kyFqe36BqM
配信リンク >>> https://opn.ffm.to/ablp

9月29日にリリースされる待望の最新作『Again』。Pitchforkが選ぶ「この秋最も期待できる47アルバム」で大きく取り上げられ、CRACK MAGAZINE最新号の表紙を飾るなど、アルバムへの期待は加速的に高まっている。本作についてダニエルは、現在の視点を通して、当時の自分の音楽的アイデンティティを捉えた瞑想であり「観念的自伝」だと説明する。現在公開中の新曲「A Barely Lit Path」は、ロバート・エイムズの指揮と編曲、ノマド・アンサンブルの演奏によるオーケストラをバックに、アルバムのクライマックスを飾る。合わせて公開されたミュージックビデオは、ダニエルがビデオ・アーティストのフリーカ・テットと書いた原案をもとに、フリーカ・テットが監督したもので、擬人化された2人の衝突実験用ダミーの悲惨な物語が描かれている。

OPN待望の最新アルバム『Again』は、9月29日 (金) にCD、LP、デジタル/ストリーミング配信で世界同時リリース!国内盤CDにはボーナストラックが追加収録され、解説書と歌詞対訳が封入される。LPは通常盤(ブラック・ヴァイナル)に加え、限定盤(ブルー・ヴァイナル)、日本語帯付き仕様盤(ブルー・ヴァイナル/歌詞対訳・解説書付)の3形態となる。さらに、国内盤CDと日本語帯付き仕様盤LPは、Tシャツ付きセットの発売も決定。

label: Warp Records / Beat Records
artist: Oneohtrix Point Never (ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー)
title: Again (アゲイン)
release: 2023.9.29 (FRI)

商品ページ:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13613

Tracklist:
01. Elseware
02. Again
03. World Outside
04. Krumville
05. Locrian Midwest
06. Plastic Antique
07. Gray Subviolet
08. The Body Trail
09. Nightmare Paint
10. Memories Of Music
11. On An Axis
12. Ubiquity Road
13. A Barely Lit Path
+ Bonus Track

国内盤CD+Tシャツ

限定盤LP+Tシャツ

通常盤LP

限定盤LP

Oneohtrix Point Never - ele-king

 2010年代を代表する電子音楽家であり、いまやプロデューサーとしてポップ・フィールドでも活躍するワンオートリックス・ポイント・ネヴァーことダニエル・ロパティン。先日ニュー・アルバムのリリースがアナウンスされているが……これがまた大いに期待できそうな感じなのだ。

 まずは一昨日公開された新曲 “A Barely Lit Path” を聴いてみよう。加工されたヴォーカルからはじまって……ストリングスの存在感に驚かされる。OPN流モダン・クラシカル? 新機軸といっていいだろう。

 配信リンク >>> https://opn.ffm.to/ablp

 演奏しているのはロバート・エイムズ指揮によるノマド・アンサンブル。エイムズは、アクトレスレディオヘッドフランク・オーシャンなどとのコラボで知られる意欲的な楽団、ロンドン・コンテンポラリー・オーケストラの創設者だ。そこはやはりロパティン、嗅覚が鋭い。
 新作発表時にはいつも趣向を凝らした映像を投下してくる彼だけれど、今回も例にもれず、なんとも強烈な印象を残すMVが届けられた。いろんなひとに「Oneohtrix Point Never」の読み方を尋ねてまわるティーザー動画も面白かったけれど、こちらは自動車の衝突試験に用いられるダミー人形2体が主人公。最初はドライヴを楽しんでいるように見える彼らだが……

 監督はフリーカ・テット。フランス出身、NYを拠点に活動するディジタル・アーティストで、この6月にはアムニージャ・スキャナーとの連名で〈PAN〉からアルバムを発表してもいる。そこにはディコンストラクティッド・クラブの終焉を宣言する曲が含まれていたりしたから、コンセプチュアルな部分でロパティンと馬があったのかもしれない。このMVの原案は、テットとロパティンふたりによるものだ。

 と、すでにこの1曲だけでわくわくが止まらなくなるわけだけれど、9月29日に発売されるニュー・アルバムのタイトルは『Again』。これまた意味深である。
 インフォメーションによれば、新作は若いころの自身とのコラボレイションであり、「思弁的自伝(speculative autobiography)」なんだそうな。OPNは2015年の『Garden Of Delete』では思春期を振り返り、2021年の『Magic Oneohtrix Point Never』でもOPNというプロジェクトのはじまりに立ち返っていた。『Again』はそれらとどう異なるアプローチをとっているのだろう?
 つねにリスナーを驚かせ、刺戟を与えてくれるOPN。今回も目が離せそうにない。

OPN待望の最新アルバム『Again』は、9月29日(金)にCD、LP、デジタル/ストリーミング配信で世界同時リリース! 国内盤CDにはボーナストラックが追加収録され、解説書と歌詞対訳が封入される。LPは通常盤(ブラック・ヴァイナル)に加え、限定盤(ブルー・ヴァイナル)、日本語帯付き仕様盤(ブルー・ヴァイナル/歌詞対訳・解説書付)の3形態となる。さらに、国内盤CDと日本語帯付き仕様盤LPは、Tシャツ付きセットの発売も決定。

label: Warp Records / Beat Records
artist: Oneohtrix Point Never (ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー)
title: Again (アゲイン)
release: 2023.9.29 (FRI)

商品ページ:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13613

Tracklist:
01. Elseware
02. Again
03. World Outside
04. Krumville
05. Locrian Midwest
06. Plastic Antique
07. Gray Subviolet
08. The Body Trail
09. Nightmare Paint
10. Memories Of Music
11. On An Axis
12. Ubiquity Road
13. A Barely Lit Path
+ Bonus Track

■国内盤CD+Tシャツ

■限定盤LP+Tシャツ

■通常盤LP

■限定盤LP

Oneohtrix Point Never - ele-king

 2010年代を代表する電子音楽家であり、いまやプロデューサーとしてポップ・フィールドでも活躍するワンオートリックス・ポイント・ネヴァーことダニエル・ロパティン。先日ニュー・アルバムのリリースがアナウンスされているが……これがまた大いに期待できそうな感じなのだ。

 まずは一昨日公開された新曲 “A Barely Lit Path” を聴いてみよう。加工されたヴォーカルからはじまって……ストリングスの存在感に驚かされる。OPN流モダン・クラシカル? 新機軸といっていいだろう。

 配信リンク >>> https://opn.ffm.to/ablp

 演奏しているのはロバート・エイムズ指揮によるノマド・アンサンブル。エイムズは、アクトレスレディオヘッドフランク・オーシャンなどとのコラボで知られる意欲的な楽団、ロンドン・コンテンポラリー・オーケストラの創設者だ。そこはやはりロパティン、嗅覚が鋭い。
 新作発表時にはいつも趣向を凝らした映像を投下してくる彼だけれど、今回も例にもれず、なんとも強烈な印象を残すMVが届けられた。いろんなひとに「Oneohtrix Point Never」の読み方を尋ねてまわるティーザー動画も面白かったけれど、こちらは自動車の衝突試験に用いられるダミー人形2体が主人公。最初はドライヴを楽しんでいるように見える彼らだが……

 監督はフリーカ・テット。フランス出身、NYを拠点に活動するディジタル・アーティストで、この6月にはアムニージャ・スキャナーとの連名で〈PAN〉からアルバムを発表してもいる。そこにはディコンストラクティッド・クラブの終焉を宣言する曲が含まれていたりしたから、コンセプチュアルな部分でロパティンと馬があったのかもしれない。このMVの原案は、テットとロパティンふたりによるものだ。

 と、すでにこの1曲だけでわくわくが止まらなくなるわけだけれど、9月29日に発売されるニュー・アルバムのタイトルは『Again』。これまた意味深である。
 インフォメーションによれば、新作は若いころの自身とのコラボレイションであり、「思弁的自伝(speculative autobiography)」なんだそうな。OPNは2015年の『Garden Of Delete』では思春期を振り返り、2021年の『Magic Oneohtrix Point Never』でもOPNというプロジェクトのはじまりに立ち返っていた。『Again』はそれらとどう異なるアプローチをとっているのだろう?
 つねにリスナーを驚かせ、刺戟を与えてくれるOPN。今回も目が離せそうにない。

OPN待望の最新アルバム『Again』は、9月29日(金)にCD、LP、デジタル/ストリーミング配信で世界同時リリース! 国内盤CDにはボーナストラックが追加収録され、解説書と歌詞対訳が封入される。LPは通常盤(ブラック・ヴァイナル)に加え、限定盤(ブルー・ヴァイナル)、日本語帯付き仕様盤(ブルー・ヴァイナル/歌詞対訳・解説書付)の3形態となる。さらに、国内盤CDと日本語帯付き仕様盤LPは、Tシャツ付きセットの発売も決定。

label: Warp Records / Beat Records
artist: Oneohtrix Point Never (ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー)
title: Again (アゲイン)
release: 2023.9.29 (FRI)

商品ページ:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13613

Tracklist:
01. Elseware
02. Again
03. World Outside
04. Krumville
05. Locrian Midwest
06. Plastic Antique
07. Gray Subviolet
08. The Body Trail
09. Nightmare Paint
10. Memories Of Music
11. On An Axis
12. Ubiquity Road
13. A Barely Lit Path
+ Bonus Track

■国内盤CD+Tシャツ

■限定盤LP+Tシャツ

■通常盤LP

■限定盤LP

Oneohtrix Point Never & Rosalía - ele-king

 最新作『Magic Oneohtrix Point Never』が好評のワンオートリックス・ポイント・ネヴァーから、新曲 “Nothing’s Special” の到着です。どこまでも広がる交遊録、今回のコラボ相手は近年ポップ・シーンでぐいぐい名を上げている、バルセロナ出身の歌手ロザリア(ジェイムス・ブレイク『Assume Form』やアルカ『KiCk i』での客演が印象的でしたね)。同曲は『mOPN』最終曲 “Nothing’s Special” の更新されたヴァージョンで、また違った角度からアルバムの魅力を引き出してくれるような仕上がり。チェックしておきましょう。

Oneohtrix Point Never - ele-king

 本作『MAGIC ONEOHTRIX POINT NEVER』は、この10年余りの間様々な作品をリリースしてきた主要プロジェクト名(OPN)がセルフ・タイトルとして冠されている通り、自己言及的で、かつ内省的な作品だ。この間のコロナ禍において、ニューヨーク在住のダニエル・ロパティンは、日に日に深刻化する感染状況に怯えながら、多くの人びとと同じように長引く自粛期間中ひたすら自宅へこもり、しばらく無為の時間を過ごしていたらしい(そのあたり、先んじて公開された本人へのインタヴューでも語られている)。好きな映画を観るのもままならず(登場人物たちが物理的に触れ合ったり、モブが登場する場面を観る気になれなかったという)、かといってもちろんオーディエンスを前にしたパフォーマンスを行なえるわけでもない。こうした期間において彼の心身を癒やしたのがネット・ラジオだった。本作は、そこで受けたインスピレーションを元に制作されているようで、実際、「架空のラジオ局から送り出される一日の放送」というコンセプトが据えられている。

 幼い頃ラジオ・エア・チェックによるミックス・テープ作りに勤しんだ経験もあり、自然とこのコンセプトは彼のアーティスト活動の原点を掘り返すような意味合いも含み持つことになっていったようだ。そもそもからして、のちのヴェイパーウェイヴ発展の起点となった(とされる)Eccojams なるスタイルの先駆者とされているロパティンのこと、ラジオ放送を模して様々な音の断片をセルフ・サンプリングするように一個の作品を作り上げるという手法を用いることは、当然彼自身の原点のひとつへ回帰することでもあったろう。前作『Age Of』(2018年)での強く思弁的な作風や、このところの映画スコア仕事などで聞かせる電子音楽家としての多彩なキャラクターに鑑みると、かなり「素直」な転回であるともいえる。
 かつて世に出た、「文化の遺構」としてのチージーなニューエイジ音楽やジングルめいたコラージュがぶつ切りに漏れ出してくるような本作の感覚は、確かに『Chuck Person's Eccojams Vol. 1』(2010年)とも近しいとは思う。そしてその後、主に諧謔性の部分が外科的に取り出されて前景化していくことになったのが後のヴェイパーウェイヴだったという見方もできるであろうが、そのヴェイパーウェイヴにおいては、あくまでニューエイジなどの「ジャンク」は、「ジャンク」としての性格を増幅されながらハックされ、流用され、(本来消費主義を揶揄する目的もあったとはいえ)逆説的な消費を被るという光景も観察された。
 しかしながら、(ヴェイパーウェイヴの文化と自分は本質的に無関係であると嘯く)ロパティンはここで、その「ジャンク性」に対していまもう一度だけプライマルな態度を取り直してみようとしているかのようだ。それは、ニューエイジ的陳腐に対しての極限化された冷徹さと、その一方でニューエイジ音楽が持つ(主に電子音楽的)快楽を切り分けながら、その両面を自らの内において鋭く自覚し直そうとする目論見にも思える。ニューエイジからの安易な快楽主義的呼び声を彼本来の批評性をもって退けながら、「いったいこの音のどこに、なぜ惹かれてしまうのか」について、粘り強い思考を放棄しようとしない。
 上述のインタヴューでは、「そうした類い(筆者注:ニューエイジなど)のテープを利用すること、それらをサンプリングするのって、自分からすればほとんどもうアメリカの質感(テクスチャー)を使うことに近い」とも言っている。これは、素直に解釈すれば、「あの時代のバックグラウンド・ミュージック」たるそうした音楽が、いまもなおそのバックグラウンド性を延命しているということなのかもしれないが、むしろここで彼は、「テクスチャーとなり果てたニューエイジ」それ自体を通して現在のアメリカ社会との接続面を確保しているようにも思えるのだ。

 一方で、架空のラジオ局というコンセプトの通り、様々な音楽要素が(バックグラウンド的に)寄せては消えるこのアルバムは、その実、ニューエイジに限らない豊富な音楽語彙が投入されていることもすぐわかる。特に、ザ・ウィークエンド、アルカ、キャロライン・ポラチェック、NOLANBEROLLIN、ネイト・ボイスというゲスト陣が参加した各曲において、かなり「現代的」かつポップな表現が行なわれていることが象徴的だが、いびつなヴォーカル変調や飽きっぽい子供のようにコロコロと音楽を展開していく断続感などから、これらのポップネスも実は「現代のアメリカというテクスチャー」を現すために配備されているにすぎないような気がしてくる。要は、ほとんどにおいて「〇〇調」と形容可能な、感情や内面を重視するような表現主義的欲動の欠乏した表徴が人工のさざ波のように寄せ、返し、消えていくのだ。
 このように論じてくると、有り体には、この作品でロパティンはすべてが断片化してしまった先にある歴史観の終末を描いているとみるのが、もっともインスタントに導き出される理解となるのだろう。しかし、それはおそらく前作『Age Of』で試されていた世界把握の仕方であって、むしろ本作では、ジャンクの氾濫とそれが呼び寄せる「テクスチャー化」の現象に、「終末の引き伸ばし」というべき狙いが注入されているように感じる。そもそもからしてごく思慮深い(語義のもっとも豊かな意味での「ナード」である)彼は、一創作家が歴史に対して随時終焉を宣告し続けることの不遜に気づいていないはずはないだろう。それなぞは結局、歴史を診断するふりをして終末を恣意的に措定し、結果チャイルディッシュに現在の拒絶を続けてきたようなある種の反動(それはまさに加速主義等の「思想」も含まれるだろうし、ニューエイジ復権への安直な没入なども射程に収めることが可能だろう)へ回収されてしまうということに、彼はいまかつてないほど敏感になっているのかもしれぬ。「ジャンク」の波状攻撃によって終末を引き伸ばすことで、逃避から逃避し、「どうしていまこうなのか?」を問おうとする……。

 「ジャンク」と戯れ「ジャンク」を再解釈する行き方は、ある種のシニシズムとすぐさま蜜月を結びたがるものだ。しかしいま、ロパティンは内なるシニシズムをひとまずはより包括的なシニシズムで抑え込もうとしているようにも見えるし、一方で、シニシズムのプライマルな対象化を究めることで、内破的にそれと決別しようとしているようにもみえる。そして、その究明の後、彼の眼前に現れてくるであろう剥き出しの生/実存へ、自らを投げ込んでいくのかどうか……。「ジャンク」と戯れ尽くし、そこに自らも統御しえない輝きを思いがけず見出すことで、どうやらいまロパティンは自らを投企する心構えを整えはじめたのかもしれない。少なくとも、歴史の再開は深い内省からはじまるということを彼は知っているようだ。
 彼はもちろんシンガーでも、狭義の意味でのソングライターでもないが、このアルバムは、きわめてシンガー・ソングライター的である。まことに2020年的で、真摯な作品だ。

Oneohtrix Point Never - ele-king

 本作『MAGIC ONEOHTRIX POINT NEVER』は、この10年余りの間様々な作品をリリースしてきた主要プロジェクト名(OPN)がセルフ・タイトルとして冠されている通り、自己言及的で、かつ内省的な作品だ。この間のコロナ禍において、ニューヨーク在住のダニエル・ロパティンは、日に日に深刻化する感染状況に怯えながら、多くの人びとと同じように長引く自粛期間中ひたすら自宅へこもり、しばらく無為の時間を過ごしていたらしい(そのあたり、先んじて公開された本人へのインタヴューでも語られている)。好きな映画を観るのもままならず(登場人物たちが物理的に触れ合ったり、モブが登場する場面を観る気になれなかったという)、かといってもちろんオーディエンスを前にしたパフォーマンスを行なえるわけでもない。こうした期間において彼の心身を癒やしたのがネット・ラジオだった。本作は、そこで受けたインスピレーションを元に制作されているようで、実際、「架空のラジオ局から送り出される一日の放送」というコンセプトが据えられている。

 幼い頃ラジオ・エア・チェックによるミックス・テープ作りに勤しんだ経験もあり、自然とこのコンセプトは彼のアーティスト活動の原点を掘り返すような意味合いも含み持つことになっていったようだ。そもそもからして、のちのヴェイパーウェイヴ発展の起点となった(とされる)Eccojams なるスタイルの先駆者とされているロパティンのこと、ラジオ放送を模して様々な音の断片をセルフ・サンプリングするように一個の作品を作り上げるという手法を用いることは、当然彼自身の原点のひとつへ回帰することでもあったろう。前作『Age Of』(2018年)での強く思弁的な作風や、このところの映画スコア仕事などで聞かせる電子音楽家としての多彩なキャラクターに鑑みると、かなり「素直」な転回であるともいえる。
 かつて世に出た、「文化の遺構」としてのチージーなニューエイジ音楽やジングルめいたコラージュがぶつ切りに漏れ出してくるような本作の感覚は、確かに『Chuck Person's Eccojams Vol. 1』(2010年)とも近しいとは思う。そしてその後、主に諧謔性の部分が外科的に取り出されて前景化していくことになったのが後のヴェイパーウェイヴだったという見方もできるであろうが、そのヴェイパーウェイヴにおいては、あくまでニューエイジなどの「ジャンク」は、「ジャンク」としての性格を増幅されながらハックされ、流用され、(本来消費主義を揶揄する目的もあったとはいえ)逆説的な消費を被るという光景も観察された。
 しかしながら、(ヴェイパーウェイヴの文化と自分は本質的に無関係であると嘯く)ロパティンはここで、その「ジャンク性」に対していまもう一度だけプライマルな態度を取り直してみようとしているかのようだ。それは、ニューエイジ的陳腐に対しての極限化された冷徹さと、その一方でニューエイジ音楽が持つ(主に電子音楽的)快楽を切り分けながら、その両面を自らの内において鋭く自覚し直そうとする目論見にも思える。ニューエイジからの安易な快楽主義的呼び声を彼本来の批評性をもって退けながら、「いったいこの音のどこに、なぜ惹かれてしまうのか」について、粘り強い思考を放棄しようとしない。
 上述のインタヴューでは、「そうした類い(筆者注:ニューエイジなど)のテープを利用すること、それらをサンプリングするのって、自分からすればほとんどもうアメリカの質感(テクスチャー)を使うことに近い」とも言っている。これは、素直に解釈すれば、「あの時代のバックグラウンド・ミュージック」たるそうした音楽が、いまもなおそのバックグラウンド性を延命しているということなのかもしれないが、むしろここで彼は、「テクスチャーとなり果てたニューエイジ」それ自体を通して現在のアメリカ社会との接続面を確保しているようにも思えるのだ。

 一方で、架空のラジオ局というコンセプトの通り、様々な音楽要素が(バックグラウンド的に)寄せては消えるこのアルバムは、その実、ニューエイジに限らない豊富な音楽語彙が投入されていることもすぐわかる。特に、ザ・ウィークエンド、アルカ、キャロライン・ポラチェック、NOLANBEROLLIN、ネイト・ボイスというゲスト陣が参加した各曲において、かなり「現代的」かつポップな表現が行なわれていることが象徴的だが、いびつなヴォーカル変調や飽きっぽい子供のようにコロコロと音楽を展開していく断続感などから、これらのポップネスも実は「現代のアメリカというテクスチャー」を現すために配備されているにすぎないような気がしてくる。要は、ほとんどにおいて「〇〇調」と形容可能な、感情や内面を重視するような表現主義的欲動の欠乏した表徴が人工のさざ波のように寄せ、返し、消えていくのだ。
 このように論じてくると、有り体には、この作品でロパティンはすべてが断片化してしまった先にある歴史観の終末を描いているとみるのが、もっともインスタントに導き出される理解となるのだろう。しかし、それはおそらく前作『Age Of』で試されていた世界把握の仕方であって、むしろ本作では、ジャンクの氾濫とそれが呼び寄せる「テクスチャー化」の現象に、「終末の引き伸ばし」というべき狙いが注入されているように感じる。そもそもからしてごく思慮深い(語義のもっとも豊かな意味での「ナード」である)彼は、一創作家が歴史に対して随時終焉を宣告し続けることの不遜に気づいていないはずはないだろう。それなぞは結局、歴史を診断するふりをして終末を恣意的に措定し、結果チャイルディッシュに現在の拒絶を続けてきたようなある種の反動(それはまさに加速主義等の「思想」も含まれるだろうし、ニューエイジ復権への安直な没入なども射程に収めることが可能だろう)へ回収されてしまうということに、彼はいまかつてないほど敏感になっているのかもしれぬ。「ジャンク」の波状攻撃によって終末を引き伸ばすことで、逃避から逃避し、「どうしていまこうなのか?」を問おうとする……。

 「ジャンク」と戯れ「ジャンク」を再解釈する行き方は、ある種のシニシズムとすぐさま蜜月を結びたがるものだ。しかしいま、ロパティンは内なるシニシズムをひとまずはより包括的なシニシズムで抑え込もうとしているようにも見えるし、一方で、シニシズムのプライマルな対象化を究めることで、内破的にそれと決別しようとしているようにもみえる。そして、その究明の後、彼の眼前に現れてくるであろう剥き出しの生/実存へ、自らを投げ込んでいくのかどうか……。「ジャンク」と戯れ尽くし、そこに自らも統御しえない輝きを思いがけず見出すことで、どうやらいまロパティンは自らを投企する心構えを整えはじめたのかもしれない。少なくとも、歴史の再開は深い内省からはじまるということを彼は知っているようだ。
 彼はもちろんシンガーでも、狭義の意味でのソングライターでもないが、このアルバムは、きわめてシンガー・ソングライター的である。まことに2020年的で、真摯な作品だ。

ヴェイパーウェイヴは僕のカルチャーではないよ。僕のシーンではないし、自分があの一部だったこともなければあれをフォローしたこともなかったし、あの手の作品をあさった、みたいなこともまったくなかった


Oneohtrix Point Never
Magic Oneohtrix Point Never

Warp/ビート

ConceptronicaHypnagogic PopAvant Pop

 インタヴュー、その2。その1からの続きです。
 さて、彼の自伝の一部と言える新作『Magic Oneohtrix Point Never』からかぎ取れる孤独な感覚については、おそらく前回のインタヴューで本人が語っている。ニューエイジ解釈についても多弁を呈しているが、ひとつ言えるのは、最終的に彼はそれを嫌いではないということ。で、たしかにそれはmOPNにある。歪められた奇妙な音響として。

 ダニエル・ロパティンの言葉を読みながら、彼は昔チルウェイヴにも手を染めていたことを思い出したりもした。チルウェイヴにしろヴェイパーウェイヴにしろドリーム・ポップにしろヒプナゴジック・ポップにしろチル&Bにしろ、10年前のインディ・シーンに広く伝染したエスケイピズム──刹那的だが、その刹那においては永遠のまどろみ──は、10年経ってさらに拡散しているようだ。NYのロックダウンによってそれが加速したとしても不思議ではない。ロパティンは、偶然にも、なかば感傷的にそのまどろみを再訪してしまった。が、10年後のロパティンは、彼のインナースペースの記憶を、彼がかつて検査し、調査した夢と現実のはざま、ないしはユートピアとディストピアの揺らぎをコンピュータにコピーすると、こなれた手つきで調整するかのようにそれらを対象化し、彼なりのポップ作品にまで仕上げたと。それがmOPNなる新作の正体ではないのだろうか。本人も認めているように内省的な作品だが、親しみやすい音響に仕上がっていると思う。
 御託はこの辺にしましょう。今回もまた、ロパティンがとことん正直に話してくれています。

そういえば、TINY MIX TAPESというWEBメディアが2019年の終わりに「2010年代のもっとも好きな音楽」として、あなたのChuck Person名義の作品『Chuck Person's Eccojams Vol.1』(2010)を選んでいましたが、ご感想をお願いします。

DL:光栄に感じた。ただ、と同時に僕には難儀でもあったっていうか……だから、自分は必ずしも、あのウェブサイトをやってる連中と同じような喜びとともにあのレコードを聴けるわけじゃない、と。あの音源があそこまで他の人びとにとって意味を持つというのには、自分も本当に「わあ、そうなの?」と興味をそそられる。
 あの作品を作ったときはほんと、自分はとにかく……直観的に作った、みたいな。自分を駆り立ててあれを作らせたものがなんなのか自分でもわからないし、意図的にやったところは一切なくて。とにかく「これをやる必要がある」と自分は感じていたし、その通りにあの作品をやって、その結果を人びとがああして気に入ってくれたのは、自分にとってショックであったし、と同時にありがたい恩恵でもあった。
 だけど僕にとっては非常にこう、(苦笑)理解しがたいんだよね、他の人びとがあのレコードに見出す重要性というものは……。いや、もちろんそう評されるのは素晴らしいんだよ! とてもワンダフルだし、自分の作り出した何かがいまだにこれだけ長い時間が経ってもなお人びとの心を動かしている、みたいなことであって、それはとても感動的なんだけどね。

アンビエントやドローンの文脈で出会った我々のようなリアルタイムで聴いてきたリスナーからすると、『Eccojams Vol.1』と同じ年の『Returnal』のほうが圧倒的にインパクトが大きいですし、『Replica』(2011)や『R Plus Seven』(2013)の当時の評価も高かった。なので、後々になって一部のリスナーが『Eccojams Vol.1』のほうを強烈に評価するというのは興味深く、やや不思議でもあります。

DL:うん、そうだよね。僕もいつも困惑させられるんだ、なぜなら自分にとっては──それがなんであれ、いま自分の取り組んでいる最新のものこそ自分に作り出せるベストなものになっていくだろう、そう思ってやっているからさ。だって、僕は生きているんだし、さらに良くなろうと努力しているところで、正直になろうと努めてもいる。だから僕からすれば常に、「頼むから、どうか自分の最新作をいちばん好きな作品にしてください!」みたいな(苦笑)。ところが……うん、僕にしても微妙なところだよ、あの作品は実にナイーヴなやり方で作ったわけだし。でも、と同時に自分にとってそれはとても素晴らしいことでもあるんだけどね。だから、あの作品を聴くとこう、自分の……無垢さを聴いて取れる、みたいな(照れ笑い)。
 当時の自分はオーディオ・エディターの使い方すらロクに知らなかったわけで、とにかくひたすら手っ取り早く薄汚いやり方で何かを作っていた。それってとても……っていうか、僕にとっては実際、そっちの方がはるかにセラピー効果のある音楽なんだよな、ニューエイジ・ミュージックを過剰に参照している類いの音楽よりも。なぜなら僕は自分自身を癒す手段としてあの音楽を作っていたから。退屈な仕事の時間しのぎとして何か作りたいなと思ってやったことだったし、あの音楽を作ることで自分もリラックスさせられたんだ。

もしかしたらそれは……コロナウイルスにまつわって生じた実存的な恐れの感覚、そことも少し関わっているのかもね? ここしばらくの間に自分が家族や友人連中と交わした会話、そのすべてはすごくこう、みんながそれぞれの人生を振り返り思索している感じだったし──だから、「一体どうして我々はこの地点にたどり着いてしまったんだろうか?」という。

日本ではあなたがヴェイパーウェイヴの重要人物のようになっていますが、いかが思われますか? 

DL:ああ、あれは僕からすれば、自分のカルチャーではないね。どうしてかと言えば、あれは一種、『Eccojams』に反応した一群の若い世代の連中、みたいなものだったわけで。彼らはなんというか、『Eccojams』をもとにして……それを様式化した、という。で、僕にとっての『Eccojams』というのは基本的に言えば……いやだから、あれが一種の青写真だった、というのはわかるよ。ごく初期の頃に、自分でもこう言っていたのは憶えているからさ、「これは、『誰にだってやれる』という意味で、フォーク・ミュージック(民族音楽)みたいなものだ」って。クッフッフッ! 要するに、ゴミの山にどう対処すればいいか、その方法がこれですよ、みたいな(苦笑)。

(笑)なるほど。

DL:そうやってゴミを興味深いものにしよう、と。で、思うにそこだったんだろうね、人びとがとくに興味を惹かれた点というのは。だから、あれは個人的かつキュレーター的な作法で音楽にアプローチする、そのためのひとつのやり方だったっていう。でも、ヴェイパーウェイヴは違うな、あれは僕のカルチャーではないよ。僕のシーンではないし、自分があの一部だったこともなければあれをフォローしたこともなかったし、たとえばBandcampでさんざん時間を費やしてあの手の作品をあさった、みたいなこともまったくなかった。まあ、ラモーナ(・アンドラ・ザビエル:Ramona Andra Xavier aka Vektroid他)のことは知っているけどね。僕たちは初期の頃に話をしたことがあったんだ。そこでとても興味深い会話を交わしたし、彼女は素晴らしい人物であり、コンポーザーとしても優秀だよ。ただし、自分は彼女とは違う類いのコンポーザーだと思ってる。

でも新作は、まさにこうしたOPNをめぐる理解と誤解を楽しんでいるあなたがいるように思ったのですが、いかがでしょうか? というのも、前作、前々作と比べるまでもなく、あなたのキャリアのなかでも明るい作品というか、funな感じが出ていますよね? 

DL:うんうん。

その意味でも、初期=『Eccojams』期のイノセンスを少し取り戻した、それが新作に作用したのかな?とも思いましたが。

DL:ああ、それは間違いなくある。自分にもそれは聴き取れるから。で、これってある意味、自分が話してきた、長いこと言い続けてきたようなことなんだけども(苦笑)──だから、「単に他の音楽を素材に使って『Eccojams』をやるんじゃなくて、自分自身を『Eccojam』(エコー・ジャム)してみたらどうだろう?」って(笑)。

(笑)それはすごくメタですね。

DL:うん。でも、それに、そっちの方がもっと合法的だし。(編注:もともとヴェイパーウェイヴは既存の曲の無許可なルーピングを元にしている)

(笑)。

DL:ハッハッハッハッハッ! (作者が同じなので)そんなに僕の名前をクレジットに記載してくれなくてもいいよ、みたいな(笑)。という冗談はともかく、うん、その意見には同意する。明るいし、カラフルで……『Magic Oneohtrix Point Never』収録のアンビエントなピースの多くは、僕の耳には、僕が僕自身を「エコー・ジャム」しているように響く。うん、たしかに。

そもそもなぜタイトルが『Magic Oneohtrix Point Never』、先ほどおっしゃっていたようにセルフ・タイトルなんですか?

DL:……自分にもわからない! もしかしたらそれは……コロナウイルスにまつわって生じた実存的な恐れの感覚、そことも少し関わっているのかもね? ただ……自分でもどうしてあのタイトルにしたのかわからないんだ。とにかくそういうタイミングだった、というか。ここしばらくの間に自分が家族や友人連中と交わした会話、そのすべてはすごくこう、みんながそれぞれの人生を振り返り思索している感じだったし──だから、「一体どうして我々はこの地点にたどり着いてしまったんだろうか?」という。

ええ。

DL:「この状況に自分たちを引っ張ってきたのは何? 何が起きてこうなったんだ?」と。彼ら自身の送ってきた人生、世界、そして政治や何やかやにおける人生を振り返っていて……だから一種の、(これを機に)自分たちの人生を査定する、みたいな感覚があったっていう。もしかしたらそれが(このタイトル命名の)由来の一部かもしれないよね? 
 でも、それと同時に……単純に、音楽そのものに対するリアクションっていう面もあったと思う。今作をまとめていく過程で、「この曲、それからこの曲を入れよう」って具合に楽曲群のなかから選んでいったわけだけど、そうするうちに自分に何かが聞こえてきた──「この曲、これはセルフ・タイトルのレコードみたいに聞こえる」と感じたんだよね。それとは別の曲群ではまったくそう感じなかったし、それよりもあれらの楽曲群はもっと、特定の、音楽的な美学の世界の方と関わっているように思えた。ところが、この曲、これは自分にとっては音楽的にとても自伝的なものとして響くぞ、と。過去に遡って、自分がひとりで何もかもやっていた頃、00年代初期あたりの自分を思わせるものがある、と。

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アルバムというフォーマットが死を迎えても、僕はかまわないけどね(笑)。世界はそういうものだ、というだけのことだよ、そうやって世界はどんどん変化しているんだし。それに自分は……戦略的に「これはこういう風に」と狙って何かやろうとしたためしがないんだ。


Oneohtrix Point Never
Magic Oneohtrix Point Never

Warp/ビート

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アルバムの内容について訊きますね。ゲストのクレジットがない曲のヴォーカルは、(サンプル以外は)すべてあなたですか?

DL:うん。ヴォコーダーを使ってね。あれはこう……僕はずっと、ヴォコーダーを使ったレコードが好きで。ジョルジオ・モローダーの『E=MC2』(1979)だとか……

(笑)はい。

DL:ハービー・ハンコックの『Sunlight』(1978)等々、好きなものにはキリがない。ダフト・パンクだって『Discovery』(2001)以降、また使いはじめたし。いつもヴォーカルにヴォコーダーをつけてきたんだよ、だって、僕はシンガーではないからね。僕は、僕は……キーボード奏者だよ(苦笑)! だから、ヴォコーダーを使うと、自分の歌声をそのまま使ったり、たとえばそれにオートチューンをかけるよりもヴォーカル・メロディやハーモニーの面ではるかに興味深い、もっと流動的で、かつ豊かなものが手に入るんだ。というのも、自分はハーモニーという意味ではいまだに、自分の指で鍵盤を押さえるときほどクリエイティヴに考えることができないから。
 というわけで、僕にとってのこのレコードのサウンドと言えば、それになる。ほんと、ヴォコーダーにとても重点の置かれたレコードだ、というか。だから、(笑)仮にSpotifyのプレイリストに「これぞヴォコーダー作品だ」みたいな題のものがあって、『Sunlight』や『E=MC2』が並ぶなかにいずれ『Magic Oneohtrix Point Never』が含まれるようになったら、僕としてはとてもハッピーだよ、うん。

本作にはインタールードのような “Cross Talk” が4つ挟まれています。アルバム全体としては、ラジオの番組やチャンネルが変わっていく感じを意識しているそうですね。なぜいまラジオというある意味古いメディアに注目したんですか? 

DL:ふたつの理由があると思う。ひとつは、ニューヨークがロックダウンされていた、自主隔離生活を送っていた間に、友人たちがストリーミング・ラジオの番組をやっていて。もともとラジオは好きだったけど、あれをよく聴いていたのをきっかけに「Magic Oneohtrix Point Never」について考えるようになったし──というのもあの名前は、僕の育ったボストンにある、ソフト・ロックのラジオ局「Magic 106.7」(マジック・ワン・オー・シックス・セヴン)に引っかけた言葉遊びのようなものだから。
 最初に言ったように、僕はいつもラジオを聴いていたし、ラジオを録音したミックステープをずっと作っていた。とにかくリスニングするのが好きなんだ。ポッドキャストも、人びとのトークも、コマーシャルも、特殊音響効果等々も好きだし……とにかくラジオにある質感と色彩とが大好きで。子供だった頃からずっとそうだったし、あまりにも好き過ぎて、自らのプロジェクトをラジオ局にちなんで名付けたくらいだ。
 というわけで、もしも自分がセルフ・タイトルのレコードを作るとしたら──オーケイ、まず状況を設定する必要があるな、と。それって映画を作るようなものだし、さて、アルバムをどこに設定しようか? と。で、ラジオという設定に作品を据えたいと思ったんだ。

今年はラジオ放送が開始されてからちょうど100年です。そのことと関係ありますか?

DL:えーっ!?

アメリカで初めてライセンスを受けて商業ラジオが放送されたのは今から100年前にピッツバーグにて、とされています。なので、もしかしたらあなたがラジオを選んだのはそのせいもあるのか?と考えもしましたが……。

DL:(マジに驚いている模様)うわぁ………っていうか、ほんとに? アメリカで、最初のラジオ放送がおこなわれてから今年で100周年? ワ〜〜オ!

はい。この手の発明/テクノロジーの話だけに諸説あるかもですが──

DL:(苦笑)。

一般に、1920年の10月、ピッツバーグのKDKAという局が最初だった、とされています。

DL:ワ〜〜〜オ! 

でも、単なる偶然みたいですね。

DL:ああ、偶然だ。しかも、このレコードが出るのも10月だし。実に妙な話だね。

今日は配信全盛の時代で、音楽は単曲で聴かれることが主流ですが、この時代におけるアルバムの意義とはなんでしょう?

DL:ああ、僕にも見当がつかないな。アルバムってマジに死に絶えつつあるんじゃないかと思う(苦笑)。いやほんと、自分にはわからないし……だから、Spotifyの人は「アーティストもこれまでのように2、3年おきにアルバムを1枚作っていればいい、というわけにはいかない。コンスタントにトラックだのなんだのを作り続ける必要がある」(訳注:Spotifyの共同設立者ダニエル・エクが今夏「Music Ally」相手に語ったコメントのことと思われる。)みたいなことを話しているわけだし。どうなんだろう? なんとも言えないなあ。
ただ、アルバムというフォーマットが死を迎えても、僕はかまわないけどね(笑)。世界はそういうものだ、というだけのことだよ、そうやって世界はどんどん変化しているんだし。それに自分は……戦略的に「これはこういう風に」と狙って何かやろうとしたためしがないんだ。仮に、自分がその方向に向かうとしたら……だから、思うにティン・パン・アレー系の音楽(訳注:ティン・パン・アレーはマンハッタンにあった楽譜/音楽出版社他の多く集まったエリア。転じて、職業作曲家とパフォーマーとが分業制の商業主義ポップスの意味もあり)の興味深いところというのは、あの手の歌って尺がとても短かったわけじゃない? それはどうしてかと言えば、フォノグラフ盤に収録できる音楽の長さには物理的に限界があったからだ、と。オーケイ、なるほど。
 ってことは、別に悲しむべきことじゃないんだよ、これは。とにかくテクノロジーと美学とは、歴史を通じてそうやってずっとダンスを続けてきた、ということに過ぎない。だから、奇妙な(笑)、ダーウィンの進化論めいた自然選択が起こり、音楽が楽曲単位の各部に細切れにされるようになり、レコードという概念が古風で古臭いものになったとしても、それはそれでオーケイなことであって。
 ただし、僕はレコードを愛しているけどね。レコードを聴くのが好きだ。だから僕も単に、自分の育った時代、その産物だってことなんだろうな(苦笑)。自分にはわからないけど、でも、うん、それはそれでオーケイ、ありなことだよ。

ASMRの人気についてはどう見ていますか? 

DL:うん、すごく、すごーく興味深い現象だよね。あれはもしかしたら、孤独感……人びとの抱く寂しさとどこか関係があるんじゃないかな? 親密な繫がりの欠如、そこと何か関係があるんじゃないかと思う。というのも、密な繫がりがあり、他の人びとと近い間柄を保てていれば、ASMRは常に身の回りで起きているわけで。その人間の日常に密接な繫がりが欠けている、もしくは他との接触を絶たれていて孤立した状態だったら、ASMRを得る何かしら別の方法を見つけなくちゃならなくなるのかもしれない。うん……非常に興味深いし、かつ、ある意味とても美しくもある現象だ。
で……今回のレコードのなかにも一カ所、僕からすればASMRな瞬間が訪れる場面があって、それはアルカの参加曲。あのトラックを聴いてもらうと、彼女がヴォイスを使って「S(エス)」というぶるぶるしたサウンドを生み出しているのが聞こえる。僕は彼女のヴォーカルおよびその周囲をこう、サウンド・デザイン等々を通じて、ある種非常に親密に響くようなやり方で提示した、という。あれはとても興味深い、彼女特有のものだし、彼女がやりたがったのもそれだったんだよ、ただ「エス・エス・エス……」と繰り返し発語する、みたいなこと。あれは本当にクールだった。
 でもまあ……(軽く咳払いして)ASMR人気がどうして起きているのか、それは僕にもわからない。ただ、思うにそうした現象が浮上するのは、おそらく人びとが「親密な繫がりが足りない」と感じているときなんじゃないか? 。

いまおっしゃったように、“Shifting” にはヴォーカルでアルカが参加しています。2010年代、OPNとアルカはエレクトロニック・ミュージックの最前線を駆け抜ける二大巨頭のような存在でした。10年代が終わり、その両者がコラボするに至ったことに大きな感慨を覚えます。かつて、そして現在、アルカの音楽についてはどのように思っていました/いますか?

DL:ああ、彼女はとんでもない才能を持つクリエイターでありヴォーカリストだ。彼女の音楽は本当にずっと好きだったし、知り合って結構経つけど、僕たちはいつも「一緒に何かやろう、何かやろうよ」と言い合っているばかりでね(笑)。で、遂にはお互いウンザリしたというか、「いつまでこうして無駄話を続けるつもり?」みたいな。

(笑)話してるばかりじゃなく、やろう、と。

DL:(笑)そうそう、「とにかくやっちゃおう!」と。でも……そうだね、お互いのクラフトに対する、素敵な称賛の念(苦笑)を共有しているよ。彼女の音楽は聴いていてとても共感できるし、メロディ面でも同様で、たまに「ああ、なんて綺麗なメロディなんだろう!」と感じることもあって、昔からの友人みたいに思える。だから、言葉を交わすまでもなく理解し合える誰か、みたいな。それに僕は好きなんだ、常に惹かれてきたんだよ、こう……クレイジーでスキゾな音楽を作っているアーティスト、ジャンクのように聞こえるというか、彫刻的にごちゃっとした混沌の塊で、でも聴いているうちに形をとってまとまっていく音楽を作っているアーティストたちに。そういうタイプのアーティストに常に惹きつけられてきたし、それはアートの分野を問わずでね。
というのもそれって、とある人びとが見ている現実というものの眺め、そのもっとも興味深い表現の仕方のように思えるから。で、彼女はとにかく、そこに音楽で生命を吹き込むのが最高に上手いんだ。僕は常にそこに感心させられてきたし、強く心奪われてもきたね。

最後は “Nothing’s Special (特別なものはなにもない)” という曲で終わります。これは何を意味していますか? まさに本作の本質を自ら明かしているとか?

DL:んー、あのタイトルの二重の意味が気に入っているんだ。だから、あそこから所有格の「‘(s)」を抜かすと「nothing special(どうってことない/これといって別に、といった意)」という、いささかシニカルな意味合いにとれる。でも「’」を足すと「特別なものはなにもない」になり、まあ、一種の禅っぽい在り方ってことだよ。
あの歌にはちょっとこう……とても悲しいときはどんな風に感じるか、それについて考えをめぐらせてみた、みたいなところがあるね。だから、思い出すわけだよ──たとえこの、悲しみのどん底みたいなものにある状態ですら、人は思い出しているんだよ、「自分は悲しみを感じている」って風に(苦笑)。ただ単に悲しいのではなく、悲しみというものを「感じて」いるっていう。で、何かを感じるというのは形状を伴うものだし、それは吟味・検討の形状であり、すなわち生きているということの形だ、と。で、「nothing is special」というフレーズは、ある意味ものすごい悲しみ、自分にはなにも信じられないという状態のことだけど、と同時にそれはまた、悲しむのもひとつの興味深い感覚であることを思い起こさせてくれる、という。あれはだから、メランコリーについての歌だね。

もう予定時間も過ぎていますし、これで終わりにしようと思います。今日は、お時間をいただいて本当にありがとうございます。

DL:どういたしまして。

わたし個人も、このアルバムをとてもエンジョイしています。美しくまとまっていますし、曲の間に挟まるクロス・トークも面白いです。

DL:(笑)うんうん、あれね、あれは自分でもやってて楽しかったよ。ともあれ、ありがとう。

ヴェイパーウェイヴは僕のカルチャーではないよ。僕のシーンではないし、自分があの一部だったこともなければあれをフォローしたこともなかったし、あの手の作品をあさった、みたいなこともまったくなかった


Oneohtrix Point Never
Magic Oneohtrix Point Never

Warp/ビート

ConceptronicaHypnagogic PopAvant Pop

 インタヴュー、その2。その1からの続きです。
 さて、彼の自伝の一部と言える新作『Magic Oneohtrix Point Never』からかぎ取れる孤独な感覚については、おそらく前回のインタヴューで本人が語っている。ニューエイジ解釈についても多弁を呈しているが、ひとつ言えるのは、最終的に彼はそれを嫌いではないということ。で、たしかにそれはmOPNにある。歪められた奇妙な音響として。

 ダニエル・ロパティンの言葉を読みながら、彼は昔チルウェイヴにも手を染めていたことを思い出したりもした。チルウェイヴにしろヴェイパーウェイヴにしろドリーム・ポップにしろヒプナゴジック・ポップにしろチル&Bにしろ、10年前のインディ・シーンに広く伝染したエスケイピズム──刹那的だが、その刹那においては永遠のまどろみ──は、10年経ってさらに拡散しているようだ。NYのロックダウンによってそれが加速したとしても不思議ではない。ロパティンは、偶然にも、なかば感傷的にそのまどろみを再訪してしまった。が、10年後のロパティンは、彼のインナースペースの記憶を、彼がかつて検査し、調査した夢と現実のはざま、ないしはユートピアとディストピアの揺らぎをコンピュータにコピーすると、こなれた手つきで調整するかのようにそれらを対象化し、彼なりのポップ作品にまで仕上げたと。それがmOPNなる新作の正体ではないのだろうか。本人も認めているように内省的な作品だが、親しみやすい音響に仕上がっていると思う。
 御託はこの辺にしましょう。今回もまた、ロパティンがとことん正直に話してくれています。

そういえば、TINY MIX TAPESというWEBメディアが2019年の終わりに「2010年代のもっとも好きな音楽」として、あなたのChuck Person名義の作品『Chuck Person's Eccojams Vol.1』(2010)を選んでいましたが、ご感想をお願いします。

DL:光栄に感じた。ただ、と同時に僕には難儀でもあったっていうか……だから、自分は必ずしも、あのウェブサイトをやってる連中と同じような喜びとともにあのレコードを聴けるわけじゃない、と。あの音源があそこまで他の人びとにとって意味を持つというのには、自分も本当に「わあ、そうなの?」と興味をそそられる。
 あの作品を作ったときはほんと、自分はとにかく……直観的に作った、みたいな。自分を駆り立ててあれを作らせたものがなんなのか自分でもわからないし、意図的にやったところは一切なくて。とにかく「これをやる必要がある」と自分は感じていたし、その通りにあの作品をやって、その結果を人びとがああして気に入ってくれたのは、自分にとってショックであったし、と同時にありがたい恩恵でもあった。
 だけど僕にとっては非常にこう、(苦笑)理解しがたいんだよね、他の人びとがあのレコードに見出す重要性というものは……。いや、もちろんそう評されるのは素晴らしいんだよ! とてもワンダフルだし、自分の作り出した何かがいまだにこれだけ長い時間が経ってもなお人びとの心を動かしている、みたいなことであって、それはとても感動的なんだけどね。

アンビエントやドローンの文脈で出会った我々のようなリアルタイムで聴いてきたリスナーからすると、『Eccojams Vol.1』と同じ年の『Returnal』のほうが圧倒的にインパクトが大きいですし、『Replica』(2011)や『R Plus Seven』(2013)の当時の評価も高かった。なので、後々になって一部のリスナーが『Eccojams Vol.1』のほうを強烈に評価するというのは興味深く、やや不思議でもあります。

DL:うん、そうだよね。僕もいつも困惑させられるんだ、なぜなら自分にとっては──それがなんであれ、いま自分の取り組んでいる最新のものこそ自分に作り出せるベストなものになっていくだろう、そう思ってやっているからさ。だって、僕は生きているんだし、さらに良くなろうと努力しているところで、正直になろうと努めてもいる。だから僕からすれば常に、「頼むから、どうか自分の最新作をいちばん好きな作品にしてください!」みたいな(苦笑)。ところが……うん、僕にしても微妙なところだよ、あの作品は実にナイーヴなやり方で作ったわけだし。でも、と同時に自分にとってそれはとても素晴らしいことでもあるんだけどね。だから、あの作品を聴くとこう、自分の……無垢さを聴いて取れる、みたいな(照れ笑い)。
 当時の自分はオーディオ・エディターの使い方すらロクに知らなかったわけで、とにかくひたすら手っ取り早く薄汚いやり方で何かを作っていた。それってとても……っていうか、僕にとっては実際、そっちの方がはるかにセラピー効果のある音楽なんだよな、ニューエイジ・ミュージックを過剰に参照している類いの音楽よりも。なぜなら僕は自分自身を癒す手段としてあの音楽を作っていたから。退屈な仕事の時間しのぎとして何か作りたいなと思ってやったことだったし、あの音楽を作ることで自分もリラックスさせられたんだ。

もしかしたらそれは……コロナウイルスにまつわって生じた実存的な恐れの感覚、そことも少し関わっているのかもね? ここしばらくの間に自分が家族や友人連中と交わした会話、そのすべてはすごくこう、みんながそれぞれの人生を振り返り思索している感じだったし──だから、「一体どうして我々はこの地点にたどり着いてしまったんだろうか?」という。

日本ではあなたがヴェイパーウェイヴの重要人物のようになっていますが、いかが思われますか? 

DL:ああ、あれは僕からすれば、自分のカルチャーではないね。どうしてかと言えば、あれは一種、『Eccojams』に反応した一群の若い世代の連中、みたいなものだったわけで。彼らはなんというか、『Eccojams』をもとにして……それを様式化した、という。で、僕にとっての『Eccojams』というのは基本的に言えば……いやだから、あれが一種の青写真だった、というのはわかるよ。ごく初期の頃に、自分でもこう言っていたのは憶えているからさ、「これは、『誰にだってやれる』という意味で、フォーク・ミュージック(民族音楽)みたいなものだ」って。クッフッフッ! 要するに、ゴミの山にどう対処すればいいか、その方法がこれですよ、みたいな(苦笑)。

(笑)なるほど。

DL:そうやってゴミを興味深いものにしよう、と。で、思うにそこだったんだろうね、人びとがとくに興味を惹かれた点というのは。だから、あれは個人的かつキュレーター的な作法で音楽にアプローチする、そのためのひとつのやり方だったっていう。でも、ヴェイパーウェイヴは違うな、あれは僕のカルチャーではないよ。僕のシーンではないし、自分があの一部だったこともなければあれをフォローしたこともなかったし、たとえばBandcampでさんざん時間を費やしてあの手の作品をあさった、みたいなこともまったくなかった。まあ、ラモーナ(・アンドラ・ザビエル:Ramona Andra Xavier aka Vektroid他)のことは知っているけどね。僕たちは初期の頃に話をしたことがあったんだ。そこでとても興味深い会話を交わしたし、彼女は素晴らしい人物であり、コンポーザーとしても優秀だよ。ただし、自分は彼女とは違う類いのコンポーザーだと思ってる。

でも新作は、まさにこうしたOPNをめぐる理解と誤解を楽しんでいるあなたがいるように思ったのですが、いかがでしょうか? というのも、前作、前々作と比べるまでもなく、あなたのキャリアのなかでも明るい作品というか、funな感じが出ていますよね? 

DL:うんうん。

その意味でも、初期=『Eccojams』期のイノセンスを少し取り戻した、それが新作に作用したのかな?とも思いましたが。

DL:ああ、それは間違いなくある。自分にもそれは聴き取れるから。で、これってある意味、自分が話してきた、長いこと言い続けてきたようなことなんだけども(苦笑)──だから、「単に他の音楽を素材に使って『Eccojams』をやるんじゃなくて、自分自身を『Eccojam』(エコー・ジャム)してみたらどうだろう?」って(笑)。

(笑)それはすごくメタですね。

DL:うん。でも、それに、そっちの方がもっと合法的だし。(編注:もともとヴェイパーウェイヴは既存の曲の無許可なルーピングを元にしている)

(笑)。

DL:ハッハッハッハッハッ! (作者が同じなので)そんなに僕の名前をクレジットに記載してくれなくてもいいよ、みたいな(笑)。という冗談はともかく、うん、その意見には同意する。明るいし、カラフルで……『Magic Oneohtrix Point Never』収録のアンビエントなピースの多くは、僕の耳には、僕が僕自身を「エコー・ジャム」しているように響く。うん、たしかに。

そもそもなぜタイトルが『Magic Oneohtrix Point Never』、先ほどおっしゃっていたようにセルフ・タイトルなんですか?

DL:……自分にもわからない! もしかしたらそれは……コロナウイルスにまつわって生じた実存的な恐れの感覚、そことも少し関わっているのかもね? ただ……自分でもどうしてあのタイトルにしたのかわからないんだ。とにかくそういうタイミングだった、というか。ここしばらくの間に自分が家族や友人連中と交わした会話、そのすべてはすごくこう、みんながそれぞれの人生を振り返り思索している感じだったし──だから、「一体どうして我々はこの地点にたどり着いてしまったんだろうか?」という。

ええ。

DL:「この状況に自分たちを引っ張ってきたのは何? 何が起きてこうなったんだ?」と。彼ら自身の送ってきた人生、世界、そして政治や何やかやにおける人生を振り返っていて……だから一種の、(これを機に)自分たちの人生を査定する、みたいな感覚があったっていう。もしかしたらそれが(このタイトル命名の)由来の一部かもしれないよね? 
 でも、それと同時に……単純に、音楽そのものに対するリアクションっていう面もあったと思う。今作をまとめていく過程で、「この曲、それからこの曲を入れよう」って具合に楽曲群のなかから選んでいったわけだけど、そうするうちに自分に何かが聞こえてきた──「この曲、これはセルフ・タイトルのレコードみたいに聞こえる」と感じたんだよね。それとは別の曲群ではまったくそう感じなかったし、それよりもあれらの楽曲群はもっと、特定の、音楽的な美学の世界の方と関わっているように思えた。ところが、この曲、これは自分にとっては音楽的にとても自伝的なものとして響くぞ、と。過去に遡って、自分がひとりで何もかもやっていた頃、00年代初期あたりの自分を思わせるものがある、と。

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アルバムというフォーマットが死を迎えても、僕はかまわないけどね(笑)。世界はそういうものだ、というだけのことだよ、そうやって世界はどんどん変化しているんだし。それに自分は……戦略的に「これはこういう風に」と狙って何かやろうとしたためしがないんだ。


Oneohtrix Point Never
Magic Oneohtrix Point Never

Warp/ビート

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アルバムの内容について訊きますね。ゲストのクレジットがない曲のヴォーカルは、(サンプル以外は)すべてあなたですか?

DL:うん。ヴォコーダーを使ってね。あれはこう……僕はずっと、ヴォコーダーを使ったレコードが好きで。ジョルジオ・モローダーの『E=MC2』(1979)だとか……

(笑)はい。

DL:ハービー・ハンコックの『Sunlight』(1978)等々、好きなものにはキリがない。ダフト・パンクだって『Discovery』(2001)以降、また使いはじめたし。いつもヴォーカルにヴォコーダーをつけてきたんだよ、だって、僕はシンガーではないからね。僕は、僕は……キーボード奏者だよ(苦笑)! だから、ヴォコーダーを使うと、自分の歌声をそのまま使ったり、たとえばそれにオートチューンをかけるよりもヴォーカル・メロディやハーモニーの面ではるかに興味深い、もっと流動的で、かつ豊かなものが手に入るんだ。というのも、自分はハーモニーという意味ではいまだに、自分の指で鍵盤を押さえるときほどクリエイティヴに考えることができないから。
 というわけで、僕にとってのこのレコードのサウンドと言えば、それになる。ほんと、ヴォコーダーにとても重点の置かれたレコードだ、というか。だから、(笑)仮にSpotifyのプレイリストに「これぞヴォコーダー作品だ」みたいな題のものがあって、『Sunlight』や『E=MC2』が並ぶなかにいずれ『Magic Oneohtrix Point Never』が含まれるようになったら、僕としてはとてもハッピーだよ、うん。

本作にはインタールードのような “Cross Talk” が4つ挟まれています。アルバム全体としては、ラジオの番組やチャンネルが変わっていく感じを意識しているそうですね。なぜいまラジオというある意味古いメディアに注目したんですか? 

DL:ふたつの理由があると思う。ひとつは、ニューヨークがロックダウンされていた、自主隔離生活を送っていた間に、友人たちがストリーミング・ラジオの番組をやっていて。もともとラジオは好きだったけど、あれをよく聴いていたのをきっかけに「Magic Oneohtrix Point Never」について考えるようになったし──というのもあの名前は、僕の育ったボストンにある、ソフト・ロックのラジオ局「Magic 106.7」(マジック・ワン・オー・シックス・セヴン)に引っかけた言葉遊びのようなものだから。
 最初に言ったように、僕はいつもラジオを聴いていたし、ラジオを録音したミックステープをずっと作っていた。とにかくリスニングするのが好きなんだ。ポッドキャストも、人びとのトークも、コマーシャルも、特殊音響効果等々も好きだし……とにかくラジオにある質感と色彩とが大好きで。子供だった頃からずっとそうだったし、あまりにも好き過ぎて、自らのプロジェクトをラジオ局にちなんで名付けたくらいだ。
 というわけで、もしも自分がセルフ・タイトルのレコードを作るとしたら──オーケイ、まず状況を設定する必要があるな、と。それって映画を作るようなものだし、さて、アルバムをどこに設定しようか? と。で、ラジオという設定に作品を据えたいと思ったんだ。

今年はラジオ放送が開始されてからちょうど100年です。そのことと関係ありますか?

DL:えーっ!?

アメリカで初めてライセンスを受けて商業ラジオが放送されたのは今から100年前にピッツバーグにて、とされています。なので、もしかしたらあなたがラジオを選んだのはそのせいもあるのか?と考えもしましたが……。

DL:(マジに驚いている模様)うわぁ………っていうか、ほんとに? アメリカで、最初のラジオ放送がおこなわれてから今年で100周年? ワ〜〜オ!

はい。この手の発明/テクノロジーの話だけに諸説あるかもですが──

DL:(苦笑)。

一般に、1920年の10月、ピッツバーグのKDKAという局が最初だった、とされています。

DL:ワ〜〜〜オ! 

でも、単なる偶然みたいですね。

DL:ああ、偶然だ。しかも、このレコードが出るのも10月だし。実に妙な話だね。

今日は配信全盛の時代で、音楽は単曲で聴かれることが主流ですが、この時代におけるアルバムの意義とはなんでしょう?

DL:ああ、僕にも見当がつかないな。アルバムってマジに死に絶えつつあるんじゃないかと思う(苦笑)。いやほんと、自分にはわからないし……だから、Spotifyの人は「アーティストもこれまでのように2、3年おきにアルバムを1枚作っていればいい、というわけにはいかない。コンスタントにトラックだのなんだのを作り続ける必要がある」(訳注:Spotifyの共同設立者ダニエル・エクが今夏「Music Ally」相手に語ったコメントのことと思われる。)みたいなことを話しているわけだし。どうなんだろう? なんとも言えないなあ。
ただ、アルバムというフォーマットが死を迎えても、僕はかまわないけどね(笑)。世界はそういうものだ、というだけのことだよ、そうやって世界はどんどん変化しているんだし。それに自分は……戦略的に「これはこういう風に」と狙って何かやろうとしたためしがないんだ。仮に、自分がその方向に向かうとしたら……だから、思うにティン・パン・アレー系の音楽(訳注:ティン・パン・アレーはマンハッタンにあった楽譜/音楽出版社他の多く集まったエリア。転じて、職業作曲家とパフォーマーとが分業制の商業主義ポップスの意味もあり)の興味深いところというのは、あの手の歌って尺がとても短かったわけじゃない? それはどうしてかと言えば、フォノグラフ盤に収録できる音楽の長さには物理的に限界があったからだ、と。オーケイ、なるほど。
 ってことは、別に悲しむべきことじゃないんだよ、これは。とにかくテクノロジーと美学とは、歴史を通じてそうやってずっとダンスを続けてきた、ということに過ぎない。だから、奇妙な(笑)、ダーウィンの進化論めいた自然選択が起こり、音楽が楽曲単位の各部に細切れにされるようになり、レコードという概念が古風で古臭いものになったとしても、それはそれでオーケイなことであって。
 ただし、僕はレコードを愛しているけどね。レコードを聴くのが好きだ。だから僕も単に、自分の育った時代、その産物だってことなんだろうな(苦笑)。自分にはわからないけど、でも、うん、それはそれでオーケイ、ありなことだよ。

ASMRの人気についてはどう見ていますか? 

DL:うん、すごく、すごーく興味深い現象だよね。あれはもしかしたら、孤独感……人びとの抱く寂しさとどこか関係があるんじゃないかな? 親密な繫がりの欠如、そこと何か関係があるんじゃないかと思う。というのも、密な繫がりがあり、他の人びとと近い間柄を保てていれば、ASMRは常に身の回りで起きているわけで。その人間の日常に密接な繫がりが欠けている、もしくは他との接触を絶たれていて孤立した状態だったら、ASMRを得る何かしら別の方法を見つけなくちゃならなくなるのかもしれない。うん……非常に興味深いし、かつ、ある意味とても美しくもある現象だ。
で……今回のレコードのなかにも一カ所、僕からすればASMRな瞬間が訪れる場面があって、それはアルカの参加曲。あのトラックを聴いてもらうと、彼女がヴォイスを使って「S(エス)」というぶるぶるしたサウンドを生み出しているのが聞こえる。僕は彼女のヴォーカルおよびその周囲をこう、サウンド・デザイン等々を通じて、ある種非常に親密に響くようなやり方で提示した、という。あれはとても興味深い、彼女特有のものだし、彼女がやりたがったのもそれだったんだよ、ただ「エス・エス・エス……」と繰り返し発語する、みたいなこと。あれは本当にクールだった。
 でもまあ……(軽く咳払いして)ASMR人気がどうして起きているのか、それは僕にもわからない。ただ、思うにそうした現象が浮上するのは、おそらく人びとが「親密な繫がりが足りない」と感じているときなんじゃないか? 。

いまおっしゃったように、“Shifting” にはヴォーカルでアルカが参加しています。2010年代、OPNとアルカはエレクトロニック・ミュージックの最前線を駆け抜ける二大巨頭のような存在でした。10年代が終わり、その両者がコラボするに至ったことに大きな感慨を覚えます。かつて、そして現在、アルカの音楽についてはどのように思っていました/いますか?

DL:ああ、彼女はとんでもない才能を持つクリエイターでありヴォーカリストだ。彼女の音楽は本当にずっと好きだったし、知り合って結構経つけど、僕たちはいつも「一緒に何かやろう、何かやろうよ」と言い合っているばかりでね(笑)。で、遂にはお互いウンザリしたというか、「いつまでこうして無駄話を続けるつもり?」みたいな。

(笑)話してるばかりじゃなく、やろう、と。

DL:(笑)そうそう、「とにかくやっちゃおう!」と。でも……そうだね、お互いのクラフトに対する、素敵な称賛の念(苦笑)を共有しているよ。彼女の音楽は聴いていてとても共感できるし、メロディ面でも同様で、たまに「ああ、なんて綺麗なメロディなんだろう!」と感じることもあって、昔からの友人みたいに思える。だから、言葉を交わすまでもなく理解し合える誰か、みたいな。それに僕は好きなんだ、常に惹かれてきたんだよ、こう……クレイジーでスキゾな音楽を作っているアーティスト、ジャンクのように聞こえるというか、彫刻的にごちゃっとした混沌の塊で、でも聴いているうちに形をとってまとまっていく音楽を作っているアーティストたちに。そういうタイプのアーティストに常に惹きつけられてきたし、それはアートの分野を問わずでね。
というのもそれって、とある人びとが見ている現実というものの眺め、そのもっとも興味深い表現の仕方のように思えるから。で、彼女はとにかく、そこに音楽で生命を吹き込むのが最高に上手いんだ。僕は常にそこに感心させられてきたし、強く心奪われてもきたね。

最後は “Nothing’s Special (特別なものはなにもない)” という曲で終わります。これは何を意味していますか? まさに本作の本質を自ら明かしているとか?

DL:んー、あのタイトルの二重の意味が気に入っているんだ。だから、あそこから所有格の「‘(s)」を抜かすと「nothing special(どうってことない/これといって別に、といった意)」という、いささかシニカルな意味合いにとれる。でも「’」を足すと「特別なものはなにもない」になり、まあ、一種の禅っぽい在り方ってことだよ。
あの歌にはちょっとこう……とても悲しいときはどんな風に感じるか、それについて考えをめぐらせてみた、みたいなところがあるね。だから、思い出すわけだよ──たとえこの、悲しみのどん底みたいなものにある状態ですら、人は思い出しているんだよ、「自分は悲しみを感じている」って風に(苦笑)。ただ単に悲しいのではなく、悲しみというものを「感じて」いるっていう。で、何かを感じるというのは形状を伴うものだし、それは吟味・検討の形状であり、すなわち生きているということの形だ、と。で、「nothing is special」というフレーズは、ある意味ものすごい悲しみ、自分にはなにも信じられないという状態のことだけど、と同時にそれはまた、悲しむのもひとつの興味深い感覚であることを思い起こさせてくれる、という。あれはだから、メランコリーについての歌だね。

もう予定時間も過ぎていますし、これで終わりにしようと思います。今日は、お時間をいただいて本当にありがとうございます。

DL:どういたしまして。

わたし個人も、このアルバムをとてもエンジョイしています。美しくまとまっていますし、曲の間に挟まるクロス・トークも面白いです。

DL:(笑)うんうん、あれね、あれは自分でもやってて楽しかったよ。ともあれ、ありがとう。

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーは、僕がニューエイジのテープにかなりハマっていたことからはじまった。ああいうテープにはシンセサイザー音楽が山ほど使われているから。しばらくの間、あの手のテープに中毒したかなりのジャンキーだった。それくらい貪欲だったんだよ、自分に見つけられる限りのあらゆるシンセ音源を手に入れるぞ、みたいな。


Oneohtrix Point Never
Magic Oneohtrix Point Never

Warp/ビート

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 この10年、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー (OPN)がぼくたちの耳と、そんでときには頭を楽しませてくれたことは事実である。なんの異論もない。ele-kingのweb版がはじまった2010年から毎年のようにOPN絡みの作品があーだこーだと紹介されている。まるでストーカーだ。紙エレキングの創刊号(2010年末刊行)では、日本では初となるダニエル・ロパティンのインタヴューも掲載しているが、これはまだ『Replica』すらリリースされる前のことで、ビートインクがOPNを配給/プロモーションするようになる3年も前の話。そう、もう10年前かぁ(はぁ〜)。
 その取材においてロパティンは名前の由来についてこう答えている。「歯医者に行くとよく耳にする“ボストンのひっきりなしにソフト・ロックをかける”ラジオ局、Magic 106.7(マジック・ワン・オー・シックス・セヴン)からとったシャレ。歯を削られる音とソフト・ロックがOPNというプロジェクトのインスピレーションになった
 なるほど! 「歯を削られる音」がノイズになったのかと『Returnal』の謎が解けた気になったのは、取材者の三田格だけではなかった……。

 チャック・パーソンの『Eccojams Vol.1』のことは長いあいだ知らなかった。OPNの初期作品に垣間見れるニューエイジめいた音色や展開の由来に関してもわからないままだった。今回ロパティンは、そのあたりのことを惜しみなく喋ってくれている。ぼくの関心ごとのひとつには、彼がニューエイジについていかように考えているのかというのがあった。このインタヴューでようやくそれを知ることができて嬉しい。

 OPNが新作出るんだけど、好き? なんてことを20代前半のリスナーに訊いたりしたら、「集大成なんですよね」などと言われた。ネット界のコピペ仕様の情報伝達は本当にヤバイ。「違うよ、集大成なんかではないよ」とぼくは無防備な若者にちょっと偉そうに言ってやった。が、OPNのある一面が拡張された作品ではあるんだろうね。
 最初期の名義をアルバム・タイトルとした新作『Magic Oneohtrix Point Never』は、Covid-19によるロックダウン下においてきわめて内省的になったダニエル・ロパティンが自分はどこからやって来たのかと、つまりはOPNの起源を思い出しながら作ったアルバムだ。ここに歯医者のノイズはない。かつてあったドローンもない。アルバムは架空のラジオ番組を装っている。合間に喋りを入れながら、17の断片()によって構成されている。いかがわしいほどキラキラした音色、そしてニューエイジめいた音楽/ソフト・ロックめいた曲(じつはそのどちらでもない曲)が流れる。ようこそOPNのシュールな世界へ。
 アルバムには近年の諸作のように、他者(ゲスト)がいる。何気に豪華だ。ザ・ウィークエンド、アルカ、キャロライン・ポラチェック(元チェアリフト)、ラッパーのNolanberollin、サンフランシスコのNate Boyce。『R Plus Seven』以降の彼なりのポップ路線は守られつつ、彼なりにエンターテイメントしている。奇妙だけれど心地良い。アートワークがまた今回もかなりセンスが良い。フィジカルでは特殊印刷が施されているリッチな作りです。
 インタヴューは2回に分けて掲載します。アルバム発売は来週30日なので、この1週間は本番に向けての予習ということで。まずはインタヴューその1、〈ニューエイジ編〉のはじまりはじまり。

僕はもともと、とてもプライヴェートで閉じたタイプの人間だった。ただ、そうは言っても、「他との繫がりを感じるのは自分は好きじゃない」ということではなくて、とにかく僕からすれば、ラジオを聴くのはいつだってこう、特別な、ほとんどもうスピリチュアルな類いの、とても私的な世界との繫がり方だった。

今年の春夏にかけてコロナ禍のなかで制作されたアルバムになりますが、いま世界で起きていることをあなたなりに考えたと思います。まずはそのあたりから話しませんか。

DL:ああ、うん。

この状況に直面し、あなたは何をどう考えたのか。

DL:うん……そうだね、正直、自分が生産的になる図はあんまり想像していなかった、みたいな。というのもニューヨークで自主隔離がはじまったときは非常にきつかったからね、僕のいたエリアは状況が本当にひどかった。だからほんと……ひたすら自宅に留まり、ただただ待機し、毎日さまざまな統計を眺める以外には何もやることがなかった。で、当時の僕は友人のはじめたラジオ番組をよく聴いていてね、Elara FMっていうんだけど(訳注:サフディ兄弟の制作会社がはじめたネット・ラジオ。OPNも4月にこのラジオ向けに「Depressive Danny’s Witches Borscht Vol.1」なるミックスを発表している)。それがいつしか、とてもいい手段になっていったというかな、他との接触をもつという意味で。
 あの頃は他の人たち会うことができなかったし、何がどうなっているのか誰もわかっていなくて、とにかくみんなものすごく怖がっていた。けれどもあのラジオがよかったのは、自分の知らなかった人や誰も名前を聞いたことのないような連中の作ったさまざまなミックスを耳にすることができたことでね。それに自分の知人たちもあれ向けにミックスをやっていたし……それらを聴いてるうちに、とにかくこう、あのラジオが存在してくれることへの深い感謝の念が湧いたっていうか? だから、あれが存在していなかったら、他者とのコネクションをもつのは不可能だったわけで。で、たとえば他の手段として映画を観ようとしたこともあったけど、頭がおかしくなりそうというか、とてもじゃないけど観てられない、みたいな。登場人物がお互いにタッチする場面だとか──

(苦笑)たしかに。

DL:(笑)映画のなかでみんなが集まって楽しそうに過ごしていたり。とにかく無理、映画を観ているのが耐えられなかったし、そのせいでラジオをよく聴いていたんだ。で、そうするうちにワンオートリックス・ポイント・ネヴァーという名義の由来やこのプロジェクトの起源といったことを考えはじめるようになった。ガキだった頃の自分はラジオをエアチェックしてDJミックステープを作っていたよな、云々。昔の僕はカセット・デッキとテープで、一時停止ボタンを使ってミックスをやっていたんだよ。何か自分の気に入ったものが聞こえてきたら一時停止ボタンを解除して録音し、それが終わったら一時停止、自分の好きなものがはじまったらまた録音開始……という具合に。
 こうして話すとケッタイに聞こえるけど、当時の僕はそういう、好きなラジオ局を次々に流してサーフしていく、みたいなちょっとしたミックステープ的なものを作っていたんだ。で、そういったことは常に自分のイマジネーションの一部だったっていうのかな──
 僕はもともと、プライヴェートでは閉じたタイプの人間だった。そうは言っても、「他との繫がりを感じるのは自分は好きじゃない」ということではまったくなくて、ただ、とにかく……僕からすれば、ラジオを聴くのはいつだってこう、特別な、ほとんどもうスピリチュアルな類いのそれと言ってもいいくらい、とても私的な世界との繫がり方だった。
 で、考えたんだよね、そういったことを念頭に置いて試しに音楽を作ってみる甲斐はあるんじゃないか、自分にやれるかどうかやってみたらどうだろう? と。でも、なかなかうまく噛み合わなくて、長くかかってね。というのも僕は自宅で、ベッドの脇で(苦笑)レコーディングしていたし……それもまたワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの起源を思い出させてくれたんだけどね、「自分はずっとこういうことをやってきたんだよな」って。

なるほど。

DL:それにもうひとつ……そろそろセルフ・タイトルのレコードを作る時期かもなっていう思いもあって。そんなわけでやがて物事もクリックし出していったし、僕は戻ったんだ──だから、いったんニューヨークのロックダウン状況が少し落ち着いたところでニューヨークを抜け出して、このプロジェクト(=OPN)をスタートさせたときに僕が暮らしていた街に帰って。で、あそこでこのレコードを仕上げたっていう。だからこのレコードにはいわゆる、パーソナルな特性みたいなものが備わっているんじゃないかと思う。そうは言いつつ、それはまあコロナとの関わりという、広い意味での話だろうけれども。

ある意味「作るはずのものではなかった」作品とも言えそうですね? わたしたちが直面しているコロナ禍の特殊な状況の産物、偶然生まれた作品とでもいうか。

DL:その通り。まさにその通りだよ。自分じゃそこまでうまく言い表せないな(苦笑)! 

(苦笑)。

DL:(笑)いやマジに、君が僕のアメリカ向けの取材を受けるべきだよ。だっていまの表現の方が、僕がグダグダ説明するよりもずっと短くて簡潔だしさ。

(笑)いやいや、あなたご自身の口から聞くのが大事なんですから。

DL:フフフッ!

家から出られないという特殊な事態はともかく、新作の作り方は、いままでの作品とどこが違っていましたか? お話を聞くと、あなたはある意味今回ご自分のルーツを再び訪れたようですが、でも──

DL:そう。だから、戻ろうとはしても、やはり過去に戻るのは無理だっていう。そう、ほんとその通りだよ(苦笑)……戻ってはみたものの、そこで気づかされるんだ、やっぱり自分も昔とは違う人間になっているんだな、と。

それに、あなたご自身のスキルも昔よりあがっているでしょうし。

DL:うんうん、実際、以前よりも自分でエンジニアをやるのがうまくなったし。そこもトラック作りの際の興味深い点だったんだよな、というのも僕はとても……スタジオで他のエンジニア相手に作業する云々の状況にすごく楽に対応できるようになったというか、それにすっかり慣れてきていた。ところがそこにこのコロナのあれこれが起きたわけで、うん、基本的に今回は(テクニカルな側面の)ほとんどを自分でこなしたね。だからその意味ではかつての自分の状況に少し似ているけれども、うん、やっぱり気づくものなんだよ、あの頃からずいぶん時間も経ったし、いまの自分の興味やテイストも昔とは違うんだな、ということに。

僕はどういうわけか自分の内面を探る行為に駆り立てられたし、そうなったのは自分の外側の現実ゆえだった、だろうね。だから乖離してはいないんだ。外部で何が起きているかの反動として、そこから目を背けることになった、と。

今回は数多くのコラボレーターが参加していますし、そこもかつてのあなたとは違いますよね。

DL:ノー、ノー(笑)! それはない。あの頃はドロップボックスも存在しなかったし、いまのように誰かに携帯でメッセージを送って音楽のステムをやり取りし合うだとか、そういったことは当時まったくできなかった。うん、だから今回は、他者とのコラボレートが大いに可能だった、一緒に何かを作っていくのがエレクトロニックな面でやりやすかった、ということだね……。(苦笑)しかも、今回は誰もが手に入って参加可能だったから! それくらい、みんな何もやることがなかったっていう(笑)。

(笑)たしかに。今年本当にコラボ型のアルバムが多く出ているのも、理由のひとつはそこじゃないかと思います。

DL:みんなヒマを持て余してる。

それはそれで、生産的になれていいのかもしれません。

DL:うん。

それに、ミュージシャンの多くは大抵他とは隔たりがあるというか。バンドで活動していれば別でしょうが、ソロ・アクトの場合は自宅で作曲したり音楽を作るケースが多いでしょうし、もともと「世界から自主隔離している」タイプの人は多いと思います。

DL:フフフフッ……そうだね、音楽人はどっちにせよ隔離されてるっていう(苦笑)。

どんな音楽もその時代を反映するものですが、しかし作者がどこまでそれを意識するかは人それぞれです。無意識にやっている人もいれば、意識的な人もいる。

DL:うん。

で、今作においてあなたは「時代性」や「社会」をどのくらい意識されましたか?

DL:んー、それは誰だって常に意識しているものだと思う。っていうか、意識せずにそうしている、というか。人びとの思考というのは、自分たちが把握しているつもりでいる以上に、もっと本当は深いものだと僕は思う。だから、「あなたは時代や社会について考えていましたか?」と訊かれたら、それは自分でもわからないけれども、自分は何か感じていたか? と言えば、その答えはイエス。だって、僕たちみんな何かを感じているわけだしね。
 何もわざわざ居住まいを正して意識的に何か作ろうとしたとは思わないし……要するに、「セルフ・タイトルのレコードを作りたい」という自分の欲、それ以外にこれといって開始点はなかったよ。とにかく思いついただけだしね、「常に自分の心を動かしてきた色々なもの、それらを探ってみるタイミングだ」と。
 だから、自分の外側で起きている現実のあれこれ、それに対するリアクションみたいなものとして作ったという面はそれほどないと自分では思っている。かと言って、「そうではない」とも言い切れないし……まあ、これを説明するいちばん適当な言い方は、僕はどういうわけか自分の内面を探る行為に駆り立てられたし、そうなったのは自分の外側の現実ゆえだった、だろうね。だから乖離してはいないんだ。外部で何が起きているかの反動として、そこから目を背けることになった、と。で、それは興味深いことだよ。精神分析医に尋ねた方がいいのかもなぁ(苦笑)、「どうしてこうなるんだ?」ってさ。

(笑)。

DL:ただ、自分にはわからない。自分としては、今回のレコードがいまの時代に強く、直接的に影響されているという感覚はないし……というのも、非常に内面的なレコードだからね。とてもパーソナルな類いのレコードだと思っている。ただ、こうして自分がそれを耳にすることになったのは、やはり時代のせいである、と。

なるほど。でも今年のアメリカはこれまで、政治的に非常に緊張した状況が続いてきました。「政治」といったものをどのくらい意識されましたか? 潜在意識のレヴェルでもなんらかの影響があるのではないかと思いますが。

DL:ああうん、色んなことが耳に入ってくるのからは逃れようがない。もちろんそうだ。ほら、だからなんだよ、そのせいでいっそう後押しされるというか……自分みたいな人間にとって……だから、僕は根本的に政治的な人間だし、自分のことをポリティカルな人間として理解している。ただ、かといってそれは自分が「政治」に興味があるという意味ではない、と。
 僕は常にある意味シニカルに構えていて、政治の場面で、人びとやメディア等々の何もかもを通じて日常的に展開されていくさまざまなメッセージに対しても、とても用心深く接している。僕はいつだってとてもシニカルなんだよ、というのもあれって何らかの取り引きのような感じがするし、それ以外の別の効用を備えているんじゃないか?  と感じるから。それらはダイレクトなメッセージではなく、操作されたメッセージであって、そのメッセージを理解しようとするように自分は強要されている、そんな気がするんだ。どうしてそれが自分の目に入ってくるのかを理解しようと強要されている気がする。ということは、自分は非常に居心地の悪いポジションに置かれたってことだし──というのも、僕はいつもとてもシニカルに構えているから。で、まさしくそれなんだよね。
 僕だって多くのアメリカ人たちとなんら変わりはなくて、幻想からすっかり覚めてしまっているんだよ。政府に対しての……そして国そのものという感覚に対してすら幻滅しているし、バラバラに分断された場所のようで、もはや国という風にすら感じない。しかも、その感覚が長く続いているっていう。そこには憂慮させられるね。だから、普通の人びとが僕みたいになってしまった──というか、人びとはそうなってしまっていると僕は思っているけど──それはやばい時代だってことだよ。というのも、なんらかの形で「自分も関わっているんだ」と感じるべきだし、自分が暮らしているのはどんな場所でそこでは何が起きているのか、それらを理解しようという意欲を掻き立てられるべきだから。
 そんなわけで、自分にとってのこの過去数ヶ月間というのは、項目リストをチェックしていたというか、「自分にちゃんとわかっているのは何か」という一種の目録みたいなもの作って過ごしていたという部分もあったんだ、そうやってもうちょっと……(政治や社会と)関わろうとしたっていう。だけど、やったことがなかったからね。それをやるのをこれまでの人生でほぼ避けてきたわけじゃない、自分の周辺に存在する、シニシズムとして感知してきたあれこれのせいで? だから一夜にして突然変化するはずがないし(苦笑)、それこそ基本的に、筋肉を新たに一から鍛えていかなくちゃならない、みたいな。そういうやり方で世界と関わるように努めなければならないってことだし、実践するのはすごく難しいことだよ。

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自分としては、今回のレコードがいまの時代に強く、直接的に影響されているという感覚はないし……というのも、非常に内面的なレコードだからね。とてもパーソナルな類いのレコードだと思っている。ただ、こうして自分がそれを耳にすることになったのは、やはり時代のせいである、と。


Oneohtrix Point Never
Magic Oneohtrix Point Never

Warp/ビート

ConceptronicaHypnagogic PopAvant Pop

本作向けのバイオによれば、自己啓発/自助のマントラが含まれているそうで──

DL:(笑)ああ、うん。

ということは『Magic Oneohtrix Point Never』は、自己啓発系ニューエイジのカセットテープから作ったサウンド・コラージュを使っているのかな? と。

DL:うん、やったやった。

それはどんな思いで使ったんですか? どうして今回のミックスのなかにそうした要素を含めたいと思ったんでしょう。

DL:それは……

それはたとえば、それらの自己啓発の主張のなかには、感心するものや感化されるものがあったから? 「このテープを聴くとモチヴェーションがあがるな!」と思ったとか(笑)?

DL:ノー、ノー、それはない(笑)。だから、常々感じてきたんだよ……自分はそれ以上に、その手のカセットテープの持つ人工遺物、ジャンクとしての側面に興味を惹かれてきたな、と。というのも、あの手のテープってまず、「こういう効果があります」の能書き通りになったためしがないわけでしょ?

ハハハッ!

DL:で、それって僕からすれば、まさに完璧なるアメリカのジャンクっぽい遺物だ、みたいな。というわけで、そうした類いのテープを利用すること、それらをサンプリングするのって、自分からすればほとんどもうアメリカの質感(テクスチャー)を使うことに近いわけ。だから、こうした「このテープを聴けば、あなたはこれこれこういう風に治癒されます」という発想とか、「一種のマントラを繰り返しつぶやけば癒される」だとか──そういうのってもう、下手したらスネーク・オイル(訳注:19世紀のアメリカで流行した、薬の行商人がカーニヴァル他でヘビの油と偽って売った鉱物油ベースのいんちきな万能薬。転じてほらのこと)と変わりないよね(苦笑)?

(笑)たしかに。

DL:僕にはそれってとても滑稽に思えるし、それに……だから、(苦笑)僕のメンタル・ヘルスは良好ではなかったってこと! おかげで人びとがやる色んなこと、コースだの各種セラピーについて考えはじめてしまった。だけどその手のセラピー効果のあるものって、僕からすると常に……んー、なんというか……ある種の質感を伴うもので……(苦笑)だから、あの手のあれこれって僕にはずっとインチキくさい感じがしてきたんだ。ペテンだろ、と。

(笑)。

DL:クハハハハッ! だからそこは好きなんだと思う。ところがそれとともに、自分のしばらくやっていたのもある意味そういうことだったわけじゃない? だから、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーは、僕があの手のニューエイジのテープの数々にかなりハマっていたことからはじまった、みたいな。というのもああいうテープにはシンセサイザー音楽が山ほど使われているから。本当に大好きだったし、しばらくの間、あの手のテープに中毒したかなりのジャンキーだった。それくらい貪欲だったんだよ、自分に見つけられる限りのあらゆるシンセ音源を手に入れるぞ、みたいな。それで掘りはじめたわけだけど、しばらくして主な有名どころは片っ端から聴いてしまったところで、突然「もっと、もっと」という強烈なニーズが生じて、手遅れな中毒患者みたいなものだよ。で、遂にはハイを求めて、胡散臭い裏手の路地にたむろするドラッグの売人を探しに出るようになる、と。

(爆笑)はっはっはっはっ!

DL:(笑)いかがわしいドラッグをあさるくらいまで落ちるわけ。まさにジャンクだよ(※麻薬を意味するスラングのジャンクと、文字通りジャンク=クズのような低俗なシンセ音楽をひっかけた比喩)。ほんと、ジャンクな音楽ね。

なるほど。そうしたニューエイジ音楽の質感やサウンド、そして奇妙なアメリカ文化の一片でもある面がお好きなようですが、そこにこめられた自己改良や自助といった類いの啓発メッセージは信じていない、と。

DL:そうだね。

全部くだらないたわごと、ですか。

DL:まあ、たわごとではあるけれども、「いい」たわごとなんだよ。ってのも、自分はそれを使って何かをやれるから。それこそプラスティック素材のように、それを用いてあまりくだらなく感じないものへと作り変えていくことができる。僕にはそれを何かしらパーソナルなものにしていくことができるし、だから結局のところは──実はそれにしても、とてもセラピー効果があるんだと思う。もっとも、それ(啓発メッセージやマントラetc)そのものが効果を発しているから、ではないけどね。

ええ、もちろん。

DL:うん。だから、そうすることで僕も何かに取り組むことになるわけで……自分には変えることができるし……そうだな、とことんシニカルなことって、とにかく「こんなのしょうもないたわごとだ! テレビを観てた方がマシだ」と決めつけて、まったく相手にしないってことじゃないかな? ──そうは言いつつ、自分もそれはやってるんだけどさ(苦笑)。ただし、ただし……自分にとっては、それっていい開始地点になる何かだ、みたいな。くだらないことではあるけど、本当だと思える何かのとっかかりにもなるもの、という。

それらジャンクを、いわばあなたは改めて作り変え、リサイクルしている、と。

DL:そう。

僕は常にある意味シニカルに構えていて、政治の場面で、人びとやメディア等々の何もかもを通じて日常的に展開されていくさまざまなメッセージに対しても、とても用心深く接している。僕はいつだってとてもシニカルなんだよ。

ニューエイジとは歴史的にいえば、大雑把に言って、60年代から急速に拡大した物質社会/近代社会への反動的な宗教運動ないしそれにリンクするスピリチュアリズム〜自己啓発を指すわけですが、あなたは自分の音楽に「new age」とタグ付けされることをどう思いますか? 

DL:んー、思うにまあ……もしも僕がニューエイジと看做されるとしたら、他のれっきとしたニューエイジの作曲家たちは相当に「侮辱された」と感じるんじゃないかと。たとえばニューエイジ音楽を讃える授賞式に僕が出席し同じテーブルについていたとしたら、彼らはおそらく「お前は我々をクズだと思ってる奴じゃないか!」と非難するだろうね。
僕の音楽をそうやってニューエイジと比較するのはあまりいい方法だとは思わないけれども──ただ、イエス、さっきも話したように「文化の遺物」としてのニューエイジ音楽に自分はたしかに興味がある。それにもうひとつ、ああいうレコーディング音源のいくつかには形式の面で非常にインスピレーションを掻き立てられることがあって、そこは否定のしようがない。素直に、あれらは本当に、本当に素晴らしいよ。で、思うに、そこから自分が得る知恵というのは……音楽はとてもゆっくりしたペースのものになっていいし(苦笑)、またとても静かになってもいいものであり……かつ、音楽はいわゆる「歌」という形式から外れたところでも成り立てるものだ、と。というか、歌のフォルムをとらなくてたって聴き手を強く集中させることができるし……実際、聴き手の精神(psych)の多くを映し出す、それこそ鏡みたいなものになり得る。そうやって、聴き手が自身の精神と関わるための手段として、音楽が自らを提示しているっていう。
冗談抜きのシリアスなレヴェルでは、僕はたしかにニューエイジ音楽は興味深いフォーマットだ、本当にそう思っているんだよ。で、そのフォーマットで僕が何をしようとしているかと言えば、それはとにかく、僕自身の精神を鏡に相対させ、自らに正直になろうとすることであって……だから、僕は別に他の人びとの役に立つように、彼らが彼ら自身をそこに映し出せるために音楽を作ってはいないんだ。だからその意味で、僕は相当に、もっとずっと利己的だってこと。自分自身だけを反映する、そういうものとして僕は音楽を作っている。だからだと思うよ、(苦笑)たくさんの人間が「どうして?」って頭をかきむしるのは。で、僕としては、「あなたが僕の音楽を通じて僕の精神のなかに入っていきたくなければ、当然ですよね、仕方ありません」としか(笑)。

ある意味、そこはどう誤解されようがかまわないというか、あなたの音楽を「新手のニューエイジ」と誤解し誤解釈する人がいても、それはそれであなたはその誤解を楽しんでいる、みたいな?

DL:まあ、そんなとこかな、それでもオーケイ。うん、自分はそれでもかまわない。だから、僕は何もそうやって誰かを混乱させようとしているわけじゃないんだよ。ただ、たとえば「リラックスするための音楽」としてニューエイジを聴こうとするだとか……っていうか、僕の音楽を聴いてもあんまり聴き手のためにならない、リラクゼーションにならないと思うんだけど(苦笑)。

(苦笑)あんまりその効果はないですよね。

DL:……僕はいつだってこう、リラックスした状態を転覆し揺さぶろうとする傾向があるから。それは僕が自分の精神状態に正直であろうとしているからだし、それだけのことであって。だからその意味でニューエイジ音楽ではないんだよ、ああした実際的な効用はない音楽だしね。ただ、ニューエイジ音楽にとても強く影響されてはいる、と。というのも、僕は自分自身を見つめるために、ニューエイジ音楽の慣用句のいくつかを使っているから。またそれらを用いて、音楽を見つめてもいるんだ。そしてノイズやヴァイオレンスをはじめとする音楽を構成しているもろもろ、それらを見つめてもいる。

後半戦(その2)に続く。(予告:ヴェイパーウェイヴについての彼の考えを喋りまくってます

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーは、僕がニューエイジのテープにかなりハマっていたことからはじまった。ああいうテープにはシンセサイザー音楽が山ほど使われているから。しばらくの間、あの手のテープに中毒したかなりのジャンキーだった。それくらい貪欲だったんだよ、自分に見つけられる限りのあらゆるシンセ音源を手に入れるぞ、みたいな。


Oneohtrix Point Never
Magic Oneohtrix Point Never

Warp/ビート

ConceptronicaHypnagogic PopAvant Pop

 この10年、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー (OPN)がぼくたちの耳と、そんでときには頭を楽しませてくれたことは事実である。なんの異論もない。ele-kingのweb版がはじまった2010年から毎年のようにOPN絡みの作品があーだこーだと紹介されている。まるでストーカーだ。紙エレキングの創刊号(2010年末刊行)では、日本では初となるダニエル・ロパティンのインタヴューも掲載しているが、これはまだ『Replica』すらリリースされる前のことで、ビートインクがOPNを配給/プロモーションするようになる3年も前の話。そう、もう10年前かぁ(はぁ〜)。
 その取材においてロパティンは名前の由来についてこう答えている。「歯医者に行くとよく耳にする“ボストンのひっきりなしにソフト・ロックをかける”ラジオ局、Magic 106.7(マジック・ワン・オー・シックス・セヴン)からとったシャレ。歯を削られる音とソフト・ロックがOPNというプロジェクトのインスピレーションになった
 なるほど! 「歯を削られる音」がノイズになったのかと『Returnal』の謎が解けた気になったのは、取材者の三田格だけではなかった……。

 チャック・パーソンの『Eccojams Vol.1』のことは長いあいだ知らなかった。OPNの初期作品に垣間見れるニューエイジめいた音色や展開の由来に関してもわからないままだった。今回ロパティンは、そのあたりのことを惜しみなく喋ってくれている。ぼくの関心ごとのひとつには、彼がニューエイジについていかように考えているのかというのがあった。このインタヴューでようやくそれを知ることができて嬉しい。

 OPNが新作出るんだけど、好き? なんてことを20代前半のリスナーに訊いたりしたら、「集大成なんですよね」などと言われた。ネット界のコピペ仕様の情報伝達は本当にヤバイ。「違うよ、集大成なんかではないよ」とぼくは無防備な若者にちょっと偉そうに言ってやった。が、OPNのある一面が拡張された作品ではあるんだろうね。
 最初期の名義をアルバム・タイトルとした新作『Magic Oneohtrix Point Never』は、Covid-19によるロックダウン下においてきわめて内省的になったダニエル・ロパティンが自分はどこからやって来たのかと、つまりはOPNの起源を思い出しながら作ったアルバムだ。ここに歯医者のノイズはない。かつてあったドローンもない。アルバムは架空のラジオ番組を装っている。合間に喋りを入れながら、17の断片()によって構成されている。いかがわしいほどキラキラした音色、そしてニューエイジめいた音楽/ソフト・ロックめいた曲(じつはそのどちらでもない曲)が流れる。ようこそOPNのシュールな世界へ。
 アルバムには近年の諸作のように、他者(ゲスト)がいる。何気に豪華だ。ザ・ウィークエンド、アルカ、キャロライン・ポラチェック(元チェアリフト)、ラッパーのNolanberollin、サンフランシスコのNate Boyce。『R Plus Seven』以降の彼なりのポップ路線は守られつつ、彼なりにエンターテイメントしている。奇妙だけれど心地良い。アートワークがまた今回もかなりセンスが良い。フィジカルでは特殊印刷が施されているリッチな作りです。
 インタヴューは2回に分けて掲載します。アルバム発売は来週30日なので、この1週間は本番に向けての予習ということで。まずはインタヴューその1、〈ニューエイジ編〉のはじまりはじまり。

僕はもともと、とてもプライヴェートで閉じたタイプの人間だった。ただ、そうは言っても、「他との繫がりを感じるのは自分は好きじゃない」ということではなくて、とにかく僕からすれば、ラジオを聴くのはいつだってこう、特別な、ほとんどもうスピリチュアルな類いの、とても私的な世界との繫がり方だった。

今年の春夏にかけてコロナ禍のなかで制作されたアルバムになりますが、いま世界で起きていることをあなたなりに考えたと思います。まずはそのあたりから話しませんか。

DL:ああ、うん。

この状況に直面し、あなたは何をどう考えたのか。

DL:うん……そうだね、正直、自分が生産的になる図はあんまり想像していなかった、みたいな。というのもニューヨークで自主隔離がはじまったときは非常にきつかったからね、僕のいたエリアは状況が本当にひどかった。だからほんと……ひたすら自宅に留まり、ただただ待機し、毎日さまざまな統計を眺める以外には何もやることがなかった。で、当時の僕は友人のはじめたラジオ番組をよく聴いていてね、Elara FMっていうんだけど(訳注:サフディ兄弟の制作会社がはじめたネット・ラジオ。OPNも4月にこのラジオ向けに「Depressive Danny’s Witches Borscht Vol.1」なるミックスを発表している)。それがいつしか、とてもいい手段になっていったというかな、他との接触をもつという意味で。
 あの頃は他の人たち会うことができなかったし、何がどうなっているのか誰もわかっていなくて、とにかくみんなものすごく怖がっていた。けれどもあのラジオがよかったのは、自分の知らなかった人や誰も名前を聞いたことのないような連中の作ったさまざまなミックスを耳にすることができたことでね。それに自分の知人たちもあれ向けにミックスをやっていたし……それらを聴いてるうちに、とにかくこう、あのラジオが存在してくれることへの深い感謝の念が湧いたっていうか? だから、あれが存在していなかったら、他者とのコネクションをもつのは不可能だったわけで。で、たとえば他の手段として映画を観ようとしたこともあったけど、頭がおかしくなりそうというか、とてもじゃないけど観てられない、みたいな。登場人物がお互いにタッチする場面だとか──

(苦笑)たしかに。

DL:(笑)映画のなかでみんなが集まって楽しそうに過ごしていたり。とにかく無理、映画を観ているのが耐えられなかったし、そのせいでラジオをよく聴いていたんだ。で、そうするうちにワンオートリックス・ポイント・ネヴァーという名義の由来やこのプロジェクトの起源といったことを考えはじめるようになった。ガキだった頃の自分はラジオをエアチェックしてDJミックステープを作っていたよな、云々。昔の僕はカセット・デッキとテープで、一時停止ボタンを使ってミックスをやっていたんだよ。何か自分の気に入ったものが聞こえてきたら一時停止ボタンを解除して録音し、それが終わったら一時停止、自分の好きなものがはじまったらまた録音開始……という具合に。
 こうして話すとケッタイに聞こえるけど、当時の僕はそういう、好きなラジオ局を次々に流してサーフしていく、みたいなちょっとしたミックステープ的なものを作っていたんだ。で、そういったことは常に自分のイマジネーションの一部だったっていうのかな──
 僕はもともと、プライヴェートでは閉じたタイプの人間だった。そうは言っても、「他との繫がりを感じるのは自分は好きじゃない」ということではまったくなくて、ただ、とにかく……僕からすれば、ラジオを聴くのはいつだってこう、特別な、ほとんどもうスピリチュアルな類いのそれと言ってもいいくらい、とても私的な世界との繫がり方だった。
 で、考えたんだよね、そういったことを念頭に置いて試しに音楽を作ってみる甲斐はあるんじゃないか、自分にやれるかどうかやってみたらどうだろう? と。でも、なかなかうまく噛み合わなくて、長くかかってね。というのも僕は自宅で、ベッドの脇で(苦笑)レコーディングしていたし……それもまたワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの起源を思い出させてくれたんだけどね、「自分はずっとこういうことをやってきたんだよな」って。

なるほど。

DL:それにもうひとつ……そろそろセルフ・タイトルのレコードを作る時期かもなっていう思いもあって。そんなわけでやがて物事もクリックし出していったし、僕は戻ったんだ──だから、いったんニューヨークのロックダウン状況が少し落ち着いたところでニューヨークを抜け出して、このプロジェクト(=OPN)をスタートさせたときに僕が暮らしていた街に帰って。で、あそこでこのレコードを仕上げたっていう。だからこのレコードにはいわゆる、パーソナルな特性みたいなものが備わっているんじゃないかと思う。そうは言いつつ、それはまあコロナとの関わりという、広い意味での話だろうけれども。

ある意味「作るはずのものではなかった」作品とも言えそうですね? わたしたちが直面しているコロナ禍の特殊な状況の産物、偶然生まれた作品とでもいうか。

DL:その通り。まさにその通りだよ。自分じゃそこまでうまく言い表せないな(苦笑)! 

(苦笑)。

DL:(笑)いやマジに、君が僕のアメリカ向けの取材を受けるべきだよ。だっていまの表現の方が、僕がグダグダ説明するよりもずっと短くて簡潔だしさ。

(笑)いやいや、あなたご自身の口から聞くのが大事なんですから。

DL:フフフッ!

家から出られないという特殊な事態はともかく、新作の作り方は、いままでの作品とどこが違っていましたか? お話を聞くと、あなたはある意味今回ご自分のルーツを再び訪れたようですが、でも──

DL:そう。だから、戻ろうとはしても、やはり過去に戻るのは無理だっていう。そう、ほんとその通りだよ(苦笑)……戻ってはみたものの、そこで気づかされるんだ、やっぱり自分も昔とは違う人間になっているんだな、と。

それに、あなたご自身のスキルも昔よりあがっているでしょうし。

DL:うんうん、実際、以前よりも自分でエンジニアをやるのがうまくなったし。そこもトラック作りの際の興味深い点だったんだよな、というのも僕はとても……スタジオで他のエンジニア相手に作業する云々の状況にすごく楽に対応できるようになったというか、それにすっかり慣れてきていた。ところがそこにこのコロナのあれこれが起きたわけで、うん、基本的に今回は(テクニカルな側面の)ほとんどを自分でこなしたね。だからその意味ではかつての自分の状況に少し似ているけれども、うん、やっぱり気づくものなんだよ、あの頃からずいぶん時間も経ったし、いまの自分の興味やテイストも昔とは違うんだな、ということに。

僕はどういうわけか自分の内面を探る行為に駆り立てられたし、そうなったのは自分の外側の現実ゆえだった、だろうね。だから乖離してはいないんだ。外部で何が起きているかの反動として、そこから目を背けることになった、と。

今回は数多くのコラボレーターが参加していますし、そこもかつてのあなたとは違いますよね。

DL:ノー、ノー(笑)! それはない。あの頃はドロップボックスも存在しなかったし、いまのように誰かに携帯でメッセージを送って音楽のステムをやり取りし合うだとか、そういったことは当時まったくできなかった。うん、だから今回は、他者とのコラボレートが大いに可能だった、一緒に何かを作っていくのがエレクトロニックな面でやりやすかった、ということだね……。(苦笑)しかも、今回は誰もが手に入って参加可能だったから! それくらい、みんな何もやることがなかったっていう(笑)。

(笑)たしかに。今年本当にコラボ型のアルバムが多く出ているのも、理由のひとつはそこじゃないかと思います。

DL:みんなヒマを持て余してる。

それはそれで、生産的になれていいのかもしれません。

DL:うん。

それに、ミュージシャンの多くは大抵他とは隔たりがあるというか。バンドで活動していれば別でしょうが、ソロ・アクトの場合は自宅で作曲したり音楽を作るケースが多いでしょうし、もともと「世界から自主隔離している」タイプの人は多いと思います。

DL:フフフフッ……そうだね、音楽人はどっちにせよ隔離されてるっていう(苦笑)。

どんな音楽もその時代を反映するものですが、しかし作者がどこまでそれを意識するかは人それぞれです。無意識にやっている人もいれば、意識的な人もいる。

DL:うん。

で、今作においてあなたは「時代性」や「社会」をどのくらい意識されましたか?

DL:んー、それは誰だって常に意識しているものだと思う。っていうか、意識せずにそうしている、というか。人びとの思考というのは、自分たちが把握しているつもりでいる以上に、もっと本当は深いものだと僕は思う。だから、「あなたは時代や社会について考えていましたか?」と訊かれたら、それは自分でもわからないけれども、自分は何か感じていたか? と言えば、その答えはイエス。だって、僕たちみんな何かを感じているわけだしね。
 何もわざわざ居住まいを正して意識的に何か作ろうとしたとは思わないし……要するに、「セルフ・タイトルのレコードを作りたい」という自分の欲、それ以外にこれといって開始点はなかったよ。とにかく思いついただけだしね、「常に自分の心を動かしてきた色々なもの、それらを探ってみるタイミングだ」と。
 だから、自分の外側で起きている現実のあれこれ、それに対するリアクションみたいなものとして作ったという面はそれほどないと自分では思っている。かと言って、「そうではない」とも言い切れないし……まあ、これを説明するいちばん適当な言い方は、僕はどういうわけか自分の内面を探る行為に駆り立てられたし、そうなったのは自分の外側の現実ゆえだった、だろうね。だから乖離してはいないんだ。外部で何が起きているかの反動として、そこから目を背けることになった、と。で、それは興味深いことだよ。精神分析医に尋ねた方がいいのかもなぁ(苦笑)、「どうしてこうなるんだ?」ってさ。

(笑)。

DL:ただ、自分にはわからない。自分としては、今回のレコードがいまの時代に強く、直接的に影響されているという感覚はないし……というのも、非常に内面的なレコードだからね。とてもパーソナルな類いのレコードだと思っている。ただ、こうして自分がそれを耳にすることになったのは、やはり時代のせいである、と。

なるほど。でも今年のアメリカはこれまで、政治的に非常に緊張した状況が続いてきました。「政治」といったものをどのくらい意識されましたか? 潜在意識のレヴェルでもなんらかの影響があるのではないかと思いますが。

DL:ああうん、色んなことが耳に入ってくるのからは逃れようがない。もちろんそうだ。ほら、だからなんだよ、そのせいでいっそう後押しされるというか……自分みたいな人間にとって……だから、僕は根本的に政治的な人間だし、自分のことをポリティカルな人間として理解している。ただ、かといってそれは自分が「政治」に興味があるという意味ではない、と。
 僕は常にある意味シニカルに構えていて、政治の場面で、人びとやメディア等々の何もかもを通じて日常的に展開されていくさまざまなメッセージに対しても、とても用心深く接している。僕はいつだってとてもシニカルなんだよ、というのもあれって何らかの取り引きのような感じがするし、それ以外の別の効用を備えているんじゃないか?  と感じるから。それらはダイレクトなメッセージではなく、操作されたメッセージであって、そのメッセージを理解しようとするように自分は強要されている、そんな気がするんだ。どうしてそれが自分の目に入ってくるのかを理解しようと強要されている気がする。ということは、自分は非常に居心地の悪いポジションに置かれたってことだし──というのも、僕はいつもとてもシニカルに構えているから。で、まさしくそれなんだよね。
 僕だって多くのアメリカ人たちとなんら変わりはなくて、幻想からすっかり覚めてしまっているんだよ。政府に対しての……そして国そのものという感覚に対してすら幻滅しているし、バラバラに分断された場所のようで、もはや国という風にすら感じない。しかも、その感覚が長く続いているっていう。そこには憂慮させられるね。だから、普通の人びとが僕みたいになってしまった──というか、人びとはそうなってしまっていると僕は思っているけど──それはやばい時代だってことだよ。というのも、なんらかの形で「自分も関わっているんだ」と感じるべきだし、自分が暮らしているのはどんな場所でそこでは何が起きているのか、それらを理解しようという意欲を掻き立てられるべきだから。
 そんなわけで、自分にとってのこの過去数ヶ月間というのは、項目リストをチェックしていたというか、「自分にちゃんとわかっているのは何か」という一種の目録みたいなもの作って過ごしていたという部分もあったんだ、そうやってもうちょっと……(政治や社会と)関わろうとしたっていう。だけど、やったことがなかったからね。それをやるのをこれまでの人生でほぼ避けてきたわけじゃない、自分の周辺に存在する、シニシズムとして感知してきたあれこれのせいで? だから一夜にして突然変化するはずがないし(苦笑)、それこそ基本的に、筋肉を新たに一から鍛えていかなくちゃならない、みたいな。そういうやり方で世界と関わるように努めなければならないってことだし、実践するのはすごく難しいことだよ。

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自分としては、今回のレコードがいまの時代に強く、直接的に影響されているという感覚はないし……というのも、非常に内面的なレコードだからね。とてもパーソナルな類いのレコードだと思っている。ただ、こうして自分がそれを耳にすることになったのは、やはり時代のせいである、と。


Oneohtrix Point Never
Magic Oneohtrix Point Never

Warp/ビート

ConceptronicaHypnagogic PopAvant Pop

本作向けのバイオによれば、自己啓発/自助のマントラが含まれているそうで──

DL:(笑)ああ、うん。

ということは『Magic Oneohtrix Point Never』は、自己啓発系ニューエイジのカセットテープから作ったサウンド・コラージュを使っているのかな? と。

DL:うん、やったやった。

それはどんな思いで使ったんですか? どうして今回のミックスのなかにそうした要素を含めたいと思ったんでしょう。

DL:それは……

それはたとえば、それらの自己啓発の主張のなかには、感心するものや感化されるものがあったから? 「このテープを聴くとモチヴェーションがあがるな!」と思ったとか(笑)?

DL:ノー、ノー、それはない(笑)。だから、常々感じてきたんだよ……自分はそれ以上に、その手のカセットテープの持つ人工遺物、ジャンクとしての側面に興味を惹かれてきたな、と。というのも、あの手のテープってまず、「こういう効果があります」の能書き通りになったためしがないわけでしょ?

ハハハッ!

DL:で、それって僕からすれば、まさに完璧なるアメリカのジャンクっぽい遺物だ、みたいな。というわけで、そうした類いのテープを利用すること、それらをサンプリングするのって、自分からすればほとんどもうアメリカの質感(テクスチャー)を使うことに近いわけ。だから、こうした「このテープを聴けば、あなたはこれこれこういう風に治癒されます」という発想とか、「一種のマントラを繰り返しつぶやけば癒される」だとか──そういうのってもう、下手したらスネーク・オイル(訳注:19世紀のアメリカで流行した、薬の行商人がカーニヴァル他でヘビの油と偽って売った鉱物油ベースのいんちきな万能薬。転じてほらのこと)と変わりないよね(苦笑)?

(笑)たしかに。

DL:僕にはそれってとても滑稽に思えるし、それに……だから、(苦笑)僕のメンタル・ヘルスは良好ではなかったってこと! おかげで人びとがやる色んなこと、コースだの各種セラピーについて考えはじめてしまった。だけどその手のセラピー効果のあるものって、僕からすると常に……んー、なんというか……ある種の質感を伴うもので……(苦笑)だから、あの手のあれこれって僕にはずっとインチキくさい感じがしてきたんだ。ペテンだろ、と。

(笑)。

DL:クハハハハッ! だからそこは好きなんだと思う。ところがそれとともに、自分のしばらくやっていたのもある意味そういうことだったわけじゃない? だから、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーは、僕があの手のニューエイジのテープの数々にかなりハマっていたことからはじまった、みたいな。というのもああいうテープにはシンセサイザー音楽が山ほど使われているから。本当に大好きだったし、しばらくの間、あの手のテープに中毒したかなりのジャンキーだった。それくらい貪欲だったんだよ、自分に見つけられる限りのあらゆるシンセ音源を手に入れるぞ、みたいな。それで掘りはじめたわけだけど、しばらくして主な有名どころは片っ端から聴いてしまったところで、突然「もっと、もっと」という強烈なニーズが生じて、手遅れな中毒患者みたいなものだよ。で、遂にはハイを求めて、胡散臭い裏手の路地にたむろするドラッグの売人を探しに出るようになる、と。

(爆笑)はっはっはっはっ!

DL:(笑)いかがわしいドラッグをあさるくらいまで落ちるわけ。まさにジャンクだよ(※麻薬を意味するスラングのジャンクと、文字通りジャンク=クズのような低俗なシンセ音楽をひっかけた比喩)。ほんと、ジャンクな音楽ね。

なるほど。そうしたニューエイジ音楽の質感やサウンド、そして奇妙なアメリカ文化の一片でもある面がお好きなようですが、そこにこめられた自己改良や自助といった類いの啓発メッセージは信じていない、と。

DL:そうだね。

全部くだらないたわごと、ですか。

DL:まあ、たわごとではあるけれども、「いい」たわごとなんだよ。ってのも、自分はそれを使って何かをやれるから。それこそプラスティック素材のように、それを用いてあまりくだらなく感じないものへと作り変えていくことができる。僕にはそれを何かしらパーソナルなものにしていくことができるし、だから結局のところは──実はそれにしても、とてもセラピー効果があるんだと思う。もっとも、それ(啓発メッセージやマントラetc)そのものが効果を発しているから、ではないけどね。

ええ、もちろん。

DL:うん。だから、そうすることで僕も何かに取り組むことになるわけで……自分には変えることができるし……そうだな、とことんシニカルなことって、とにかく「こんなのしょうもないたわごとだ! テレビを観てた方がマシだ」と決めつけて、まったく相手にしないってことじゃないかな? ──そうは言いつつ、自分もそれはやってるんだけどさ(苦笑)。ただし、ただし……自分にとっては、それっていい開始地点になる何かだ、みたいな。くだらないことではあるけど、本当だと思える何かのとっかかりにもなるもの、という。

それらジャンクを、いわばあなたは改めて作り変え、リサイクルしている、と。

DL:そう。

僕は常にある意味シニカルに構えていて、政治の場面で、人びとやメディア等々の何もかもを通じて日常的に展開されていくさまざまなメッセージに対しても、とても用心深く接している。僕はいつだってとてもシニカルなんだよ。

ニューエイジとは歴史的にいえば、大雑把に言って、60年代から急速に拡大した物質社会/近代社会への反動的な宗教運動ないしそれにリンクするスピリチュアリズム〜自己啓発を指すわけですが、あなたは自分の音楽に「new age」とタグ付けされることをどう思いますか? 

DL:んー、思うにまあ……もしも僕がニューエイジと看做されるとしたら、他のれっきとしたニューエイジの作曲家たちは相当に「侮辱された」と感じるんじゃないかと。たとえばニューエイジ音楽を讃える授賞式に僕が出席し同じテーブルについていたとしたら、彼らはおそらく「お前は我々をクズだと思ってる奴じゃないか!」と非難するだろうね。
僕の音楽をそうやってニューエイジと比較するのはあまりいい方法だとは思わないけれども──ただ、イエス、さっきも話したように「文化の遺物」としてのニューエイジ音楽に自分はたしかに興味がある。それにもうひとつ、ああいうレコーディング音源のいくつかには形式の面で非常にインスピレーションを掻き立てられることがあって、そこは否定のしようがない。素直に、あれらは本当に、本当に素晴らしいよ。で、思うに、そこから自分が得る知恵というのは……音楽はとてもゆっくりしたペースのものになっていいし(苦笑)、またとても静かになってもいいものであり……かつ、音楽はいわゆる「歌」という形式から外れたところでも成り立てるものだ、と。というか、歌のフォルムをとらなくてたって聴き手を強く集中させることができるし……実際、聴き手の精神(psych)の多くを映し出す、それこそ鏡みたいなものになり得る。そうやって、聴き手が自身の精神と関わるための手段として、音楽が自らを提示しているっていう。
冗談抜きのシリアスなレヴェルでは、僕はたしかにニューエイジ音楽は興味深いフォーマットだ、本当にそう思っているんだよ。で、そのフォーマットで僕が何をしようとしているかと言えば、それはとにかく、僕自身の精神を鏡に相対させ、自らに正直になろうとすることであって……だから、僕は別に他の人びとの役に立つように、彼らが彼ら自身をそこに映し出せるために音楽を作ってはいないんだ。だからその意味で、僕は相当に、もっとずっと利己的だってこと。自分自身だけを反映する、そういうものとして僕は音楽を作っている。だからだと思うよ、(苦笑)たくさんの人間が「どうして?」って頭をかきむしるのは。で、僕としては、「あなたが僕の音楽を通じて僕の精神のなかに入っていきたくなければ、当然ですよね、仕方ありません」としか(笑)。

ある意味、そこはどう誤解されようがかまわないというか、あなたの音楽を「新手のニューエイジ」と誤解し誤解釈する人がいても、それはそれであなたはその誤解を楽しんでいる、みたいな?

DL:まあ、そんなとこかな、それでもオーケイ。うん、自分はそれでもかまわない。だから、僕は何もそうやって誰かを混乱させようとしているわけじゃないんだよ。ただ、たとえば「リラックスするための音楽」としてニューエイジを聴こうとするだとか……っていうか、僕の音楽を聴いてもあんまり聴き手のためにならない、リラクゼーションにならないと思うんだけど(苦笑)。

(苦笑)あんまりその効果はないですよね。

DL:……僕はいつだってこう、リラックスした状態を転覆し揺さぶろうとする傾向があるから。それは僕が自分の精神状態に正直であろうとしているからだし、それだけのことであって。だからその意味でニューエイジ音楽ではないんだよ、ああした実際的な効用はない音楽だしね。ただ、ニューエイジ音楽にとても強く影響されてはいる、と。というのも、僕は自分自身を見つめるために、ニューエイジ音楽の慣用句のいくつかを使っているから。またそれらを用いて、音楽を見つめてもいるんだ。そしてノイズやヴァイオレンスをはじめとする音楽を構成しているもろもろ、それらを見つめてもいる。

後半戦(その2)に続く。(予告:ヴェイパーウェイヴについての彼の考えを喋りまくってます

Oneohtrix Point Never - ele-king

 波紋を呼んだ前作『Age Of』から早2年。多作かつコラボ大王のダニエル・ロパティンはこの間もサントラの制作やザ・ウィークエンド、モーゼズ・サムニーの作品への参加など、絶え間なく音楽活動にいそしんできたわけだけど、ついに本体=ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーとしてのニュー・アルバムを10月30日にリリースする。
 なんでも、今回はこれまでのOPNを集大成したような内容になっているとのことで、期待も高まります。現在、アルバムから3トラックを収録した先行シングル「Drive Time Suite」が配信中、試聴はこちらから。

[10月14日追記]
 くだんの先行公開曲3トラックのうち、“Long Road Home” のMVが本日公開されている。監督はチャーリー・フォックスとエミリー・シューベルトで、エロティックかつなんとも不思議なアニメ映像に。OPN の原点の回想であると同時に最新型でもあるという新作への期待も高まります。

ONEOHTRIX POINT NEVER
集大成となる最新アルバム『MAGIC ONEOHTRIX POINT NEVER』から
先行シングル “LONG ROAD HOME” のミュージックビデオが公開!
過去作品のオマージュにも要注目!
アルバム発売は10月30日! Tシャツ付セットの数量限定発売も決定!

ライヒ、イーノ、エイフェックス・ツインからバトンを受け継ぐ存在としてシーンに登場し、今や現代を代表する音楽プロデューサーの一人となったワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(以下OPN)が、そのキャリアの集大成として完成させた最新作『Magic Oneohtrix Point Never』から、先行シングル “Long Road Home” のミュージックビデオを公開した。

Oneohtrix Point Never - Long Road Home (MV)
https://www.youtube.com/watch?v=w5azY0dH67U

アルバム発表と同時に、シングル・パッケージ「Drive Time Suite」として3曲を一挙に解禁した OPN ことダニエル・ロパティン。自身の作品だけでなく、映画音楽や、ザ・ウィークエンドの大ヒット作『After Hours』のプロデュースを経て、ポップと革新性を極めたサウンドに早くも賞賛の声が集まったが、今回ミュージックビデオが公開された “Long Road Home” は、その3曲の解禁曲の一つとなっており、メイン・ヴォーカルをロパティン本人が務め、元チェアリフトのキャロライン・ポラチェックが参加している。チャーリー・フォックスとエミリー・シューベルトの二人が監督した本ビデオは、異世界の不気味な二つの生物が、ロマンティックに絡み合う様子が描かれたストップモーション・アニメーションとなっており、人間の感情とエロティックなダークユーモアの間で展開する求愛の乱舞が、ファンタジーと現実の境を破壊していくストーリーとなっている。『R Plus Seven』のアートワークにも登場する、ジョルジュ・シュヴィツゲベルが1982年に発表した短編作品「フランケンシュタインの恍惚」へのオマージュとなっている点も楽しめる映像となっている。

これは愛と変質についてのロマンチックな寓話で、夏の間にダン(OPN)と交わした荒唐無稽で哲学的な会話から生まれたものです。グロテスクな、あるいは悪魔のような生き物を、求愛の儀式を通して、奇妙で愛らしく、また切なさを纏ったキャラクターに見せたいと思いました。親密さが切望され、同時に恐れられているこの時期に、突然変異体のような奇妙な歌声が響くこの曲に、完璧にマッチした映像だと感じました。心の底から素晴らしいと思ったし、それが滲み出てると思います。 ──co-directors Charlie Fox and Emily Schubert

これまでの OPN の音楽的要素を自在に行き来しながら、架空のラジオ局というコンセプトのもとそれらすべてが奇妙なほど見事に統合された本作『Magic Oneohtrix Point Never』は、OPN の原点の振り返りであり、集大成であり、同時に最新型である。

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー最新アルバム『Magic Oneohtrix Point Never』は、10月30日(金)世界同時リリース。国内盤CDにはボーナストラック “Ambien1” が追加収録され、解説書が封入される。また数量限定でTシャツ付セットの発売も決定。アナログ盤は、通常のブラック・ヴァイナルに加え、限定フォーマットとしてクリア・イエロー・ヴァイナルと、BIG LOVE 限定のクリア・ヴァイナルも発売される。Beatink.com 限定のクリア・オレンジ・ヴァイナルとカセットテープはすでに完売となっている。

また、本日10/14より〈WARP〉からリリースされたワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの過去作品を対象としたポイント還元キャンペーンが BEATINK.COM でスタート! 会員登録をして対象タイトルを購入すると、次回の買い物時に使用することができるポイントが10%付いてくる。併せて、iTunes でも対象タイトルが全て¥1,222で購入できる期間限定プライスオフ・キャンペーンが本日よりスタート!

Daniel Lopatin - ele-king

 ダニエル・ロパティンが劇伴を手がけた映画『アンカット・ダイヤモンド』(原題:『Uncut Gems』)が Netflix にて1月31日より配信開始となる。その布石として、サウンドトラック制作の背景を追ったドキュメンタリーが YouYube にて公開中だ。日本語の字幕付きで視聴できるのはありがたい。予想以上に良い内容のサントラだっただけに、どんなふうに制作が進められていったのか、気になるところです。下記、新たにコメントも到着。いわく、「すべてが美しい叙事詩のよう」。ロパティン本人のインタヴューはこちらから。

アダム・サンドラー主演/サフディ兄弟監督/A24 配給
『UNCUT GEMS』(邦題『アンカット・ダイヤモンド』)
Netflix にて1月31日より独占配信開始!
OPNことダニエル・ロパティンが手がけたサウンドトラックの制作ドキュメンタリーが日本語字幕付きで公開!

サフディ兄弟による本作は、そのストーリーと音楽によって、ニューヨークの喧騒を見事に描き出し、時には映像さえ必要ないのではないかとすら思わせる。 ──The New York Times

サフディ兄弟監督/アダム・サンドラー主演/A24配給の映画『Uncut Gems』(邦題『アンカット・ダイヤモンド』 Netflix にて1/31より独占配信開始)。世界に先駆け公開となったアメリカでは興行収入が A24 史上最高記録を塗り替え、NY映画批評家協会賞とサンディエゴ映画批評家協会賞では監督賞受賞、キャリア史上最高レベルの素晴らしい演技と評判の主演アダム・サンドラーは、ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞で『JOKER』のホアキン・フェニックスを抑え主演男優賞を受賞するなど、配信開始前からここ日本でも映画ファンを沸かせている本作。

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(OPN)ことダニエル・ロパティンが手がけた本作のサウンドトラックの制作背景を追ったドキュメンタリー映像が公開! 日本語字幕付きでの視聴が可能となっている(YouTube 上の設定ボタンより「字幕⇨日本語」で設定)。

ニューヨーク宝石市場を舞台とした一風変わったクライム・サスペンス作品を彩るダニエルが手がけた音楽は、緊迫した物語と絡みながら、ヴァンゲリスやタンジェリン・ドリーム、そして芸能山城組をも彷彿とさせる幻想的な音色や、まるでスティーヴ・ライヒが書き下ろしたオペラのようなミニマルでパーカッシヴな声楽曲までを幅広く表現。映画のシーンに合わせどのように音を構築したのか、そしてサフディ兄弟と互いを刺激し合いながら、いかにしてこのかつてない劇伴を完成まで至らせたのか、貴重な制作の裏側が垣間見られる内容となっている。

Behind the Soundtrack: 'Uncut Gems' with Daniel Lopatin (DOCUMENTARY)
https://www.youtube.com/watch?v=pIAvmtNIx9I&feature=youtu.be

今でもこのサウンドトラックがどういうものか説明出来ない。 なぜならすべてが美しい叙事詩のようでその瞬間その瞬間に意味があるからだ。 ──Daniel Lopatin

予告編
https://youtu.be/vTfJp2Ts9X8

『アンカット・ダイヤモンド』 (原題:『Uncut Gems』)
監督:ジョシュア・サフディ&ベニー・サフディ
脚本:ジョシュア・サフディ、ベニー・サフディ、ロナルド・ブロンスタイン
製作:スコット・ルーディン、イーライ・ブッシュ、セバスチャン・ベア・マクラード
出演:アダム・サンドラー、キース・スタンフィールド、ジュリア・フォックス、ケビン・ガーネット、イディナ・メンゼル、エリック・ボゴシアン、ジャド・ハーシュ
音楽:ダニエル・ロパティン
公開:2020年1月31日 Netflix にて全世界配信開始

label: BEAT RECORDS / WARP RECORDS
artist: Daniel Lopatin
title: Uncut Gems Original Motion Picture Soundtrack
release date: 2019/12/13 FRI ON SALE

国内盤CD
BRC-625 (解説書封入) ¥2,200+税

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10630
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/B07ZR5G8DL

TRACKLISTING
01. The Ballad Of Howie Bling
02. Pure Elation
03. Followed
04. The Bet Hits
05. High Life
06. No Vacation
07. School Play
08. Fuck You Howard
09. Smoothie
10. Back To Roslyn
11. The Fountain
12. Powerade
13. Windows
14. Buzz Me Out
15. The Blade
16. Mohegan Suite
17. Uncut Gems

インタビュー掲載中!
ele-king: https://www.ele-king.net/interviews/007303/
──人間としての自分に近い作品に思えた

BEATINK 年間ベスト「BEATINK BEST OF 2019」キャンペーン実施中!
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10746

Daniel Lopatin - ele-king

 ダニエル・ロパティンが劇伴を手がけた映画『アンカット・ダイヤモンド』(原題:『Uncut Gems』)が Netflix にて1月31日より配信開始となる。その布石として、サウンドトラック制作の背景を追ったドキュメンタリーが YouYube にて公開中だ。日本語の字幕付きで視聴できるのはありがたい。予想以上に良い内容のサントラだっただけに、どんなふうに制作が進められていったのか、気になるところです。下記、新たにコメントも到着。いわく、「すべてが美しい叙事詩のよう」。ロパティン本人のインタヴューはこちらから。

アダム・サンドラー主演/サフディ兄弟監督/A24 配給
『UNCUT GEMS』(邦題『アンカット・ダイヤモンド』)
Netflix にて1月31日より独占配信開始!
OPNことダニエル・ロパティンが手がけたサウンドトラックの制作ドキュメンタリーが日本語字幕付きで公開!

サフディ兄弟による本作は、そのストーリーと音楽によって、ニューヨークの喧騒を見事に描き出し、時には映像さえ必要ないのではないかとすら思わせる。 ──The New York Times

サフディ兄弟監督/アダム・サンドラー主演/A24配給の映画『Uncut Gems』(邦題『アンカット・ダイヤモンド』 Netflix にて1/31より独占配信開始)。世界に先駆け公開となったアメリカでは興行収入が A24 史上最高記録を塗り替え、NY映画批評家協会賞とサンディエゴ映画批評家協会賞では監督賞受賞、キャリア史上最高レベルの素晴らしい演技と評判の主演アダム・サンドラーは、ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞で『JOKER』のホアキン・フェニックスを抑え主演男優賞を受賞するなど、配信開始前からここ日本でも映画ファンを沸かせている本作。

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(OPN)ことダニエル・ロパティンが手がけた本作のサウンドトラックの制作背景を追ったドキュメンタリー映像が公開! 日本語字幕付きでの視聴が可能となっている(YouTube 上の設定ボタンより「字幕⇨日本語」で設定)。

ニューヨーク宝石市場を舞台とした一風変わったクライム・サスペンス作品を彩るダニエルが手がけた音楽は、緊迫した物語と絡みながら、ヴァンゲリスやタンジェリン・ドリーム、そして芸能山城組をも彷彿とさせる幻想的な音色や、まるでスティーヴ・ライヒが書き下ろしたオペラのようなミニマルでパーカッシヴな声楽曲までを幅広く表現。映画のシーンに合わせどのように音を構築したのか、そしてサフディ兄弟と互いを刺激し合いながら、いかにしてこのかつてない劇伴を完成まで至らせたのか、貴重な制作の裏側が垣間見られる内容となっている。

Behind the Soundtrack: 'Uncut Gems' with Daniel Lopatin (DOCUMENTARY)
https://www.youtube.com/watch?v=pIAvmtNIx9I&feature=youtu.be

今でもこのサウンドトラックがどういうものか説明出来ない。 なぜならすべてが美しい叙事詩のようでその瞬間その瞬間に意味があるからだ。 ──Daniel Lopatin

予告編
https://youtu.be/vTfJp2Ts9X8

『アンカット・ダイヤモンド』 (原題:『Uncut Gems』)
監督:ジョシュア・サフディ&ベニー・サフディ
脚本:ジョシュア・サフディ、ベニー・サフディ、ロナルド・ブロンスタイン
製作:スコット・ルーディン、イーライ・ブッシュ、セバスチャン・ベア・マクラード
出演:アダム・サンドラー、キース・スタンフィールド、ジュリア・フォックス、ケビン・ガーネット、イディナ・メンゼル、エリック・ボゴシアン、ジャド・ハーシュ
音楽:ダニエル・ロパティン
公開:2020年1月31日 Netflix にて全世界配信開始

label: BEAT RECORDS / WARP RECORDS
artist: Daniel Lopatin
title: Uncut Gems Original Motion Picture Soundtrack
release date: 2019/12/13 FRI ON SALE

国内盤CD
BRC-625 (解説書封入) ¥2,200+税

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TRACKLISTING
01. The Ballad Of Howie Bling
02. Pure Elation
03. Followed
04. The Bet Hits
05. High Life
06. No Vacation
07. School Play
08. Fuck You Howard
09. Smoothie
10. Back To Roslyn
11. The Fountain
12. Powerade
13. Windows
14. Buzz Me Out
15. The Blade
16. Mohegan Suite
17. Uncut Gems

インタビュー掲載中!
ele-king: https://www.ele-king.net/interviews/007303/
──人間としての自分に近い作品に思えた

BEATINK 年間ベスト「BEATINK BEST OF 2019」キャンペーン実施中!
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interview with Daniel Lopatin - ele-king

今回のサントラは『Good Time』とはぜんぜんちがっていて、ものすごく誇りに思っている。「これが僕なんだ」という気持ちになってね。人間としての自分に近いような作品に思えたんだ。

 監督は前回同様ジョシュア&ベニー・サフディ兄弟。製作総指揮はマーティン・スコセッシ。たしかに、外部の意向が大きく関与している。映画のサウンドトラックなのだから当たり前といえば当たり前なのだけれど、ジョエル・フォードしかり、ティム・ヘッカーしかり、彼は他人とコラボするとき、基本的にはOPNの名義を用いずにやってきた。そう、幾人ものゲストを招いた昨年の『Age Of』までは。だからむしろ、サフディ兄弟と初めてタッグを組んだ『Good Time』(17)がOPN名義で発表されたことのほうがイレギュラーな事態だったのかもしれない。ソフィア・コッポラ監督作『The Bling Ring』(13)もアリエル・クレイマン監督作『Partisan』(15)もリック・アルヴァーソン監督作『The Mountain』(18)も、ダニエル・ロパティンの名でクレジットされていたのだから。
 ときどき自分が人間であることを忘れてしまう──ダニエル・ロパティンはそう語っている。今回OPN名義ではなく本名で作品を発表することになったのは、その音楽がまさに自分のものだと思えたからだという。不思議である。サウンドトラックの制作でそのように感じるのは珍しいケースなのではないか。それに、パーソナルなのはむしろ、OPN名義のほうではなかったか。つまり今回彼は、サフディ兄弟とはもちろん、ゲイトキーパーや「MYRIAD」で仲間に引き入れたイーライ・ケスラーのような他人たちと仕事をすることによって、あらためてみずからの人間らしさや自分らしさを確認しつつも、あえてコラボの解禁されたOPNではなく本名のほうで作品を発表したということで、そこには何かしら他者にたいする意識の変化が……
 とまあ、そんなふうにいろいろと深読みしてみたくなっちゃうわけだけれど、DJアールアノーニをプロデュースしたときもOPN名義だったのだから、たぶん、本人は深く考えて使いわけているわけではないのだろう。思うに、そのようなある種のユルさにこそ彼の本質みたいなものが宿っているのではないか。それに振りまわされるかたちでわたしたちはいつも、「今度はなんだ?」と気になって、独自の分析や自説を披露したくなってしまうのではないか。ようするに、彼の音楽や振る舞いは、どうにも思考誘発性が高いのである。

 今回の『Uncut Gems』でキイとなるのはおそらく、初期の彼を思わせるアナログな触感から『AKIRA』的な発想と王道のクラシカルなアレンジとスムージィなサックスの奇妙な混合へとなだれこんでいく、冒頭“The Ballad Of Howie Bling”だろう。この曲から聴きとることのできる諸要素は、声楽を活かした8曲目やサックスの映える10曲目、やはり芸能山城組を思わせる13曲目、おなじくかつての音色で思うぞんぶん感傷の湯船につかる最終曲などに、分散して登場することになる。ほかにも、これまでの彼にはなかったクラシカルな旋律を聞かせる2曲目や4曲目、ブリーピィかつミニマルな7曲目、ライヒ的な9曲目など、今回のサントラもいろいろと分析したくなる魅力にあふれている。
 そのような誘発性をこそ最大の武器に、2010年代のエレクトロニック・ミュージックを代表する存在にまでのぼりつめたダニエル・ロパティン。去る10月末、《WXAXRXP DJS》のために来日していた彼だけれど、幸運にも取材の機会に恵まれたので、『Uncut Gems』についてのみならず、かつての作品のまだあまり語られていない部分についても質問を投げかけてみた。じっさいに対面した彼は、いわゆるアメリカ人らしい陽気なナイスガイといった印象で、そのサウンドやコンセプトから連想されるような気難しさや思弁の類はいっさい身にまとっていなかった。

音楽は苦しみから生まれたっていう考えがあるんだ。太古のむかし、ホモ・サピエンスが死に直面したときの恐怖感みたいなもの、そういう本能的なものから生まれたのが音楽なんじゃないかな、と。

いまも拠点はブルックリンですか?

ダニエル・ロパティン(Daniel Lopatin、以下DL):ああ、不幸なことにね。

それはなぜ?

DL:もう10年住んでるからそろそろ場所を変えたいかな。

先日ニューヨークのラジオ局WNYCの「New Sounds」という番組(*1982年の開始以来、積極的にエレクトロニック・ミュージックや現代音楽などを紹介してきた番組)が終わることになって、『ニューヨーク・タイムズ』紙がそのことを「NYはかつてほどクールではなくなってしまった」という方向で記事にしていたのですが(*それらの抗議の結果、番組は継続することに)、いまニューヨークのエレクトロニック・ミュージックのシーンはどうなっているのでしょう?

DL:物価が高くなって、アートやクリエイティヴィティみたいなものが薄くなってきているね。グレイなサイクルに入ってしまっている。豊かな歴史のあるところだから残念だよ。もちろん、そこから変わって新しいものが出てくる可能性はあるよ。僕自身は新しいアイデンティティの感覚がある場所に惹きつけられるね。ニューヨークはアイデンティティがもう決まりきってしまっているというか、そういうサイクルにあるのかなと思う。たとえばメキシコシティに行ったときは、すごく新鮮なものを感じた。新しいものが出てきている感じがした。だからいまは自分の拠点を変えることを考えたり、もう少しアメリカの外で何が起きているかとか、どういうところに何があるのかを考えたりするべき時期なのかもしれないな。

いまニューヨークでおもしろいことをやっていると思えるアーティストやレーベル、ヴェニューはありますか?

DL:ニューヨークでどんな新しいクールなものが出てきているか、何が起きているかという質問に答えるのに、僕はあんまり適していないと思う。よく知らないんだ。なぜかというと、僕は影響を受けることから隠れているからね。新しいものをスポンジみたいに吸収しすぎてしまうと、自分のものがわからなくなるようなことがあるから、いま何が起きているかということからは距離を置いているんだ。でも、友だちがやっていることはおもしろいと思うよ。たとえば〈RVNG〉をやっているマット・ワース(Matt Werth)。彼がキュレイトしたイヴェントやライヴはどれもおもしろいと思う。

前回のサウンドトラックはOPN名義でしたけれど、今回本名を用いたのはなぜですか?

DL:それはほんとうにたんなる思いつきだね。父と母がいて僕が生まれたということ、自分が人間であるということを忘れてしまうときがあるんだけど、そのことを少し思い出したんだ。今回のサントラは『Good Time』とはぜんぜんちがっていて、ものすごく誇りに思っている。だからこそ「これは良い作品だ」「これが僕なんだ」という気持ちになってね。人間としての自分に近いような作品に思えたんだ。まあ、思いつきなんだけどね。

人間であることを忘れるというのは、たとえば自分を「音楽機械」のようなものだと感じることがあるということでしょうか?

DL:たしかに、音楽をつくるマシーンみたいなところはあるね。でもそれはクールな機械で、自分でも気に入ってるんだ。他方でものすごく自己中心的な、自分だけの、誰も入れないような世界がある。自分がつくっているものはパーソナルな言語みたいなところがあってね。「ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー」は自分だけのコミュニケイションみたいな場所なんだ。でも今回はほかのひとたちとのコラボがあったり、監督との絆やコミュニケイションも含まれてるから、もうちょっとあたたかさがあるし、そういう意味では人間的だね。

過去にも何度かサウンドトラックを手がけていますけれど、おなじ監督と組むのは初めてですよね。サフディ兄弟の映像表現はあなたの音楽と相性が良いのでしょうか?

DL:今回は彼らの最高の作品だよ。もちろん彼らは友人だし、コラボレイションがうまくいく親密な関係性ができていると思っている。サウンドトラックをつくることには彼らも関わってくるからね。ただ、彼らと仕事をするのは2回目だけど、ほかにたくさんの監督と一緒にやったわけではないから、比べられる人がいないんだ。僕は、友情がなくても良い仕事はできると思っているから、将来的にはそうじゃない人とも仕事をしてみたい。ただ、ひとつ言えるのは、彼らみたいに友人で、かつアーティスティックな面でも共感できる人と働くのはすごく楽しいし、贅沢だということ。もし一緒に仕事をしなかったとしても、彼らの映画は好きになると思う。すごく良い映画をつくっているからね。一緒に仕事することになったきっかけは、2014年の『神様なんかくそくらえ(原題:Heaven Knows What)』なんだ。あの映画を観てすごく良いと思ったし、そのひとつ前の、レニー・クックというバスケットボール選手のドキュメンタリー(『Lenny Cooke』)も観ていたから、ぜったい良い仕事ができると思っていたんだよね。

今回もサウンドトラックに台詞が入っていますね。これはじっさいに映画のなかで使われている音声ですか?

DL:4つ入っているはずだけど、それらはとくに僕がとりつかれている台詞なんだ。僕にとって重要で、この映画のソウルを代表するような台詞を選んだ。ただ、それはちょっと変な台詞で、たとえば予告編に入れられるタイプの台詞ではないんだけど、自分にとってはすごく重要なもので。僕にとってこの映画の意味を象徴するような台詞だね。

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ヴェイパーウェイヴは祈りみたいなものだと思う。自分を表現する、その瞬間を表現できる、そこに自分を捧げるような祈り。ループしているということは、その瞬間を永遠に続けられるということ、そこで自分が永遠に生きていられるということ。

今回のサウンドトラックにも声楽が入っていますけれど、これまでサンプリングだったり聖歌的なものだったり叫びだったり、あるいはチップスピーチを導入したり自分自身で歌ってみたり、毎度アプローチは異なれど、あなたは一貫して声にたいする高い関心を抱きつづけてきたのではないかと思うのですが、いかがでしょう。

DL:声はものすごくユニークな楽器なんだ。地球上でいちばん変な、ユニークな楽器で、ある意味人間のあり方とか音楽のあり方、ことばとしての音楽のあり方のキイになるようなものだと思う。これから言うことは僕のオリジナルな理論ではないんだけれど、音楽は苦しみから生まれたっていう考えがあるんだ。たとえば傷ついたときとか、死に直面したときのうめきだったり、音楽はそういうものから生まれたんだっていう理論があってね。太古のむかし、ホモ・サピエンスが死に直面したときの恐怖感みたいなもの、そういう本能的なものから生まれたのが音楽なんじゃないかな、と。だから、声ってものすごく変だし、いわゆる人間的といわれているものとはぜんぜんちがう、エイリアンのようなものだったりもするけど、でも同時にほぼすべての人が持っているもので、それが人を進化させてきた。人間ひとりひとりが声を持っている。それは全員が生まれつき持っているものでありながら、ひとりひとり異なるものだ。こんなに多様な楽器はほかにないよ。そういう意味で声はものすごく興味深いね。

なるほど。そのような声にたいするアプローチは、9年前のチャック・パーソン名義の作品でも、スクリュードというかたちであらわれていました。『Eccojams Vol. 1』はヴェイパーウェイヴの重要作とみなされていますが、日本ではなぜかいまになってヴェイパーウェイヴが再流行しています。ユーチューブに音源をアップしていた当時は、どのような意図があったのでしょう?

DL:はじめはシンプルだったよ。そのころはデスクワークの仕事についていて、時間を無駄にしていたんだ。与えられた仕事が来るまでコンピュータの前で何時間も何もしないようなときがあったりね。ものすごく落ち込む仕事だった。それで、その時間にループをつくりはじめたんだ。自分にとってはちょっとした詩みたいなもので、ポップ・ソングのある部分を切りとって、それをものすごくスロウダウンさせて、瞬間を引き延ばして、そのなかで自分がポエティックな瞬間を泳げるような感覚をつくりだした。だから、ものすごくパーソナルなものだったんだ。つくり方も簡単で。やり方を学べば誰でもつくれるものだから、それを大勢の人たちがつくって、フォークロア的なものになればいいなと思ったんだ。みんながつくることでそれがひとつのプラクティスになるようなね。だから、いま日本でヴェイパーウェイヴが人気になっていたり、もしかしたらほかの場所でも人気なのかもしれないけど、そう聞いて僕はすごく嬉しいよ。喜びを感じるね。自分がはじめたころはオリジナルなものだったから、とくにユニークなものだとも思っていなくて、単純で、プラクティスみたいなものだと思っていた。誰でもできるものになっていくと思っていたから、じっさいにいまそうなっているのは嬉しいよ。(ヴェイパーウェイヴは)祈りみたいなものでもあると思うんだ。それはべつにポップ・ミュージックの神さまにたいする祈りということではなくて、自分を表現する、その瞬間を表現できる、そこに自分を捧げるような祈り。ループしているということは、その瞬間を永遠に続けられるということ、そこで自分が永遠に生きていられるということ。そこでものすごく鳥肌が立つような感覚を得たりね。そういう音楽の瞬間をつくる。それは3分間でもいいし、300分間でもいいんだけどね。

『Eccojams』のアートワークとタイトルは、セガのゲーム『エコー・ザ・ドルフィン』のパロディですよね。イルカがサメに変更されていましたけれど、あのイメージを使ったのはなぜですか?

DL:いくつかレイヤーがあるんだ。「Eccojams」ということばは、もちろんゲームから出てきたってのもあるけど、「ecco」という文字の並びが好きだったってのもある。あと、ミニットメンっていう、いろんなことばをつくったカリフォルニアのパンク・バンドがいて、たとえば「マーチャンダイズ」のことを「マーチ」って言いはじめたのも彼らなんだ。いまでは誰もが「マーチ」って言っているよね。それで彼らは、「We jam econo」という言い方もしていて、「econo」は「economy」から来てると思うんだけど、高い楽器じゃなくて安い楽器でジャムってるんだぜ、って意味で彼らは「We jam econo」と言っていて、その「econo」を使ったってのもある。だから、すごくいろんな意味があるんだ。当初は「Econo Jam」だった気がするな。それを「Eccojams」に変えた気がする。(*このミニットメンのくだりは昨年すでに『Age Of』リリース時のインタヴューで語ってくれている。紙エレ22号の32頁参照。ここではイメージの意図を尋ねたかったのだが、残念ながらうまく伝わらなかった模様)

きみはシュルレアリストのコンセプトを信じられる? 信じられないよね(笑)。あれはただその美しさを楽しめばいいんだよ。

あなたの友人であるジェイムス・フェラーロもヴェイパーウェイヴの重要人物のひとりとみなされています。『Age Of』のコンセプトは彼との読書会をつうじて生まれたものだそうですが、それはほんとうですか?

DL:音楽界でいちばん古い友人だね。だからすごく仲はいいんだけど、彼はほんとうにミステリアスで変なやつなんだ。最後に彼と会ったのは、僕がたまたまパリでギャスパー・ノエ監督を訪ねていたときで。彼(ノエ)のアパートはものすごく人が行き来する道に面しているんだけど、ドアを開けたらなぜかジェイムスがいたんだよ! ジェイムスはパリに住んでいるわけじゃないんだけど、たまたまドアを開けたら彼がいたんだ。「なんだこれ、夢なのか?」って思いながら「何してるの?」って声をかけたら、「いまフランス革命のリサーチをしているんだ」って言っていたね(笑)。まったく理解できなかったよ(笑)。彼は魔法使いみたいにクレイジーなやつでね。僕はただふつうに生活している人間だけど、彼は魔術師みたい、ソーサラーみたいなんだ。ときどきテキストでやりとりをしたりするけど、じっさいに会ったのは何ヶ月も前だな。ほんとうに変わった人だよ。

最近の彼の作品は聴いています?

DL:つねに超フレッシュな人だと思う。彼の音楽はどの曲もぜんぶ聴いてるはず。ものすごくオリジナルで、彼の脳のなかに直接トランスミッションしているような音楽、それが彼の音楽だと思う。聴いているとまるで脳のなかに座っているような感覚になるんだ。良いアート作品にはつねにそういう部分があるものだと思うけど、彼はほんとうにオリジナルだと思うよ。

いま彼がやっているポスト・アポカリプティックなフィクションについてはどう見ていますか?

DL:彼のコンセプトを信じちゃダメだよ! ぜんぶしょうもないことを言っているだけだから(笑)。インタヴューで聞くぶんにはすごくおもしろいし、まとまりもあって、僕も思うところがあるけど、彼は彼自身を含め、まわりの人みんなに嘘をついている。バカにしているところがあるんだ。でもそれはまったく悪意ではなくてね。ものすごく美しくて、シュルレアリストみたいなものだよ。きみはシュルレアリストのコンセプトを信じられる? 信じられないよね(笑)。あれはただその美しさを楽しめばいいんだよ。

(わりと信じてますけど……と言いかけたもののお尻が迫っていたのでつぎの質問へと移る)『Age Of』ではCCRU(Cybernetic Culture Research Unit)の論集からインスパイアされたことがクレジットされていたため、いろんな憶測が飛び交いました。そのことについてあなた自身の口から説明してください。

DL:変な憶測だね。CCRUに影響されているのは“Black Snow”という曲だけ。ウェイバック・マシン(Wayback Machine)っていうウェブサイトをやっていた友だちが、サイバーパンクのアーカイヴのなかから一篇の詩を見つけて、僕に送ってきたんだ。その詩がまるでランディ・ニューマンの曲のように思えてね。それで少しことばを変えたりして、サイケデリックなランディ・ニューマンの曲みたいにしてつくったんだよ。ただそれだけのシンプルなこと。だから、ニック・ランドがいま言っているような政治のばかばかしいこと、それを僕は残念だと思うけど、それとはまったく関係ないね。

ニック・ランドや加速主義にシンパシーを感じているわけではない?

DL:そもそも彼についての知識があまりないね。ただ、2~3年前に彼の本を読んだときに、すごく美しくてカラフルでシュルレアリスティックなことばをつくる人だとは思った。詩人みたいな部分ですぐれたものを持っていると思う。でも、政治的なスタンスとかは、ものすごくヘイトに満ちた人だから、自分が彼とつながっている、彼に共感を持っていると思われるのはいやだな。彼が過去じっさいにそういうコレクティヴの一員だったことはたしかだけどね。僕はそれをよく知っているわけでもないし、そこに共感したということではないよ(笑)。

interview with Daniel Lopatin - ele-king

今回のサントラは『Good Time』とはぜんぜんちがっていて、ものすごく誇りに思っている。「これが僕なんだ」という気持ちになってね。人間としての自分に近いような作品に思えたんだ。

 監督は前回同様ジョシュア&ベニー・サフディ兄弟。製作総指揮はマーティン・スコセッシ。たしかに、外部の意向が大きく関与している。映画のサウンドトラックなのだから当たり前といえば当たり前なのだけれど、ジョエル・フォードしかり、ティム・ヘッカーしかり、彼は他人とコラボするとき、基本的にはOPNの名義を用いずにやってきた。そう、幾人ものゲストを招いた昨年の『Age Of』までは。だからむしろ、サフディ兄弟と初めてタッグを組んだ『Good Time』(17)がOPN名義で発表されたことのほうがイレギュラーな事態だったのかもしれない。ソフィア・コッポラ監督作『The Bling Ring』(13)もアリエル・クレイマン監督作『Partisan』(15)もリック・アルヴァーソン監督作『The Mountain』(18)も、ダニエル・ロパティンの名でクレジットされていたのだから。
 ときどき自分が人間であることを忘れてしまう──ダニエル・ロパティンはそう語っている。今回OPN名義ではなく本名で作品を発表することになったのは、その音楽がまさに自分のものだと思えたからだという。不思議である。サウンドトラックの制作でそのように感じるのは珍しいケースなのではないか。それに、パーソナルなのはむしろ、OPN名義のほうではなかったか。つまり今回彼は、サフディ兄弟とはもちろん、ゲイトキーパーや「MYRIAD」で仲間に引き入れたイーライ・ケスラーのような他人たちと仕事をすることによって、あらためてみずからの人間らしさや自分らしさを確認しつつも、あえてコラボの解禁されたOPNではなく本名のほうで作品を発表したということで、そこには何かしら他者にたいする意識の変化が……
 とまあ、そんなふうにいろいろと深読みしてみたくなっちゃうわけだけれど、DJアールアノーニをプロデュースしたときもOPN名義だったのだから、たぶん、本人は深く考えて使いわけているわけではないのだろう。思うに、そのようなある種のユルさにこそ彼の本質みたいなものが宿っているのではないか。それに振りまわされるかたちでわたしたちはいつも、「今度はなんだ?」と気になって、独自の分析や自説を披露したくなってしまうのではないか。ようするに、彼の音楽や振る舞いは、どうにも思考誘発性が高いのである。

 今回の『Uncut Gems』でキイとなるのはおそらく、初期の彼を思わせるアナログな触感から『AKIRA』的な発想と王道のクラシカルなアレンジとスムージィなサックスの奇妙な混合へとなだれこんでいく、冒頭“The Ballad Of Howie Bling”だろう。この曲から聴きとることのできる諸要素は、声楽を活かした8曲目やサックスの映える10曲目、やはり芸能山城組を思わせる13曲目、おなじくかつての音色で思うぞんぶん感傷の湯船につかる最終曲などに、分散して登場することになる。ほかにも、これまでの彼にはなかったクラシカルな旋律を聞かせる2曲目や4曲目、ブリーピィかつミニマルな7曲目、ライヒ的な9曲目など、今回のサントラもいろいろと分析したくなる魅力にあふれている。
 そのような誘発性をこそ最大の武器に、2010年代のエレクトロニック・ミュージックを代表する存在にまでのぼりつめたダニエル・ロパティン。去る10月末、《WXAXRXP DJS》のために来日していた彼だけれど、幸運にも取材の機会に恵まれたので、『Uncut Gems』についてのみならず、かつての作品のまだあまり語られていない部分についても質問を投げかけてみた。じっさいに対面した彼は、いわゆるアメリカ人らしい陽気なナイスガイといった印象で、そのサウンドやコンセプトから連想されるような気難しさや思弁の類はいっさい身にまとっていなかった。

音楽は苦しみから生まれたっていう考えがあるんだ。太古のむかし、ホモ・サピエンスが死に直面したときの恐怖感みたいなもの、そういう本能的なものから生まれたのが音楽なんじゃないかな、と。

いまも拠点はブルックリンですか?

ダニエル・ロパティン(Daniel Lopatin、以下DL):ああ、不幸なことにね。

それはなぜ?

DL:もう10年住んでるからそろそろ場所を変えたいかな。

先日ニューヨークのラジオ局WNYCの「New Sounds」という番組(*1982年の開始以来、積極的にエレクトロニック・ミュージックや現代音楽などを紹介してきた番組)が終わることになって、『ニューヨーク・タイムズ』紙がそのことを「NYはかつてほどクールではなくなってしまった」という方向で記事にしていたのですが(*それらの抗議の結果、番組は継続することに)、いまニューヨークのエレクトロニック・ミュージックのシーンはどうなっているのでしょう?

DL:物価が高くなって、アートやクリエイティヴィティみたいなものが薄くなってきているね。グレイなサイクルに入ってしまっている。豊かな歴史のあるところだから残念だよ。もちろん、そこから変わって新しいものが出てくる可能性はあるよ。僕自身は新しいアイデンティティの感覚がある場所に惹きつけられるね。ニューヨークはアイデンティティがもう決まりきってしまっているというか、そういうサイクルにあるのかなと思う。たとえばメキシコシティに行ったときは、すごく新鮮なものを感じた。新しいものが出てきている感じがした。だからいまは自分の拠点を変えることを考えたり、もう少しアメリカの外で何が起きているかとか、どういうところに何があるのかを考えたりするべき時期なのかもしれないな。

いまニューヨークでおもしろいことをやっていると思えるアーティストやレーベル、ヴェニューはありますか?

DL:ニューヨークでどんな新しいクールなものが出てきているか、何が起きているかという質問に答えるのに、僕はあんまり適していないと思う。よく知らないんだ。なぜかというと、僕は影響を受けることから隠れているからね。新しいものをスポンジみたいに吸収しすぎてしまうと、自分のものがわからなくなるようなことがあるから、いま何が起きているかということからは距離を置いているんだ。でも、友だちがやっていることはおもしろいと思うよ。たとえば〈RVNG〉をやっているマット・ワース(Matt Werth)。彼がキュレイトしたイヴェントやライヴはどれもおもしろいと思う。

前回のサウンドトラックはOPN名義でしたけれど、今回本名を用いたのはなぜですか?

DL:それはほんとうにたんなる思いつきだね。父と母がいて僕が生まれたということ、自分が人間であるということを忘れてしまうときがあるんだけど、そのことを少し思い出したんだ。今回のサントラは『Good Time』とはぜんぜんちがっていて、ものすごく誇りに思っている。だからこそ「これは良い作品だ」「これが僕なんだ」という気持ちになってね。人間としての自分に近いような作品に思えたんだ。まあ、思いつきなんだけどね。

人間であることを忘れるというのは、たとえば自分を「音楽機械」のようなものだと感じることがあるということでしょうか?

DL:たしかに、音楽をつくるマシーンみたいなところはあるね。でもそれはクールな機械で、自分でも気に入ってるんだ。他方でものすごく自己中心的な、自分だけの、誰も入れないような世界がある。自分がつくっているものはパーソナルな言語みたいなところがあってね。「ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー」は自分だけのコミュニケイションみたいな場所なんだ。でも今回はほかのひとたちとのコラボがあったり、監督との絆やコミュニケイションも含まれてるから、もうちょっとあたたかさがあるし、そういう意味では人間的だね。

過去にも何度かサウンドトラックを手がけていますけれど、おなじ監督と組むのは初めてですよね。サフディ兄弟の映像表現はあなたの音楽と相性が良いのでしょうか?

DL:今回は彼らの最高の作品だよ。もちろん彼らは友人だし、コラボレイションがうまくいく親密な関係性ができていると思っている。サウンドトラックをつくることには彼らも関わってくるからね。ただ、彼らと仕事をするのは2回目だけど、ほかにたくさんの監督と一緒にやったわけではないから、比べられる人がいないんだ。僕は、友情がなくても良い仕事はできると思っているから、将来的にはそうじゃない人とも仕事をしてみたい。ただ、ひとつ言えるのは、彼らみたいに友人で、かつアーティスティックな面でも共感できる人と働くのはすごく楽しいし、贅沢だということ。もし一緒に仕事をしなかったとしても、彼らの映画は好きになると思う。すごく良い映画をつくっているからね。一緒に仕事することになったきっかけは、2014年の『神様なんかくそくらえ(原題:Heaven Knows What)』なんだ。あの映画を観てすごく良いと思ったし、そのひとつ前の、レニー・クックというバスケットボール選手のドキュメンタリー(『Lenny Cooke』)も観ていたから、ぜったい良い仕事ができると思っていたんだよね。

今回もサウンドトラックに台詞が入っていますね。これはじっさいに映画のなかで使われている音声ですか?

DL:4つ入っているはずだけど、それらはとくに僕がとりつかれている台詞なんだ。僕にとって重要で、この映画のソウルを代表するような台詞を選んだ。ただ、それはちょっと変な台詞で、たとえば予告編に入れられるタイプの台詞ではないんだけど、自分にとってはすごく重要なもので。僕にとってこの映画の意味を象徴するような台詞だね。

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ヴェイパーウェイヴは祈りみたいなものだと思う。自分を表現する、その瞬間を表現できる、そこに自分を捧げるような祈り。ループしているということは、その瞬間を永遠に続けられるということ、そこで自分が永遠に生きていられるということ。

今回のサウンドトラックにも声楽が入っていますけれど、これまでサンプリングだったり聖歌的なものだったり叫びだったり、あるいはチップスピーチを導入したり自分自身で歌ってみたり、毎度アプローチは異なれど、あなたは一貫して声にたいする高い関心を抱きつづけてきたのではないかと思うのですが、いかがでしょう。

DL:声はものすごくユニークな楽器なんだ。地球上でいちばん変な、ユニークな楽器で、ある意味人間のあり方とか音楽のあり方、ことばとしての音楽のあり方のキイになるようなものだと思う。これから言うことは僕のオリジナルな理論ではないんだけれど、音楽は苦しみから生まれたっていう考えがあるんだ。たとえば傷ついたときとか、死に直面したときのうめきだったり、音楽はそういうものから生まれたんだっていう理論があってね。太古のむかし、ホモ・サピエンスが死に直面したときの恐怖感みたいなもの、そういう本能的なものから生まれたのが音楽なんじゃないかな、と。だから、声ってものすごく変だし、いわゆる人間的といわれているものとはぜんぜんちがう、エイリアンのようなものだったりもするけど、でも同時にほぼすべての人が持っているもので、それが人を進化させてきた。人間ひとりひとりが声を持っている。それは全員が生まれつき持っているものでありながら、ひとりひとり異なるものだ。こんなに多様な楽器はほかにないよ。そういう意味で声はものすごく興味深いね。

なるほど。そのような声にたいするアプローチは、9年前のチャック・パーソン名義の作品でも、スクリュードというかたちであらわれていました。『Eccojams Vol. 1』はヴェイパーウェイヴの重要作とみなされていますが、日本ではなぜかいまになってヴェイパーウェイヴが再流行しています。ユーチューブに音源をアップしていた当時は、どのような意図があったのでしょう?

DL:はじめはシンプルだったよ。そのころはデスクワークの仕事についていて、時間を無駄にしていたんだ。与えられた仕事が来るまでコンピュータの前で何時間も何もしないようなときがあったりね。ものすごく落ち込む仕事だった。それで、その時間にループをつくりはじめたんだ。自分にとってはちょっとした詩みたいなもので、ポップ・ソングのある部分を切りとって、それをものすごくスロウダウンさせて、瞬間を引き延ばして、そのなかで自分がポエティックな瞬間を泳げるような感覚をつくりだした。だから、ものすごくパーソナルなものだったんだ。つくり方も簡単で。やり方を学べば誰でもつくれるものだから、それを大勢の人たちがつくって、フォークロア的なものになればいいなと思ったんだ。みんながつくることでそれがひとつのプラクティスになるようなね。だから、いま日本でヴェイパーウェイヴが人気になっていたり、もしかしたらほかの場所でも人気なのかもしれないけど、そう聞いて僕はすごく嬉しいよ。喜びを感じるね。自分がはじめたころはオリジナルなものだったから、とくにユニークなものだとも思っていなくて、単純で、プラクティスみたいなものだと思っていた。誰でもできるものになっていくと思っていたから、じっさいにいまそうなっているのは嬉しいよ。(ヴェイパーウェイヴは)祈りみたいなものでもあると思うんだ。それはべつにポップ・ミュージックの神さまにたいする祈りということではなくて、自分を表現する、その瞬間を表現できる、そこに自分を捧げるような祈り。ループしているということは、その瞬間を永遠に続けられるということ、そこで自分が永遠に生きていられるということ。そこでものすごく鳥肌が立つような感覚を得たりね。そういう音楽の瞬間をつくる。それは3分間でもいいし、300分間でもいいんだけどね。

『Eccojams』のアートワークとタイトルは、セガのゲーム『エコー・ザ・ドルフィン』のパロディですよね。イルカがサメに変更されていましたけれど、あのイメージを使ったのはなぜですか?

DL:いくつかレイヤーがあるんだ。「Eccojams」ということばは、もちろんゲームから出てきたってのもあるけど、「ecco」という文字の並びが好きだったってのもある。あと、ミニットメンっていう、いろんなことばをつくったカリフォルニアのパンク・バンドがいて、たとえば「マーチャンダイズ」のことを「マーチ」って言いはじめたのも彼らなんだ。いまでは誰もが「マーチ」って言っているよね。それで彼らは、「We jam econo」という言い方もしていて、「econo」は「economy」から来てると思うんだけど、高い楽器じゃなくて安い楽器でジャムってるんだぜ、って意味で彼らは「We jam econo」と言っていて、その「econo」を使ったってのもある。だから、すごくいろんな意味があるんだ。当初は「Econo Jam」だった気がするな。それを「Eccojams」に変えた気がする。(*このミニットメンのくだりは昨年すでに『Age Of』リリース時のインタヴューで語ってくれている。紙エレ22号の32頁参照。ここではイメージの意図を尋ねたかったのだが、残念ながらうまく伝わらなかった模様)

きみはシュルレアリストのコンセプトを信じられる? 信じられないよね(笑)。あれはただその美しさを楽しめばいいんだよ。

あなたの友人であるジェイムス・フェラーロもヴェイパーウェイヴの重要人物のひとりとみなされています。『Age Of』のコンセプトは彼との読書会をつうじて生まれたものだそうですが、それはほんとうですか?

DL:音楽界でいちばん古い友人だね。だからすごく仲はいいんだけど、彼はほんとうにミステリアスで変なやつなんだ。最後に彼と会ったのは、僕がたまたまパリでギャスパー・ノエ監督を訪ねていたときで。彼(ノエ)のアパートはものすごく人が行き来する道に面しているんだけど、ドアを開けたらなぜかジェイムスがいたんだよ! ジェイムスはパリに住んでいるわけじゃないんだけど、たまたまドアを開けたら彼がいたんだ。「なんだこれ、夢なのか?」って思いながら「何してるの?」って声をかけたら、「いまフランス革命のリサーチをしているんだ」って言っていたね(笑)。まったく理解できなかったよ(笑)。彼は魔法使いみたいにクレイジーなやつでね。僕はただふつうに生活している人間だけど、彼は魔術師みたい、ソーサラーみたいなんだ。ときどきテキストでやりとりをしたりするけど、じっさいに会ったのは何ヶ月も前だな。ほんとうに変わった人だよ。

最近の彼の作品は聴いています?

DL:つねに超フレッシュな人だと思う。彼の音楽はどの曲もぜんぶ聴いてるはず。ものすごくオリジナルで、彼の脳のなかに直接トランスミッションしているような音楽、それが彼の音楽だと思う。聴いているとまるで脳のなかに座っているような感覚になるんだ。良いアート作品にはつねにそういう部分があるものだと思うけど、彼はほんとうにオリジナルだと思うよ。

いま彼がやっているポスト・アポカリプティックなフィクションについてはどう見ていますか?

DL:彼のコンセプトを信じちゃダメだよ! ぜんぶしょうもないことを言っているだけだから(笑)。インタヴューで聞くぶんにはすごくおもしろいし、まとまりもあって、僕も思うところがあるけど、彼は彼自身を含め、まわりの人みんなに嘘をついている。バカにしているところがあるんだ。でもそれはまったく悪意ではなくてね。ものすごく美しくて、シュルレアリストみたいなものだよ。きみはシュルレアリストのコンセプトを信じられる? 信じられないよね(笑)。あれはただその美しさを楽しめばいいんだよ。

(わりと信じてますけど……と言いかけたもののお尻が迫っていたのでつぎの質問へと移る)『Age Of』ではCCRU(Cybernetic Culture Research Unit)の論集からインスパイアされたことがクレジットされていたため、いろんな憶測が飛び交いました。そのことについてあなた自身の口から説明してください。

DL:変な憶測だね。CCRUに影響されているのは“Black Snow”という曲だけ。ウェイバック・マシン(Wayback Machine)っていうウェブサイトをやっていた友だちが、サイバーパンクのアーカイヴのなかから一篇の詩を見つけて、僕に送ってきたんだ。その詩がまるでランディ・ニューマンの曲のように思えてね。それで少しことばを変えたりして、サイケデリックなランディ・ニューマンの曲みたいにしてつくったんだよ。ただそれだけのシンプルなこと。だから、ニック・ランドがいま言っているような政治のばかばかしいこと、それを僕は残念だと思うけど、それとはまったく関係ないね。

ニック・ランドや加速主義にシンパシーを感じているわけではない?

DL:そもそも彼についての知識があまりないね。ただ、2~3年前に彼の本を読んだときに、すごく美しくてカラフルでシュルレアリスティックなことばをつくる人だとは思った。詩人みたいな部分ですぐれたものを持っていると思う。でも、政治的なスタンスとかは、ものすごくヘイトに満ちた人だから、自分が彼とつながっている、彼に共感を持っていると思われるのはいやだな。彼が過去じっさいにそういうコレクティヴの一員だったことはたしかだけどね。僕はそれをよく知っているわけでもないし、そこに共感したということではないよ(笑)。

Daniel Lopatin - ele-king

 まもなく《WXAXRXP DJS》での来日を控えるワンオートリックス・ポイント・ネヴァーことダニエル・ロパティンが、新たなサウンドトラックをリリースする。2年前の『グッド・タイム』に続いて、今回もサフディ兄弟監督による映画の劇伴だが(原題『Uncut Gems』)、名義が OPN から本名へと変わっているのには何か意図があるのだろうか。
 映画の製作総指揮はマーティン・スコセッシで、主演はアダム・サンドラー、さらに作中ではザ・ウィークエンド(The Weeknd)がサックスを吹いていたり(予告編にも登場)、トラヴィス・スコットまで参加している模様。全米では12月13日に公開され、それ以外の地域では2020年1月に Netflix での配信が予定されている。
 なお、サントラのコントリビューター一覧にはイーライ・ケスラーゲイトキーパーの名も挙がっており、音楽のほうも注目すべきポイントが多そうだ。リリースは映画の公開とおなじ12月13日。

DANIEL LOPATIN

アダム・サンドラー主演、サフディ兄弟監督の話題作
『UNCUT GEMS』の音楽をOPNことダニエル・ロパティンが担当
12月13日にサウンドトラック・アルバムのリリースが決定

ダニエル・ロパティンが新たに手がけたサウンドトラック・アルバム『Uncut Gems - Original Motion Picture Soundtrack』が12月13日にリリースされることが発表された。ハリウッド俳優アダム・サンドラーが主演を務め、NBAの元スター選手であるケビン・ガーネットや、ザ・ウィークエンドが本人役で出演するクライムサスペンス映画『Uncut Gems (原題)』は、ジョシュア&ベニー・サフディ兄弟が監督を務め、新進気鋭の映画スタジオA24の配給で2020年1月に Netflix にて公開が予定されている。

Uncut Gems | Official Trailer HD | A24
https://youtu.be/vTfJp2Ts9X8

今週いよいよ開催を迎える〈WARP RECORDS〉30周年記念イベント《WXAXRXP DJS》にも出演するワンオートリックス・ポイント・ネヴァーことダニエル・ロパティンとサフディ兄弟がタッグを組むのは、2017年公開のロバート・パティンソン主演映画『グッド・タイム』に続き、今回が2度目となる。『グッド・タイム』では、カンヌ・サウンドトラック賞やハリウッドメディア音楽賞を受賞したことでも大きな話題となった。ダニエル・ロパティンは、これまでにもソフィア・コッポラ監督映画『ブリングリング』(2013)やヴァンサン・カッセル主演映画『Partisan (原題)』(2015)の映画音楽を手がけている。

ダニエル・ロパティンが手がけた音楽が、映画のクライマックスの緊張感をさらに高め、また幻想的な要素も加えていることよって、強迫観念や神経の高ぶりが生むエネルギーが映画を包み込んでいる。 ──Little White Lies

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーことダニエル・ロパティンの類いまれなるパーカッシヴなサウンドトラックが、次々と巻き起こる展開を圧倒する ──IndieWire

エレクトロニカとオペラを融合したダニエル・ロパティンによる不穏な音楽は、見る者の血圧を上昇させ続けながら、サフディ兄弟の生み出す奇妙なマジックに多大なる貢献をしている。 ──Thrillist

Uncut Gems (原題)
監督:ジョシュア・サフディ&ベニー・サフディ
脚本:ジョシュア・サフディ、ベニー・サフディ、ロナルド・ブロンスタイン
製作:スコット・ルーディン、イーライ・ブッシュ、セバスチャン・ベア・マクラード
出演:アダム・サンドラー、キース・スタンフィールド、ジュリア・フォックス、ケビン・ガーネット、イディナ・メンゼル、エリック・ボゴシアン、ジャド・ハーシュ
音楽:ダニエル・ロパティン
公開:2020年1月予定

ダニエル・ロパティンによるサウンドトラック・アルバム『Uncut Gems - Original Motion Picture Soundtrack』は、12月13日(金)に世界同時リリース。国内盤CDには解説書が封入される。

label: BEAT RECORDS / WARP RECORDS
artist: Daniel Lopatin
title: Uncut Gems Original Motion Picture Soundtrack
release date: 2019/12/13 FRI ON SALE

国内盤CD
BRC-625 (解説書封入) ¥2,200+税

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10630
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/B07ZR5G8DL

TRACKLISTING
01. The Ballad Of Howie Bling
02. Pure Elation
03. Followed
04. The Bet Hits
05. High Life
06. No Vacation
07. School Play
08. Fuck You Howard
09. Smoothie
10. Back To Roslyn
11. The Fountain
12. Powerade
13. Windows
14. Buzz Me Out
15. The Blade
16. Mohegan Suite
17. Uncut Gems

Daniel Lopatin - ele-king

 まもなく《WXAXRXP DJS》での来日を控えるワンオートリックス・ポイント・ネヴァーことダニエル・ロパティンが、新たなサウンドトラックをリリースする。2年前の『グッド・タイム』に続いて、今回もサフディ兄弟監督による映画の劇伴だが(原題『Uncut Gems』)、名義が OPN から本名へと変わっているのには何か意図があるのだろうか。
 映画の製作総指揮はマーティン・スコセッシで、主演はアダム・サンドラー、さらに作中ではザ・ウィークエンド(The Weeknd)がサックスを吹いていたり(予告編にも登場)、トラヴィス・スコットまで参加している模様。全米では12月13日に公開され、それ以外の地域では2020年1月に Netflix での配信が予定されている。
 なお、サントラのコントリビューター一覧にはイーライ・ケスラーゲイトキーパーの名も挙がっており、音楽のほうも注目すべきポイントが多そうだ。リリースは映画の公開とおなじ12月13日。

DANIEL LOPATIN

アダム・サンドラー主演、サフディ兄弟監督の話題作
『UNCUT GEMS』の音楽をOPNことダニエル・ロパティンが担当
12月13日にサウンドトラック・アルバムのリリースが決定

ダニエル・ロパティンが新たに手がけたサウンドトラック・アルバム『Uncut Gems - Original Motion Picture Soundtrack』が12月13日にリリースされることが発表された。ハリウッド俳優アダム・サンドラーが主演を務め、NBAの元スター選手であるケビン・ガーネットや、ザ・ウィークエンドが本人役で出演するクライムサスペンス映画『Uncut Gems (原題)』は、ジョシュア&ベニー・サフディ兄弟が監督を務め、新進気鋭の映画スタジオA24の配給で2020年1月に Netflix にて公開が予定されている。

Uncut Gems | Official Trailer HD | A24
https://youtu.be/vTfJp2Ts9X8

今週いよいよ開催を迎える〈WARP RECORDS〉30周年記念イベント《WXAXRXP DJS》にも出演するワンオートリックス・ポイント・ネヴァーことダニエル・ロパティンとサフディ兄弟がタッグを組むのは、2017年公開のロバート・パティンソン主演映画『グッド・タイム』に続き、今回が2度目となる。『グッド・タイム』では、カンヌ・サウンドトラック賞やハリウッドメディア音楽賞を受賞したことでも大きな話題となった。ダニエル・ロパティンは、これまでにもソフィア・コッポラ監督映画『ブリングリング』(2013)やヴァンサン・カッセル主演映画『Partisan (原題)』(2015)の映画音楽を手がけている。

ダニエル・ロパティンが手がけた音楽が、映画のクライマックスの緊張感をさらに高め、また幻想的な要素も加えていることよって、強迫観念や神経の高ぶりが生むエネルギーが映画を包み込んでいる。 ──Little White Lies

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーことダニエル・ロパティンの類いまれなるパーカッシヴなサウンドトラックが、次々と巻き起こる展開を圧倒する ──IndieWire

エレクトロニカとオペラを融合したダニエル・ロパティンによる不穏な音楽は、見る者の血圧を上昇させ続けながら、サフディ兄弟の生み出す奇妙なマジックに多大なる貢献をしている。 ──Thrillist

Uncut Gems (原題)
監督:ジョシュア・サフディ&ベニー・サフディ
脚本:ジョシュア・サフディ、ベニー・サフディ、ロナルド・ブロンスタイン
製作:スコット・ルーディン、イーライ・ブッシュ、セバスチャン・ベア・マクラード
出演:アダム・サンドラー、キース・スタンフィールド、ジュリア・フォックス、ケビン・ガーネット、イディナ・メンゼル、エリック・ボゴシアン、ジャド・ハーシュ
音楽:ダニエル・ロパティン
公開:2020年1月予定

ダニエル・ロパティンによるサウンドトラック・アルバム『Uncut Gems - Original Motion Picture Soundtrack』は、12月13日(金)に世界同時リリース。国内盤CDには解説書が封入される。

label: BEAT RECORDS / WARP RECORDS
artist: Daniel Lopatin
title: Uncut Gems Original Motion Picture Soundtrack
release date: 2019/12/13 FRI ON SALE

国内盤CD
BRC-625 (解説書封入) ¥2,200+税

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10630
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/B07ZR5G8DL

TRACKLISTING
01. The Ballad Of Howie Bling
02. Pure Elation
03. Followed
04. The Bet Hits
05. High Life
06. No Vacation
07. School Play
08. Fuck You Howard
09. Smoothie
10. Back To Roslyn
11. The Fountain
12. Powerade
13. Windows
14. Buzz Me Out
15. The Blade
16. Mohegan Suite
17. Uncut Gems

WXAXRXP Sessions - ele-king

 きゃああっ。──失礼、あまりの驚きと喜びに声を漏らしてしまいました。ここしばらく続々と〈Warp〉30周年をめぐる動きが活発化していっていますが、新たなお知らせです。なななななんと、30周年を記念した特別12”シリーズ『WXAXRXP Sessions』の発売が決定しました! 往年の「Peel Session」を彷彿させるタイトルにもあらわれていますが、これがまたとてつもなくそそられるラインナップなのです。さて、腰を抜かす準備はいいですか? 参加しているのは……エイフェックスビビオボーズ・オブ・カナダフライング・ロータスケリー・モーラン、LFO(!!)、マウント・キンビーOPNプラッドシーフィールの10組です。詳細は下記をご確認いただきたいですが、すべて貴重な音源ばかりでめまいがします……なお、この秋開催される《WXAXRXP DJS》の会場では同シリーズが先行販売され、10作すべてを収納した限定ボックスセットも売られるとのこと。デザインもめちゃんこクールです。また、今回の発表にあわせBOCのレア音源“XYZ”も公開されています。テープの逆再生音とシューゲイジィなギターが織り成す、なんとも夢幻的なノスタルジア……間違いなくBOCですね。〈Warp〉30周年、アツすぎんよ!

[9月24日追記]
 本日、11月15日発売予定の『WXAXRXP Session』からビビオの“Lovers Carvings”が公開されました。ちょうど10年前、2009年の『Ambivalence Avenue』に収録されていた名曲の新ヴァージョンです。中盤、ヴォーカルが入ってくるところで鳥肌が立ってしまいました。ずるい、このアレンジはずるいって……(Apple Music / Spotify)。なお同時に、ビビオが最新作『Ribbons』収録の3曲を新たに演奏しなおしたセッション映像も公開されています(YouTube)。

[10月10日追記]
 BOCとビビオに続き、今度はマウント・キンビーの音源が公開されました。2017年の『Love What Survives』に収録されていた曲の新ヴァージョンで、6月のオンライン・フェスで放送された音源です。このセッションはステレオラブのアンディ・ラムゼイのスタジオで録音され、ミカチューも参加したとのこと。

[10月23日追記]
 続々と解禁が増えてきました。今回はシーフィールです。曲名は“Rough For Radio”。1994年、彼らがジョン・ピールの番組『Peel Session』に出演したときに録音されたものだそう。貴重!

[11月11日追記]
 一気に大盤振る舞いです。去る先週末、まもなくリリースとなる『WXAXRXP Sessions』から、10曲入りのサンプラーが配信されました。これまでに公開された3曲に加え、LFO、エイフェックス・ツイン、フライング・ロータス、OPN などのレア音源が解禁されています。発売は11月15日。試聴は下記リンクをご参照ください。なお、〈Warp〉30周年を特集した『別冊ele-king』最新号の情報はこちらから。

WXAXRXP Sessions Sampler
Apple Music: https://apple.co/2oXapD5
Spotify: https://spoti.fi/2WRTkHp

〈WARP RECORDS〉30周年記念作品
『WXAXRXP SESSIONS』発売決定!

Aphex Twin / Bibio / Boards of Canada / Flying Lotus /
Kelly Moran / LFO / Mount Kimbie / Oneohtrix Point Never /
Plaid / Seefeel

ボーズ・オブ・カナダの超貴重音源“XYZ”が公開!

先鋭的アーティストを数多く輩出し、クリエイティブかつ衝撃的なMVやアートワークの分野においても、音楽史に計り知れない功績を刻み続け、ついに今年30周年を迎えた〈WARP RECORDS〉。その偉大なる歴史を祝した30周年記念12"作品シリーズ『WXAXRXP SESSIONS』発売決定! 合わせてこれまで当時の放送でしか聴くことのできなかったボーズ・オブ・カナダの超貴重音源“XYZ”が今回公開された。

Boards Of Canada • ‘XYZ’
https://youtu.be/JZYnw3GBAlU

『WXAXRXP (ワープサーティー)』をキーワードに、様々なイベントが行われている2019年。いよいよ来週に迫ったフライング・ロータスの3Dライブ公演を皮切りに、10月30日よりスタートする!!!(チック・チック・チック)ツアー、それに続くバトルスのツアーに加え、スクエアプッシャー、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、ビビオが一堂に会するスペシャルDJツアー『WXAXRXP DJS (ワープサーティーディージェイズ)』の開催も発表され、盛り上がりを見せている。

今回発表された『WXAXRXP Sessions』は、BBCの伝説的DJ、ジョン・ピールの番組『Peel sessions』で放送されたスタジオ・セッション音源や、30周年特別企画の一つとして〈WARP〉が「NTS Radio」とコラボレートし、実に100時間以上に渡って貴重な音源をオンエアするという前代未聞のオンライン音楽フェス『WXAXRXP』で放送された貴重な音源などを収録した12"作品シリーズとなっている。

Aphex Twin
Peel Session 2

放送:1995.4.10
エイフェックス・ツインが披露した2つのラジオ・セッションのうちの1つ。すべてが当時のオリジナル音源で、披露された全音源がそのまま収録されている。アナログ盤でリリースされるのは今回が初めて。

Bibio
WXAXRXP Session

放送:2019.6.21
ビビオが、ブレイクのきっかけとなったアルバム『Ambivalence Avenue』に収録された3曲と、2016年の『A Mineral Love』収録の1曲を、ミニマルで美しいアコースティック・スタイルで再表現した4曲を収録。『WXAXRXP x NTS』の放送用にレコーディングされたもの。

Boards of Canada
Peel Session

放送:1998.7.21
ボーズ・オブ・カナダによる唯一のラジオ・セッションが、オリジナルの放送以来初めて完全版で収録。これまで当時の放送でしか聴くことのできなかった貴重な音源“XYZ”が今回公開された。
https://youtu.be/JZYnw3GBAlU

Flying Lotus Presents INFINITY “Infinitum”
Maida Vale Session

放送:2010.8.19
フライング・ロータスの出世作『Cosmogramma』リリース当時、『Maida Vale Session』にて披露されたライブ・セッション音源。サンダーキャット、ミゲル・アトウッド・ファーガソン、そして従兄弟のラヴィ・コルトレーンらによる生演奏。ここ以外では聴くことのできない楽曲“Golden Axe”が収録されている。

Kelly Moran
WXAXRXP Session

放送:- / - / -
今回の『WXAXRXP Sessions』用にレコーディングされ、唯一過去放送もされていない超貴重音源。

LFO
Peel Session

放送:1990.10.20
デビュー・シングルを〈WARP〉からリリース直後に『Peel Session』に出演した際のパフォーマンスで、長年入手困難かつ、ここでしか聴くことのできない音源を収録。

Mount Kimbie
WXAXRXP Session

放送:2019.6.21
『WXAXRXP x NTS』企画で初披露されたパフォーマンスで、マウント・キンビーがライブを重ねる中で、どのように楽曲を進化させていくのかがわかるセッション音源。ミカ・レヴィもゲスト参加している。

Oneohtrix Point Never
KCRW Session

放送:2018.10.23
ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(OPN)率いるバンド、Myriad Ensembleが『KCRW session』で披露したスタジオ・セッションから4曲を収録。OPN以外のメンバーは、ケリー・モーラン、イーライ・ケスラー、アーロン・デヴィッド・ロス。

Plaid
Peel Session 2

放送:1999.5.8
プラッドが『Peel Session』に出演した際に披露したパフォーマンスを収録。『Rest Proof Clockwork』リリース当時のオリジナル音源で、ライブで高い人気を誇る“Elide”も含まれる。

Seefeel
Peel Session

放送:1994.5.27
アルバム『Succour』リリース当時に『Peel Session』で披露されたセッション音源。ここ以外では聴くことのできない“Rough For Radio”と“Phazemaze”も収録。

なお11月に東京、京都、大阪で開催されるスペシャルDJツアー『WXAXRXP DJS』の会場では、一般発売に先駆け、『WXAXRXP Sessions』が先行発売され、全作品を収納した超限定ボックスセットも販売予定。

WARP30周年 WxAxRxP 特設サイトオープン!
〈WARP〉の30周年を記念した特設サイトが公開中! これまで国内ではオンライン販売されてこなかったエイフェックス・ツインのレアグッズや、大竹伸朗によるデザインTシャツを含む30周年記念グッズなどが好評販売中。その偉大なる歴史を祝し、アーティストや著名人など識者たちがそれぞれのテーマで〈WARP〉楽曲をセレクトした“MY WXAXRXP”プレイリスト企画がスタート!
WWW.BEATINK.COM/WXAXRXP/

!!! - WALLOP JAPAN TOUR -
前売りチケット絶賛販売中!

東京公演:2019年11月1日(金) O-EAST
OPEN 18:00 / START 19:00
前売 ¥6,500 (税込/別途1ドリンク代/スタンディング) ※未就学児童入場不可
主催:SHIBUYA TELEVISION
INFO:BEATINK 03-5768-1277 / www.beatink.com

京都公演:2019年10月30日(水) METRO
OPEN 19:00 / START 20:00
前売 ¥6,500 (税込/別途1ドリンク代/スタンディング) ※未就学児童入場不可
INFO:METRO 075-752-2787 / info@metro.ne.jp / www.metro.ne.jp

大阪公演:2019年10月31日(木) LIVE HOUSE ANIMA
OPEN 18:00 / START 19:00
前売 ¥6,500 (税込/別途1ドリンク代/スタンディング) ※未就学児童入場不可
INFO:SMASH WEST 06-6535-5569 / smash-jpn.com

[チケット詳細]

label: WARP RECORDS/BEAT RECORDS
artist: !!!
title: Wallop
release: 2019.08.30 FRI ON SALE

国内盤CD BRC-608 ¥2,200+tax
国内盤特典:ボーナストラック追加収録/解説・歌詞対訳冊子封入

[ご購入はこちら]

BATTLES - JAPAN TOUR 2019 -
SUPPORT ACT: TBC

前売 ¥6,800 (税込/別途1ドリンク代/スタンディング) ※未就学児童入場不可

東京公演:2019年11月4日(月・祝日) GARDEN HALL
OPEN 17:00 / START 18:00
主催:SHIBUYA TELEVISION
INFO:BEATINK 03-5768-1277

大阪公演:2019年11月5日(火) UMEDA CLUB QUATTRO
OPEN 18:00 / START 19:00
INFO:SMASH WEST 06-6535-5569 / smash-jpn.com

名古屋公演:2019年11月6日(水) NAGOYA CLUB QUATTRO
OPEN 18:00 / START 19:00
INFO:BEATINK 03-5768-1277

[チケット詳細]

label: WARP RECORDS / BEAT RECORDS
artist: BATTLES
title: Juice B Crypts
release date: 2019.10.11 FRI ON SALE
日本先行リリース!

国内盤CD BRC-613 ¥2,200+tax
国内盤CD+Tシャツ BRC-613T ¥5,500+tax
ボーナストラック追加収録/解説・歌詞対訳冊子封入

輸入盤CD WARPCD301 ¥OPEN
輸入盤2LP カラー盤 WARPLP301X ¥OPEN
輸入盤2LP WARPLP301 ¥OPEN

[ご予約はこちら]


タイトル:
WXAXRXP DJS
ワープサーティーディージェイズ

出演:
SQUAREPUSHER (DJ Set), ONEOHTRIX POINT NEVER (DJ Set), BIBIO (DJ Set) and more

その他コンテンツ:
WXAXRXP POP-UP STORE, 30 YEAR VISUAL HISTORY OF WARP and more

東京
公演日:2019年11月1日(金)
会場:O-EAST / DUO

京都
公演日:2019年11月2日(土)
会場:CLUB METRO

大阪
公演日:2019年11月3日(日)
会場:SUNHALL

OPEN / START:23:00
料金:前売¥5,500(税込)
※20歳未満入場不可。入場時にIDチェック有り。写真付き身分証をご持参ください。

[チケット発売]

イープラス最速先行:
東京 [抽選] 9/17 (火) 正午12:00 〜 9/22 (日) 18:00
京都 [先着] 9/17 (火) 正午12:00 〜 9/22 (日) 18:00
大阪 [先着] 9/18 (水) 正午12:00 〜 9/22 (日) 18:00

一般発売:9/28 (土)〜
イープラス、ローソンチケット、チケットぴあ、BEATINK、iFLYER 他

WXAXRXP Sessions - ele-king

 きゃああっ。──失礼、あまりの驚きと喜びに声を漏らしてしまいました。ここしばらく続々と〈Warp〉30周年をめぐる動きが活発化していっていますが、新たなお知らせです。なななななんと、30周年を記念した特別12”シリーズ『WXAXRXP Sessions』の発売が決定しました! 往年の「Peel Session」を彷彿させるタイトルにもあらわれていますが、これがまたとてつもなくそそられるラインナップなのです。さて、腰を抜かす準備はいいですか? 参加しているのは……エイフェックスビビオボーズ・オブ・カナダフライング・ロータスケリー・モーラン、LFO(!!)、マウント・キンビーOPNプラッドシーフィールの10組です。詳細は下記をご確認いただきたいですが、すべて貴重な音源ばかりでめまいがします……なお、この秋開催される《WXAXRXP DJS》の会場では同シリーズが先行販売され、10作すべてを収納した限定ボックスセットも売られるとのこと。デザインもめちゃんこクールです。また、今回の発表にあわせBOCのレア音源“XYZ”も公開されています。テープの逆再生音とシューゲイジィなギターが織り成す、なんとも夢幻的なノスタルジア……間違いなくBOCですね。〈Warp〉30周年、アツすぎんよ!

[9月24日追記]
 本日、11月15日発売予定の『WXAXRXP Session』からビビオの“Lovers Carvings”が公開されました。ちょうど10年前、2009年の『Ambivalence Avenue』に収録されていた名曲の新ヴァージョンです。中盤、ヴォーカルが入ってくるところで鳥肌が立ってしまいました。ずるい、このアレンジはずるいって……(Apple Music / Spotify)。なお同時に、ビビオが最新作『Ribbons』収録の3曲を新たに演奏しなおしたセッション映像も公開されています(YouTube)。

[10月10日追記]
 BOCとビビオに続き、今度はマウント・キンビーの音源が公開されました。2017年の『Love What Survives』に収録されていた曲の新ヴァージョンで、6月のオンライン・フェスで放送された音源です。このセッションはステレオラブのアンディ・ラムゼイのスタジオで録音され、ミカチューも参加したとのこと。

[10月23日追記]
 続々と解禁が増えてきました。今回はシーフィールです。曲名は“Rough For Radio”。1994年、彼らがジョン・ピールの番組『Peel Session』に出演したときに録音されたものだそう。貴重!

[11月11日追記]
 一気に大盤振る舞いです。去る先週末、まもなくリリースとなる『WXAXRXP Sessions』から、10曲入りのサンプラーが配信されました。これまでに公開された3曲に加え、LFO、エイフェックス・ツイン、フライング・ロータス、OPN などのレア音源が解禁されています。発売は11月15日。試聴は下記リンクをご参照ください。なお、〈Warp〉30周年を特集した『別冊ele-king』最新号の情報はこちらから。

WXAXRXP Sessions Sampler
Apple Music: https://apple.co/2oXapD5
Spotify: https://spoti.fi/2WRTkHp

〈WARP RECORDS〉30周年記念作品
『WXAXRXP SESSIONS』発売決定!

Aphex Twin / Bibio / Boards of Canada / Flying Lotus /
Kelly Moran / LFO / Mount Kimbie / Oneohtrix Point Never /
Plaid / Seefeel

ボーズ・オブ・カナダの超貴重音源“XYZ”が公開!

先鋭的アーティストを数多く輩出し、クリエイティブかつ衝撃的なMVやアートワークの分野においても、音楽史に計り知れない功績を刻み続け、ついに今年30周年を迎えた〈WARP RECORDS〉。その偉大なる歴史を祝した30周年記念12"作品シリーズ『WXAXRXP SESSIONS』発売決定! 合わせてこれまで当時の放送でしか聴くことのできなかったボーズ・オブ・カナダの超貴重音源“XYZ”が今回公開された。

Boards Of Canada • ‘XYZ’
https://youtu.be/JZYnw3GBAlU

『WXAXRXP (ワープサーティー)』をキーワードに、様々なイベントが行われている2019年。いよいよ来週に迫ったフライング・ロータスの3Dライブ公演を皮切りに、10月30日よりスタートする!!!(チック・チック・チック)ツアー、それに続くバトルスのツアーに加え、スクエアプッシャー、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、ビビオが一堂に会するスペシャルDJツアー『WXAXRXP DJS (ワープサーティーディージェイズ)』の開催も発表され、盛り上がりを見せている。

今回発表された『WXAXRXP Sessions』は、BBCの伝説的DJ、ジョン・ピールの番組『Peel sessions』で放送されたスタジオ・セッション音源や、30周年特別企画の一つとして〈WARP〉が「NTS Radio」とコラボレートし、実に100時間以上に渡って貴重な音源をオンエアするという前代未聞のオンライン音楽フェス『WXAXRXP』で放送された貴重な音源などを収録した12"作品シリーズとなっている。

Aphex Twin
Peel Session 2

放送:1995.4.10
エイフェックス・ツインが披露した2つのラジオ・セッションのうちの1つ。すべてが当時のオリジナル音源で、披露された全音源がそのまま収録されている。アナログ盤でリリースされるのは今回が初めて。

Bibio
WXAXRXP Session

放送:2019.6.21
ビビオが、ブレイクのきっかけとなったアルバム『Ambivalence Avenue』に収録された3曲と、2016年の『A Mineral Love』収録の1曲を、ミニマルで美しいアコースティック・スタイルで再表現した4曲を収録。『WXAXRXP x NTS』の放送用にレコーディングされたもの。

Boards of Canada
Peel Session

放送:1998.7.21
ボーズ・オブ・カナダによる唯一のラジオ・セッションが、オリジナルの放送以来初めて完全版で収録。これまで当時の放送でしか聴くことのできなかった貴重な音源“XYZ”が今回公開された。
https://youtu.be/JZYnw3GBAlU

Flying Lotus Presents INFINITY “Infinitum”
Maida Vale Session

放送:2010.8.19
フライング・ロータスの出世作『Cosmogramma』リリース当時、『Maida Vale Session』にて披露されたライブ・セッション音源。サンダーキャット、ミゲル・アトウッド・ファーガソン、そして従兄弟のラヴィ・コルトレーンらによる生演奏。ここ以外では聴くことのできない楽曲“Golden Axe”が収録されている。

Kelly Moran
WXAXRXP Session

放送:- / - / -
今回の『WXAXRXP Sessions』用にレコーディングされ、唯一過去放送もされていない超貴重音源。

LFO
Peel Session

放送:1990.10.20
デビュー・シングルを〈WARP〉からリリース直後に『Peel Session』に出演した際のパフォーマンスで、長年入手困難かつ、ここでしか聴くことのできない音源を収録。

Mount Kimbie
WXAXRXP Session

放送:2019.6.21
『WXAXRXP x NTS』企画で初披露されたパフォーマンスで、マウント・キンビーがライブを重ねる中で、どのように楽曲を進化させていくのかがわかるセッション音源。ミカ・レヴィもゲスト参加している。

Oneohtrix Point Never
KCRW Session

放送:2018.10.23
ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(OPN)率いるバンド、Myriad Ensembleが『KCRW session』で披露したスタジオ・セッションから4曲を収録。OPN以外のメンバーは、ケリー・モーラン、イーライ・ケスラー、アーロン・デヴィッド・ロス。

Plaid
Peel Session 2

放送:1999.5.8
プラッドが『Peel Session』に出演した際に披露したパフォーマンスを収録。『Rest Proof Clockwork』リリース当時のオリジナル音源で、ライブで高い人気を誇る“Elide”も含まれる。

Seefeel
Peel Session

放送:1994.5.27
アルバム『Succour』リリース当時に『Peel Session』で披露されたセッション音源。ここ以外では聴くことのできない“Rough For Radio”と“Phazemaze”も収録。

なお11月に東京、京都、大阪で開催されるスペシャルDJツアー『WXAXRXP DJS』の会場では、一般発売に先駆け、『WXAXRXP Sessions』が先行発売され、全作品を収納した超限定ボックスセットも販売予定。

WARP30周年 WxAxRxP 特設サイトオープン!
〈WARP〉の30周年を記念した特設サイトが公開中! これまで国内ではオンライン販売されてこなかったエイフェックス・ツインのレアグッズや、大竹伸朗によるデザインTシャツを含む30周年記念グッズなどが好評販売中。その偉大なる歴史を祝し、アーティストや著名人など識者たちがそれぞれのテーマで〈WARP〉楽曲をセレクトした“MY WXAXRXP”プレイリスト企画がスタート!
WWW.BEATINK.COM/WXAXRXP/

!!! - WALLOP JAPAN TOUR -
前売りチケット絶賛販売中!

東京公演:2019年11月1日(金) O-EAST
OPEN 18:00 / START 19:00
前売 ¥6,500 (税込/別途1ドリンク代/スタンディング) ※未就学児童入場不可
主催:SHIBUYA TELEVISION
INFO:BEATINK 03-5768-1277 / www.beatink.com

京都公演:2019年10月30日(水) METRO
OPEN 19:00 / START 20:00
前売 ¥6,500 (税込/別途1ドリンク代/スタンディング) ※未就学児童入場不可
INFO:METRO 075-752-2787 / info@metro.ne.jp / www.metro.ne.jp

大阪公演:2019年10月31日(木) LIVE HOUSE ANIMA
OPEN 18:00 / START 19:00
前売 ¥6,500 (税込/別途1ドリンク代/スタンディング) ※未就学児童入場不可
INFO:SMASH WEST 06-6535-5569 / smash-jpn.com

[チケット詳細]

label: WARP RECORDS/BEAT RECORDS
artist: !!!
title: Wallop
release: 2019.08.30 FRI ON SALE

国内盤CD BRC-608 ¥2,200+tax
国内盤特典:ボーナストラック追加収録/解説・歌詞対訳冊子封入

[ご購入はこちら]

BATTLES - JAPAN TOUR 2019 -
SUPPORT ACT: TBC

前売 ¥6,800 (税込/別途1ドリンク代/スタンディング) ※未就学児童入場不可

東京公演:2019年11月4日(月・祝日) GARDEN HALL
OPEN 17:00 / START 18:00
主催:SHIBUYA TELEVISION
INFO:BEATINK 03-5768-1277

大阪公演:2019年11月5日(火) UMEDA CLUB QUATTRO
OPEN 18:00 / START 19:00
INFO:SMASH WEST 06-6535-5569 / smash-jpn.com

名古屋公演:2019年11月6日(水) NAGOYA CLUB QUATTRO
OPEN 18:00 / START 19:00
INFO:BEATINK 03-5768-1277

[チケット詳細]

label: WARP RECORDS / BEAT RECORDS
artist: BATTLES
title: Juice B Crypts
release date: 2019.10.11 FRI ON SALE
日本先行リリース!

国内盤CD BRC-613 ¥2,200+tax
国内盤CD+Tシャツ BRC-613T ¥5,500+tax
ボーナストラック追加収録/解説・歌詞対訳冊子封入

輸入盤CD WARPCD301 ¥OPEN
輸入盤2LP カラー盤 WARPLP301X ¥OPEN
輸入盤2LP WARPLP301 ¥OPEN

[ご予約はこちら]


タイトル:
WXAXRXP DJS
ワープサーティーディージェイズ

出演:
SQUAREPUSHER (DJ Set), ONEOHTRIX POINT NEVER (DJ Set), BIBIO (DJ Set) and more

その他コンテンツ:
WXAXRXP POP-UP STORE, 30 YEAR VISUAL HISTORY OF WARP and more

東京
公演日:2019年11月1日(金)
会場:O-EAST / DUO

京都
公演日:2019年11月2日(土)
会場:CLUB METRO

大阪
公演日:2019年11月3日(日)
会場:SUNHALL

OPEN / START:23:00
料金:前売¥5,500(税込)
※20歳未満入場不可。入場時にIDチェック有り。写真付き身分証をご持参ください。

[チケット発売]

イープラス最速先行:
東京 [抽選] 9/17 (火) 正午12:00 〜 9/22 (日) 18:00
京都 [先着] 9/17 (火) 正午12:00 〜 9/22 (日) 18:00
大阪 [先着] 9/18 (水) 正午12:00 〜 9/22 (日) 18:00

一般発売:9/28 (土)〜
イープラス、ローソンチケット、チケットぴあ、BEATINK、iFLYER 他

Squarepusher, Oneohtrix Point Never & Bibio - ele-king

 ついに来た! 設立30周年を迎える〈Warp〉のアニヴァーサリー・イヴェント《WXAXRXP DJS》が開催決定! スクエアプッシャー、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、ビビオの3組が一堂に会する。すごい! 同3組は11月1日~3日にかけて東京・京都・大阪をツアー、DJセットを披露する予定。いやあ、これはかなり胸が熱くなるぜ……しかもその直前にはチック・チック・チックの来日が、その直後にはバトルズの来日が控えているので、えーっと、つまり、10月30日から11月6日までの8日間、誰かしら〈Warp〉のアクトが列島のどこかで公演をおこなっているという状況だ(さらに、その約1ヶ月前の9月26日にはフライング・ロータスも来日する)。これはもう祭りと呼んで構わないだろう。みんなで盛大に〈Warp〉30周年を祝おうではないか。

 10/30 (水) !!! [LIVE] @京都
 10/31 (木) !!! [LIVE] @大阪
 11/01 (金) !!! [LIVE] @東京
 11/01 (金) Squarepusher / OPN / Bibio [DJS] @東京
 11/02 (土) Squarepusher / OPN / Bibio [DJS] @京都
 11/03 (日) Squarepusher / OPN / Bibio [DJS] @大阪
 11/04 (月祝) Battles [LIVE] @東京
 11/05 (火) Battles [LIVE] @大阪
 11/06 (水) Battles [LIVE] @名古屋

[10月29日追記]
 本日、《WXAXRXP DJS》の全出演者とタイムテーブルが発表されました。詳細は下記をチェック!

■11.1 TOKYO
Squarepusher / Oneohtrix Point Never / Bibio
agraph / Seiho / 真鍋大度 / Licaxxx

■11.2 KYOTO
Squarepusher / Oneohtrix Point Never / Bibio
原 摩利彦 / Ken'ichi Itoi

■11.3 OSAKA
Squarepusher / Oneohtrix Point Never / Bibio
原 摩利彦 / D.J.Fulltono



[10月31日追記]
 なんと! 開催直前になって新たな情報が届けられた。いよいよ明日スタートとなる《WXAXRXP DJS》の東京公演にて、エイフェックス・ツインの最新ライヴ映像が世界初公開される! 9月20日にマンチェスターでおこなわれたライヴの映像で、昨年“T69 Collapse”のMVを手がけた Weirdcore がわざわざ今回のイベントのために制作、90分以上にもおよぶ作品になっているとのこと。上映は会場1階の DUO にて。いやはや、なんとも贅沢な一夜になりそうだ。

〈WARP RECORDS〉30周年!
"ワープサーティー" の全貌が明らかに!
スクエアプッシャー、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、ビビオが日本に集結し、3都市を巡るスペシャルパーティー開催決定!
スペシャルDJセット、ポップアップストア、映像作品上映などなど、偉大なる歴史をセレブレート!



先鋭的アーティストを数多く輩出し、クリエイティブかつ衝撃的なMVやアートワークの分野においても、音楽史に計り知れない功績を刻み続け、今年30周年を迎えた〈WARP RECORDS〉。その偉大なる歴史を祝し、スクエアプッシャー、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、ビビオが一堂に会するスペシャルDJツアー『WXAXRXP DJS (ワープサーティーディージェイズ)』を東京~京都~大阪で開催決定!

『WXAXRXP (ワープサーティー)』をキーワードに、様々なイベントが行われている2019年。6月には、東京、大阪、 京都の3都市でポップアップストアが開催され、本国では「NTS Radio」とコラボレートしたオンライン音楽フェスも行われた。今回開催が決定した『WXAXRXP DJS (ワープサーティーディージェイズ)』は、同じくレーベルの主要アーティストであり、いずれも待望の最新作をひっさげて来日するフライング・ロータス、!!!(チック・チック・チック)、バトルスの単独来日公演に続くもので、『WXAXRXP (ワープサーティー)』シリーズの集大成となる。

本イベントではスクエアプッシャー、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、ビビオが集結し、スペシャルDJセットを披露する他、限定作品やグッズが買えるポップアップストア、30年にわたるレーベルの歴史を彩る映像作品の上映なども予定されており、まさに〈WARP RECORDS〉の祝祭!

これにより、10月30日よりスタートする!!!(チック・チック・チック)ツアー、それに続くバトルスのツアーと合わせ、全9公演が8日間に渡って、東京、名古屋、京都、大阪の4都市を駆け巡ることとなる。完売必至。チケットの確保はお早めに!

なお、フライング・ロータス公演/!!!(チック・チック・チック)ツアー/バトルスツアー/『WXAXRXP DJS』ツアーより2公演以上にご参加の方を対象に、各会場のポップアップストアにてお買い上げの合計金額からプライスオフとなるクーポンプレゼントキャンペーンも実施!

■2公演 ⇨ 10% OFF!
■3公演 ⇨ 20% OFF!
■4公演以上 ⇨ 30% OFF!

詳しくは、CD・レコードショップ、ライブハウス、クラブなどで配布される『WXAXRXP』フライヤーおよび冊子、WXAXRXP特設サイトをチェック!


タイトル:
WXAXRXP DJS
ワープサーティーディージェイズ

出演:
SQUAREPUSHER (DJ Set),
ONEOHTRIX POINT NEVER (DJ Set),
BIBIO (DJ Set)

and more

その他コンテンツ:
WXAXRXP POP-UP STORE,
30 YEAR VISUAL HISTORY OF WARP

and more

東京
公演日:2019年11月1日(金)
会場:O-EAST / DUO

京都
公演日:2019年11月2日(土)
会場:CLUB METRO

大阪
公演日:2019年11月3日(日)
会場:SUNHALL

OPEN / START:23:00
料金:前売¥5,500 (税込)
※20歳未満入場不可。入場時にIDチェック有り。写真付き身分証をご持参ください。

[チケット発売]
先行発売:
主催者WEB先行 9/14 (土) 0時~
BEATINK (e-ticket) https://beatink.zaiko.io/_buy/1kVr:Rx:ac436

9/17 (火) ~
イープラス最速先行:9/17 (火) 正午12:00 ~ 9/22 (日) 18:00

一般発売:9/28 (土) ~
イープラス、ローソンチケット、チケットぴあ、BEATINK、iFLYER 他

WARP30周年 WxAxRxP 特設サイトオープン!

音楽史に計り知れない功績を刻み続ける偉大なる音楽レーベル〈WARP〉の30周年を記念した特設サイトが公開中! これまで国内ではオンライン販売されてこなかったエイフェックス・ツインのレアグッズや、大竹伸朗によるデザインTシャツを含む30周年記念グッズなどが好評販売中。完売のアイテムも出始めているため、この機会をぜひお見逃しなく!

https://www.beatink.com/user_data/wxaxrxp.php

!!! - WALLOP JAPAN TOUR -
前売りチケット絶賛販売中!

東京公演:2019年11月1日(金) O-EAST
OPEN 18:00 / START 19:00
前売¥6,500 (税込/別途1ドリンク代/スタンディング) ※未就学児童入場不可
主催:SHIBUYA TELEVISION
INFO:BEATINK 03-5768-1277 / www.beatink.com

京都公演:2019年10月30日(水) METRO
OPEN 19:00 / START 20:00
前売¥6,500 (税込/別途1ドリンク代/スタンディング) ※未就学児童入場不可
INFO:METRO 075-752-2787 / info@metro.ne.jp / www.metro.ne.jp

大阪公演:2019年10月31日(木) LIVE HOUSE ANIMA
OPEN 18:00 / START 19:00
前売¥6,500 (税込/別途1ドリンク代/スタンディング) ※未就学児童入場不可
INFO:SMASH WEST 06-6535-5569 / smash-jpn.com

label: WARP RECORDS / BEAT RECORDS
artist: !!!
title: Wallop
release: 2019.08.30 FRI ON SALE

国内盤CD BRC-608 ¥2,200+tax
国内盤特典:ボーナストラック追加収録/解説・歌詞対訳冊子封入

BATTLES - JAPAN TOUR 2019 -
SUPPORT ACT: TBC

前売¥6,800(税込/別途1ドリンク代/スタンディング)
※未就学児童入場不可

東京公演:2019年11月4日(月・祝日)
GARDEN HALL

OPEN 17:00 / START 18:00
主催:SHIBUYA TELEVISION
INFO:BEATINK 03-5768-1277

大阪公演:2019年11月5 日(火)
UMEDA CLUB QUATTRO

OPEN 18:00 / START 19:00
INFO:SMASH WEST 06-6535-5569 / smash-jpn.com

名古屋公演:2019年11月6日(水)
NAGOYA CLUB QUATTRO

OPEN 18:00 / START 19:00
INFO:BEATINK 03-5768-1277

label: WARP RECORDS / BEAT RECORDS
artist: BATTLES
title: Juice B Crypts
release date: 2019.10.11 FRI ON SALE
日本先行リリース!

国内盤CD BRC-613 ¥2,200+tax
国内盤CD+Tシャツ BRC-613T ¥5,500+tax
ボーナストラック追加収録/解説・歌詞対訳冊子封入

輸入盤CD WARPCD301 ¥OPEN
輸入盤2LP カラー盤 WARPLP301X ¥OPEN
輸入盤2LP WARPLP301 ¥OPEN

 初夏に問題作『Age Of』をリリースし、さまざまな議論を呼び込んだOPN。いよいよその来日公演が迫ってきました。先だって開催されたニューヨーク公演やロンドン公演で、ダニエル・ロパティンはそれまでのラップトップ1台のスタイルを手放し、ケリー・モーラン、アーロン・デイヴィッド・ロス、イーライ・ケスラーとともに4人編成のアンサンブルを披露しています。来る9月12日の東京公演も同じメンバーによるショウです。心機一転、バンド編成となったOPNのライヴの魅力はどんなところにあるのか? じっさいにロンドン公演を体験したUK在住の髙橋勇人に、そのときの様子を振り返ってもらいました。

OPN最新作『Age Of』のファースト・シングル曲“Black Snow”は、「加速主義」で知られる哲学者ニック・ランドのCCRUから影響を受けているということで話題になったけれど、あの曲のどこらへんにそれが表れているのかというのは気になりますね。

髙橋勇人(以下、髙橋):あれはですね、こないだ元CCRUのスティーヴ・グッドマン(コード9)に会ったときも話したんですけど、OPNはランドとかCCRU周辺の人の思想を具体化するプロセスを重視しているわけではなくて、彼らのポエティックな部分、イメージの部分にフォーカスしているのである、というのが僕の意見で、スティーヴもそれに同意してくれました。そのスティーヴもOPNのロンドン公演を観に行っていたんですよね。

コード9がOPNを。

髙橋:ちょうどいまロンドンでは、ローレンス・レック(Lawrence Lek)というコンピュータ・アーティストのインスタレイション「Nøtel」(https://www.arebyte.com/)がやっているんですけど、そのコンセプトと音楽を担当したのがスティーヴ・グッドマンなんですね。そのテーマが、完全に加速主義なんですよ。スティーヴ本人も「加速主義がこの作品の全篇を貫いている」と言っています。その展覧がOPNのアルバムと共振するところがあって、OPNの作品のテーマは人間が滅んだあとの世界ですよね。レックのインスタレイションも人間が滅んだあとの世界の話なんですよ。『ele-king vol.22』で毛利先生がおっしゃっていたように、シンギュラリティのあとの世界ですよね。科学技術が一定の水準に達して、そこから左派に行くか右派に行くかで大きく分かれるわけですが、コード9によれば、加速主義に関する左派と右派の議論にうんざりしてるところがあると。そこで人間が絶滅したあとの世界を描くことによって、その右左の対立をぶっ壊す、というような狙いがあるそうです。

人間後の世界という点では共通しているわけですね。

髙橋:でもOPNとコード9の加速主義、人間のいない世界の捉え方はけっこう違っていて、コード9はかなり具体的にフィクションとして考えているんですね。未来のどこかで中国人の頭の切れる企業家が、エリート層・リッチ層向けのホテル・チェーンを世界各地に作るんですよ。そこはAIが管理している。サイバーセキュリティ完備で給仕がドローンなんですね。それがシンギュラリティですね。技術がハイパーに加速して、人間が働かなくてよくなった。加速主義の議論のなかでは、そうすると「ポスト労働」が到来するといわれている。人間の代わりに機械が働くというコンセプトですが、コード9はそれを一歩進めて、人間もいなくなる。その理由は、コード9にもわからない。なぜ人間がいなくなったかわからない世界の話なんだよ、と。戦争や災害などで全滅してしまったのかもしれないし、人類自らが消えることを選択したのかもしれない。いずれにせよこのインスタレイション作品で描かれるのは、人間がいなくなって、ロボットがロボットのために働いている世界。会場のギャラリーにはいくつかの大きなスクリーンとプレステのコントローラーがおいてある。ドローンを操作して、その視点をとおして、人間が消え去った世界にあるホテルの内部にアクセスしつつ、そこがどうなっているのかを探索するという、体験型インスタレイションなんです。そのコンセプト自体は、2015年のコード9のアルバム『Nothing』の頃からあったものなんですが、このフィクションの最後では、ドローンが働くのをやめて、どこかに行っちゃうんですよ。最終的には、労働自体が終わっちゃう。だから加速主義の議論だけではなくて、「働くこととは何か」「人間はなぜいなくなったのか」と、いろいろと考えさせるフィクションなんですね。

そういったヴィジョンと比べると、OPNのほうはもっと軽いわけですね。

髙橋:OPNの場合は、たとえば“Black Snow”は、たぶん放射能のメタファーだと思うんですが、それが降ってきて、秩序もなくなって、「どうすることもできないよね」という終末的状態のふんわりとしたイメージにとどまっているというか。政治、思想、社会、国家、技術などあらゆる角度から世界の終わり方について、ニック・ランドが書いているテキストで「Meltdown」(1994)というのがあるんですが、そこで描かれるイメージを翻訳して、うまく音楽に移し変えてやっているという感じがします。


なるほど。それで、OPNのライヴを体験してみて、どうでしたか?

髙橋:最前列で観たんですよね。

おお。

髙橋:ちなみに、僕がOPNをリアルタイムで聴いたのは、『Replica』(2011)からなんですね。そのなかに入っている“Replica”は、僕は90年生まれなんですけど、この世代にとってのアンセムのひとつなんですよ。あのアルバムが出た年に僕はスコットランドのグラスゴーに住んでいましたが、ホーム・パーティとかクラブから帰ってきてみんなでお茶を飲んでいるときとかに流れていました。上の世代がエイフェックス・ツインを聴くように、こっちの大学生はみんなOPNを聴くという感じで。寂しげで退廃的なあの感じが空気とマッチしていたんでしょうね。同年に出たジェイムス・ブレイクのファーストにも少し通じるものがありました。

こっちでも、やっぱり『Replica』の頃のOPNのファンは多いみたいで、いまでもあのときのサウンドが求められているフシはあるんだよね。でも本人は同じことを繰り返したくないから、それはしないという。

髙橋:なるほど。ちなみに、僕はそれほどOPNのファンというわけではないんですよ。

だと思う(笑)。

髙橋:理由は自分でもよくわかんないんですけどね(笑)。『Replica』よりあとのOPNってサウンドがけっこう変わりましたよね。お父さんから譲ってもらったという、URとかデトロイトの人たちがよく使っていたローランドのJUNO-60がしばらくメインのシンセでしたが、『R Plus Seven』(2013)あたりからソフトウェア・シンセのオムニスフィア(Omnisphere)を導入したり。
それから今回のOPNの新作は、人間がいなくなって、AIがその文明の記憶を眺めている、みたいな話ですよね。でも彼は、以前『Zones Without People』っていうアルバムを出しています。

2009年の作品だね。いまは編集盤『Rifts』に丸ごと収録されている。

髙橋:内容も題名どおりで。だから、人間のいなくなった世界というテーマはまえからあったんですよ。だから、いつ頃からOPNがそのテーマに関心を持っていたのかっていうのはわかりませんが、そのコンセプトが改めていま『Age Of』という形になったんだなと。

UKでのOPNってどういう立ち位置なんですか?

髙橋:こっちにもやっぱり、熱狂的なOPNファンがいますね。音楽の作り手であることが多いですけどね。アルバムごとに「OPNはあのシンセを使っている」みたいなことを細かく調べているファンが少なからずいます。〈Whities〉っていうレーベルがありますよね?

ラナーク・アーティファックスを出している。

髙橋:今回僕は、そこからSMX名義でシングルを出したサム・パセール(Samuel Purcell)っていうプロデューサーと一緒に観に行ったんですけど、彼なんかも熱狂的なOPNのファンで。そういう、クリエイターでこのライヴを観にきていた人が多かったですね。〈Whities〉のデザインをやっているアレックス(Alex McCullough)も来ていましたし、もちろんコード9もですし。

他のオーディエンスはどういう層なの? 若い子が多い?

髙橋:いやもう若いですね。20代前半から半ばくらいがメインで。あと、これは重要だと思うんですが、ほとんどの客が白人ですね。ブラックやアジア系の人はあんまりいなかった。ちなみに会場はバービカン・センターというところで、2015年にJ・G・バラードの『ハイ・ライズ』が映画化されましたけど、そのとき監督のベン・ウィートリーが建物の参考にした施設ですね。

そういう捉え方なんだね(笑)。

髙橋:(笑)。建築がけっこうかっこよくて。イギリスで60年代くらいまで流行っていた、ブルータリズムという様式で。

よく電子音楽とか現代音楽系のイベントをやっているよね。

髙橋:そうです、こないだは坂本龍一さんがアルヴァ・ノトとやっていました。去年はポーランドの音楽フェスの《アンサウンド》が出張イベントを開催してケアテイカーが出演したり。ジャズもやっていますね。ファラオ・サンダーズとか。『WIRE』で評価されているような人たちはだいたいそこで演る、みたいな感じですね。

なるほど。そういう場でOPNもやることになった、と。

髙橋:キャパはたぶん2000人くらいなんですけど、OPNのときはけっこう早くにソールドアウトになっていましたね。

それで、そのライヴがかなり良かったんでしょう?

髙橋:じつは正直に告白すると、僕は『Age Of』はそれほど好きじゃなかったんです。でもライヴはすごく良かったんですよ。単純に音がデカくて良かったというのもありますが(笑)。

NYもそうだったけど、今回のアルバムのライヴはバンド編成なんだよね。

髙橋:目玉のひとつはやっぱりイーライ・ケスラー(Eli Keszler)ですね。最近〈Latency〉から出たローレル・ヘイローのアルバム『Raw Silk Uncut Wood』にもドラムで参加している。

ローレルの前作『Dust』(2017)にも参加していたよね。

髙橋:イーライはアヴァンギャルド系の音楽全般をやっているみたいで、僕のイギリス人の友人にジャック・シーン(Jack Sheen)っていう25歳くらいの、現代音楽の作曲家がいるんですけど、その彼とも友だちのようです。今回のOPNのライヴではそのイーライがドラムを担当していて、プログラミングはゲイトキーパー(Gatekeeper)のアーロン・デイヴィッド・ロス(Aaron David Ross)。それにキイボードのケリー・モラン(Kelly Moran)という、4人編成でしたね。ステージ上は、いちばん左がドラム、その隣りがプログラミング、その隣がOPNで、いちばん右にケリーという並びでした。

OPNは何をやっているの?

髙橋:シーケンサーをいじったり、歌ったりですね。僕は、事前情報をまったく調べずに行ったんですね。だから、てっきりラップトップ1台でやるんだと思っていて。で、すごいオーディオ・ヴィジュアルが流れるんだろうなと。でも、バンドだったので驚きました。

3年前のリキッドのときもラップトップだった。今回バンド編成になったのはけっこう大きな変化だと思う。

髙橋:あと映像ですね。ヴィジュアル面もけっこう大事で。アメリカ人ヴィジュアル・アーティストのネイト・ボイス(Nate Boyce)が担当していて、ステージ上にオブジェがぶら下がっているんです。左と右に、ぜんぜん違う形のものが。それが曲の進行に合わせて、光が当たって見え方が変わっていく。それでステージ上にはスクリーンもあるんですが、分割されてばらばらの状態になっているんですね。ガラスが割れて粉々になった感じで、不規則な形をしているんですが、おそらくコンサートのタイトルである「MYRIAD」とリンクしている。これはOPNが作った概念だと思うんですけど、「コンサートスケイプ(concertscape)」っていうワンワードの言葉があって。

「サウンドスケイプ」のコンサート版みたいな。

髙橋:そういうコンサートスケイプがたくさんある、ということなんだと思います。「myriad」って「たくさん」という意味だから。異なるいろんな分子がそのコンサートのなかでひとつに結実する、というようなコンセプトなんだと思います。それでそのスクリーンには、オブジェクトがたくさん映されます。それは人間ではないんですね。人形とか、誰も住んでいないビルとか、“Black Snow”のMVに出てきた鬼みたいなキャラクターのマスクとか。そういったものがたくさん映される。しかも、それはぜんぶCGのアニメなんですね。

へえ! 動物は出てくるの?

髙橋:動物も出てこないです。モノですね。

車とか?

髙橋:そうです。そういう、いろんなオブジェクトが出てきます。あとステージ上にもオブジェクトがあって、古代ギリシアの彫刻みたいな感じなんですが、どれも「残骸」みたいな感じなんですね。『Age Of』に照らし合わせると、おそらく「文明の残骸」みたいなものだと思うんですが。それがばらばらに散らかっている。そこで、ひとつ疑問が出てくるわけですよ。

というと?

髙橋:“Black Snow”のMVにはダンサーたちが出てきますよね。それが、ライヴにも出てきたんですよ。ステージの後ろからダンサーが現れて、客席の通り道を抜けて、ステージに上がっていって踊って、また降りて退場していくという。だからそこで、「なんでダンサーが出てくるんだろう?」って思うわけですよ(笑)。文明が滅んだあとの世界を描くのなら、徹底して人間は排除したほうがいいのに。

たしかに。

髙橋:さらに言うと、人間が滅んだあとなのに、ステージ上にはバンドの4人がいるという。こんなに人がいていいのかと(笑)。だから、どういうふうにコンセプトを練っているのかというのは、けっこう考えさせられましたね。それともうひとつ気になったのは、今回のライヴが「文明が崩壊したあとに、残されたAIが人間の営みの記憶や記録を眺めている」というコンセプトだとしたら、このライヴの場にいる観客たちは、どういうふうにしてその世界が終わったあとの光景を見ているのか、あるいはどうやってそこにアクセスしているのか、っていう視点の問題も出てくると思うんです。

観測者の問題ね。

髙橋:さっきのコード9の例だと、視点の問題はぜんぶドローンに丸投げしているわけですよ。すべてを見ているのは近未来のドローンで、そのドローンから現代に送られてくる情報をとおして、われわれはその世界を見ている。じゃあ、OPNの場合は、どうなのか。視点はAIですけど、ではそのAIの視点にどうやっていまの人間がアクセスしているのか。たぶんOPN本人はそこまで考えていないと思うんですが、気になるポイントではありますよね。誰がどうやって見るのかというのは重要なことだと思うので。現代思想の流れで言えば、思弁的実在論に括られる哲学者たちは、文明が崩壊したあとの世界が存在するとして、どうやってそれにアクセスすることができるかというのを真剣に考えていますし。

サウンド的な面ではどうだったの? その場のインプロみたいなものもあったのか。

髙橋:そこはイーライ・ケスラーがすごかったですね。イーライのドラムのために設けられた時間があって、そこでひたすら叩きまくるという。ダイナミックというよりはすごく繊細なプレイで、引き込まれました。何等分にも刻まれたリズムが空間に吸い込まれていくような……。彼のソロのときはスポットライトも彼だけに当てられて。

じゃあ、バンドで忠実にアルバムを再現するという感じではないんだ。

髙橋:いや、忠実には再現されていたと思います。ただぜんぶがシーケンサーとMIDIで、というわけではない。でも、だからこそやはり気になるのは、ダンサーと同じで、なぜそこで人間を使ったのかということですよね。その時間は人間のインプロに焦点を当てたともとれますし。

イーライ・ケスラーという人間にフォーカスしていたと。

髙橋:あともうひとつおもしろかったのは、ダニエル・ロパティンがヴァイオリンの弓を使っていて。

ダクソフォンかな。“Black Snow”でも使われていた。

髙橋:それが良い意味でけっこう耳ざわりな音で。それにエフェクトをかけている。録音作品としての『Age Of』を聴いているときはそれほど気にならなかったそれが、ライヴでは目立っていましたね。しかも、その弓や楽器をOPNが弾いているあいだ、個人的には彼が観客に向かって指を差しているように見えるんですね。この指を差す行為って、“Black Snow”のMVの冒頭でも防護マスクをかぶった人が視聴者に向けてやっていたことですけど、2011年に話題になった、事故後の福島第一原発の現場の様子を映すウェブカメラに向かって指を差す、防護服に身を包んだ作業員の映像があって、たぶんそれがOPNの元ネタだろうと思います。あの作業員は匿名のままですが、アーティストの竹内公太がその作業員の「代理人」として自身の展覧会「公然の秘密」(2012)でその映像を上映しています。元CCRUの批評家コドゥウォ・エシュンが参加するアート・コレクティヴ、オトリス・グループの福島についての映像作品『The Radiant』(2012)でもあの映像は使われていますね。

OPNはそういった福島に関する映像を参照している、と。

髙橋:なので、ああやって弓を弾く行為ってなんなのかな、というのは気になるところでしたね。“Black Snow”のMVでも、怪物が地球の写真を弓で弾くシーンがありましたけれども。ダクソフォンはあくまで機材だから、自由な場所に設置できるはずで、弓や楽器の先端を観客席に向ける必要はない。それも疑問のひとつでしたね。

NYでの公演ともけっこう違ったのかしら。

髙橋:豪華さでいうと、NYのほうが上だと思いますよ。あっちはヴォーカルでプルリエント(Prurient)とチェロでケルシー・ルー(Kelsey Lu)まで出演したらしいですから。ロンドン公演だから、ジェイムス・ブレイクが出てきてもいいんじゃないかなと思っていたんですけど、それはありませんでした。前座だったミカチュー(Micachu)とコービー・シー(Cobey Sey)が率いるバンドのカール(Curl)はカッコよかったですけど。ちなみに僕はケルシー・ルーの大ファンなので、素朴にNY公演観たかったですね(笑)。エンバシとかクラインとも仲が良い人で、チーノ・アモービも大好きだって言ってました。

なるほど(笑)。ともあれバンド編成になったことで、いろいろ問いを投げかける感じになっていたということですね。OPNといえばPC 1台でがしがしやっていくと思っている人も多いと思うので、今回はバンドであるという点は強調しておきたい。

髙橋:PC 1台とはぜんぜん違う感じですね。それこそ、プログレッシヴ・ロックのライヴみたいな感じで、コンセプトのことなんか忘れて見いってしまうほど音響や映像がものすごく壮大です。ロパティンのキャラもチャーミングで、曲がシームレスに進むわけではなくて、ちゃんとMCで笑いをとったりしますからね(笑)。

ふつうに人間味あふれるライヴをやっているじゃない(笑)。

髙橋:そうなんですよ。本人もけっこう歌っていますし。坂本龍一さんやele-kingのレヴューでも、その肉声が良い、みたいな話が出ていましたけど、でもかなりオートチューンが効いているんですよ。自動でピッチを変換してくれる、ちょっとロボっぽい感じです。だから、完全に肉声というわけではないんですが、『Age Of』における「人間性」を考察する上でそこも考えさせられるところではありましたね。

僕はOPNの芯のようなもののひとつに、声に対する執着があると思っているんだけど、『Replica』ではそれがサンプルの音声だったのが、『R Plus Seven』では聖歌的なものになって、『Garden Of Delete』(2015)ではボカロ、そして『Age Of』では自分自身の声になるという。

髙橋:ロパティンは、意外と声が良いんですよ。そこも聴きどころかなとは思います。

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(OPN)のブッ飛びライブ『M.Y.R.I.A.D.』日 本上陸まで2週間!
真鍋大度がサポートアクトとして出演!

ONEOHTRIX POINT NEVER
"M.Y.R.I.A.D."
2018.09.12 (WED) O-EAST
SUPPOT ACT: 真鍋大度

ONEOHTRIX POINT NEVER "M.Y.R.I.A.D." イベントスポット動画
https://youtu.be/gXg_PUfF0XU

いよいよOPNの最新ライヴセット『M.Y.R.I.A.D.』日本上陸まで2週を切った。
追加公演含め即完したニューヨーク3公演、英ガーディアン紙が5点満点の最高評価を与え、完売したロンドン公演に続いて、遂に東京に『M.Y.R.I.A.D.』が上陸する。その後ベルリン、フランス、10月にはロサンゼルス、さらに来年3月には会場をスケールアップし再びロンドンで追加公演が行われることが決定するなど、世界的にその注目度と評価は高まる一方だ。
強力なバンド体制で行われる本ライヴは、本人ダニエル・ロパティンに加え、ケリー・モーラン、アーロン・デヴィッド・ロス、そしてアルバムにも参加している気鋭パーカッショニストでドラマーのイーライ・ケスラーを迎えたアンサンブルとなり、さらに複数の変形スクリーンを用いたネイト・ボイスによる映像演出と、幻想的で刺激的な照明とダンサーを加えた、まさに前代未聞、必見のパフォーマンスとなる。日本での一夜限りの東京公演は、9月12日(水)渋谷O-EASTにて開催。そして当日はサポートアクトとして世界を股にかけ活躍を続ける真鍋大度が、OPNとそのファンに送るスペシャルなDJセットを披露する。

公演日:2018年9月12日(WED)
会場:渋谷 O-EAST

OPEN 19:00 / START 19:30
前売¥6,000(税込/別途1ドリンク代) ※未就学児童入場不可

前売チケット取扱い:
イープラス [https://eplus.jp]
チケットぴあ 0570-02-9999 [https://t.pia.jp/]
ローソンチケット (Lコード:72937) 0570-084-003 [https://l-tike.com]
clubberia [https://clubberia.com/ja/events/280626/?preview=1]
iFLYER [https://iflyer.tv/ja/event/305658]

企画・制作: BEATINK 03-5768-1277 [www.beatink.com]

https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=9577

Oneohtrix Point Never - ele-king

 作者が死んだのはちょうど50年前のことである。テクストは作者の考えていることを表したものではないし、ましてや作者の人間としての内面を吐露したものなどでは断じてない。テクストは引用の織物であり、内面なんてものはそれが言語によってしか説明されえない以上、すべて事後的に構成されるものである。
 もちろん、そのように人間を縮減していく試みは、19世紀の終わりから20世紀半ばにかけて何度も試みられてきた。詩人は言葉に主導権を譲らねばならないと主張した詩人、書物は日常生活を営む自我とはべつの自我によって生み出されると考えた小説家、ゲームや無意識など主体のコントロール外にある偶然的要素を創作に活かそうとした文学・美術グループ、あるいは「この女」と言うためにはその女から実態を剥奪し殺戮してしまわなければならないと説いた批評家。けれど、よりわかりやすい形で人間としての作者に死が与えられたのは、やはり1968年ということになるだろう。ようするにそれは、なんらかの対象について語るとき、それを生産した人間に着目するのはいい加減やめませんか、という提案である。そのような反人間的な発想が現れてから、もう半世紀ものときが流れたのだ。
 どうやらワンオートリックス・ポイント・ネヴァーことダニエル・ロパティンもまたこの問題について考えを巡らせることがあったようで、先日公開された最新インタヴューにおいて彼は、われわれはついつい「この人間そのものの表現だ」と思えるような「苛烈なまでにパーソナルな表現」を賞賛しがちだけれども、自分は「演奏する人間が排除されている」ような「音楽機械」にこそ心惹かれる、と語っている。つまり、いままさにここでおこなわれているように、彼という人間をとおして彼の鳴らす音を説明しようとするのはもうやめませんか、ということである。たいせつなのは人間じゃなくてそこで鳴っている音でしょうよ、というわけだ。アンチ・ヒューマニズムである。

 とはいえOPNは、その発言によって自らの作品をパフォーマティヴに変容させていくタイプのアーティストでもある(同じインタヴューで彼が録音物ですら変化しうると言っているのは、そういう外在的な効果を念頭に置いてのことだろう)。その作品の強度と発言をつうじて、いまや10年代でもっとも重要な電子音楽家と言っても過言ではないほどの存在にまでのぼり詰めたOPN、あまりに大きな期待を背負って発表されたその8枚目のアルバムは、われわれの予想をはるかに超えるアイディアとサウンドをもって、いまふたたび彼のキャリアを更新している。
 どきどきしながら再生ボタンを押すと、すぐさまチェンバロの音が耳に飛び込んでくる。その響きと音階はバロック音楽の雰囲気を醸し出しているが、そのムードは幾度か差し挟まれる叫びとノイズ、そして中盤で30秒ほど挿入されるインスト・ポップ・バラードとでも呼ぶべき謎めいたパートによって破壊されてもいる。異なる時代を強制的に接合するコラージュ。冒頭のこの表題曲の時点ですでにロパティンの勝利は確定したも同然だが、続けざまに「バビロ~ン♪」という加工された音声が流れてくるのを耳にした瞬間、われわれはさらなる驚異と遭遇することになる。歌である。それも、ダニエル・ロパティン本人による歌だ。
 その旋律はポップ・ソングによくある「いかにも」な進行を見せる。押韻もわかりやすい。途中でプルーリエントによるスクリームが挿入されるものの、それでも曲はクリシェであることを全うしようともがき続ける。「ヘルプ・ミー」という高い声が乱入する。クレジットを確認して初めてそれがアノーニによるものであることがわかる。助けて。しかしロパティンは歌うことをやめない。「わかったよ/なんで君が僕らがバビロンにいると思うのかを」。助けて。「わかったんだ/なぜ君がこのバビロンから離れられないのかを」。そしてトラックは解決らしい解決を見ないまま唐突に終わりを迎える。バビロン。それはいったいなんの比喩だろう。インターネットか。資本主義か。それとも、常世すべてか。

 OPNらしい鍵盤とシンセが横溢する3曲目へと至ってようやく、われわれはこれがあのOPNの新作であることを思い出す。アッシャーのために書かれながらもアッシャーには使ってもらえなかったという“The Station”は、前半のロパティンによる歌を否定するかのようなミニマルなギター音の反復をもってリスナーに先を急がせる。ミュージシャンがよく口にする「架空のサウンドトラック」というクリシェを試したという“Toys 2”は、卓球のような具体音と『アール・プラス・セヴン』で展開されていた賛美歌風音声ドローンの断片、『ガーデン・オブ・ディリート』のような強烈なノイズと東洋風の旋律によるかき乱しを経て、初期のOPNを思わせる穏やかなシンセ・ミュージックを響かせる。そしてアルバムは先行公開された問題曲“Black Snow”へ到達する。吐息とフィンガースナップに誘導され、「盲目のヴィジョン/盲目の信念」と、ロパティンは静かに歌いはじめる。リリックはニック・ランドが設立に関わったCCRUの論集からインスパイアされている。バッキングに徹するアノーニ。東洋的なモティーフとノイズの手前で、ダクソフォンが不気味な唸りを上げる。

 アルバムはふたたびチェンバロを呼び込み、大規模なアート・プロジェクトを成功させるためには金融業者と仲良くならなければならないことを諷刺した小品“myriad.Industries”をもって、その後半を開始する。『R+7』の延長線上にあるトラックのうえでプルーリエントが雄叫びをあげる“Warning”や、ミュジーク・コンクレートとインダストリアルを同時に試みたかつてない作風の“We'll Take It”、ようやくアノーニがそれらしい歌声を披露する“Same”など、最後まで聴き手を飽きさせないトラックが続く。『R+7』から目立ちはじめ、『GOD』において突き詰められた、ポップ・ミュージックのメタ的な解体作業。『エイジ・オブ』ではそれがより尖鋭的な手法をもって実践されている。あるいは逆の見方をすればそれは、いわゆる大きな物語が機能しなくなり、幾千の島宇宙がそれぞれに閉じたサークルを形成するポストモダン以降の情況にあって、電子音楽の冒険を電子音楽ファンのなかでのみ完結するものにはしないという強い意志と捉えることもできる。
 ともあれ本作の肝をなす自身の歌唱と、アノーニやプルーリエントといったゲストの参加、あるいはダクソフォンの活用は、前作でチップスピーチを導入していたロパティンにおける声への志向性が、いま、ますます高まっていることを示している。けれどもそれらの声は著しく加工され変調され切り刻まれ、歌い手のキャラクターを尊重しない。声そのものへのアプローチを突き詰めつつもロパティンは、けっしてその人間性には依拠しようとしないのである。それはたとえばジェイムス・ブレイクの起用法にも表れていて、あくまでも彼はキイボーディストおよびミックス・エンジニアとして参加しているにすぎない。
 ロパティンはこれまでも本名名義での作品やプロデュース作品、あるいはサウンドトラックやリミックスなどでじつにさまざまな相手とコラボを繰り広げてきたわけだけれど、他方で自身のメイン・プロジェクトであるOPN名義のソロ・アルバムにゲストを招くことだけは頑なに拒み続けてきた。多くの客人を招待した『エイジ・オブ』はだから、彼のディスコグラフィのなかで大きな転機となるはずで、であるならばいっそ大々的にアノーニやジェイムス・ブレイクの歌声をフィーチャーしたポップ・ソングを作ってもよかったはずである。だがロパティンはそうしなかった。それにはおそらく、現在の彼が人間に対して抱いている二律背反的な、複雑な思いが関与しているのだろう。
 アノーニとの口喧嘩を経て、自分はニヒリストなのかと問いはじめたところからすべてがスタートしたという本作は、他方でわざわざクレジットにCCRUの名を掲げてもいる。ロパティンは揺れている。半分は無意識的に、そしておそらく半分はきわめて意識的に。思い出そう、先に引いたインタヴューにおいて彼が、人間が排除されたような「音楽機械」もまた「とても人間的なものに感じられる」と述べていたことを。「ハートから生み出された感じがする、そういう音楽」こそが好きなんだと、それこそクリシェのような発言をしていたことを。そしていままさにわれわれは、彼という人間をとおして『エイジ・オブ』を理解しようと試みている。

 いまさら人間に全幅の信頼を寄せるようなかつての発想には戻れないし、戻るべきでもない。かといって人間の縮減ないし抹消によってもたらされる種々のほころびをそのまま歓迎することもできない。急速にテクノロジーが変容し、人工知能や人新世といったタームが脚光を浴びる今日、人間と反人間とのあいだで揺れ動く現代、ポストモダンという言葉さえレトロスペクティヴに響き「ポスト・ポスト」という言い回しでしか名指すことのできないこの時代、それこそが『エイジ・オブ』の切り取ろうとしている生々しいバビロンの姿だろう。「オブ」以下が言葉を欠き、大いなる余白を残すゆえんである。

小林拓音

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 その人が資本主義の犠牲者だろうとそうじゃなかろうと、音楽には2種類ある。ひとつは気持ち良ければある程度は完結する音楽=EDM、AOR、MOR、シティ・ポップ、ほとんどのハウスとテクノとヒップホップ、多くのポップスやロックやファンクやジャズ……etc。もうひとつは気持ち良いだけでは物足りないと思っている人の音楽だが、OPNは後者を代表する。ポップのフィールドにおいて、いまこの人ほど思わせぶりな音楽をやってのけている人はいない。

 たとえば『リターナル』というアルバムがある。19世紀のフランスの画家、アンリ・ルソーに触発されたという話はファンの間では知られているのだろうが、ただしダニエル・ロパティンの解説によれば、それはルソーの絵画そのものに触発されたというよりも、自分が行ったことのない風景を人からの伝え聞きによって描いたというルソーの行為への関心によってもたらされている。それは、実際にアフリカを旅行してアフロをやるのではなく、自分が伝え聞いたアフリカをもとにアフロをやるということで、メディアによって拡張された身体が感応しうる世界を捉えるこということだろう。が、あの作品を聴いただけでそこまで想像できるリスナーがいるのだろうか。ロパティンは、自らの言葉で自らの作品に仄めかしを授け与える(その観点でいけばザ・ケアテイカーと似ているし、自己解説が作品に付加価値を与えるという点ではイーノにも似ているのかもしれないが、ロパティンほどアブストラクトではない)。

 『エイジ・オブ』におけるオフィシャル・インタヴューのロパティンの思わせぶりな発言を読んで、この1ヶ月、ぼくのなかにはどうにも釈然としないモヤモヤが生まれている。彼は、本人が歌う“Black Snow”という曲の歌詞がイギリスの思想家、ニック・ランドの影響下にあることを明かしているのだ。正確には、かつてニック・ランドが主宰したCCRU(Cybernetic Culture Research Unit)という研究グループの発表した出版物に触発されているとのことだが、おいおい、これは大いに問題だろう。インタヴューではCCRUのウィリアム・S・バロウズ的な手法が気に入ったと説明しているが、それならバロウズの影響下で作詞したと言えばいいはずだ。さすがにロパティンがアンチ・リベラルの右翼であるはずはないだろうけれど、わざわざブックレットのクレジットにまでCCRUの名前を入れた理由は知っておきたい。

 現代思想に詳しくもないぼくがニック・ランドを知ったのはほんの数年前のことで、UKの音楽メディアでオルタ右翼のイデオローグとして紹介されている記事を読んだからだった。また、彼の提唱する加速主義という思想がやはりUKの音楽メディアにおいてヴェイパーウェイヴの論考に活用されてもいることも気になっていた。ポップ・カルチャーは、かちかちとクリックしながら音楽制作することが普通になった21世紀になった現代でも極端な考え方に惹かれてしまう側面があるらしい。
 ヴェイパーウェイヴがその初期においてひとつの論説として成り立ったことの根拠には、資本主義としての音楽の終わりにあるジャンルだというマルクス主義的な仮説にある。亡霊めいた音響(スクリュー)を特徴としたそれは、当初は無料配信/無断サンプリングが基本で、マーク・フィッシャーいうところの「文化が経済に溶解してしまった」現代においては、たしかにそんな幻想を抱かせるものではあった(〈Warp〉のサブレーベルもヴェパーウェイヴの12インチをリリースし、Macintosh Plusのアナログ盤がインディーズのコーナーに陳列されている今日ではその仮説も紛糾されたわけだが、もちろんそれはそれで良い。ほかのジャンルと同じように認められた=商品になっただけのこと)。
 しかしながら、そうした仮説がまかり通った時代を記憶している者として言えば、ある時期アンダーグラウンドのエレクトロニック・ミュージックのシーンが何かの「終わり」に憑かれていたことはたしかだろう。安倍政権をはやく終わらせたいという願望はもっともな話だが、この「終わり」の舞台は主に英米の音楽シーンにある。つまり、レイランド・カービーが〈History Always Favours The Winners〉をはじめたのも、『フローラルの専門店』もOPNの『レプリカ』もジェームス・フェラーロの『Far Side Virtual』も2011年、ジャム・シティの『Classical Curves』とアクトレスの『R.I.P』は2012年、〈Tri Angle〉や〈Blackest Ever Black〉の諸作が脚光を浴びたのもこの頃だよね。ジャム・シティに関しては、あたかも人類が滅亡した後のオフィスビルのフロアを彷彿させるあのアートワークを見て欲しい。サン・ラーによる世界の終わりとはずいぶん違う。それらはおもに資本主義リアリズムの恐怖に反応したものだと思われる。

 あるいはそれがジョナサン・クレーリーいうところのインターネットが招いた「24/7」消費社会への抵抗かどうか、あるいは加速主義的な、さっさとこの世界を終わらせたいという苛立ちなのかどうか、なんにせよロパティンは少なく見積もっても『レプリカ』以降はディストピックなヴィジョンから逃れられないでいる。
 音楽は答えではない。それは問題提起であり、気づきや揺らぎへの契機となりうるものだ。釈然としないその気持ちをそのまま露わにすることにだって意味がある。ロパティンに対する疑いのひとつに、彼がいまどきのネット時代に特有の情報おたく/オブセッシヴな情報収集家ではないかということがある。どんなに知識を振りかざしたところで、当たり前の話だが、音楽それ自体に訴える力がなければ知識のひけらかしに過ぎない。「ブルーカラー・シュールレアリズム」とロパティンが言うのは、自分の音楽がハイブローな人たちだけではなく、「ブルーカラー」にも聴いて欲しいということなのだとぼくは解釈している。ゆえに『エイジ・オブ』で彼がR&Bやポップスに挑戦したことをぼくは評価したい。が、もうひとつの問題は、しかしこのアルバムの魅力がロパティンのポップ・センスに依拠してはいないということにある。

 彼の発言によれば、『エイジ・オブ』の制作は環境問題をめぐるアノーニとの会話からはじまっている。1万年後には人類は終わるのだから環境のことなど考える必要はないという彼の発言に対して彼女は怒り、ニヒリストという言葉でロパティンを罵倒した。俺はニヒリストなのか? アルバムはその自問自答からはじまっているという。『エイジ・オブ』にセンチメンタルなフィーリングがあるとしたら、人類の未来を案じてというわけではなく、アノーニによって引き裂かれたロパティンのなかの揺らぎに依拠するんじゃないだろうか。
 『エイジ・オブ』は間違いなく前作『ガーデン・オブ・デリート』より魅力的なアルバムで、『R・プラス・セヴン』よりイケてるかもしれないが、この新作はロパティンひとりでは完結していない、他者=アノーニ&ジェイムス・ブレイクが介在しているという点においてもOPNにしては異例の作品だ。アノーニの素晴らしい声を知る者たちが憤慨してもおかしくないほどに彼女の声は加工されているが、それでもアノーニの存在は重要であり、作品のなかに活きているというわけだ。
 アルバム1曲目の“Age Of”からしてニューエイジめいたメロディの背後で不吉なノイズが鳴っている。続く歌モノ“Babylon”はいきなり終わる。ニューエイジ的な陶酔を拒否しているかのように。4曲目“The Station”から“Toys 2”、そして“Black Snow”へと続く美しい流れとは対照的に、7曲目“myriad.industries”からはじまるアルバムの後半には暗い予感が渦巻いている。
 1枚のアルバムには往年のプログレッシヴ・ロックを思わせる“物語”がある。バロック音楽にオペラと、これらもプログレ的な折衷感ではあるのだが、本作のスリーヴにデザインされている3人の女性の絵は、伝説のプロトパンク・バンド、デストロイ・オール・モンスターズのオリジナル・メンバー、ジム・ショウによるものだ。エレキングにおける三田格のインタヴューでもパンクである自分を主張しているが、それは自己確認であり、本作に対するエクスキューズに思えなくもない。こんなところにもある意味どっちつかず、ある意味分裂的な本作の本性が垣間見られる。
 この物語には矛盾があり、引き裂かれている。それがぼくの解釈だ。その引き裂かれ方には、「終わり」に憑かれたロパティンとアノーニがもたらすヒューマニズムとの葛藤と同期するかのように、アンチ・ポップとポップが衝突している。いや、そんなことは誰かほかの作品でも聴けるわけだが、OPNにおけるその衝突は思いがけないマジックを生んでいるかもしれない。

※6月末発売の紙エレキングでは、社会学者の毛利嘉孝氏にイギリスにおける現代思想の大雑把な流れについて教授してもらいました。ニック・ランドを持ち出すことのマズさについてももちろん触れているので、こうした議論の入口、とっかかりとして読んでもらえればと思います。ちなみに「中世に帰れ」という展開も近代的ヒューマニズムを否定するこの流れにあります。また、ダニエル・ロパティンのインタヴューは、webで紹介したのはほんの序の口で、作品の核心に触れているディープな箇所は紙エレキングに掲載されます。また、ほかにも(いい意味で)頭でっかちなアーティストのインタヴューを取りました(笑)。はっきり言って、編集しながらぼくも勉強になりました。どうぞ、お楽しみに。

野田努

Oneohtrix Point Never - ele-king

 作者が死んだのはちょうど50年前のことである。テクストは作者の考えていることを表したものではないし、ましてや作者の人間としての内面を吐露したものなどでは断じてない。テクストは引用の織物であり、内面なんてものはそれが言語によってしか説明されえない以上、すべて事後的に構成されるものである。
 もちろん、そのように人間を縮減していく試みは、19世紀の終わりから20世紀半ばにかけて何度も試みられてきた。詩人は言葉に主導権を譲らねばならないと主張した詩人、書物は日常生活を営む自我とはべつの自我によって生み出されると考えた小説家、ゲームや無意識など主体のコントロール外にある偶然的要素を創作に活かそうとした文学・美術グループ、あるいは「この女」と言うためにはその女から実態を剥奪し殺戮してしまわなければならないと説いた批評家。けれど、よりわかりやすい形で人間としての作者に死が与えられたのは、やはり1968年ということになるだろう。ようするにそれは、なんらかの対象について語るとき、それを生産した人間に着目するのはいい加減やめませんか、という提案である。そのような反人間的な発想が現れてから、もう半世紀ものときが流れたのだ。
 どうやらワンオートリックス・ポイント・ネヴァーことダニエル・ロパティンもまたこの問題について考えを巡らせることがあったようで、先日公開された最新インタヴューにおいて彼は、われわれはついつい「この人間そのものの表現だ」と思えるような「苛烈なまでにパーソナルな表現」を賞賛しがちだけれども、自分は「演奏する人間が排除されている」ような「音楽機械」にこそ心惹かれる、と語っている。つまり、いままさにここでおこなわれているように、彼という人間をとおして彼の鳴らす音を説明しようとするのはもうやめませんか、ということである。たいせつなのは人間じゃなくてそこで鳴っている音でしょうよ、というわけだ。アンチ・ヒューマニズムである。

 とはいえOPNは、その発言によって自らの作品をパフォーマティヴに変容させていくタイプのアーティストでもある(同じインタヴューで彼が録音物ですら変化しうると言っているのは、そういう外在的な効果を念頭に置いてのことだろう)。その作品の強度と発言をつうじて、いまや10年代でもっとも重要な電子音楽家と言っても過言ではないほどの存在にまでのぼり詰めたOPN、あまりに大きな期待を背負って発表されたその8枚目のアルバムは、われわれの予想をはるかに超えるアイディアとサウンドをもって、いまふたたび彼のキャリアを更新している。
 どきどきしながら再生ボタンを押すと、すぐさまチェンバロの音が耳に飛び込んでくる。その響きと音階はバロック音楽の雰囲気を醸し出しているが、そのムードは幾度か差し挟まれる叫びとノイズ、そして中盤で30秒ほど挿入されるインスト・ポップ・バラードとでも呼ぶべき謎めいたパートによって破壊されてもいる。異なる時代を強制的に接合するコラージュ。冒頭のこの表題曲の時点ですでにロパティンの勝利は確定したも同然だが、続けざまに「バビロ~ン♪」という加工された音声が流れてくるのを耳にした瞬間、われわれはさらなる驚異と遭遇することになる。歌である。それも、ダニエル・ロパティン本人による歌だ。
 その旋律はポップ・ソングによくある「いかにも」な進行を見せる。押韻もわかりやすい。途中でプルーリエントによるスクリームが挿入されるものの、それでも曲はクリシェであることを全うしようともがき続ける。「ヘルプ・ミー」という高い声が乱入する。クレジットを確認して初めてそれがアノーニによるものであることがわかる。助けて。しかしロパティンは歌うことをやめない。「わかったよ/なんで君が僕らがバビロンにいると思うのかを」。助けて。「わかったんだ/なぜ君がこのバビロンから離れられないのかを」。そしてトラックは解決らしい解決を見ないまま唐突に終わりを迎える。バビロン。それはいったいなんの比喩だろう。インターネットか。資本主義か。それとも、常世すべてか。

 OPNらしい鍵盤とシンセが横溢する3曲目へと至ってようやく、われわれはこれがあのOPNの新作であることを思い出す。アッシャーのために書かれながらもアッシャーには使ってもらえなかったという“The Station”は、前半のロパティンによる歌を否定するかのようなミニマルなギター音の反復をもってリスナーに先を急がせる。ミュージシャンがよく口にする「架空のサウンドトラック」というクリシェを試したという“Toys 2”は、卓球のような具体音と『アール・プラス・セヴン』で展開されていた賛美歌風音声ドローンの断片、『ガーデン・オブ・ディリート』のような強烈なノイズと東洋風の旋律によるかき乱しを経て、初期のOPNを思わせる穏やかなシンセ・ミュージックを響かせる。そしてアルバムは先行公開された問題曲“Black Snow”へ到達する。吐息とフィンガースナップに誘導され、「盲目のヴィジョン/盲目の信念」と、ロパティンは静かに歌いはじめる。リリックはニック・ランドが設立に関わったCCRUの論集からインスパイアされている。バッキングに徹するアノーニ。東洋的なモティーフとノイズの手前で、ダクソフォンが不気味な唸りを上げる。

 アルバムはふたたびチェンバロを呼び込み、大規模なアート・プロジェクトを成功させるためには金融業者と仲良くならなければならないことを諷刺した小品“myriad.Industries”をもって、その後半を開始する。『R+7』の延長線上にあるトラックのうえでプルーリエントが雄叫びをあげる“Warning”や、ミュジーク・コンクレートとインダストリアルを同時に試みたかつてない作風の“We'll Take It”、ようやくアノーニがそれらしい歌声を披露する“Same”など、最後まで聴き手を飽きさせないトラックが続く。『R+7』から目立ちはじめ、『GOD』において突き詰められた、ポップ・ミュージックのメタ的な解体作業。『エイジ・オブ』ではそれがより尖鋭的な手法をもって実践されている。あるいは逆の見方をすればそれは、いわゆる大きな物語が機能しなくなり、幾千の島宇宙がそれぞれに閉じたサークルを形成するポストモダン以降の情況にあって、電子音楽の冒険を電子音楽ファンのなかでのみ完結するものにはしないという強い意志と捉えることもできる。
 ともあれ本作の肝をなす自身の歌唱と、アノーニやプルーリエントといったゲストの参加、あるいはダクソフォンの活用は、前作でチップスピーチを導入していたロパティンにおける声への志向性が、いま、ますます高まっていることを示している。けれどもそれらの声は著しく加工され変調され切り刻まれ、歌い手のキャラクターを尊重しない。声そのものへのアプローチを突き詰めつつもロパティンは、けっしてその人間性には依拠しようとしないのである。それはたとえばジェイムス・ブレイクの起用法にも表れていて、あくまでも彼はキイボーディストおよびミックス・エンジニアとして参加しているにすぎない。
 ロパティンはこれまでも本名名義での作品やプロデュース作品、あるいはサウンドトラックやリミックスなどでじつにさまざまな相手とコラボを繰り広げてきたわけだけれど、他方で自身のメイン・プロジェクトであるOPN名義のソロ・アルバムにゲストを招くことだけは頑なに拒み続けてきた。多くの客人を招待した『エイジ・オブ』はだから、彼のディスコグラフィのなかで大きな転機となるはずで、であるならばいっそ大々的にアノーニやジェイムス・ブレイクの歌声をフィーチャーしたポップ・ソングを作ってもよかったはずである。だがロパティンはそうしなかった。それにはおそらく、現在の彼が人間に対して抱いている二律背反的な、複雑な思いが関与しているのだろう。
 アノーニとの口喧嘩を経て、自分はニヒリストなのかと問いはじめたところからすべてがスタートしたという本作は、他方でわざわざクレジットにCCRUの名を掲げてもいる。ロパティンは揺れている。半分は無意識的に、そしておそらく半分はきわめて意識的に。思い出そう、先に引いたインタヴューにおいて彼が、人間が排除されたような「音楽機械」もまた「とても人間的なものに感じられる」と述べていたことを。「ハートから生み出された感じがする、そういう音楽」こそが好きなんだと、それこそクリシェのような発言をしていたことを。そしていままさにわれわれは、彼という人間をとおして『エイジ・オブ』を理解しようと試みている。

 いまさら人間に全幅の信頼を寄せるようなかつての発想には戻れないし、戻るべきでもない。かといって人間の縮減ないし抹消によってもたらされる種々のほころびをそのまま歓迎することもできない。急速にテクノロジーが変容し、人工知能や人新世といったタームが脚光を浴びる今日、人間と反人間とのあいだで揺れ動く現代、ポストモダンという言葉さえレトロスペクティヴに響き「ポスト・ポスト」という言い回しでしか名指すことのできないこの時代、それこそが『エイジ・オブ』の切り取ろうとしている生々しいバビロンの姿だろう。「オブ」以下が言葉を欠き、大いなる余白を残すゆえんである。

小林拓音

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 その人が資本主義の犠牲者だろうとそうじゃなかろうと、音楽には2種類ある。ひとつは気持ち良ければある程度は完結する音楽=EDM、AOR、MOR、シティ・ポップ、ほとんどのハウスとテクノとヒップホップ、多くのポップスやロックやファンクやジャズ……etc。もうひとつは気持ち良いだけでは物足りないと思っている人の音楽だが、OPNは後者を代表する。ポップのフィールドにおいて、いまこの人ほど思わせぶりな音楽をやってのけている人はいない。

 たとえば『リターナル』というアルバムがある。19世紀のフランスの画家、アンリ・ルソーに触発されたという話はファンの間では知られているのだろうが、ただしダニエル・ロパティンの解説によれば、それはルソーの絵画そのものに触発されたというよりも、自分が行ったことのない風景を人からの伝え聞きによって描いたというルソーの行為への関心によってもたらされている。それは、実際にアフリカを旅行してアフロをやるのではなく、自分が伝え聞いたアフリカをもとにアフロをやるということで、メディアによって拡張された身体が感応しうる世界を捉えるこということだろう。が、あの作品を聴いただけでそこまで想像できるリスナーがいるのだろうか。ロパティンは、自らの言葉で自らの作品に仄めかしを授け与える(その観点でいけばザ・ケアテイカーと似ているし、自己解説が作品に付加価値を与えるという点ではイーノにも似ているのかもしれないが、ロパティンほどアブストラクトではない)。

 『エイジ・オブ』におけるオフィシャル・インタヴューのロパティンの思わせぶりな発言を読んで、この1ヶ月、ぼくのなかにはどうにも釈然としないモヤモヤが生まれている。彼は、本人が歌う“Black Snow”という曲の歌詞がイギリスの思想家、ニック・ランドの影響下にあることを明かしているのだ。正確には、かつてニック・ランドが主宰したCCRU(Cybernetic Culture Research Unit)という研究グループの発表した出版物に触発されているとのことだが、おいおい、これは大いに問題だろう。インタヴューではCCRUのウィリアム・S・バロウズ的な手法が気に入ったと説明しているが、それならバロウズの影響下で作詞したと言えばいいはずだ。さすがにロパティンがアンチ・リベラルの右翼であるはずはないだろうけれど、わざわざブックレットのクレジットにまでCCRUの名前を入れた理由は知っておきたい。

 現代思想に詳しくもないぼくがニック・ランドを知ったのはほんの数年前のことで、UKの音楽メディアでオルタ右翼のイデオローグとして紹介されている記事を読んだからだった。また、彼の提唱する加速主義という思想がやはりUKの音楽メディアにおいてヴェイパーウェイヴの論考に活用されてもいることも気になっていた。ポップ・カルチャーは、かちかちとクリックしながら音楽制作することが普通になった21世紀になった現代でも極端な考え方に惹かれてしまう側面があるらしい。
 ヴェイパーウェイヴがその初期においてひとつの論説として成り立ったことの根拠には、資本主義としての音楽の終わりにあるジャンルだというマルクス主義的な仮説にある。亡霊めいた音響(スクリュー)を特徴としたそれは、当初は無料配信/無断サンプリングが基本で、マーク・フィッシャーいうところの「文化が経済に溶解してしまった」現代においては、たしかにそんな幻想を抱かせるものではあった(〈Warp〉のサブレーベルもヴェパーウェイヴの12インチをリリースし、Macintosh Plusのアナログ盤がインディーズのコーナーに陳列されている今日ではその仮説も紛糾されたわけだが、もちろんそれはそれで良い。ほかのジャンルと同じように認められた=商品になっただけのこと)。
 しかしながら、そうした仮説がまかり通った時代を記憶している者として言えば、ある時期アンダーグラウンドのエレクトロニック・ミュージックのシーンが何かの「終わり」に憑かれていたことはたしかだろう。安倍政権をはやく終わらせたいという願望はもっともな話だが、この「終わり」の舞台は主に英米の音楽シーンにある。つまり、レイランド・カービーが〈History Always Favours The Winners〉をはじめたのも、『フローラルの専門店』もOPNの『レプリカ』もジェームス・フェラーロの『Far Side Virtual』も2011年、ジャム・シティの『Classical Curves』とアクトレスの『R.I.P』は2012年、〈Tri Angle〉や〈Blackest Ever Black〉の諸作が脚光を浴びたのもこの頃だよね。ジャム・シティに関しては、あたかも人類が滅亡した後のオフィスビルのフロアを彷彿させるあのアートワークを見て欲しい。サン・ラーによる世界の終わりとはずいぶん違う。それらはおもに資本主義リアリズムの恐怖に反応したものだと思われる。

 あるいはそれがジョナサン・クレーリーいうところのインターネットが招いた「24/7」消費社会への抵抗かどうか、あるいは加速主義的な、さっさとこの世界を終わらせたいという苛立ちなのかどうか、なんにせよロパティンは少なく見積もっても『レプリカ』以降はディストピックなヴィジョンから逃れられないでいる。
 音楽は答えではない。それは問題提起であり、気づきや揺らぎへの契機となりうるものだ。釈然としないその気持ちをそのまま露わにすることにだって意味がある。ロパティンに対する疑いのひとつに、彼がいまどきのネット時代に特有の情報おたく/オブセッシヴな情報収集家ではないかということがある。どんなに知識を振りかざしたところで、当たり前の話だが、音楽それ自体に訴える力がなければ知識のひけらかしに過ぎない。「ブルーカラー・シュールレアリズム」とロパティンが言うのは、自分の音楽がハイブローな人たちだけではなく、「ブルーカラー」にも聴いて欲しいということなのだとぼくは解釈している。ゆえに『エイジ・オブ』で彼がR&Bやポップスに挑戦したことをぼくは評価したい。が、もうひとつの問題は、しかしこのアルバムの魅力がロパティンのポップ・センスに依拠してはいないということにある。

 彼の発言によれば、『エイジ・オブ』の制作は環境問題をめぐるアノーニとの会話からはじまっている。1万年後には人類は終わるのだから環境のことなど考える必要はないという彼の発言に対して彼女は怒り、ニヒリストという言葉でロパティンを罵倒した。俺はニヒリストなのか? アルバムはその自問自答からはじまっているという。『エイジ・オブ』にセンチメンタルなフィーリングがあるとしたら、人類の未来を案じてというわけではなく、アノーニによって引き裂かれたロパティンのなかの揺らぎに依拠するんじゃないだろうか。
 『エイジ・オブ』は間違いなく前作『ガーデン・オブ・デリート』より魅力的なアルバムで、『R・プラス・セヴン』よりイケてるかもしれないが、この新作はロパティンひとりでは完結していない、他者=アノーニ&ジェイムス・ブレイクが介在しているという点においてもOPNにしては異例の作品だ。アノーニの素晴らしい声を知る者たちが憤慨してもおかしくないほどに彼女の声は加工されているが、それでもアノーニの存在は重要であり、作品のなかに活きているというわけだ。
 アルバム1曲目の“Age Of”からしてニューエイジめいたメロディの背後で不吉なノイズが鳴っている。続く歌モノ“Babylon”はいきなり終わる。ニューエイジ的な陶酔を拒否しているかのように。4曲目“The Station”から“Toys 2”、そして“Black Snow”へと続く美しい流れとは対照的に、7曲目“myriad.industries”からはじまるアルバムの後半には暗い予感が渦巻いている。
 1枚のアルバムには往年のプログレッシヴ・ロックを思わせる“物語”がある。バロック音楽にオペラと、これらもプログレ的な折衷感ではあるのだが、本作のスリーヴにデザインされている3人の女性の絵は、伝説のプロトパンク・バンド、デストロイ・オール・モンスターズのオリジナル・メンバー、ジム・ショウによるものだ。エレキングにおける三田格のインタヴューでもパンクである自分を主張しているが、それは自己確認であり、本作に対するエクスキューズに思えなくもない。こんなところにもある意味どっちつかず、ある意味分裂的な本作の本性が垣間見られる。
 この物語には矛盾があり、引き裂かれている。それがぼくの解釈だ。その引き裂かれ方には、「終わり」に憑かれたロパティンとアノーニがもたらすヒューマニズムとの葛藤と同期するかのように、アンチ・ポップとポップが衝突している。いや、そんなことは誰かほかの作品でも聴けるわけだが、OPNにおけるその衝突は思いがけないマジックを生んでいるかもしれない。

※6月末発売の紙エレキングでは、社会学者の毛利嘉孝氏にイギリスにおける現代思想の大雑把な流れについて教授してもらいました。ニック・ランドを持ち出すことのマズさについてももちろん触れているので、こうした議論の入口、とっかかりとして読んでもらえればと思います。ちなみに「中世に帰れ」という展開も近代的ヒューマニズムを否定するこの流れにあります。また、ダニエル・ロパティンのインタヴューは、webで紹介したのはほんの序の口で、作品の核心に触れているディープな箇所は紙エレキングに掲載されます。また、ほかにも(いい意味で)頭でっかちなアーティストのインタヴューを取りました(笑)。はっきり言って、編集しながらぼくも勉強になりました。どうぞ、お楽しみに。

野田努

interview with Oneohtrix Point Never - ele-king

E王
Oneohtrix Point Never
Age Of

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 ジェイムス・ブレイクがミキシング・エンジニアを担当していると発表されたOPNの新作はほかにもアノーニなどゲストの情報が先行しているけれど、そのような人たちの影響が明瞭に聴き取れるようなものでもなんでもなく、はっきりとOPNの新作としか言いようがない作品に仕上がっている。そういったゲストの存在にはまったくと言っていいほど左右されていない。過去の作品と比べたときに手癖のようなものがあることは感じられる。しかし、昨年のレコード・ストアー・デイにリリースした2枚の『コミッションズ(Commissions)』もまたそうであったように、さらりとそれまでとは違うことをやってのけるのがダニエル・ロパティンなのである。いや、さらりとではなかった。そこにはいつもそれなりの苦闘があったことは今回のインタヴューでも確認することができた。どういうわけか彼はそういうことは正直に話してくれる。そこはいつもと変わらない。
 『リターナル』『アール・プラス・セヴン』『ガーデン・オブ・ディリート』、そして、『エイジ・オブ』と、これが4回目のインタヴューである。こんなに何度も同じ人にインタヴューしたのは忌野清志郎以来である。最初はもういい加減、訊くことはないんじゃないかと思ったりもしたのだけれど、ダニエル・ロパティンが加速度をつけて変化しているせいか、今回がいままでいちばん面白いインタヴューになった気までしている。むしろ、彼の考えていることや一貫してこだわっていることがようやくわかってきたような気もするし、取材が終わってから、訊きたいことがもっと出てきたりもした。どこに向かって疾走しているのかはさっぱりわからないものの、それがこれまでに見たことのないどこかであることだけは確かだと言える『エイジ・オブ』について、彼の話はあまりにも多岐にわたり、量も膨大になってしまったので、新作について外側から見た部分をここに、そして内側から見たパートは次号の紙エレキング(22号)で公開することにした。通訳の坂本麻里子さんとは、なんというか、何度もタッグを組んできたせいで、じつはもうどこからがどっちで、どこからが誰なのかわからないほど一体化して取材に当たっているという感じなのですが、詳細な注のほとんどは彼女の手によるものです。(三田格)

パーソナルな表現とは逆に、「ここでは演奏する人間が排除されている」という感覚だね。で、そのフィーリングもどういうわけか、僕にはとても人間的なものに感じられるんだ。

音楽ファンは必ずしも「リラックスしない音楽」を聴くこともあると思いますけど、あなたの場合は「リラックスしない音楽」を聴くことがあるとしたらそれは何のためですか?

ダニエル・ロパティン(Daniel Lopatin、以下DL):(ニヤリと笑ってうなずきながら)なるほど。だから……それぞれの「役目」を持つ音楽、そういうものがあってもいいだろうとは思うんだよ。機能を果たさなければならない音楽というか、聴いているうちに身体の速度が速くなって動いたりダンスしたくなる音楽だとか、寝つけないときにそれを補助して眠りに就かせてくれる音楽だとか。そういった機能的な音楽にはまったく問題がないし、実際のところ、この僕だってたぶん、音楽の持つ医薬的効果の恩恵をこうむっているんだろうしね。たとえば……スティーヴ・ローチなんかのレコードを聴きながら眠りに落ちる、だとか? けれども、僕にとってはそれは違う……だから、それは僕からすればもっとも冴えた音楽の使い方ではない、という。

ほう。

DL:僕にとって、音楽は映画に似たものなんだ。要するに、ほとんどもう鏡に身体が映るかのごとく、聴き手に自身を見せてくれるもの……そのストーリーが観る人間の精神を映し出す鏡になっている、みたいな。で、音楽のもたらす効果にはどこかしら、ほとんどもう彫刻に近い面があるんだよ。だから、音楽を聴いていると空間を思い出させられる、音楽が空間をクリエイトする、というか……そう、自分を取り囲んでいる環境を、自分の置かれた情況を思い起こさせてもらえる、と。(音楽を聴くことによって)いろんな物事を気にしたり関心を持つようになるし、そうした物事というのはさもなければその人間のマインドによって優先事項から外され、どこかにしまい込まれてしまうものなんだよ。で、マインドはこう語りかけてくるわけ、「何も心配しなくていい。とにかく労働せよ」と。「つべこべ言わずに労働し、子供をつくり、それが済んだらとっとと消えろ」とね。

(苦笑)。

DL:で、脳が求めているのって基本的にはそれでしょ?

(笑)ええ、まあ。

DL:だけど、そうじゃないんだ。僕たちはもっとそれ以上を受けるに値する、僕はそう思っているから。で、音楽というのはどういうわけか、その点を思い出させてくれるとんでもない「合図」であって……本当に生き生きとした状態になる、真の意味で生きている状態になることを思い出させてくれる、とにかく途方もないリマインダーなんだよな。

なるほど。

DL:で、他のみんなと同様に、その点は僕だってとっくに承知していてね。そりゃそうだよ、だって、やっぱりきついからさ。毎日毎日、こう……一切の悩みやしがらみから完全に解放された状態で、常時あの、「アウェアネス(気づき、知覚)」な状態で生きる、みたいな? そんなの不可能だから。それをやるには、何か補助してくれるものが必要だよ。だから若い頃は僕もサイケデリックなドラッグとかに向かったしね、その手の経験を得たいと思って。と同時に、その(ドラッグによる幻覚)体験もまた、興味深い形で音楽と組み合わさっていたんだけれども。ところが、歳を食うにつれて、自分でも悟ってきたんだよね……だから、「ほぼ音楽なしでも自分にはそういう経験ができるんだ」と。正直、すごく集中すれば、自分は音楽なしでそれをやれると思ってる。というのも、音楽はそれ以上にもっとエキサイティングだし……どうしてかと言えば、音楽というのはじつに具体的で特定な類いのアウェアネスだから、なんだよね。それは他の誰かさんがつくり出した構造だ、と。そんなわけで……うん、そうやって、他の誰かの知覚に基づいた文脈で自分を満たしてみるのは、興味深いことなんだよ。

ふーん、面白いですね。他人のヴィジョンにすっかり自分を委ねる、とでもいうか?

DL:ああ……。

自分とは違う人間の解釈や構造のなかに自らを解放する、というふうに聞こえますが。

DL:そう! だから、ひとつの関係を結ぶってことなんだよ。それにまた、他にもあり得るのは……

ってことは、それだけその音楽を信頼していないといけないってことでもありそうですよね? 自分自身を委ねるわけだから。

DL:それもあるし、また一方で、ある種アヤワスカ(※自分で調べよう!)みたいに、飲み込んではみたものの吐いてしまう、みたいなことだって起こり得るわけだよね、肉体そのものがそれを求めていなくて拒絶反応が出る、という。で……自分にはどうしても入っていけない、そういう音楽も存在するんだよ。いや、とにかく自分でも入り込もうとトライはするんだけど、そこに何らかの……「壁」めいたものを感じ取ってしまう音楽、という。それって興味深いよ。ってのも、誰だってそういうふうに、様々なアートに対して、それぞれに異なる「壁」を感じるものなんだろう、僕はそう思っているわけ。でも、こと音楽に関して言えば、自分に「壁」を感じさせるものってまず大抵の場合、そこに「あるなんらかの特定の目的を果たすために作られた」感覚を伴うもの、なんだよね。そういうのには退屈させられる。

なるほど。

DL:だから、それを聴いても感じるのは「あー、この音楽に対して聴き手の僕が何らかの行動を起こすように、そう、こっちをプログラムするべく何かつくっている人がどっかにいるんだな」というだけのことだし。で――僕はとにかく、音楽は開かれた、オープンなものであってほしい、みたいな。だから、たとえかなりしっかり構築されたものだとしても、オープンさを許す隙をそれがもたらすことはできるわけでさ。そうは言ったって、何も「すべての楽器は生で演奏されていなくてはいけない」とか……「誠意あるものでなければならない」といった意味ではないんだけどね。だって、不真面目なものだってオープンになり得るんだから。だけど、僕が好きなのは、とにかくここ(と、トントン胸を叩きながら)、ハートから生み出された感じがする、そういう音楽なんだ。そうである限り、音楽の構築の仕方はつくる人の勝手、いかようでも構わない、と。僕が感じるのはそういうことだね。


photo: Atiba Jefferson

レコーディング=記録物ですら、時間の経過につれて変化していく、変化し得るんだよ。たとえ、非常に慎重に保存されたものであっても。

どんな音楽も時代と結びついていると思いますか? それとも時代と結びつく音楽と結びつかない音楽があると思いますか?

DL:うん、時代と結びついていると思う。その点は僕もとても興味があるところで、というのも、「とあるテクノロジー」は「とある時代」に発生するものだ、その発想が好きだからなんだ。その事実が、(ある時代に)生まれてくる音楽にとっての枠組みをクリエイトするものだ、という点がね。たとえば、ハープシコード。あれだって、初期段階の音楽機械だったわけだよね? それ以外にもハーディ・ガーディとかいろいろあったけど、あれらはマシーンだったわけ。マシーンだからこそ、ある程度の自律性を実現できた、と。要するに、演奏する者とサウンドとの間の分離を生むことができた。で……その分離は、とても興味深いものでね。だろう? とても面白いよ。

なるほど。

DL:自分でも、なぜああいった「ミュージカル・マシーン」みたいなものに心惹かれるのか、そこはわからない。ただ、どういうわけか、あの手の機械に僕は強く興味をそそられる。だから……あの手の機械にある「冷たさ」というのかな? 機械が作り出す、パフォーマーとの間の距離、ということ。それに、そこから生まれるサウンドもとても興味深いしね。で、僕たちが素晴らしいと称えるものって、多くの場合……さっき話していたような、「苛烈なまでにパーソナルな表現」みたいなものなわけ。僕たちはそういう表現が大好きだし、それはやっぱり、「すごい! これはまさしくこの人間そのものの表現だ!」と思えるからなんだよね。たとえば、ジャズの偉大な即興奏者を何人か思い浮かべればそれはわかるだろうし、彼らのやることを僕たちはとても高く評価している、と。たしかに、あれはとんでもなく素晴らしい表現だよ。ところが、それとはまたまったく別物の……フィーリングみたいなものを受け取ることもある、というのかな、(パーソナルな表現とは逆に)「ここでは演奏する人間が排除されている」という感覚だね。で、そのフィーリングもどういうわけか、僕にはとても人間的なものに感じられるんだ。

ほう、そうなんですか。

DL:うん。どうしてそう感じるかは自分でもわからないんだけどね。

特定の時代に引き留められていない音楽、いわゆる「タイムレスな音楽」というのは存在すると思いますか? いまから50年前も、これから先の10年後にも、人びとに同じく聴かれている音楽はあるでしょうか。それとも、やはり作られた時代の色味を音楽はある程度は帯びてしまうもの?

DL:僕が思うのは、何かがいったん「作られて」しまったら……それは変化するものだ、ということだね。それってとんでもないことだけどね。だから、たとえばレコーディング=記録物ですら……それってとても安定したパフォーマンスのアイディアであって、それこそ「物」なわけでしょ? だから、音楽(という形にならない/目に見えないもの)を物体化したもの、みたいな(苦笑)。そうやって音楽を物にしている、という。ところがそのレコーディングですら、時間の経過につれて変化していく、変化し得るんだよ。たとえ、非常に慎重に保存されたものであっても。

それはいわゆる、テープの劣化とか、そういうことですか?

DL:ああ、それで変化するってこともあるだろうね。ただ、考えてもごらんよ!――だから、テープ云々のせいで変化するんじゃなくて、それを聴く人びとによって変化が起こる、と想像してみてごらん。その音楽にまつわる文脈が一切存在しない時期に、人びとがそれを聴くだとか……あるいは長い歳月が経過して、それこそ何千年も経った後では、人びとにその音楽は伝わらないかもしれないよね、僕たちにもはや楔形文字や象形文字が理解できないのと同じように。で、過去を理解する能力が自分たちには欠けている、その事実からは多くを学べると思うんだよ。というのも、そこから僕たちの本質へと導かれるわけだから。

はあ。

DL:だから、物事は保存されないんだ、と。で、音楽にだってそれは同様に当てはまると僕は思っていて。音楽はクリエイトされるし、その音楽が存在した時代に対して何らかのコメントを発している、と。けれども、そのアイディア自体、増強されていかなくちゃならないんだよ。というのも、時間がつねにそれを削り取ってしまうから。時間というのは、だからこう、奇妙な金槌みたいなものなんだよな。

(笑)なるほど。

DL:ゆっくりと、本当に少しずつ、時間は物事の意味合いをノミで削っていってしまう。で、思うにこれはとても……僕たちの精神の機能の仕方のなかの、たぶん悲劇的な部分なんだろうね。だけど、それと同時にエキサイティングな部分でもあるんだよ。というのも、(変化するということは)物事は何かをクリエイトしていく……というか、物事は新たなフォルムへと成長・発展していく、ということだし、その形状なら僕たちにもコントロールできるからね。僕たちにもそれを抑制することができる、と。

(音楽や記録されたものも)有機物みたいなものだ、と。

DL:っていうか、それ以外に有り様がないよね。僕たちの存在そのものの枠組みがすっかり変わらない限り、そうある以外ないんじゃないかと思う。それはほとんどもう、この宇宙(ユニヴァース)の本質だ、という気すらするよ、僕にとっては。

ユニヴァース、ですか。……(苦笑)は、話が大きいっすね。

DL:(手をパンパン叩いてウケて笑っている)ああ、僕はスケールの大きい話は大好きだからね! 普遍的なストーリーが。

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マシュー・ハーバートにはぞっこんなんだ。っていうか、もう――自分がどれだけマシュー・ハーバートが好きか、君に説明しきれないくらいだよ、ぶっちゃけ。

『グッド・タイム』はいままでのどのアルバムよりもダイナミックで伸び伸びしてると感じました。逆にいうと普段はもっと神経症的に曲を作っているということですよね?

DL:(笑)ああ、そうだね。ハッハッハッハッハッ……!

リラックスできないタチで、もっと強迫観念めいたところがある、みたいな?

DL:うん、もちろん。ほら、見るからにそうでしょ?(と、ソファにだらーっと身を預けた完全なリラックマ状態で、わざと無表情な口調で冗談めかす)

(笑)。

DL:(真顔に戻って)まあ、自分にはちょっとノイローゼ的なところがあるんだろうね。でも……どうしてそうなったかは、自分でもわからないんだよ。ただ、僕は移民家族の一員として、ボストンで育てられたわけで……自分たちみたいな家族は周囲に他にあんまりいない、そういう土地で育った、と。だから、当時うちの家族が暮らしていたエリアでは、僕たちはちょっとストレンジな存在だったんだよ。で、僕の両親は金銭面でものすごく逼迫していたし、我が家は物に恵まれてはいなかった。で……だからこう、つねに「恐れ」の感覚がつきまとっていたんだよな。というのも、両親は故国を捨ててアメリカに渡ったし、彼らは見知らぬ国で新たな環境に順応し、しかも僕ら子供たちを養わなければならなかった。だから、彼らに「リラックスしてほっと一息」なんて余裕はまったくなかったんだ。というわけで――そりゃそう、そういった面が僕に影響を残すのは当然の話だよ! いや、だから……僕の生い立ち云々をいったん脇に置いてみようか。母親が僕をお腹に宿していたとき、両親はソ連から旅立とうとしていてね。

ああ、そうだったんですね。

DL:彼らはソ連を脱出しようとしていた。だから「ホリデーでアメリカに観光」なんてものじゃなかったし、実質、嘘をついてソ連から逃げ出さなくてはならなかったんだ(※かつてソビエト連邦は海外移住するユダヤ人に高額な出国税等を課していた。詳しくは、移民の自由を認めない共産圏国家に対する最恵国待遇の取り消しを含む米議院ジャクソン=バニク修正条項を参照されたし。同条項が効力を発した1975年以後、ユダヤ系ロシア人のアメリカおよびイスラエルへの移民が増えた)。当時は閉鎖状態で、ソビエトから出国するのは難しかったからね(※OPNは1982年生まれのはずなので、ブレジネフ時代)。だから……母親は相当にストレスを感じていたに違いないよ。で、そういう心理状態が(お腹の)赤ちゃんにまで影響したか? と言われたら、僕は「きっと影響しただろう」と、そう思っていて(笑)。

(笑)はい。

DL:というわけで、僕はそういうものを受け取ったんだし、おそらくそれって、今後もとにかく付き合っていくしかないんだろうな、と。

なるほど。そんなあなた自身は自分がアメリカン・ドリームを体現したと思いますか?

DL:まあ……僕の両親からすれば、僕のやってきたことってものすごい、クレイジーな話だ、みたいなものだろうね。というのも……自分たちのような家族、海外に渡ったロシア人ファミリーは僕たちもたくさん知っているけど、そうした移民ファミリーの目標はいつだって、「子供たちにより良い生活を」なんだよ。それって典型的な移民家族のゴールだ、と言っていいと思う。……っていうか、移民に限った話ですらないのかもしれないよね? もしかしたら、多くの家族のゴールがそれ、「子孫に良い生活を」なのかもしれない。ただまあ、移民にとっては、「わたしたち家族はこの地に移住する。我々(親)はそこで犠牲を払わないといけないのは承知している。けれどもそのぶんお前たち(息子/娘)は、もっと良い暮らしをするための機会を手にすることができる」みたいな。

はい。

DL:というわけで……まあ、たぶん少々ひやひやさせたところもあったんだろうけれども、いまのこの時点では、両親はこの僕がどうにか上手くやっていて、しかも自分のやりたいことをやれるようになった、その事実をとても喜んでくれていると思う。その点を彼らは誇りに感じているし……うん、その意味ではこれもまた、「アメリカン・ドリーム」のなんらかのヴァージョンなんだろうね、きっと。ただ、それはまた「アメリカの悪夢」でもあるわけでさ。

(苦笑)タハハッ!

DL:いやだから(笑)……まあ、少し前に、あるドキュメンタリー作品を観ていたんだよ。オレゴン州に存在したカルト集団、ラジニーシプーラムを追った内容なんだけど。

ああ、『Wild Wild Country』のことでしょうか?(※2018年3月にネットフリックスが発表したドキュメンタリー。インド人宗教家・神秘思想家バグワン・シュリ・ラジニーシこと「オショウ」と、彼が1981年にオレゴン州の荒れ地に建設した巨大なユートピア型コミューン/実験都市「ラジニーシプーラム」、バイオテロ事件などの同カルトにまつわるスキャンダルを扱った内容)

DL:そう、それ! あれは奇妙なドキュメンタリーで……作品としての出来そのものは、じつはそんなに良くはないけどね。というのも、作者の意図に沿って観る側の考え方を操るようなところが少しある作品だと僕は思うし。ただ……あそこで何が起こったか、それを観ていて(目を丸くする)――要するに、インドからやってきた新興宗教のリーダー、兼マーケティングのものすごい天才みたいな人物がいて、彼のもとに集まり彼に指導された、リッチな層のヨーロッパ人がいたわけ。で、彼は富裕層の欧州人はもちろん金のあるアメリカ人からも祝福されたし、そうやって彼らはオレゴンのなんにもない辺鄙な土地に結集した、と。そんなことが起こり得る国って、他にあったら教えてもらいたいもんだよ! あれはもう、完全なる……一種の気違いじみた妄想であって、それってアメリカでしか起こり得ないものだ、と。

なるほど。

DL:で、この僕だってアメリカからしか生まれ得ないわけ。ご覧の通り、僕はこんな奴だしね。だから……良いものだけではなく同時に悪いものも一蓮托生で手に入ってきてしまう、そういうことだってあるんだ、みたいな。僕だって、何も……もちろん、それって厄介で面倒だよ。だけど……アメリカは非常におかしな場所なんだ、と。そこではたくさんの出来事が起きているわけだけど、そのほとんどは、外部の人間の目には100%の狂気の沙汰と映るようなものばかり、と(笑)。

(苦笑)はい。

DL:で、それが世界全体にとっての利益になる、そういうことだってたまにはあるんだよ。ただし、多くの場合、実際は世界に害をもたらしている、と。僕がこの「アメリカン・ドリーム」というものに対して感じるのは、そういうことだね。

サウンドトラック・メイカーとしては、いまはどこらへんがあなたのライヴァルでしょうか?

DL:ああ、ライヴァルか! 良いね~!(満面の笑顔)

『ナチュラル・ウーマン』のマシュー・ハーバートか、『ファントム・スレッド』や『ビューティフル・デイ』のジョニー・グリーンウッドが当面はライヴァルかな、なんて思いますが。

DL:マシュー・ハーバート! 彼はめっちゃ好きなんだよなぁ! それってドイツ映画?

いや、チリ人監督作品だと思います。

DL:へえー、チリなんだ。いや、その作品はまだ観てないな。ただ、音楽は聴いたよ。だから……マシュー・ハーバートにはぞっこんなんだ。っていうか、もう――自分がどれだけマシュー・ハーバートが好きか、君に説明しきれないくらいだよ、ぶっちゃけ。

(熱心な口ぶりに気圧されて:笑)わ、わかりました。

DL:とにかく、彼の『ボディリー・ファンクション(Bodily Function)』(2001)、あれは僕のオールタイム・フェイヴァリットのひとつだ、みたいな。でまあ、その、ライヴァルってことだと……ところで、「ライヴァル」って良い言葉だよね? 楽しいし、それこそスポーツ選手の話をしてるみたいでさ(笑)。

はっはっはっはっはっ!

DL:だけど――そう言われて自分が想像してみたいのは、むしろある種のクレイジーな現実だな。で、その世界では僕のライヴァルはハンス・ジマーだ、みたいな。

(笑)ええ~っ、大きく出ましたね!

DL:(笑)うん。っていうのも、僕は本当に……ある意味、ちんまりしたスコアはやりたくないっていうのかな、そうではなくて、マジにスケールの大きいスコアをやってみたくてさ。

超SF大作、ファンタジー巨編、みたいな?

DL:うん、本当に、本当にドカーンとでかい作品をやってみたい。それが自分にとってのゴールだし、もしも他の人びとが僕にやれると信じてくれないとしたら――まあ、そりゃ僕にはなんにも言えないよね。(独り言のようにつぶやきながら)ただ、見てろよ、いつの日か僕はやってやるから、と。

お話を聞いていると、あなたってじつはかなり競争意識の強い人みたいですね?

DL:ああ、相当競争心が強いよ(ニヤッと笑う)。

(笑)ちょっと意外。

DL:(笑)いやまあ、それは別としても、ハンス・ジマーは優秀だよ。彼って、少しこう……誤解されてるんじゃないかと思う。ってのも、彼ってとても……いわゆる「コマーシャルな作曲家」なわけじゃない? でも、彼の作品には信じられないくらいすごい瞬間がいくつかあるんだって! たとえば、僕は彼の担当したスコア……あれはすごくデタラメな映画で……たしかジョン・ウー作品だったと思うけど、『ブロークン・アロー』(1996)ってのがあって(※ジョン・ウーのハリウッド2作目のアクション映画)。出演はジョン・トラヴォルタに、あの俳優……『ミスター・ロボット』に出てた人……あ~、名前はなんだっけ……

クリスチャン・スレイター?

DL:そう(笑)!……でまあ、『ブロークン・アロー』のスコアはじつにクールだ、と。しかも、実際『エイジ・オブ』にも少々影響しているんだよね。っていうのも、あのスコアには一種カントリー風なトゥワングがあるし、ややこう、「西部開拓期」なヴァイブがある、みたいな?

(笑)。

DL:あのスコアは本当に好きなんだ。ある種「コズミック・ウェスタン」とも言えるスコアだから。要するに、エンニオ・モリコーネ風なんだけど、そこに本当にコマーシャル性の高いクサさを伴っている、みたいな。大好きだね(ニンマリ笑う)。

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自分には速度を落とす必要があるんだな、と。ってのも、僕は本当にスピードが速いから。瞬時に変化するってのが好きだし……数秒間以上もうだうだと同じアイディアに留まっているのは苦手なんだよ。

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『エイジ・オブ』はこれまでになくポップな内容だと思います。これはでき上がったものが自然とそうなったのか、それとも意図していたことなんですか? 

DL:ああ、意図的だったね。というのも、自分の成長期の一部に……ベックの『オディレイ』(1996)が出たときのことを覚えているんだよ。あそこで「ワーオ! これは……何もかもが1枚のなかにひっくるめられているな」と感じた。ダスト・ブラザーズの折衷性、みたいな。だから、あのレコードの相当多くの面が、長いこと自分の頭の片隅にひそかに居座っていた、という。で、僕が自分自身のキャリアをさらに奥へ、もっと深くへ辿っていくにつれて、それこそ、もう後戻りするのは無理、みたいな地点にリーチするわけだよね。自分はもうこれ以外の何者にもなれない、「ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー」を続けるだけだ、と。ただ、僕は本当に、音楽全般に魅了され夢中になっているんだよ。それは別に「スタイルとしての音楽」ってことではなくて、なんというか、ある種の、自分自身のステージ(段階)としての音楽、という。だから、ということは、僕には――何も「これ」といった特定のタイプの音楽をやろうってことではないけど、だから、そう……自分の思うまま、自分は好きな夢を夢見ることができるんだ、みたいな? 思いつく限り、どんな楽器を弾いても構わない、と。そんなわけで、僕はジャンルの境界線を使って遊びたいんだ。そこでは、僕は歌に自らを譲ることになるし、そこで自分に歌を書かせるわけだけど……けれども、物事は変化するし、物事は変化したっていいものなんだよね。それに、ジャンルにしたって多かれ少なかれ柔軟にこねられる、それこそプラスティックみたいなシロモノなんだし。

なるほど。

DL:で、以前の自分というのは、すごく目まぐるしいことをやってたんじゃないか? と思っていて。(指を素早くパチン、パチン! とスナップさせながら)基本的に、ひとつの小節あるいは拍子から次へとものすごいスピードで移っていく、みたいな。ところが、いまの時点での僕はそういうやり方にあんまりハマってはいないんだ。それより自分にはゆっくりしたペースと思える、そっちに入れ込んでいる、というか。だからもっとゆったり緩い変容のペースというのか、(1小節刻みではなく)1曲ごとに変化していく、もしくはひとつの曲のなかで大きなセクションごとに変わっていく、と……っていうか、じつはそれですらないかもしれないな? このアルバムは「一群の歌が集まった」ものだし、あれらの曲群はそれぞれ異なる色をつけられているかもしれないけれど、やっぱりそれ自体でちゃんと「歌」になっている。だから、アイディアという意味では、あれらの歌はそんなに素早く急激に変化しないんだよ。

アノーニデイヴィッド・バーンをプロデュースしたことが影響しているのかな? とも感じましたが。

DL:100%そう。実際、自分がやっていたのはそれだったんだし(笑)――だって、過去2、3年くらい、僕はずっと働いていたんだし。とにかく仕事、仕事、と。そんなわけで、自分でもちょっと感じるんだよ、その意味では、こう……自分は街路に立ってスープを煮ているんだな、みたいな。

(笑)。

DL:いや、だからさ、そうやっていれば、他の人びとが何を欲しがっているのか学ぶわけだよ、そうじゃない?(プフッ! と噴き出し苦笑) だから、自分のためではなく、他の人たち向けにスープを料理する、という。そうすれば、「ああ、彼らはニンジンを入れると気に入るのか」などなどわかるっていう。

タマネギを入れたほうがいいかも、とか。

DL:(苦笑)そう、その通り! で……また逆にそこで教わったのが、人びとが求めていないものは何か? ってことでもあってさ(爆笑)! クハッハッハッハッハッ……

ああ、そうでしょうね(笑)。

DL:(笑)僕はフリーク、変わり者みたいなものだし、(指をパチッ・パチッと小気味良くスナップさせながら)自分には速度を落とす必要があるんだな、と。ってのも、僕は本当にスピードが速いから。瞬時に変化するってのが好きだし……数秒間以上もうだうだと同じアイディアに留まっているのは苦手なんだよ。けれども、こう、一緒に仕事した人たちを相手に、総合的な意見みたいなものを調査したところ(苦笑)、ヒッヒッヒッヒッ!……彼らに言われるんだよね、「うん、そこ、良い! そのパートを、ただ繰り返していってもらえる?」と(笑)。で、僕はもう(予想が外れてやや意外/ちょっと違うんだけどなぁ? という感じの、微妙で皮肉まじりな表情を浮かべながら)「なるほどねー、承知しました! うん、それは素晴らしい思いつきだ」みたいな(苦笑)。

(笑)。

DL:たぶん、僕には必要なんだろうな……だから、アノーニにデイヴィッド・バーン、そのどちらからも――それにトウィッグス(FKA Twigs)もそうだけど、彼らみたいな人たち全員から「ねえ、そこの箇所、それをとにかくちょっとループしてくれない?」と言ってこられたら、そりゃやっぱり、僕はたぶんそこをループさせるべきなんだろう、と。彼らは優れた人たち、自分たちが何をやっているかをちゃんと把握している人びとだからね……クフッフッフッ(思い出し笑いしている)。

あなたのやることは凝縮度が高すぎなのかもしれませんね。少々水で薄めないと口に合わない、みたいな。

DL:ああ、ほんのちょっとだけ、ね(笑)。でもさ、じつを言えば、そうやって希釈することは自分でも気に入っているんだ。それって何も「他人のニーズに合わせる」だけのことではなくて、ほんと、自分の音楽をああいう形で耳にすること、それってリフレッシュされる体験だなと我ながら感じる、そこは認めざるをえなくて。だから、とにかくその聞こえ方は……ここのところの自分の物事の考え方にマッチしている、そう思えるんだ。

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ほとんどもう、ポップ・ミュージックにとって当たり前な言語みたくなってきたもの、聴き手に心理的な作用を及ぼすあのやり方、それらの多くに対して僕は抵抗して闘ってきたんだけどね。

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『エイジ・オブ』は前作のハードなところが減って、全体に艶やかさのようなものを感じます。『ガーデン・オブ・ディリート』は劣悪な環境、密室恐怖症的な地下環境が作品に影響していると言ってましたが、今回はいい環境で録音できたということですか?

DL:うん、今回はガラス窓がたっぷりだったよ! それこそ、前庭にある木立を眺めつつ作業する、みたいな。

そうなんですか! それはずいぶん違いますね。

DL:ああ。この作品はとても奇妙な家でレコーディングしてね。

(前作時の)地下牢(ダンジョン)ではない、と。

DL:うん、地下牢はもう後にした(笑)。で、マサチューセッツ州にある私邸に行って。とても変わった家なんだ。ガラス製なんだけど、円形でね。四角くないんだ。で、なかにいると、あの建物がとても奇妙なフィーリングを醸し出してくるっていう。日中に作業している間はとてもリラックスできるんだよ。というのも、ハリネズミだの、いろんな動物が見られて……ハリネズミにコマツグミ、青ツグミにおかしないろんな鳥たち、リスだのが木立で過ごしている様子が見えたし、それに、近所の住人たちも見えたっけ(笑)。近所の隣人たちは興味深かったな。じつは、彼らがいちばん面白かったかも。それはともかく、その一方で、これが夜になると、ガラス張りの家で暗闇のなかにいるととても無防備に感じるんだよ。それって、とても奇妙でね。というのも、ああしたガラスでてきた家に暮らすのって、こう、一種の特権、贅沢だと考えられているわけ。ところが、僕からすればあの家での暮らしって悪夢のように思えて。というのも、いったん家のなかの照明が点くと、外の周囲は何も見えなくなってしまう。で、誰かに監視されてるんじゃないか、そんな気がしてくるんだ。たとえ実際は外に誰もいなくても、いつ何時、誰かが飛び出してくるんじゃないか? みたいな気がする、と(苦笑)。というわけで、あそこは日中は地下牢ではなかったけれども、夜になると悪霊っぽい性質を伴う場所だったね。うん、悪霊っぽいところがあった。

(笑)。それって、マイケル・マンの映画に出てきそうな家ですね。『刑事グラハム/凍りついた欲望』(1986)って覚えてます?

DL:うん、もちろん。

あれにも出てきますけど、マイケル・マン映画ってガラス張りで外から中やアクションが丸見えの住宅をよく使いますよね。カメラがその外にあって、それを追っていく、みたいな。

DL:とんでもないよねぇ。

でも、そういう環境で実際に暮らすのは、さっきもおっしゃっていたように、相当怖いでしょうね。自分は避けたいです。

DL:怖過ぎだよ。僕には怖過ぎ。

ドミニク・ファーナウ(プルーリエント)をヴォーカルに起用するというのはかなり突飛な気がしますが、これはあなたのアイディア?

DL:っていうか、考えてもごらんよ、彼の方から「お前の新作にぜひゲストで参加したいんだけど」って言われたら、ビビるよね(笑)。アッハッハッハッ……

(笑)たしかに。

DL:でもまあ、彼のヴォイスを使う、あれは僕のアイディアだったんだ。ってのも、僕にとっての彼というのは……だから、自分が自作レコードのコラボレーターに求めることって、彼らのとても強力で、風変わりな、パフォーマーとしての側面なんだよ。だから、彼らが何かやるのを聴くと、自分の全身が思わず総毛立つ、みたいな人たちだね。で、プルーリエントというのは、僕からすると……マソーナ(=山崎マゾ、マゾンナの英語読み)と同じところから出てきた人、みたいなもので。マソーナはもう、これまで出てきたノイズ・アーティストのなかでもほぼベストに近い、そういう人なんだけどさ。で、プルーリエントは、この国(アメリカ)のなかで自分にゲットできるそれにもっとも近い存在だ、と。彼、ドミニクはすごく仲の良い友人でね。長年にわたってとても多くを教わってきたし……っていうか、ドミニクがいなかったら、そもそもマソーナのことすら僕は知らなかっただろうね。でも、ドミニクにはまた、彼は詩人だ、という考え方もあるんだよ。だから、彼はただシャウトするだけの人ではなくて、彼の発する言葉、それ自体ももう、僕にはじつに強力なもので。たとえば、彼は……アルバムの“Warning”って曲で歌っているけど、そこで「♪ガラスの家で 最低最悪だ(in a glass house / it's disgusting)」って言っているんだよ。

あー、なるほど(と、ガラスの家での体験談を思い出す)、ハハハッ!

DL:で、「♪警告・警告・警告……!(warning!)」とえんえん繰り返す、という。ふたりでただ雑談していて、僕が夏に体験したことだとか、僕たちが潜っていたクソみたいなことのあれこれを彼と話していたんだけど、そこから彼が引っ張り出してきたのがあの歌詞だったんだ。で――彼に自分のレコードに参加してもらったのは、僕にはとてもスペシャルなことなんだ。というのも、彼は古くからの友人だし、僕からすれば彼はこれまで出てきたなかでももっとも才能にあふれたヴォーカリストのひとり……マイク・パットンやマソーナあたりと同じ系列にいる、そういうヴォーカリストなんだ。いや、もちろん「いろんなスタイルを幅広くこなす」っていう意味では、「すごくレンジが広い」とは言えないタイプの人だよ。ただ、彼が得意とすること、そこに関しては、彼はすごい、非凡だと僕は思ってる。

なるほど。では逆にあなたにとってポップ・ソングの作曲家ベスト3は誰ですか?

DL:おお~!……(と、やや「難問!」という表情。真剣に考え込んでいる)……………………ワーオ! その答えは、しっかり考えさせてもらわないといけないなぁ。

(あまりに悩んでいるので)じゃあ、これはいずれまたの質問、ということで。あなたはこれまでも、ポップ・ソングを書くことに興味を示してきましたけれど、アリアナ・グランデやジャスティン・ビーバーにも曲を書いてみたいですか?

DL:ああ、トライはしてみるよ。だから、新作に“The Station”って曲があるんだけど、あれはアッシャーのために書いた曲だったりするし。

ええっ!? マジですか。

DL:(笑)うん、ほんと! もともとアッシャー向けに書いた曲だったんだよ。だから……まあ、この場では、「最終的にアッシャーが歌うことにはならなかった」という程度に留めておこうか。

(笑)。

DL:ただまあ……はたしてアリアナ・グランデ向けの曲を自分に書けるか? そこは自分でもわからないけど――ただ、挑戦を受けて立つことに、自分は絶対にノーとは言わないね。でも、自分はいわゆる「名人」ソングライターのレヴェル、まだそこには達していないと思ってる。ってのも、あの手の(ビッグなポップ・スター向けの)歌っていうのは、決まった類いのピークや価値観、インパクトみたいなものの設計図を伴う作曲である必要があるし、そこには僕はまったく興味がないんだ。だから、そういった、ほとんどもう、ポップ・ミュージックにとって当たり前な言語みたくなってきたもの、聴き手に心理的な作用を及ぼすあのやり方、それらの多くに対して僕は抵抗して闘ってきたんだけどね。いやほんと、その手法に対する僕の姿勢はつねに「それは良くないって!」ってものだったし、「やっちゃいけないって……やっちゃダメだろ!」みたいな(苦笑)。

(笑)なるほど。

DL:(笑)あーあ、やれやれ……でも、聴くこと自体は自分でもエンジョイするけどね。あの手の音楽のいくつかは、ほんと、聴いて楽しめる。そうは言っても、それは「曲そのもの」を自分が気に入ったというより、むしろ「(歌い手、演奏者なりの)パフォーマンス」が好きだ、ってことなんだろうけど。その意味では、セリーナ・ゴメズのヴォーカルは大好きで。

(笑)そうなんですか!

DL:ああ、彼女の声はすごくクールだよ! あのヴォーカルにはどこかへんてこな、ストレンジなところがあるからね。それから……ザ・ウィーケンドも大好きだし。彼はすごくかっこいいと思う。そうは言っても、彼は(先ほど言ったようなポップ勢とは)違うんだけどね。ってのも、スタイルという意味で、彼は非常に「なんでもあり」でオープンだし、受けてきた影響もとても多彩で、とっちらかっててほんとクレイジー、みたいな。だから、彼はとても新鮮なポップ・スターの一種って感じがする……すごく最新型のマイケル・ジャクソン解釈のひとつ、というのかな。でもまあ、概して言えば、僕はそんなにポップ・ミュージック好きってわけじゃないね。

そんなアメリカのポップ・チャートにいちばん足りないものはなんだと思いますか?

DL:スクリーミング! プルーリエントのやってるような、スクリームが足りない。で、いま自分がこうして指摘したから、たぶんこれからスクリームが流行るだろうね。

僕たち人間が全滅した後にAIは世界にひとりぼっちで取り残されるわけだけど、それでもAIたちは地球近辺に集まってきて悲しんでいる、という。それこそ、お墓参りに行って個人を偲ぶようにね。

今作において、全体に低音を入れないのはなぜですか?

DL:サブ・ベース音はあの家には持ち込まなかったよ。あの、ガラス製の家にはね。それをやったら、ガラスが割れていただろうし!(笑)。

(笑)マジですか。

DL:あの家を内破したくはなかったし、それに「この住宅に被害を与えた」ってことで多額の罰金を払いたくもなかったから。

ガラスが割れたら危ない、と。

DL:そう。誰にもケガしてほしくなかったし、ガラスが割れて追加料金を請求されるのはご免だったし。

でも、そもそもなんでガラスの家なんかでレコーディングすることにしたんですか? 相当に奇妙なシチュエーションですよね(笑)?

DL:どうしてだったんだろう? マジに、自分でもわからない(苦笑)。っていうか、とにかく一時的にニューヨークから離れたかったんだ。でもまあ、あれ以外のどこか他の場所をレコーディング場所に選ぶことも、たぶん可能だったんだろうけど……あの家は『エイリアン』ぽっかったんだよ、エイリアンの卵みたいなんだ。だから見ているぶんには楽しくて……

ガラスのドーム型の建物、ということ?

DL:そうだね、ドームなんだけど、本体は白いコンクリートでできていて、それをガラスが囲っている、みたいな。とても奇妙な建物だよ。

それは、築は割と最近の新しい建物? それとも60、70年代頃の古い建物なんでしょうか。

DL:70年代に建てられたものだと思うよ。あの名称は「Earth」……なんとか(※いわゆる「アース・ホーム」のことと思われます)というものだったな。正式名称はとっさに思い出せないけど、うん、建築の発想としては、「自然に溶け合った家」というものだったんだ(笑)。周囲の丘陵の描く勾配に合わせて曲線を描く、みたいな。だから、トールキン小説に出てくるホビットの住居、という感じ(笑)。

なるほど。ちなみに、『グッド・タイム』の後で「FACT Magazine」に公開したミックステープがありましたよね? あそこにあったあなたの「お気に入りの音楽」、ジョルジオ・モローダー他の映画絡みの音楽を聴いて、一種サントラ『グッド・タイム』の参照リストのようにも感じたんですが、ああいうもの、ちょっとした参照点だったり影響になった音楽は『エイジ・オブ』にも存在しているんですか?

DL:――ああ、少しあるんじゃないかな? だけど、直接的なものではなくて……だから、我ながらおかしいんだよな~。ってのも、自分が(レコーディングしていた頃に)聴いていた音楽って、ほんとストレンジなもので。たとえば、サシャ・マトソン(Sasha Matson)って人のレコードがあったよ。彼はヘンなテレビ向け音楽を書くコンポーザーなんだけど(※いわゆるB級映画/テレビの音楽を手がけてきた作曲家?)……素晴らしいレコードを作ったことがあったんだよ、こう、ペダル・スティールと室内管弦楽団が合わさった、みたいな内容の。要するにカントリーっぽいんだけど、と同時に……モダンなジョン・アダムスみたいに聞こえる、みたいな?

はっはっはっはっはっ!

DL:――いやいや、そんなふうにバカにしないでよ! あれはマジにクールなレコードだって!

了解です。

DL:というわけで、その時点の自分は「よし、サシャ・マトソンみたいなレコードを作るんだ!」と息巻いていたわけだけど――僕のお約束で(笑)、そこから一気にまったく違う方向へと転換してしまって、結局、サシャ・マトソンっぽいレコードを作るには至らなかった、と……。で、ドリー・パートンなんかを聴いていたっていう。だから、自分でもよくわからないんだよ。今回の作品はかなり奇妙で、要するに、そんなに過度に……戦略的に作ってはいない、みたいな。

「MYRIAD」の予告ヴィデオにちらっと日本のゲーム・ソフト『MOTHER』が映りますけれど――

DL:(ニヤッと笑う)。

これはなぜ? というか、あのヴィデオ自体はあなたが制作したわけではないでしょうが……

DL:いや、ヴィデオに使われたイメージはすべて僕が選んだものだよ(笑)。

あのゲームが大好きだから使った、とか?

DL:いいや。っていうか、アメリカではあのゲームは『EarthBound』って名称なんだよ。で、まず、答えA:(ダーレン・)アロノフスキーの『マザー!』が好きであること、そして答えB:AIが自分の母親に対してノスタルジーを抱く、要するに僕たち(人間=AIの作り主)をAIが懐かしむという発想ってすごいな、と。だから、僕たち人間が全滅した後にAIは世界にひとりぼっちで取り残されるわけだけど、それでもAIたちは地球近辺に集まってきて悲しんでいる、という。それこそ、お墓参りに行って個人を偲ぶようにね(※ここは、おそらくキューブリック/スピルバーグの『A.I.』のことを話していると思います)。でまあ……とにかく「MOTHER」って単語自体、はてしなく深いし、しかも面白いものだし。それに、あの(ゲームの)カートリッジに描かれたグラフィック、あれが大好きなんだよな。地球のイメージが使われていて、すごく綺麗。あれは素晴らしいよ。

『MOTHER』の作者は生みの母親を長いこと知らなくて、有名になったことでやっと会えた、という逸話があるんですよ。そのことが反映されたゲームらしいです。

DL:(目を丸くして)へえぇ~~、そうだったんだ!? それはすごい話だね!

※『エイジ・オブ』のコンセプトについて語った後編は6月27日発売の紙エレキング22号に続きます。



interview with Oneohtrix Point Never - ele-king

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 ジェイムス・ブレイクがミキシング・エンジニアを担当していると発表されたOPNの新作はほかにもアノーニなどゲストの情報が先行しているけれど、そのような人たちの影響が明瞭に聴き取れるようなものでもなんでもなく、はっきりとOPNの新作としか言いようがない作品に仕上がっている。そういったゲストの存在にはまったくと言っていいほど左右されていない。過去の作品と比べたときに手癖のようなものがあることは感じられる。しかし、昨年のレコード・ストアー・デイにリリースした2枚の『コミッションズ(Commissions)』もまたそうであったように、さらりとそれまでとは違うことをやってのけるのがダニエル・ロパティンなのである。いや、さらりとではなかった。そこにはいつもそれなりの苦闘があったことは今回のインタヴューでも確認することができた。どういうわけか彼はそういうことは正直に話してくれる。そこはいつもと変わらない。
 『リターナル』『アール・プラス・セヴン』『ガーデン・オブ・ディリート』、そして、『エイジ・オブ』と、これが4回目のインタヴューである。こんなに何度も同じ人にインタヴューしたのは忌野清志郎以来である。最初はもういい加減、訊くことはないんじゃないかと思ったりもしたのだけれど、ダニエル・ロパティンが加速度をつけて変化しているせいか、今回がいままでいちばん面白いインタヴューになった気までしている。むしろ、彼の考えていることや一貫してこだわっていることがようやくわかってきたような気もするし、取材が終わってから、訊きたいことがもっと出てきたりもした。どこに向かって疾走しているのかはさっぱりわからないものの、それがこれまでに見たことのないどこかであることだけは確かだと言える『エイジ・オブ』について、彼の話はあまりにも多岐にわたり、量も膨大になってしまったので、新作について外側から見た部分をここに、そして内側から見たパートは次号の紙エレキング(22号)で公開することにした。通訳の坂本麻里子さんとは、なんというか、何度もタッグを組んできたせいで、じつはもうどこからがどっちで、どこからが誰なのかわからないほど一体化して取材に当たっているという感じなのですが、詳細な注のほとんどは彼女の手によるものです。(三田格)

パーソナルな表現とは逆に、「ここでは演奏する人間が排除されている」という感覚だね。で、そのフィーリングもどういうわけか、僕にはとても人間的なものに感じられるんだ。

音楽ファンは必ずしも「リラックスしない音楽」を聴くこともあると思いますけど、あなたの場合は「リラックスしない音楽」を聴くことがあるとしたらそれは何のためですか?

ダニエル・ロパティン(Daniel Lopatin、以下DL):(ニヤリと笑ってうなずきながら)なるほど。だから……それぞれの「役目」を持つ音楽、そういうものがあってもいいだろうとは思うんだよ。機能を果たさなければならない音楽というか、聴いているうちに身体の速度が速くなって動いたりダンスしたくなる音楽だとか、寝つけないときにそれを補助して眠りに就かせてくれる音楽だとか。そういった機能的な音楽にはまったく問題がないし、実際のところ、この僕だってたぶん、音楽の持つ医薬的効果の恩恵をこうむっているんだろうしね。たとえば……スティーヴ・ローチなんかのレコードを聴きながら眠りに落ちる、だとか? けれども、僕にとってはそれは違う……だから、それは僕からすればもっとも冴えた音楽の使い方ではない、という。

ほう。

DL:僕にとって、音楽は映画に似たものなんだ。要するに、ほとんどもう鏡に身体が映るかのごとく、聴き手に自身を見せてくれるもの……そのストーリーが観る人間の精神を映し出す鏡になっている、みたいな。で、音楽のもたらす効果にはどこかしら、ほとんどもう彫刻に近い面があるんだよ。だから、音楽を聴いていると空間を思い出させられる、音楽が空間をクリエイトする、というか……そう、自分を取り囲んでいる環境を、自分の置かれた情況を思い起こさせてもらえる、と。(音楽を聴くことによって)いろんな物事を気にしたり関心を持つようになるし、そうした物事というのはさもなければその人間のマインドによって優先事項から外され、どこかにしまい込まれてしまうものなんだよ。で、マインドはこう語りかけてくるわけ、「何も心配しなくていい。とにかく労働せよ」と。「つべこべ言わずに労働し、子供をつくり、それが済んだらとっとと消えろ」とね。

(苦笑)。

DL:で、脳が求めているのって基本的にはそれでしょ?

(笑)ええ、まあ。

DL:だけど、そうじゃないんだ。僕たちはもっとそれ以上を受けるに値する、僕はそう思っているから。で、音楽というのはどういうわけか、その点を思い出させてくれるとんでもない「合図」であって……本当に生き生きとした状態になる、真の意味で生きている状態になることを思い出させてくれる、とにかく途方もないリマインダーなんだよな。

なるほど。

DL:で、他のみんなと同様に、その点は僕だってとっくに承知していてね。そりゃそうだよ、だって、やっぱりきついからさ。毎日毎日、こう……一切の悩みやしがらみから完全に解放された状態で、常時あの、「アウェアネス(気づき、知覚)」な状態で生きる、みたいな? そんなの不可能だから。それをやるには、何か補助してくれるものが必要だよ。だから若い頃は僕もサイケデリックなドラッグとかに向かったしね、その手の経験を得たいと思って。と同時に、その(ドラッグによる幻覚)体験もまた、興味深い形で音楽と組み合わさっていたんだけれども。ところが、歳を食うにつれて、自分でも悟ってきたんだよね……だから、「ほぼ音楽なしでも自分にはそういう経験ができるんだ」と。正直、すごく集中すれば、自分は音楽なしでそれをやれると思ってる。というのも、音楽はそれ以上にもっとエキサイティングだし……どうしてかと言えば、音楽というのはじつに具体的で特定な類いのアウェアネスだから、なんだよね。それは他の誰かさんがつくり出した構造だ、と。そんなわけで……うん、そうやって、他の誰かの知覚に基づいた文脈で自分を満たしてみるのは、興味深いことなんだよ。

ふーん、面白いですね。他人のヴィジョンにすっかり自分を委ねる、とでもいうか?

DL:ああ……。

自分とは違う人間の解釈や構造のなかに自らを解放する、というふうに聞こえますが。

DL:そう! だから、ひとつの関係を結ぶってことなんだよ。それにまた、他にもあり得るのは……

ってことは、それだけその音楽を信頼していないといけないってことでもありそうですよね? 自分自身を委ねるわけだから。

DL:それもあるし、また一方で、ある種アヤワスカ(※自分で調べよう!)みたいに、飲み込んではみたものの吐いてしまう、みたいなことだって起こり得るわけだよね、肉体そのものがそれを求めていなくて拒絶反応が出る、という。で……自分にはどうしても入っていけない、そういう音楽も存在するんだよ。いや、とにかく自分でも入り込もうとトライはするんだけど、そこに何らかの……「壁」めいたものを感じ取ってしまう音楽、という。それって興味深いよ。ってのも、誰だってそういうふうに、様々なアートに対して、それぞれに異なる「壁」を感じるものなんだろう、僕はそう思っているわけ。でも、こと音楽に関して言えば、自分に「壁」を感じさせるものってまず大抵の場合、そこに「あるなんらかの特定の目的を果たすために作られた」感覚を伴うもの、なんだよね。そういうのには退屈させられる。

なるほど。

DL:だから、それを聴いても感じるのは「あー、この音楽に対して聴き手の僕が何らかの行動を起こすように、そう、こっちをプログラムするべく何かつくっている人がどっかにいるんだな」というだけのことだし。で――僕はとにかく、音楽は開かれた、オープンなものであってほしい、みたいな。だから、たとえかなりしっかり構築されたものだとしても、オープンさを許す隙をそれがもたらすことはできるわけでさ。そうは言ったって、何も「すべての楽器は生で演奏されていなくてはいけない」とか……「誠意あるものでなければならない」といった意味ではないんだけどね。だって、不真面目なものだってオープンになり得るんだから。だけど、僕が好きなのは、とにかくここ(と、トントン胸を叩きながら)、ハートから生み出された感じがする、そういう音楽なんだ。そうである限り、音楽の構築の仕方はつくる人の勝手、いかようでも構わない、と。僕が感じるのはそういうことだね。


photo: Atiba Jefferson

レコーディング=記録物ですら、時間の経過につれて変化していく、変化し得るんだよ。たとえ、非常に慎重に保存されたものであっても。

どんな音楽も時代と結びついていると思いますか? それとも時代と結びつく音楽と結びつかない音楽があると思いますか?

DL:うん、時代と結びついていると思う。その点は僕もとても興味があるところで、というのも、「とあるテクノロジー」は「とある時代」に発生するものだ、その発想が好きだからなんだ。その事実が、(ある時代に)生まれてくる音楽にとっての枠組みをクリエイトするものだ、という点がね。たとえば、ハープシコード。あれだって、初期段階の音楽機械だったわけだよね? それ以外にもハーディ・ガーディとかいろいろあったけど、あれらはマシーンだったわけ。マシーンだからこそ、ある程度の自律性を実現できた、と。要するに、演奏する者とサウンドとの間の分離を生むことができた。で……その分離は、とても興味深いものでね。だろう? とても面白いよ。

なるほど。

DL:自分でも、なぜああいった「ミュージカル・マシーン」みたいなものに心惹かれるのか、そこはわからない。ただ、どういうわけか、あの手の機械に僕は強く興味をそそられる。だから……あの手の機械にある「冷たさ」というのかな? 機械が作り出す、パフォーマーとの間の距離、ということ。それに、そこから生まれるサウンドもとても興味深いしね。で、僕たちが素晴らしいと称えるものって、多くの場合……さっき話していたような、「苛烈なまでにパーソナルな表現」みたいなものなわけ。僕たちはそういう表現が大好きだし、それはやっぱり、「すごい! これはまさしくこの人間そのものの表現だ!」と思えるからなんだよね。たとえば、ジャズの偉大な即興奏者を何人か思い浮かべればそれはわかるだろうし、彼らのやることを僕たちはとても高く評価している、と。たしかに、あれはとんでもなく素晴らしい表現だよ。ところが、それとはまたまったく別物の……フィーリングみたいなものを受け取ることもある、というのかな、(パーソナルな表現とは逆に)「ここでは演奏する人間が排除されている」という感覚だね。で、そのフィーリングもどういうわけか、僕にはとても人間的なものに感じられるんだ。

ほう、そうなんですか。

DL:うん。どうしてそう感じるかは自分でもわからないんだけどね。

特定の時代に引き留められていない音楽、いわゆる「タイムレスな音楽」というのは存在すると思いますか? いまから50年前も、これから先の10年後にも、人びとに同じく聴かれている音楽はあるでしょうか。それとも、やはり作られた時代の色味を音楽はある程度は帯びてしまうもの?

DL:僕が思うのは、何かがいったん「作られて」しまったら……それは変化するものだ、ということだね。それってとんでもないことだけどね。だから、たとえばレコーディング=記録物ですら……それってとても安定したパフォーマンスのアイディアであって、それこそ「物」なわけでしょ? だから、音楽(という形にならない/目に見えないもの)を物体化したもの、みたいな(苦笑)。そうやって音楽を物にしている、という。ところがそのレコーディングですら、時間の経過につれて変化していく、変化し得るんだよ。たとえ、非常に慎重に保存されたものであっても。

それはいわゆる、テープの劣化とか、そういうことですか?

DL:ああ、それで変化するってこともあるだろうね。ただ、考えてもごらんよ!――だから、テープ云々のせいで変化するんじゃなくて、それを聴く人びとによって変化が起こる、と想像してみてごらん。その音楽にまつわる文脈が一切存在しない時期に、人びとがそれを聴くだとか……あるいは長い歳月が経過して、それこそ何千年も経った後では、人びとにその音楽は伝わらないかもしれないよね、僕たちにもはや楔形文字や象形文字が理解できないのと同じように。で、過去を理解する能力が自分たちには欠けている、その事実からは多くを学べると思うんだよ。というのも、そこから僕たちの本質へと導かれるわけだから。

はあ。

DL:だから、物事は保存されないんだ、と。で、音楽にだってそれは同様に当てはまると僕は思っていて。音楽はクリエイトされるし、その音楽が存在した時代に対して何らかのコメントを発している、と。けれども、そのアイディア自体、増強されていかなくちゃならないんだよ。というのも、時間がつねにそれを削り取ってしまうから。時間というのは、だからこう、奇妙な金槌みたいなものなんだよな。

(笑)なるほど。

DL:ゆっくりと、本当に少しずつ、時間は物事の意味合いをノミで削っていってしまう。で、思うにこれはとても……僕たちの精神の機能の仕方のなかの、たぶん悲劇的な部分なんだろうね。だけど、それと同時にエキサイティングな部分でもあるんだよ。というのも、(変化するということは)物事は何かをクリエイトしていく……というか、物事は新たなフォルムへと成長・発展していく、ということだし、その形状なら僕たちにもコントロールできるからね。僕たちにもそれを抑制することができる、と。

(音楽や記録されたものも)有機物みたいなものだ、と。

DL:っていうか、それ以外に有り様がないよね。僕たちの存在そのものの枠組みがすっかり変わらない限り、そうある以外ないんじゃないかと思う。それはほとんどもう、この宇宙(ユニヴァース)の本質だ、という気すらするよ、僕にとっては。

ユニヴァース、ですか。……(苦笑)は、話が大きいっすね。

DL:(手をパンパン叩いてウケて笑っている)ああ、僕はスケールの大きい話は大好きだからね! 普遍的なストーリーが。

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マシュー・ハーバートにはぞっこんなんだ。っていうか、もう――自分がどれだけマシュー・ハーバートが好きか、君に説明しきれないくらいだよ、ぶっちゃけ。

『グッド・タイム』はいままでのどのアルバムよりもダイナミックで伸び伸びしてると感じました。逆にいうと普段はもっと神経症的に曲を作っているということですよね?

DL:(笑)ああ、そうだね。ハッハッハッハッハッ……!

リラックスできないタチで、もっと強迫観念めいたところがある、みたいな?

DL:うん、もちろん。ほら、見るからにそうでしょ?(と、ソファにだらーっと身を預けた完全なリラックマ状態で、わざと無表情な口調で冗談めかす)

(笑)。

DL:(真顔に戻って)まあ、自分にはちょっとノイローゼ的なところがあるんだろうね。でも……どうしてそうなったかは、自分でもわからないんだよ。ただ、僕は移民家族の一員として、ボストンで育てられたわけで……自分たちみたいな家族は周囲に他にあんまりいない、そういう土地で育った、と。だから、当時うちの家族が暮らしていたエリアでは、僕たちはちょっとストレンジな存在だったんだよ。で、僕の両親は金銭面でものすごく逼迫していたし、我が家は物に恵まれてはいなかった。で……だからこう、つねに「恐れ」の感覚がつきまとっていたんだよな。というのも、両親は故国を捨ててアメリカに渡ったし、彼らは見知らぬ国で新たな環境に順応し、しかも僕ら子供たちを養わなければならなかった。だから、彼らに「リラックスしてほっと一息」なんて余裕はまったくなかったんだ。というわけで――そりゃそう、そういった面が僕に影響を残すのは当然の話だよ! いや、だから……僕の生い立ち云々をいったん脇に置いてみようか。母親が僕をお腹に宿していたとき、両親はソ連から旅立とうとしていてね。

ああ、そうだったんですね。

DL:彼らはソ連を脱出しようとしていた。だから「ホリデーでアメリカに観光」なんてものじゃなかったし、実質、嘘をついてソ連から逃げ出さなくてはならなかったんだ(※かつてソビエト連邦は海外移住するユダヤ人に高額な出国税等を課していた。詳しくは、移民の自由を認めない共産圏国家に対する最恵国待遇の取り消しを含む米議院ジャクソン=バニク修正条項を参照されたし。同条項が効力を発した1975年以後、ユダヤ系ロシア人のアメリカおよびイスラエルへの移民が増えた)。当時は閉鎖状態で、ソビエトから出国するのは難しかったからね(※OPNは1982年生まれのはずなので、ブレジネフ時代)。だから……母親は相当にストレスを感じていたに違いないよ。で、そういう心理状態が(お腹の)赤ちゃんにまで影響したか? と言われたら、僕は「きっと影響しただろう」と、そう思っていて(笑)。

(笑)はい。

DL:というわけで、僕はそういうものを受け取ったんだし、おそらくそれって、今後もとにかく付き合っていくしかないんだろうな、と。

なるほど。そんなあなた自身は自分がアメリカン・ドリームを体現したと思いますか?

DL:まあ……僕の両親からすれば、僕のやってきたことってものすごい、クレイジーな話だ、みたいなものだろうね。というのも……自分たちのような家族、海外に渡ったロシア人ファミリーは僕たちもたくさん知っているけど、そうした移民ファミリーの目標はいつだって、「子供たちにより良い生活を」なんだよ。それって典型的な移民家族のゴールだ、と言っていいと思う。……っていうか、移民に限った話ですらないのかもしれないよね? もしかしたら、多くの家族のゴールがそれ、「子孫に良い生活を」なのかもしれない。ただまあ、移民にとっては、「わたしたち家族はこの地に移住する。我々(親)はそこで犠牲を払わないといけないのは承知している。けれどもそのぶんお前たち(息子/娘)は、もっと良い暮らしをするための機会を手にすることができる」みたいな。

はい。

DL:というわけで……まあ、たぶん少々ひやひやさせたところもあったんだろうけれども、いまのこの時点では、両親はこの僕がどうにか上手くやっていて、しかも自分のやりたいことをやれるようになった、その事実をとても喜んでくれていると思う。その点を彼らは誇りに感じているし……うん、その意味ではこれもまた、「アメリカン・ドリーム」のなんらかのヴァージョンなんだろうね、きっと。ただ、それはまた「アメリカの悪夢」でもあるわけでさ。

(苦笑)タハハッ!

DL:いやだから(笑)……まあ、少し前に、あるドキュメンタリー作品を観ていたんだよ。オレゴン州に存在したカルト集団、ラジニーシプーラムを追った内容なんだけど。

ああ、『Wild Wild Country』のことでしょうか?(※2018年3月にネットフリックスが発表したドキュメンタリー。インド人宗教家・神秘思想家バグワン・シュリ・ラジニーシこと「オショウ」と、彼が1981年にオレゴン州の荒れ地に建設した巨大なユートピア型コミューン/実験都市「ラジニーシプーラム」、バイオテロ事件などの同カルトにまつわるスキャンダルを扱った内容)

DL:そう、それ! あれは奇妙なドキュメンタリーで……作品としての出来そのものは、じつはそんなに良くはないけどね。というのも、作者の意図に沿って観る側の考え方を操るようなところが少しある作品だと僕は思うし。ただ……あそこで何が起こったか、それを観ていて(目を丸くする)――要するに、インドからやってきた新興宗教のリーダー、兼マーケティングのものすごい天才みたいな人物がいて、彼のもとに集まり彼に指導された、リッチな層のヨーロッパ人がいたわけ。で、彼は富裕層の欧州人はもちろん金のあるアメリカ人からも祝福されたし、そうやって彼らはオレゴンのなんにもない辺鄙な土地に結集した、と。そんなことが起こり得る国って、他にあったら教えてもらいたいもんだよ! あれはもう、完全なる……一種の気違いじみた妄想であって、それってアメリカでしか起こり得ないものだ、と。

なるほど。

DL:で、この僕だってアメリカからしか生まれ得ないわけ。ご覧の通り、僕はこんな奴だしね。だから……良いものだけではなく同時に悪いものも一蓮托生で手に入ってきてしまう、そういうことだってあるんだ、みたいな。僕だって、何も……もちろん、それって厄介で面倒だよ。だけど……アメリカは非常におかしな場所なんだ、と。そこではたくさんの出来事が起きているわけだけど、そのほとんどは、外部の人間の目には100%の狂気の沙汰と映るようなものばかり、と(笑)。

(苦笑)はい。

DL:で、それが世界全体にとっての利益になる、そういうことだってたまにはあるんだよ。ただし、多くの場合、実際は世界に害をもたらしている、と。僕がこの「アメリカン・ドリーム」というものに対して感じるのは、そういうことだね。

サウンドトラック・メイカーとしては、いまはどこらへんがあなたのライヴァルでしょうか?

DL:ああ、ライヴァルか! 良いね~!(満面の笑顔)

『ナチュラル・ウーマン』のマシュー・ハーバートか、『ファントム・スレッド』や『ビューティフル・デイ』のジョニー・グリーンウッドが当面はライヴァルかな、なんて思いますが。

DL:マシュー・ハーバート! 彼はめっちゃ好きなんだよなぁ! それってドイツ映画?

いや、チリ人監督作品だと思います。

DL:へえー、チリなんだ。いや、その作品はまだ観てないな。ただ、音楽は聴いたよ。だから……マシュー・ハーバートにはぞっこんなんだ。っていうか、もう――自分がどれだけマシュー・ハーバートが好きか、君に説明しきれないくらいだよ、ぶっちゃけ。

(熱心な口ぶりに気圧されて:笑)わ、わかりました。

DL:とにかく、彼の『ボディリー・ファンクション(Bodily Function)』(2001)、あれは僕のオールタイム・フェイヴァリットのひとつだ、みたいな。でまあ、その、ライヴァルってことだと……ところで、「ライヴァル」って良い言葉だよね? 楽しいし、それこそスポーツ選手の話をしてるみたいでさ(笑)。

はっはっはっはっはっ!

DL:だけど――そう言われて自分が想像してみたいのは、むしろある種のクレイジーな現実だな。で、その世界では僕のライヴァルはハンス・ジマーだ、みたいな。

(笑)ええ~っ、大きく出ましたね!

DL:(笑)うん。っていうのも、僕は本当に……ある意味、ちんまりしたスコアはやりたくないっていうのかな、そうではなくて、マジにスケールの大きいスコアをやってみたくてさ。

超SF大作、ファンタジー巨編、みたいな?

DL:うん、本当に、本当にドカーンとでかい作品をやってみたい。それが自分にとってのゴールだし、もしも他の人びとが僕にやれると信じてくれないとしたら――まあ、そりゃ僕にはなんにも言えないよね。(独り言のようにつぶやきながら)ただ、見てろよ、いつの日か僕はやってやるから、と。

お話を聞いていると、あなたってじつはかなり競争意識の強い人みたいですね?

DL:ああ、相当競争心が強いよ(ニヤッと笑う)。

(笑)ちょっと意外。

DL:(笑)いやまあ、それは別としても、ハンス・ジマーは優秀だよ。彼って、少しこう……誤解されてるんじゃないかと思う。ってのも、彼ってとても……いわゆる「コマーシャルな作曲家」なわけじゃない? でも、彼の作品には信じられないくらいすごい瞬間がいくつかあるんだって! たとえば、僕は彼の担当したスコア……あれはすごくデタラメな映画で……たしかジョン・ウー作品だったと思うけど、『ブロークン・アロー』(1996)ってのがあって(※ジョン・ウーのハリウッド2作目のアクション映画)。出演はジョン・トラヴォルタに、あの俳優……『ミスター・ロボット』に出てた人……あ~、名前はなんだっけ……

クリスチャン・スレイター?

DL:そう(笑)!……でまあ、『ブロークン・アロー』のスコアはじつにクールだ、と。しかも、実際『エイジ・オブ』にも少々影響しているんだよね。っていうのも、あのスコアには一種カントリー風なトゥワングがあるし、ややこう、「西部開拓期」なヴァイブがある、みたいな?

(笑)。

DL:あのスコアは本当に好きなんだ。ある種「コズミック・ウェスタン」とも言えるスコアだから。要するに、エンニオ・モリコーネ風なんだけど、そこに本当にコマーシャル性の高いクサさを伴っている、みたいな。大好きだね(ニンマリ笑う)。

photo: Atiba Jefferson

自分には速度を落とす必要があるんだな、と。ってのも、僕は本当にスピードが速いから。瞬時に変化するってのが好きだし……数秒間以上もうだうだと同じアイディアに留まっているのは苦手なんだよ。

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『エイジ・オブ』はこれまでになくポップな内容だと思います。これはでき上がったものが自然とそうなったのか、それとも意図していたことなんですか? 

DL:ああ、意図的だったね。というのも、自分の成長期の一部に……ベックの『オディレイ』(1996)が出たときのことを覚えているんだよ。あそこで「ワーオ! これは……何もかもが1枚のなかにひっくるめられているな」と感じた。ダスト・ブラザーズの折衷性、みたいな。だから、あのレコードの相当多くの面が、長いこと自分の頭の片隅にひそかに居座っていた、という。で、僕が自分自身のキャリアをさらに奥へ、もっと深くへ辿っていくにつれて、それこそ、もう後戻りするのは無理、みたいな地点にリーチするわけだよね。自分はもうこれ以外の何者にもなれない、「ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー」を続けるだけだ、と。ただ、僕は本当に、音楽全般に魅了され夢中になっているんだよ。それは別に「スタイルとしての音楽」ってことではなくて、なんというか、ある種の、自分自身のステージ(段階)としての音楽、という。だから、ということは、僕には――何も「これ」といった特定のタイプの音楽をやろうってことではないけど、だから、そう……自分の思うまま、自分は好きな夢を夢見ることができるんだ、みたいな? 思いつく限り、どんな楽器を弾いても構わない、と。そんなわけで、僕はジャンルの境界線を使って遊びたいんだ。そこでは、僕は歌に自らを譲ることになるし、そこで自分に歌を書かせるわけだけど……けれども、物事は変化するし、物事は変化したっていいものなんだよね。それに、ジャンルにしたって多かれ少なかれ柔軟にこねられる、それこそプラスティックみたいなシロモノなんだし。

なるほど。

DL:で、以前の自分というのは、すごく目まぐるしいことをやってたんじゃないか? と思っていて。(指を素早くパチン、パチン! とスナップさせながら)基本的に、ひとつの小節あるいは拍子から次へとものすごいスピードで移っていく、みたいな。ところが、いまの時点での僕はそういうやり方にあんまりハマってはいないんだ。それより自分にはゆっくりしたペースと思える、そっちに入れ込んでいる、というか。だからもっとゆったり緩い変容のペースというのか、(1小節刻みではなく)1曲ごとに変化していく、もしくはひとつの曲のなかで大きなセクションごとに変わっていく、と……っていうか、じつはそれですらないかもしれないな? このアルバムは「一群の歌が集まった」ものだし、あれらの曲群はそれぞれ異なる色をつけられているかもしれないけれど、やっぱりそれ自体でちゃんと「歌」になっている。だから、アイディアという意味では、あれらの歌はそんなに素早く急激に変化しないんだよ。

アノーニデイヴィッド・バーンをプロデュースしたことが影響しているのかな? とも感じましたが。

DL:100%そう。実際、自分がやっていたのはそれだったんだし(笑)――だって、過去2、3年くらい、僕はずっと働いていたんだし。とにかく仕事、仕事、と。そんなわけで、自分でもちょっと感じるんだよ、その意味では、こう……自分は街路に立ってスープを煮ているんだな、みたいな。

(笑)。

DL:いや、だからさ、そうやっていれば、他の人びとが何を欲しがっているのか学ぶわけだよ、そうじゃない?(プフッ! と噴き出し苦笑) だから、自分のためではなく、他の人たち向けにスープを料理する、という。そうすれば、「ああ、彼らはニンジンを入れると気に入るのか」などなどわかるっていう。

タマネギを入れたほうがいいかも、とか。

DL:(苦笑)そう、その通り! で……また逆にそこで教わったのが、人びとが求めていないものは何か? ってことでもあってさ(爆笑)! クハッハッハッハッハッ……

ああ、そうでしょうね(笑)。

DL:(笑)僕はフリーク、変わり者みたいなものだし、(指をパチッ・パチッと小気味良くスナップさせながら)自分には速度を落とす必要があるんだな、と。ってのも、僕は本当にスピードが速いから。瞬時に変化するってのが好きだし……数秒間以上もうだうだと同じアイディアに留まっているのは苦手なんだよ。けれども、こう、一緒に仕事した人たちを相手に、総合的な意見みたいなものを調査したところ(苦笑)、ヒッヒッヒッヒッ!……彼らに言われるんだよね、「うん、そこ、良い! そのパートを、ただ繰り返していってもらえる?」と(笑)。で、僕はもう(予想が外れてやや意外/ちょっと違うんだけどなぁ? という感じの、微妙で皮肉まじりな表情を浮かべながら)「なるほどねー、承知しました! うん、それは素晴らしい思いつきだ」みたいな(苦笑)。

(笑)。

DL:たぶん、僕には必要なんだろうな……だから、アノーニにデイヴィッド・バーン、そのどちらからも――それにトウィッグス(FKA Twigs)もそうだけど、彼らみたいな人たち全員から「ねえ、そこの箇所、それをとにかくちょっとループしてくれない?」と言ってこられたら、そりゃやっぱり、僕はたぶんそこをループさせるべきなんだろう、と。彼らは優れた人たち、自分たちが何をやっているかをちゃんと把握している人びとだからね……クフッフッフッ(思い出し笑いしている)。

あなたのやることは凝縮度が高すぎなのかもしれませんね。少々水で薄めないと口に合わない、みたいな。

DL:ああ、ほんのちょっとだけ、ね(笑)。でもさ、じつを言えば、そうやって希釈することは自分でも気に入っているんだ。それって何も「他人のニーズに合わせる」だけのことではなくて、ほんと、自分の音楽をああいう形で耳にすること、それってリフレッシュされる体験だなと我ながら感じる、そこは認めざるをえなくて。だから、とにかくその聞こえ方は……ここのところの自分の物事の考え方にマッチしている、そう思えるんだ。

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ほとんどもう、ポップ・ミュージックにとって当たり前な言語みたくなってきたもの、聴き手に心理的な作用を及ぼすあのやり方、それらの多くに対して僕は抵抗して闘ってきたんだけどね。

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『エイジ・オブ』は前作のハードなところが減って、全体に艶やかさのようなものを感じます。『ガーデン・オブ・ディリート』は劣悪な環境、密室恐怖症的な地下環境が作品に影響していると言ってましたが、今回はいい環境で録音できたということですか?

DL:うん、今回はガラス窓がたっぷりだったよ! それこそ、前庭にある木立を眺めつつ作業する、みたいな。

そうなんですか! それはずいぶん違いますね。

DL:ああ。この作品はとても奇妙な家でレコーディングしてね。

(前作時の)地下牢(ダンジョン)ではない、と。

DL:うん、地下牢はもう後にした(笑)。で、マサチューセッツ州にある私邸に行って。とても変わった家なんだ。ガラス製なんだけど、円形でね。四角くないんだ。で、なかにいると、あの建物がとても奇妙なフィーリングを醸し出してくるっていう。日中に作業している間はとてもリラックスできるんだよ。というのも、ハリネズミだの、いろんな動物が見られて……ハリネズミにコマツグミ、青ツグミにおかしないろんな鳥たち、リスだのが木立で過ごしている様子が見えたし、それに、近所の住人たちも見えたっけ(笑)。近所の隣人たちは興味深かったな。じつは、彼らがいちばん面白かったかも。それはともかく、その一方で、これが夜になると、ガラス張りの家で暗闇のなかにいるととても無防備に感じるんだよ。それって、とても奇妙でね。というのも、ああしたガラスでてきた家に暮らすのって、こう、一種の特権、贅沢だと考えられているわけ。ところが、僕からすればあの家での暮らしって悪夢のように思えて。というのも、いったん家のなかの照明が点くと、外の周囲は何も見えなくなってしまう。で、誰かに監視されてるんじゃないか、そんな気がしてくるんだ。たとえ実際は外に誰もいなくても、いつ何時、誰かが飛び出してくるんじゃないか? みたいな気がする、と(苦笑)。というわけで、あそこは日中は地下牢ではなかったけれども、夜になると悪霊っぽい性質を伴う場所だったね。うん、悪霊っぽいところがあった。

(笑)。それって、マイケル・マンの映画に出てきそうな家ですね。『刑事グラハム/凍りついた欲望』(1986)って覚えてます?

DL:うん、もちろん。

あれにも出てきますけど、マイケル・マン映画ってガラス張りで外から中やアクションが丸見えの住宅をよく使いますよね。カメラがその外にあって、それを追っていく、みたいな。

DL:とんでもないよねぇ。

でも、そういう環境で実際に暮らすのは、さっきもおっしゃっていたように、相当怖いでしょうね。自分は避けたいです。

DL:怖過ぎだよ。僕には怖過ぎ。

ドミニク・ファーナウ(プルーリエント)をヴォーカルに起用するというのはかなり突飛な気がしますが、これはあなたのアイディア?

DL:っていうか、考えてもごらんよ、彼の方から「お前の新作にぜひゲストで参加したいんだけど」って言われたら、ビビるよね(笑)。アッハッハッハッ……

(笑)たしかに。

DL:でもまあ、彼のヴォイスを使う、あれは僕のアイディアだったんだ。ってのも、僕にとっての彼というのは……だから、自分が自作レコードのコラボレーターに求めることって、彼らのとても強力で、風変わりな、パフォーマーとしての側面なんだよ。だから、彼らが何かやるのを聴くと、自分の全身が思わず総毛立つ、みたいな人たちだね。で、プルーリエントというのは、僕からすると……マソーナ(=山崎マゾ、マゾンナの英語読み)と同じところから出てきた人、みたいなもので。マソーナはもう、これまで出てきたノイズ・アーティストのなかでもほぼベストに近い、そういう人なんだけどさ。で、プルーリエントは、この国(アメリカ)のなかで自分にゲットできるそれにもっとも近い存在だ、と。彼、ドミニクはすごく仲の良い友人でね。長年にわたってとても多くを教わってきたし……っていうか、ドミニクがいなかったら、そもそもマソーナのことすら僕は知らなかっただろうね。でも、ドミニクにはまた、彼は詩人だ、という考え方もあるんだよ。だから、彼はただシャウトするだけの人ではなくて、彼の発する言葉、それ自体ももう、僕にはじつに強力なもので。たとえば、彼は……アルバムの“Warning”って曲で歌っているけど、そこで「♪ガラスの家で 最低最悪だ(in a glass house / it's disgusting)」って言っているんだよ。

あー、なるほど(と、ガラスの家での体験談を思い出す)、ハハハッ!

DL:で、「♪警告・警告・警告……!(warning!)」とえんえん繰り返す、という。ふたりでただ雑談していて、僕が夏に体験したことだとか、僕たちが潜っていたクソみたいなことのあれこれを彼と話していたんだけど、そこから彼が引っ張り出してきたのがあの歌詞だったんだ。で――彼に自分のレコードに参加してもらったのは、僕にはとてもスペシャルなことなんだ。というのも、彼は古くからの友人だし、僕からすれば彼はこれまで出てきたなかでももっとも才能にあふれたヴォーカリストのひとり……マイク・パットンやマソーナあたりと同じ系列にいる、そういうヴォーカリストなんだ。いや、もちろん「いろんなスタイルを幅広くこなす」っていう意味では、「すごくレンジが広い」とは言えないタイプの人だよ。ただ、彼が得意とすること、そこに関しては、彼はすごい、非凡だと僕は思ってる。

なるほど。では逆にあなたにとってポップ・ソングの作曲家ベスト3は誰ですか?

DL:おお~!……(と、やや「難問!」という表情。真剣に考え込んでいる)……………………ワーオ! その答えは、しっかり考えさせてもらわないといけないなぁ。

(あまりに悩んでいるので)じゃあ、これはいずれまたの質問、ということで。あなたはこれまでも、ポップ・ソングを書くことに興味を示してきましたけれど、アリアナ・グランデやジャスティン・ビーバーにも曲を書いてみたいですか?

DL:ああ、トライはしてみるよ。だから、新作に“The Station”って曲があるんだけど、あれはアッシャーのために書いた曲だったりするし。

ええっ!? マジですか。

DL:(笑)うん、ほんと! もともとアッシャー向けに書いた曲だったんだよ。だから……まあ、この場では、「最終的にアッシャーが歌うことにはならなかった」という程度に留めておこうか。

(笑)。

DL:ただまあ……はたしてアリアナ・グランデ向けの曲を自分に書けるか? そこは自分でもわからないけど――ただ、挑戦を受けて立つことに、自分は絶対にノーとは言わないね。でも、自分はいわゆる「名人」ソングライターのレヴェル、まだそこには達していないと思ってる。ってのも、あの手の(ビッグなポップ・スター向けの)歌っていうのは、決まった類いのピークや価値観、インパクトみたいなものの設計図を伴う作曲である必要があるし、そこには僕はまったく興味がないんだ。だから、そういった、ほとんどもう、ポップ・ミュージックにとって当たり前な言語みたくなってきたもの、聴き手に心理的な作用を及ぼすあのやり方、それらの多くに対して僕は抵抗して闘ってきたんだけどね。いやほんと、その手法に対する僕の姿勢はつねに「それは良くないって!」ってものだったし、「やっちゃいけないって……やっちゃダメだろ!」みたいな(苦笑)。

(笑)なるほど。

DL:(笑)あーあ、やれやれ……でも、聴くこと自体は自分でもエンジョイするけどね。あの手の音楽のいくつかは、ほんと、聴いて楽しめる。そうは言っても、それは「曲そのもの」を自分が気に入ったというより、むしろ「(歌い手、演奏者なりの)パフォーマンス」が好きだ、ってことなんだろうけど。その意味では、セリーナ・ゴメズのヴォーカルは大好きで。

(笑)そうなんですか!

DL:ああ、彼女の声はすごくクールだよ! あのヴォーカルにはどこかへんてこな、ストレンジなところがあるからね。それから……ザ・ウィーケンドも大好きだし。彼はすごくかっこいいと思う。そうは言っても、彼は(先ほど言ったようなポップ勢とは)違うんだけどね。ってのも、スタイルという意味で、彼は非常に「なんでもあり」でオープンだし、受けてきた影響もとても多彩で、とっちらかっててほんとクレイジー、みたいな。だから、彼はとても新鮮なポップ・スターの一種って感じがする……すごく最新型のマイケル・ジャクソン解釈のひとつ、というのかな。でもまあ、概して言えば、僕はそんなにポップ・ミュージック好きってわけじゃないね。

そんなアメリカのポップ・チャートにいちばん足りないものはなんだと思いますか?

DL:スクリーミング! プルーリエントのやってるような、スクリームが足りない。で、いま自分がこうして指摘したから、たぶんこれからスクリームが流行るだろうね。

僕たち人間が全滅した後にAIは世界にひとりぼっちで取り残されるわけだけど、それでもAIたちは地球近辺に集まってきて悲しんでいる、という。それこそ、お墓参りに行って個人を偲ぶようにね。

今作において、全体に低音を入れないのはなぜですか?

DL:サブ・ベース音はあの家には持ち込まなかったよ。あの、ガラス製の家にはね。それをやったら、ガラスが割れていただろうし!(笑)。

(笑)マジですか。

DL:あの家を内破したくはなかったし、それに「この住宅に被害を与えた」ってことで多額の罰金を払いたくもなかったから。

ガラスが割れたら危ない、と。

DL:そう。誰にもケガしてほしくなかったし、ガラスが割れて追加料金を請求されるのはご免だったし。

でも、そもそもなんでガラスの家なんかでレコーディングすることにしたんですか? 相当に奇妙なシチュエーションですよね(笑)?

DL:どうしてだったんだろう? マジに、自分でもわからない(苦笑)。っていうか、とにかく一時的にニューヨークから離れたかったんだ。でもまあ、あれ以外のどこか他の場所をレコーディング場所に選ぶことも、たぶん可能だったんだろうけど……あの家は『エイリアン』ぽっかったんだよ、エイリアンの卵みたいなんだ。だから見ているぶんには楽しくて……

ガラスのドーム型の建物、ということ?

DL:そうだね、ドームなんだけど、本体は白いコンクリートでできていて、それをガラスが囲っている、みたいな。とても奇妙な建物だよ。

それは、築は割と最近の新しい建物? それとも60、70年代頃の古い建物なんでしょうか。

DL:70年代に建てられたものだと思うよ。あの名称は「Earth」……なんとか(※いわゆる「アース・ホーム」のことと思われます)というものだったな。正式名称はとっさに思い出せないけど、うん、建築の発想としては、「自然に溶け合った家」というものだったんだ(笑)。周囲の丘陵の描く勾配に合わせて曲線を描く、みたいな。だから、トールキン小説に出てくるホビットの住居、という感じ(笑)。

なるほど。ちなみに、『グッド・タイム』の後で「FACT Magazine」に公開したミックステープがありましたよね? あそこにあったあなたの「お気に入りの音楽」、ジョルジオ・モローダー他の映画絡みの音楽を聴いて、一種サントラ『グッド・タイム』の参照リストのようにも感じたんですが、ああいうもの、ちょっとした参照点だったり影響になった音楽は『エイジ・オブ』にも存在しているんですか?

DL:――ああ、少しあるんじゃないかな? だけど、直接的なものではなくて……だから、我ながらおかしいんだよな~。ってのも、自分が(レコーディングしていた頃に)聴いていた音楽って、ほんとストレンジなもので。たとえば、サシャ・マトソン(Sasha Matson)って人のレコードがあったよ。彼はヘンなテレビ向け音楽を書くコンポーザーなんだけど(※いわゆるB級映画/テレビの音楽を手がけてきた作曲家?)……素晴らしいレコードを作ったことがあったんだよ、こう、ペダル・スティールと室内管弦楽団が合わさった、みたいな内容の。要するにカントリーっぽいんだけど、と同時に……モダンなジョン・アダムスみたいに聞こえる、みたいな?

はっはっはっはっはっ!

DL:――いやいや、そんなふうにバカにしないでよ! あれはマジにクールなレコードだって!

了解です。

DL:というわけで、その時点の自分は「よし、サシャ・マトソンみたいなレコードを作るんだ!」と息巻いていたわけだけど――僕のお約束で(笑)、そこから一気にまったく違う方向へと転換してしまって、結局、サシャ・マトソンっぽいレコードを作るには至らなかった、と……。で、ドリー・パートンなんかを聴いていたっていう。だから、自分でもよくわからないんだよ。今回の作品はかなり奇妙で、要するに、そんなに過度に……戦略的に作ってはいない、みたいな。

「MYRIAD」の予告ヴィデオにちらっと日本のゲーム・ソフト『MOTHER』が映りますけれど――

DL:(ニヤッと笑う)。

これはなぜ? というか、あのヴィデオ自体はあなたが制作したわけではないでしょうが……

DL:いや、ヴィデオに使われたイメージはすべて僕が選んだものだよ(笑)。

あのゲームが大好きだから使った、とか?

DL:いいや。っていうか、アメリカではあのゲームは『EarthBound』って名称なんだよ。で、まず、答えA:(ダーレン・)アロノフスキーの『マザー!』が好きであること、そして答えB:AIが自分の母親に対してノスタルジーを抱く、要するに僕たち(人間=AIの作り主)をAIが懐かしむという発想ってすごいな、と。だから、僕たち人間が全滅した後にAIは世界にひとりぼっちで取り残されるわけだけど、それでもAIたちは地球近辺に集まってきて悲しんでいる、という。それこそ、お墓参りに行って個人を偲ぶようにね(※ここは、おそらくキューブリック/スピルバーグの『A.I.』のことを話していると思います)。でまあ……とにかく「MOTHER」って単語自体、はてしなく深いし、しかも面白いものだし。それに、あの(ゲームの)カートリッジに描かれたグラフィック、あれが大好きなんだよな。地球のイメージが使われていて、すごく綺麗。あれは素晴らしいよ。

『MOTHER』の作者は生みの母親を長いこと知らなくて、有名になったことでやっと会えた、という逸話があるんですよ。そのことが反映されたゲームらしいです。

DL:(目を丸くして)へえぇ~~、そうだったんだ!? それはすごい話だね!

※『エイジ・オブ』のコンセプトについて語った後編は6月27日発売の紙エレキング22号に続きます。



Oneohtrix Point Never - ele-king

 昨晩、マンハッタンのアップタウンにあるパークアベニュー・アーモリーでOneohtrix Point Never(以下、OPN)の待望のライヴ・パフォーマンスが開催された。アーモリーというのは米軍の元軍事施設のことで、そこをリノベーションして作られた会場は、NYでも有数のスケールの大きなイベントスペースのひとつ。19世紀当時の重厚で綺羅びやかな内装がエントランスまわりの空間に残されつつも、メイン会場は広々とした大きなハコになっていて、数々の世界的なアーティストのパフォーマンスやアートショーなどが開催されている。

 5月25日に発表になる2年半ぶりのオリジナル・アルバム『Age Of』を引っさげての今回のOPNの単独ライヴは、アーロン・デヴィッド・ロス(Aaron David Ross)、ケリー・モラン(Kelly Moran)、イーライ・ケスラー(Eli Keszler)の3人のミュージシャンたちを引き連れての初のアンサンブル形式になると聞いていた。開催が決定していた2日間分のチケットは販売日に即刻ソールドアウト、すぐに追加公演も決まった。才能溢れるアーティストたちとの新しい試みになるであろうこのライヴに対する期待値は、品格のある会場のチョイスとともに、開催前からどうしたって上がっていた。

 当日の会場は、20時ドアオープンなのにもかかわらず、19時半から観客が列を作りはじめていた。その観客層は幅広く、若いキッズたちだけでなく、ジャケット姿で普段はクラシックやオペラを聴きに行っていそうな年配のカップルまでが集まっていた。ふと、本当にいいレストランには老若男女のお客がいるものだと教わったことを思い出した。ブルックリンのアンダーグラウンド・ノイズ・シーンからはじまり、〈Warp〉に移籍し、FKA ツイッグスやデヴィッド・バーンやまでを手がけて「メジャー」になったOPNがいま、こうも幅広い層に受け入れられるよう進化していることが印象的だった。

 会場内は一人ひとりに席が与えられた着席式で、天上には2つのスカルプチャーが浮きながら回っていた。舞台上にはいくつかに分裂したスクリーンが設置され、床には大きな黒いビニール袋が舞台装置のように横たわる。しかも観客各々の手元には解説書のようなブックレットが置かれていて、まるでシアターのような空間でパフォーマンスははじまった。

 ケリー・モランが奏でるチェンバロ音に続いてイーライ・ケスラーのマジカルなドラム音が巨大な会場に響き渡り開始早々観客を一気に飲み込んだ。音に息吹が吹き込まれているような彼らの演奏はエフェクトをかけた音でさえ生々しく感じられて、複雑に入り組んだOPNの曲をまるで目の前で解体してみせてくれているような感覚に陥る。そして曲目が進むにつれてOPNことダニエル・ロパティンが弾き語る歌声がさらに観客をぐっと引き付けた。そう、今回ダニエルは多くの楽曲を自ら歌っている。アメリカーナ調の歌を歌うダニエルの姿は、「カオスで実験的なエレクトロニック・ミュージック」といったOPNのイメージを裏切り、多くの観客を驚かせたかもしれない。でも、最新アルバム『Age of』で彼が描く人間が生み出す4つの時代「ECCO」「HARVEST」「EXCESS」「BONDAGE」を表現する上で、このマシーンが作ったようなサウンドと組み合わされたダニエルによる「ヒューマン」な声は、欠かせない主要な要素となっていた。

 今回のライヴではプロローグにはじまり、この4つの時代を描いた曲目を順次演奏し、エピローグで締めるというシアトリカルな構成で進められたのだが、ブックレットによる各時代の解説、変化する舞台演出、“Black Snow”ではPVと同じダンサーたちの登場と、アルバムをよりわかりやすく立体的に表現するものとなっていた。

 また豪華なゲストの登場も華を添えた。“Same”ではダニエルに「叫びのジミー・ヘンドリックス」と言わしめたプルリエント(Prurient)がシャウトし、エピローグ直前には“Last Known Image Of A Song”でケルシー・ルー(Kelsey Lu)が鳥肌が立つようなチェロのソロを奏でた。


 
 エピローグまで終わると会場中は拍手に湧き、スタンディングオベーション。それに呼応して“Child Of Rage”と“Chrome Country”の2曲が追加演奏されファンを喜ばした。

 すべて聞き終わって会場を後にしたとき、先日インタヴューした際に今回のアルバムを「僕にとっては、いろいろな音楽的歴史を通じて広がる、ある特定の種類のアメリカを描いた絵のように感じる」と言っていたことを思い出した。人間の性を表現したような4つの時代。それをぐるぐると回る今のアメリカへの警告のようなもの。そのときはあまりしっくりこなかったけれど、ライヴを経てそれがよくわかった気がした。そして先日公開されたラッパー、チャイルディッシュ・ガンビーノ(Childish Gambino)の“This is America”ともリンクした。彼のいまのアメリカ社会に対する痛烈な描写が話題になっているが、ほぼ同時に同じくアメリカをテーマにした楽曲が30代半ばのアーティスト2人から生まれたというのは、偶然ではない気がする。

Oneohtrix Point Never - ele-king

 先日ニュー・アルバム『Age Of』のリリースがアナウンスされたOPNだが、ついにその詳細が発表されることとなった。同時に新曲“Black Snow”もフルで公開されている。

 公開されたクレジットを確認してまず驚くのは、多くのゲストが参加している点だ。これはOPN名義のオリジナル・アルバムとしては初めてのことである。ダニエル・ロパティンはこれまでもじつにさまざまなアーティストとコラボを繰り返してきたけれど、どうやら『Age Of』にはその経験が直接的に反映されているようだ。

〔新作には〕僕がここ数年、他のアーティストたちのために働いて経験したことに対する直感的で忠実な反応が詰まっているんだ。『Garden of Delete』の後に注目されるようになって、“グロテスク・ポップ”を作った後に、実際にポップ・ミュージックを作るようにもなった。音楽的な労働、つまり、音楽を収獲するということ、つまりは、誰かの音楽的なゴールのために働くということについて考えるようになった。また僕自身についてや、僕の作曲家として、またプロデューサーとしてのアイデンティティについてもね。 (オフィシャル・インタヴューより)

 そのような経験はロパティンにシュルレアリスムを想起させるものだったらしい。オフィシャル・インタヴューにおいて彼は「自分が欲しい音と、他人が欲しいと思うような音との両方を混ぜ合わせたシュールレアリスム的な音の組み合わせは、まるで誰かに切り裂かれたクレイジーな彫刻のようなものになった」と語っている。そのように「労働」と「シュルレアリスム」というふたつの観点を発見した彼は、新作『Age Of』に関して次のように宣言している。

僕はこのアルバムを「ブルーカラー・シュルレアリズム(労働階級のシュルレアリズム)」と呼ぼうと思ってる。 (オフィシャル・インタヴューより)

 じっさいに招かれているゲストたちも興味深い。クレジットにはローレル・ヘイローラシャド・ベッカーの作品への参加で知られるパーカッショニストのイーライ・ケスラーや、昨年『Hopelessness』でハドソン・モホークとともにOPNにもプロダクションを担当させていたアノーニなどに加え、なんとジェイムス・ブレイクの名までもが記載されている。
 なかでも4曲で参加しているアノーニの存在は、このアルバムの成り立ちそのものに関わっているようだ。環境問題をめぐる会話でアノーニを怒らせてしまったロパティンは、それをきっかけに環境について考えるようになり、それこそが本作の始まりとなったのだという。

僕らは欲張りで地球から多くを取り過ぎることになる。自分たちのことしか考えないからね。アノーニの気持ちを傷つけてしまったことからはじまって、もうそうしたくないと思った。そしてなぜ自分が無感覚だったのかということについても考えた。もう少し気遣えるようになりたいし、コンピュータードリームの一端になりたくないんだ。このアルバムはちょっとした警告ようなものなんだ。 (オフィシャル・インタヴューより)

 そして、もっとも驚きを与えるだろうゲストのジェイムス・ブレイクについてロパティンは、「彼とは気が合うんだ。付き合いは長くはないよ。お互いに存在は知っていたけどほとんど話したこともなかった」と振り返っている。OPNは一昨年、ハドソン・モホークとジェイムス・ブレイクとの論争を仲裁しているが、その前年あたりから交流が始まったのだろうか。ともあれ、ブレイクは3曲でプレイヤーとしてキイボードを担当するとともに、アルバム全体のミックスを手がけてもいる。ロパティンは、今回のアルバムのミキサーにはエンジニアではなく自身でも音楽を演奏する人がふさわしいと考え、ブレイク本人に依頼することになったのだそうだ。

彼〔ジェイムス・ブレイク〕は、自分が作ったジェイ・Zの曲をSpotifyで聞いた時、これは正しいミックスじゃないと言ってSpotifyから曲を落とさせて、彼が思った通りの、より良いものと入れ替えさせたって話があるんだ。とてもクールだよね。それに強い。インスパイアされたよ。それで彼にアプローチしてみたんだ。そしたら「いつスタートする?」ってすぐ返事が来て、とてもいいエネルギーを感じた。 (オフィシャル・インタヴューより)

 他方、ブレイクのキイボーディストとしての腕前についてロパティンは、「デレク・ベイリーのような即興演奏者やフリージャズピアニストのようだ」と語っている。「音楽とは何かということに気づかせてくれる。つまり音楽とはアイディアではなく、人から出てくる直感のようなものなんだ」。
 クレジットを眺めていてさらに驚くのは、本作にはなんとロパティン本人の歌までもがフィーチャーされているということだ。「ただ歌が好きなんだ。歌が声を必要とする」と彼は言う。「何を言っているかわかりづらくても、何かしらの意味を発しているというだけで奇跡的だと思うんだ」。前作『Garden Of Delete』では音声合成ソフトのChipspeechが導入されていたが、本作ではオートチューンが用いられている。

僕とアノーニの声を使ってオートチューンやエフェクトをかけてる。声が別のものになるってのがいいんだ。モンスターとか生物が好きだからね。SFとかへの愛情の現れでもあるね。声がリッチで興味深くなる。音の鳴り方自体が物事を説明できてしまうほどパワフルになる。その一方で何も伝わらなかったとしてもオブジェになるというようなパワーもある。声の持つ色々な側面が好きなんだ。 (オフィシャル・インタヴューより)

 サウンド面で言えば、チェンバロのサンプリングが使用されているのも新作の大きな特徴のひとつだろう。先月部分的に公開された新曲にはルネサンス音楽~バロック音楽の要素が表れ出ていたが、それもチェンバロの響きから誘導されたものと思われる。

チェンバロは面白い楽器だ。音楽的なマシーンってのがいい。僕にとってチェンバロは、色々な開発が進んでいた時代に、物事を発展させて世の中を変えようとしていた中で生まれたもので、工業的な強みを持った、バイオリンのような弦楽器の複雑なバージョンだ。開発された当時は、例えばシンセサイザーの音を最初に聴いた時のような衝撃があっただろうね。 (オフィシャル・インタヴューより)

 コンセプト面もおもしろい。本作にはふたりの哲学者が影響を与えている。ひとりはミハイル・バフチン。彼がラブレーの『ガルガンチュワとパンタグリュエル』について論じた文章(おそらく『フランソワ・ラブレーの作品と中世・ルネッサンスの民衆文化』)を読んだことが、このアルバムを作るきっかけのひとつとなったらしい。

彼〔バフチン〕が本の中で言っていてとても好きな部分があって、それは「歴史は嘘だ」というようなことなんだ。つまり我々が認識している歴史は、混沌とした複雑な世界を注意深く整えて残したもので、真実は街の市場で起こっているということ。人々が笑いあったり、悪いジョークを言っていたりする中にね。それを読んだ時に、すぐにこのアルバムのことが思い浮かんで、その昔の16世紀の時代に同じことを思っていた友達がいたということに気づいて嬉しかったんだ。 (オフィシャル・インタヴューより)

 もうひとりはニック・ランドだ。今回公開された新曲“Black Snow”のリリックは、ランドの主宰する研究機関Cybernetic Culture Research Unit(CCRU)が2015年に出版した本(おそらく『Ccru: Writings 1997-2003』)からインスパイアされているのだという(ランドについては、コード9のインタヴューを参照)。

 ……とまあ、このように、今回のOPNの新作は、さまざまな面でじつに興味深い作品に仕上がっているようである。リリースは5月25日。カンヌ映画祭でのサウンドトラック賞の受賞や坂本龍一のリミックス・アルバムへの参加を経て、ダニエル・ロパティンは次にどこへ向かおうとしているのか? 混沌とした現代を象徴することになりそうなこの新作を、しっかりと迎える準備を整えておこう。

最新にして圧倒的傑作『AGE OF』から
自ら監督した新曲“BLACK SNOW”のミュージック・ビデオを解禁!
ジェイムス・ブレイク、アノーニらのアルバム参加も明らかに!

アルバム発表と同時に待望の来日公演も発表され、謎めいたトレーラー映像も話題となっているワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(以下OPN)が、最新アルバム『Age Of』から、初のフル公開曲となる新曲“Black Snow”を解禁! ミュージック・ビデオはOPNことダニエル・ロパティン自らが監督を務めている。さらにジェイムス・ブレイク、アノーニらのアルバム参加も明らかとなった。

ONEOHTRIX POINT NEVER - BLACK SNOW
https://opn.lnk.to/BlackSnow-video

本楽曲の歌詞は、イギリス出身の哲学者・著述家であるニック・ランド、そして彼が設立に携わり、90年代に活動した「サイバネティック文化研究ユニット(Cybernetic Culture Research Unit)」にインスパイアされており、我々人間が、いかに混乱に向かうことを運命づけられているかということを突きつける。奇異さとポップネスを絶妙なバランスで同居させ、内臓を貫くようなハーモニーがもたらす心地良さも、異端なミニマリズムが生む緊張感も、すべてが美しいメロディーの海原へと溶け込んでいく。

また今回の発表に合わせて、アルバムの全クレジットが公開され、OPN名義の作品としては初めて、他のアーティストがゲスト参加していることが明かされた。ジェイムス・ブレイクがアルバム全体のミックスを担当している他、3曲でキーボードを演奏、さらにアノーニがヴォーカルで参加している(*OPNはアノーニの最新アルバム『Hopelessness』でハドソン・モホークと共にプロデューサーを務めている)。他にも、ローレル・ヘイローやラシャド・ベッカー、日野浩志郎らとのコラボレーションでも知られる気鋭パーカッショニスト、イーライ・ケスラー、ケレラやブラッド・オレンジ、ファーザー・ジョン・ミスティ作品への参加でも知られるシンガーにしてチェリストのケルシー・ルー、ノイズ・アーティストのプルリエントらが参加。ミックスを依頼したジェイムス・ブレイクについて、ダニエル・ロパティンは次のように語っている。

ジェイムスとうまく仕事ができたのは、ミキシングに必要なのは技術的なことじゃなくて、良いアレンジだという点で同意していたことにあると思う。正しいサウンドが並び合っていればミックスも簡単だ。でも間違った音が並んでクレイジーな場合は、技術に頼らざるを得なくなってくる。スタジオでの判断基準はすべてどうアレンジするべきか、だった。音楽的な視点でのミックス作業で、それこそ僕が必要としているものだった。とても彼が助けてくれたことに満足してるよ。ジェイムスはノッてくるとキーボードも演奏してた。

大型会場パークアベニュー・アーモリー(Park Avenue Armory)で二日間開催予定だったニューヨーク公演が即完したことを受け、ニューヨークでの追加公演、ロンドン公演、そしてデンマーク(ハートランド・フェスティバル)、スペイン(プリマヴェーラ・サウンド)でのフェスティバル出演を経て、9月に一夜限りの東京公演(Shibuya O-EAST)の開催も決定! 売り切れ必至のチケットは、各プレイガイドにて現在絶賛発売中。

公演日:2018年9月12日(WED)
会場:O-EAST

OPEN 19:00 / START 19:30
前売 ¥6,000(税込/別途1ドリンク代) ※未就学児童入場不可

一般発売日:4月21日(SAT)
チケット取扱い:
イープラス [https://eplus.jp]
チケットぴあ 0570-02-9999 [https://t.pia.jp/]
ローソンチケット (Lコード:72937) 0570-084-003 [https://l-tike.com/opn/]
BEATINK [www.beatink.com]

企画・制作:BEATINK 03-5768-1277 [www.beatink.com]

https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=9577

OPN最新アルバム『Age Of』は、日本先行で5月25日(金)リリース! 気鋭デザイナー、デヴィッド・ラドニックがデザインを手がけたアートワークには、アメリカ現代美術シーンで最も影響力があるヴィジョナリー・アーティストと称されるジム・ショーの作品がフィーチャーされている。国内盤には、ボーナストラックとして、ボイジャー探査機の打ち上げ40年を記念して制作された映像作品「This is A Message From Earth」に提供した“Trance 1”のフル・ヴァージョンが初CD化音源として追加収録され、解説書と歌詞対訳を封入。SF小説家の樋口恭介が歌詞の翻訳監修を手がけている。またスペシャル・フォーマットとして数量限定のオリジナルTシャツ付セットの販売も決定。

label: Warp Records / Beat Records
artist: Oneohtrix Point Never
title: Age Of

release date:
2018/05/25 FRI ON SALE

国内盤CD BRC-570 定価:¥2,200+税

国内盤CD+Tシャツ BRC-570T
定価:¥5,500+税

【ご予約はこちら】
beatink:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=9576

amazon:
国内盤CD https://amzn.asia/6pMQsTW
国内盤CD+Tシャツ
S: https://amzn.asia/0DFUVLD
M: https://amzn.asia/4egJ96i
L: https://amzn.asia/g0YdP88
XL: https://amzn.asia/i0QP1Gc

tower records:
国内盤CD https://tower.jp/item/4714438

iTunes : https://apple.co/2vWSkbh
Apple Music :https://apple.co/2KgvnCD

【Tracklisting】
01 Age Of
02 Babylon
03 Manifold
04 The Station
05 Toys 2
06 Black Snow
07 myriad.industries
08 Warning
09 We'll Take It
10 Same
11 RayCats
12 Still Stuff That Doesn't Happen
13 Last Known Image of a Song
14 Trance 1 (Bonus Track for Japan)


ALBUM CREDITS

Written, performed and produced by Oneohtrix Point Never
Additional production by James Blake

Mixed by James Blake
Assisted by Gabriel Schuman, Joshua Smith and Evan Sutton

Mix on Raycats and Still Stuff That Doesn’t Happen by Gabriel Schuman

Additional production and mix on Toys 2 by Evan Sutton

Engineered by Gabriel Schuman and Evan Sutton
Assisted by Brandon Peralta

Mastered by Greg Calbi at Sterling Sound

Oneohtrix Point Never - Lead voice on Babylon, The Station, Black Snow, Still Stuff That Doesn’t Happen
Prurient - Voice on Babylon, Warning and Same
Kelsey Lu - Keyboards on Manifold and Last Known Image Of A Song
Anohni - Voice on Black Snow, We’ll Take It, Same and Still Stuff That Doesn’t Happen
Eli Keszler - Drums on Black Snow, Warning, Raycats and Still Stuff That Doesn’t Happen
James Blake - Keyboards on We’ll Take It, Still Stuff That Doesn’t Happen and Same
Shaun Trujillo - Words on Black Snow, The Station and Still Stuff That Doesn’t Happen

Black Snow lyrics inspired by The Cybernetic Culture Research Unit, published by Time Spiral Press (2015)
Age Of contains a sample of Blow The Wind by Jocelyn Pook
myriad.industries contains a sample of Echospace by Gil Trythall
Manifold contains a spoken word sample from Overture (Aararat the Border Crossing) by Tayfun Erdem and a keyboard sample from Reharmonization by Julian Bradley

Album art and design by David Rudnick & Oneohtrix Point Never

Cover image
Jim Shaw
The Great Whatsit, 2017
acrylic on muslin
53 x 48 inches (134.6 x 121.9 cm)
Courtesy of the artist and Metro Pictures, New York

label: Warp Records / Beat Records
artist: Oneohtrix Point Never
title: Black Snow

iTunes : https://apple.co/2vWSkbh
Apple Music : https://apple.co/2KgvnCD
Spotify : https://spoti.fi/2HZc1kL

Oneohtrix Point Never - ele-king

 時は満ちた。
 昨年の『Good Time』の劇伴や坂本龍一のリミックス、そして3月のデヴィッド・バーン新作への参加を経て、ついにOPNが自身のニュー・アルバム『Age Of』をリリースする。
 最近のコラボ相手を見てもわかるとおり、デビューから10年以上が経ったいまダニエル・ロパティンはその活躍の舞台を上げ、それまでの彼のリスナーとは異なる層にまで訴求する存在になっている。だからこそ、次の一手に関してはいかに紋切り型に陥らないか、いかに手癖に頼らないかというのが肝要になってくるわけだが……公開されているタイトル曲の一部を聴く限り、どうやら『R Plus Seven』とも『Garden Of Delete』とも違う新たな試みが為されているようだ。これは、時代の混沌の中で紡がれた21世紀の電子マニエリスム音楽?
 リリースは5月25日(日本先行発売)。9月には東京での公演も決定している。あなた自身の耳でその変化を確かめよう。

時代の混沌の中で紡がれた21世紀の電子バロック音楽
最新にして圧倒的傑作『AGE OF』完成
即完したニューヨーク2公演に続き、ロンドンと東京公演の開催が決定!

現代を代表する革新的音楽家、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(以下OPN)が、最新アルバム『Age Of』を5月25日(金)に日本先行でリリースすることを発表し、待望の来日公演も決定した。

『Replica』(2011)、『R Plus Seven』(2013)、『Garden of Delete』(2015)と立て続けにその年を代表する作品を世に送り出してきただけでなく、FKAツイッグスとのコラボレーション、アノーニやデヴィッド・バーンのプロデュースに加え、昨年公開の話題映画『グッド・タイム』の劇半でカンヌ映画祭最優秀サウンドトラック賞を受賞するなど、多岐に亘るフィールドで成功を収めているOPNことダニエル・ロパティン。そんな輝かしいキャリアの中でも「ポストモダン・バロック」とでも呼ばれるべき未曽有のポップ・ミュージックが収められた本作は、一つの到達点ともいえる圧倒的な傑作だ。先日公開された、5月にニューヨークで行われる最新コンサート「MYRIAD」のトレーラー映像では、アルバムの冒頭を飾るタイトルトラック“Age Of”の音源を聴くことができる。

Oneohtrix Point Never - MYRIAD
https://opn.lnk.to/MyriadNYC

Video by Daniel Swan and David Rudnick
Directed by Oneohtrix Point Never
Animation by Daniel Swan
Produced by Eliza Ryan
Videography by Jay Sansone
Additional Animation by Nate Boyce
Thrash Rat™ and KINGRAT™ characters by Nate Boyce and Oneohtrix Point Never
Engravings by Francois Desprez, from Les Songes Drolatiques de Pantagruel (1565)
Additional Typography by David Rudnick

大型会場パーク・アベニュー・アーモリー(Park Avenue Armory)で開催されるニューヨーク公演は、発売後72時間で2公演ともにソールドアウト。今回のアルバム発表に合わせ、ロンドン公演(The Barbican)と東京公演(Shibuya O-EAST)の開催が決定! 東京公演の主催者先行は4月5日(木)正午より、BEATINK.COMにてスタートする。
詳細はこちらから:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=9577

OPN最新アルバム『Age Of』は、日本先行で5月25日(金)リリース! アートワークにはアメリカ現代美術シーンで最も影響力があるヴィジョナリー・アーティストと称されるジム・ショーの作品がフィーチャーされている。国内盤には、ボーナストラックとして、ボイジャー探査機の打ち上げ40年を記念して制作された映像作品「This is A Message From Earth」に提供した「Trance 1」のフルバージョンが初CD化音源として追加収録され、解説書と歌詞対訳を封入。またスペシャル・フォーマットとして数量限定のオリジナルTシャツ付セットの販売も決定。

Jim Shaw
The Great Whatsit, 2017
acrylic on muslin
53 x 48 inches (134.6 x 121.9 cm)
Courtesy of the artist and Metro Pictures, New York


label: Warp Records / Beat Records
artist: Oneohtrix Point Never
title: Age Of

release date: 2018/05/25 FRI ON SALE
国内盤CD BRC-570 定価: ¥2,200+税
国内盤CD+Tシャツ BRC-570T 定価: ¥5,500+税

Oneohtrix Point Never - ele-king

 昨年は映画『Good Time』の劇伴坂本龍一のリミックスを手がけ、最近ではデヴィッド・バーンの新作に参加したことでも話題となったOPNが、5月にNYで開催されるライヴのトレイラー映像を公開しました。これ、新曲ですよね。しかもチェンバロ? 曲調もバロック風です。この急転回はいったい何を意味するのでしょう。そういう趣向のライヴなのか、それとも……。

ONEOHTRIX POINT NEVER
5月にニューヨークで行われる大規模コンサートの
トレーラー映像を新曲と共に公開!

昨年、映画『グッド・タイム』でカンヌ映画祭最優秀サウンドトラック賞を受賞したことも記憶に新しいワンオートリックス・ポイント・ネヴァーが、【Red Bull Music Festival New York】の一環として5月22日と24日にニューヨークで行われる最新ライブ「MYRIAD」のトレーラー映像を公開した。ダニエル・ロパティン(ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー)自らディレクションを行い、その唯一無二の世界観が垣間見られる2分間の映像には、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー名義の新曲も使用されている。

Oneohtrix Point Never - MYRIAD
https://opn.lnk.to/MyriadNYC

Video by Daniel Swan and David Rudnick
Directed by Oneohtrix Point Never
Animation by Daniel Swan
Produced by Eliza Ryan
Videography by Jay Sansone
Additional Animation by Nate Boyce
Thrash Rat™ and KINGRAT™ characters by Nate Boyce and Oneohtrix Point Never
Engravings by Francois Desprez, from Les Songes Drolatiques de Pantagruel (1565)
Additional Typography by David Rudnick

本公演が開催されるパークアベニュー・アーモリー(Park Avenue Armory)は、以前は米軍の軍事施設だった場所で、ライブが行われるウェイド・トンプソン・ドリル・ホール(Wade Thompson Drill Hall)は航空機の格納庫のような巨大なスペースである。当日にはスペシャルゲストやコラボレーターも登場し、ここでしか体験することのできない特別なライブ・パフォーマンスが披露されるという。

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー|Oneohtrix Point Never

前衛的な実験音楽から現代音楽、アート、映画の世界にもその名を轟かせ、2017年にはカンヌ映画祭にて最優秀サウンドトラック賞を受賞した現代を代表する革新的音楽家の一人。『Replica』(2011)、『R Plus Seven』(2013)、『Garden of Delete』(2015)と立て続けにその年を代表する作品を世に送り出してきただけでなく、ブライアン・イーノも参加したデヴィッド・バーン最新作『American Utopia』にプロデューサーの一人として名を連ね、FKAツイッグスやギー・ポップ、アノーニらともコラボレート。その他ナイン・インチ・ネイルズや坂本龍一のリミックスも手がけている。さらにソフィア・コッポラ監督映画『ブリングリング』やジョシュ&ベニー・サフディ監督映画『グッド・タイム』で音楽を手がけ、『グッド・タイム』ではカンヌ・サウンドトラック賞を受賞した。


label: Warp Records / Beat Records
artist: Oneohtrix Point Never
title: Good Time Original Motion Picture Soundtrack

cat no.: BRC-558
release date: 2017/08/11 FRI ON SALE
国内盤CD:ボーナストラック追加収録/解説書封入
定価:¥2,200+税

【ご購入はこちら】
beatink: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=4002
amazon: https://amzn.asia/6kMFQnV
iTunes Store: https://apple.co/2rMT8JI


label: Warp Records / Beat Records
artist: Oneohtrix Point Never
title: Good Time... Raw

cat no.: BRC-561
release date: 2017/11/03 FRI ON SALE
国内限定盤CD:ジョシュ・サフディによるライナーノーツ
ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーとジョシュ・サフディによるスペシャル対談封入
定価:¥2,000+税

【ご購入はこちら】
beatink: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=9186
amazon: https://amzn.asia/gxW5H63
tower records: https://tower.jp/item/4619899/Good-Time----Raw
hmv: https://www.hmv.co.jp/artist_Oneohtrix-Point-Never_000000000424647/item_Good-Time-Raw_8282459

Oneohtrix Point Never - ele-king

 昨年同様オリジナル・アルバムのリリースはなかったものの、坂本龍一のリミックスイシュマイル・バトラーとのコラボなど、今年も何かと話題の尽きないワンオートリックス・ポイント・ネヴァーことダニエル・ロパティン。夏には映画『グッド・タイム』のサウンドトラックを、そして先日はそのディレクターズ・カット版をリリースしたばかりの彼が、今度はUKの音楽メディア『FACT』の企画「FACT mix」の一貫として、新たなミックス音源を公開している。ジョルジオ・モロダーから幕を開けるそのミックスは、ロパティンが『グッド・タイム』の劇伴を制作するにあたって影響を受けた曲を集めたものとなっており、彼の音楽的なバックグラウンドの一部を探ることができる。しっかり芸能山城組も入っており、じつに興味の尽きないミックスである。

ONEOHTRIX POINT NEVER
話題の映画『グッド・タイム』のUKプレミアに合わせて
映画音楽制作のインスピレーションになった音源ばかりをフィーチャーした最新MIX音源を公開!

本年度のカンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出され、主演のロバート・パティンソンが彼のキャリア史上最高の演技を披露していると話題を呼んでいる映画『グッド・タイム』が、先週の日本公開に続き、11月17日(金)よりUKでも公開される。それに合わせ、音楽を手がけたワンオートリックス・ポイント・ネヴァーが、本映画の音楽制作において、インスピレーションになったという音楽ばかりをフィーチャーした最新MIX音源を、『FACT』にて公開した。

FACT mix 627: Oneohtrix Point Never
https://www.factmag.com/2017/11/13/oneohtrix-point-never-fact-mix-good-time/

Giorgio Moroder – "Cacophony"
Bernard Szajner – "Welcome (To Death Row)"
Alan Parker – "Synchrotech"
Abigail Mead – "Ruins"
Brad Fiedel – "Tunnel Chase"
Daft Punk – "Television Rules The Nation"
Geinoh Yamashirogumi – "Requiem"
Dopplereffekt – "Z Boson"
Howard Shore – "01 – 9PM"
Harold Faltermeyer – "Main Title, Fight Escape"
Giorgio Moroder – "Chase"
Sick Le Lapin – "Flashcore Mix"
Heldon – "Le Retour Des Soucoupes Volantes"
Lewis – "Like To See You Again (OPN Remix)"
John Abercrombie – "Timeless"
Steve Hillage – "Palm Trees (Love Guitar)"

アメリカで8月に公開された際には、セレーナ・ゴメスやザ・ウィークエンドが大絶賛するなど注目を集めると同時に、音楽を手がけたワンオートリックス・ポイント・ネヴァーことダニエル・ロパティンが、本年度のカンヌ・サウンドトラック賞を受賞。映画のエンディング・テーマにもなっている“The Pure and the Damned”でイギー・ポップとコラボレートしたことも大きな話題となった。

同映画のサウンドトラック『Good Time Original Motion Picture Soundtrack』は、8月のアメリカ公開に合わせてリリースされている。また日本公開時には、監督を務めたジョシュ・サフディの意向で、『グッド・タイム』の世界観をより深く理解するためのフォーマットとして、全曲フィルム・エディットで収録されたディレクターズ・カット版『Good Time... Raw』も日本限定でCD化されている。また対象店舗にて、『Good Time... Raw』、『Good Time Original Motion Picture Soundtrack』のいずれかを購入すると、オリジナル・クリアファイルが先着でもらえるキャンペーンを実施中。

label: Warp Records / Beat Records
artist: Oneohtrix Point Never
title: Good Time... Raw
cat no.: BRC-561
release date: 2017/11/03 FRI ON SALE
国内限定盤CD: ジョシュ・サフディによるライナーノーツ、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーとジョシュ・サフディによるスペシャル対談封入
定価: ¥2,000+税

【ご予約はこちら】
beatkart: https://shop.beatink.com/shopdetail/000000002199
amazon: https://amzn.asia/gxW5H63
tower records: https://tower.jp/item/4619899/Good-Time----Raw
hmv: https://www.hmv.co.jp/artist_Oneohtrix-Point-Never_000000000424647/item_Good-Time-Raw_8282459

【商品詳細はこちら】
https://www.beatink.com/Labels/Warp-Records/Oneohtrix-Point-Never/BRC-561

label: Warp Records / Beat Records
artist: Oneohtrix Point Never
title: Good Time Original Motion Picture Soundtrack
cat no.: BRC-558
release date: 2017/08/11 FRI ON SALE
国内盤CD: ボーナストラック追加収録/解説書封入
定価: ¥2,200+税

【ご購入はこちら】
beatkart: https://shop.beatink.com/shopdetail/000000002171
amazon: https://amzn.asia/6kMFQnV
iTunes Store: https://apple.co/2rMT8JI

【商品詳細はこちら】
https://www.beatink.com/Labels/Warp-Records/Oneohtrix-Point-Never/BRC-558

映画『グッド・タイム』
2017年11月3日(祝・金)公開
第70回カンヌ国際映画祭 コンペティション部門選出作品

Good Time | Official Trailer HD | A24
https://youtu.be/AVyGCxHZ_Ko

東京国際映画祭グランプリ&監督賞のW受賞を『神様なんかくそくらえ』で成し遂げたジョシュア&ベニー・サフディ兄弟による最新作。

出演:ロバート・パティンソン(『トワイライト』、『ディーン、君がいた瞬間』)、ベニー・サフディ(監督兼任)、ジェニファー・ジェイソン・リー(『ヘイト・フルエイト』)、バーカッド・アブティ(『キャプテン・フィリップス』)
監督:ジョシュア&ベニー・サフディ兄弟(『神様なんかくそくらえ』)

ニューヨークの最下層で生きるコニーと知的障がい者の弟ニック。
2人は銀行強盗を行うが、弟が捕まり投獄されてしまう。しかし獄中で暴れ病院へ送られると、それを聞いたコニーは病院へ忍び込み、警察が監視するなか弟ニックを取り返そうとするが……。

2017/アメリカ/カラー/英語/100分
(C) 2017 Hercules Film Investments, SARL

配給:ファインフィルムズ


319 (Oneohtrix Point Never & Ishmael Butler) - ele-king

 コラボ大魔王……思わずそう呟いてしまった。アノーニ、FKAツイッグス、DJアール、デヴィッド・バーン、イギー・ポップ、と、どんどん交友関係を広げていくワンオートリックス・ポイント・ネヴァーが、またまた新たなプロジェクトを始動させた。今度のお相手はシャバズ・パレセズのイシュマイル・バトラーで、ユニット名は「319」。毎年好例のAdult Swim Singlesの企画で、新曲“The Rapture”が公開されている。いよいよ誰と何をやっているのか把握しきれなくなってきたOPNだけれど、ここまできたらもうどこまでも喰らいついていくしかない。

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーとシャバズ・パレセズのイシュマイル・バトラーによるニュー・プロジェクト、「319」が始動! 新曲“The Rapture”をAdult Swim Singles 2017にて公開!

11月公開の映画『グッド・タイム』のサウンドトラック・アルバム『Good Time Original Motion Picture Soundtrack』でカンヌ・サウンドトラック賞を受賞したワンオートリックス・ポイント・ネヴァーとシャバズ・パレセズのイシュマイル・バトラーが、「319」と名付けられたコラボレーション・プロジェクトを発表。新曲“The Rapture”が、米カートゥーン・ネットワークの深夜枠Adult Swimの企画《Adult Swim Singles》で公開された。

319 (ONEOHTRIX POINT NEVER + ISHMAEL BUTLER) - THE RAPTURE
https://www.adultswim.com/music/singles-2017

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーにとっては、アノーニ、FKAツイッグス、デヴィッド・バーン、そして『Good Time Original Motion Picture Soundtrack』に収録されたイギー・ポップとのコラボレーション・トラック“Pure and the Damned”に続く、新たなコラボ・プロジェクトとなる。

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label: Warp Records / Beat Records
artist: Oneohtrix Point Never
title: Good Time Original Motion Picture Soundtrack

cat no.: BRC-558
release date: 2017/08/11 FRI ON SALE
国内盤CD:ボーナストラック追加収録/解説書封入
定価:¥2,200+税

【ご購入はこちら】
beatkart: https://shop.beatink.com/shopdetail/000000002171
amazon: https://amzn.asia/6kMFQnV
iTunes Store: https://apple.co/2rMT8JI

【商品詳細はこちら】
https://www.beatink.com/Labels/Warp-Records/Oneohtrix-Point-Never/BRC-558

Oneohtrix Point Never『Good Time』を聴く - ele-king


Oneohtrix Point Never
Good Time Original Motion Picture Soundtrack

Warp / ビート

Soundtrack

Amazon Tower iTunes

 いま、「マックvsマクド」というキャンペーンをやっている。日本各地で「マック」と略されるマクドナルドのことを関西圏だけは「マクド」と呼ぶことから対立の図式を喚起し、購買意欲を煽っている。どうやら味も違うらしい。
 日本に初めてマクドナルドが出店される時、ネガティヴ・キャンペーンというものが盛んに行われていた。ウィキペディアを読んでみると、オープンした日時も場所も僕の記憶とは違っているのだけれど、マクドナルドが銀座三越の(店内ではなく)外壁部分にオープンした当日、僕はクラスメート7~8人と横一列に並んで、せーので「猫肉バーガー、下さい」と注文した。マクドナルドは猫の肉を使っているというネガティヴ・キャンペーンが浸透していたからである。窓口の店員さんはそのような嫌がらせは想定済みといった様子で「当店は100%ビーフを使用しております」と即答、僕らは「じゃー、それを下さい」と声が小さくなってしまった。これに対して、関西では「あんなものを食べるとマクどうかなるド」というネガキャンが行われていたと聞いた。深夜ラジオで誰かがそう言ったことを覚えている。「マクド」という略称はもしかするとそれが起源ではないだろうか。ネガキャンのかけらが定着してしまったのではないかと。少なくとも東京では「マクドウカナルド」という言い方は広まっていなかった。

 マクドナルドがオープンしたり、オイルショックが起きたりした頃、僕は洋楽といえばラロ・シフリンに夢中だった。「燃えよドラゴン」を入り口に、しかし、ブルース・リーにはまったく心動かず、テーマ曲を作ったラロ・シフリンに興味が向いた。そして、そのうちに〈CTI〉というレーベルに辿り着いた。初めて興味を持ったレコード・レーベルで、中学生が聴くようなものではなかったと思うものの、アニメ・ソングにも多用されていたからか、ジャズ・ファンク・フュージョンはやはり馴染みやすく、華やかなホーン・セクションとタイトなリズムを求めてデオダートやアイアート・モレイラといった南米音楽にもするするとアクセスすることができた。カタログを見ながらどんな音楽か想像している時間の方が長かったような気もするけれど。
 ジャズ・ファンク・フュージョンはそして、いつしかフュージョンと省略される頃になるとダイナミックさを欠き、トレード・マークだと思っていたホーン・セクションをカットするものまで現れた。ニューエイジの始まりだった。

 OPN のリリースには、ごく初期からニューエイジというタグが付けられていた。ヤソスやエリアル・カルマを追ってエメラルド・ウェブやエドワード・ラリー・ゴードン(ララージ)といったニューエイジの再発も同時並行的に増えつつづけ、そういう人になるのかなという側面もあったけれど、『リターナル』の冒頭に収められていた“Nil Admirari”などOPN自体はどんどんと変化していき、知名度が上がってからは『レプリカ』でそうした側面に少し揺り戻す程度だったと言える。その後の『ガーデン・オブ・ディリート』フォード&ロパティン名義やを聞いた人には彼がニューエイジとタグ付けされていたことさえ不思議なことに思えるかもしれない。現在は閉じてしまったものの、彼が運営していた〈ソフトウェア〉というレーベルも彼の興味がどこかに定まっているようには思えず、なんというか、フットワークが軽すぎて基本的な姿勢さえよくわからないところがこの人のいいところだと思えるほどである。そして、ソフィア・コッポラ『ブリング・リング』への起用をきっかけにOPNことダニエル・ロパティンは映画音楽にも活動のフィールドを広げ、早くもジョシュア&ベニー・サフディ『グッド・タイム』でカンヌ映画祭のサウンドトラック賞を受賞してしまった。日本人のカンヌに対する見方にはかなり疑問があるけれど、まあ、とにかくOPNはそういった賞を受賞した。おー。

 どんな映画なのか、作品を見てないので映画音楽としてどうなのかと言うことはわからない。最近だとダニー・エルフマンが音楽を担当した『ガール・オン・ザ・トレイン』はあんまり内容と合ってないじゃないかと僕は感じながら観ていた。日常のささいな変化からストーリーが大きく展開していく同作にエルフマンの曲はあまりに大袈裟だと思えたからである。反対にミカチューを起用した『ジャッキー』は音楽によって映像の中に連れ去られる感覚が素晴らしく、サブリミナル効果も含めて相乗効果は抜群だった。自分が想定していた使われ方とは違うものだったとトレント・レズナーが語る『パトリオット・デイ』も作品を何割り増しかよく見せていた。音楽に関してはあまり褒められない邦画でも『彼女がその名を知らない鳥たち』(10月公開)では、こんな使い方をするのかとかなり驚かされた。やはり映画とワンセットで聞かなければ映画音楽の良し悪しは判断できない。しかし、ここには『グッド・タイム』のサウンドトラック盤しかない。音楽だけを聞くしかない。

 なんだか知らないけれど、とにかく切迫している。虚無感を煽りつつ、まだ希望は捨てきれない~みたいな展開である。映画っぽい(映画だし)。パニック映画だろうか。それともギャング映画? 今年はクリフ・マルティネスが『ネオン・デーモン』で80年代初頭のダサいシンセ・ポップを退廃したイメージの中に上手く落とし込んでいたけれど、それと被る印象もある。ジャズ・ファンク・フュージョンがフュージョンへとパワーダウンしていく際にディスコを取り入れることでダイナミックさを失わなかった方法論。ダサくても生き延びることを優先するというB級感覚に裏打ちされ、ゴミ溜めの中からホーリーなものを立ち上げるという美学とも言える。『ネオン・デーモン』はピークを過ぎ、虚栄の都市と化している現在のロサンゼルスをスタイリッシュに描くという嫌味なアプローチがどこか子どもっぽくもあったけれど、そのような韜晦さからは距離を取っているという印象だろうか。『グッド・タイム』の方がもっとリアリティを重視しているのかもしれない。それこそホーン・セクションは一切使わず、シンセサイザーだけで押し通すために最後まで虚無感は消え去らない。そして、最後にイギー・ポップが歌い出し、ロック的な皮肉が充満する。そう、猫肉バーガーでも食わされたような気分である。

Oneohtrix Point Never × Ryuichi Sakamoto - ele-king

 これは事件です。最新作『Good Time Original Motion Picture Soundtrack』のリリースを控えるOPNが、なんと坂本龍一のリミックスを手がけました。原曲は坂本の最新作『async』に収録されている“Andata”です。2015年にLIQUID ROOMで開催されたOPNの来日公演ではカールステン・ニコライが前座を務めていましたが、いやはや、ついに坂本龍一とも繋がってしまいましたか。そのこと自体ビッグ・ニュースではありますが、いや、これまたこのリミックスが良いんですよ。どういうふうに料理するのかとどきどきしながら再生ボタンを押すと……2分を過ぎたあたりで鳥肌が立ちました。OPN、おそるべし。なお、このリミックスは後日リリース予定の坂本龍一の作品(リミックス・アルバムでしょうか?)に収録される予定で、そこにはOPNの他にもコーネリアスアルカ、ヨハン・ヨハンソン、モーション・グラフィックス、エレクトリック・ユースなどが参加しているとのこと。

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーが坂本龍一をリミックス
- Ryuichi Sakamoto - Andata (Oneohtrix Point Never Rework) -

前衛的な実験音楽から現代音楽、そしてアートや映画の世界にまで、年々活躍の場を広げ、日本でも今年公開予定の映画『グッド・タイム』のサウンドトラックで、本年度のカンヌ・サウンドトラック賞も受賞したワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(Oneohtrix Point Never)ことダニエル・ロパティン(Daniel Lopatin)が、坂本龍一の最新アルバム『async』収録曲「andata」のリミックス・ワークを公開した。

Ryuichi Sakamoto - Andata (Oneohtrix Point Never Rework)
https://soundcloud.com/milanrecords/ryuichi-sakamoto-andata-oneohtrix-point-never-remix/

本楽曲は、『async』に続く坂本龍一の最新作に収録され、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの他、コーネリアス、アルカ、ヨハン・ヨハンソン、モーション・グラフィックス、エレクトリック・ユースなどの参加が明かされている。

ますます注目を集めるワンオートリックス・ポイント・ネヴァー最新作『Good Time Original Motion Picture Soundtrack』は8月11日(金)世界同時リリース! 国内盤には、ボーナストラック“The Beatdown”が追加収録され、解説書が封入される。iTunesでアルバムを予約すると、公開中の“Leaving The Park”と“The Pure and the Damned (feat. Iggy Pop)”の2曲がいちはやくダウンロードできる。


label: Warp Records / Beat Records
artist: Oneohtrix Point Never
title: Good Time Original Motion Picture Soundtrack

cat no.: BRC-558
release date: 2017/08/11 FRI ON SALE
国内盤CD: ボーナストラック追加収録/解説書封入
定価: ¥2,200+税

【ご購入はこちら】
beatkart: https://shop.beatink.com/shopdetail/000000002171
amazon: https://amzn.asia/6kMFQnV
iTunes Store: https://apple.co/2rMT8JI

【商品詳細はこちら】
https://www.beatink.com/Labels/Warp-Records/Oneohtrix-Point-Never/BRC-558

8年ほど前、ぼくらは音楽に、あるいはワンオートリックス・ポイント・ネヴァーその人に興味を持っ た。ぼくはいつもダンの音楽(特に初期の頃の)を、まだ作ってもいない映画のサウンドトラックとして想像していた。『Good Time』でのコラボレーションから、それを取り巻く対話を通じて、ぼくらは深い友情と、もちろんこの色鮮やかでこの世のものとは思えないようなスコアを手に入れた。制作の前にダンとはコンセプトのことでよく話し合った。それがカンヌで花開くことになるとは……まるでハイレゾ・ファンタジーだね。 ― ジョシュア・サフディ

ぼくはワクワクしながら、ミッドタウンにある兄弟のオフィスを訪ねた。そこには彼らが好きなものが何でもあって、まるで聖地みたいだった。巨大な『AKIRA』のポスターと『King of New York』が並んでたよ。ふたりはぼくに、特殊な映画に取り掛かるつもりだと言った。ぼくから見たサフディ兄弟は、非常に特異なことに取り組みながらも、伝統を尊重する監督だ。ジム・ジャームッシュやクエンティン・タランティーノ、レオス・カラックスといった監督を思い浮かべても、彼らは映画の歴史を愛するがゆえに映画制作そのものから遠ざかりがちだが、いずれにせよあの独特の個性を失うことはない。ぼくらに共通しているのは、傷ついてボロボロになったものに対する愛着と敬意だ。たぶんぼくらは今現在の歴 史を守りたいという衝動を感じていると思う。昔の、ではなく。ぼくら自身の言葉でだ。 ― ダニエル・ロパティン


映画『グッド・タイム』
2017年公開予定
第70回カンヌ国際映画祭 コンペティション部門選出作品

Good Time | Official Trailer HD | A24
https://youtu.be/AVyGCxHZ_Ko

東京国際映画祭グランプリ&監督賞のW受賞を『神様なんかくそくらえ』で成し遂げたジョシュア&ベニー・サフディ兄弟による最新作。

コニー(パティンソン)は、心に病いを抱える弟(ベニー・サフディ監督兼任)のため、家を買い安全に生活させてやりたいと考えていた。そこで銀行強盗をふたりで行うが、途中で弟が捕まり投獄されてしまう。弟は獄中でいじめられ、暴れて病院送りになる。それを聞いたコニーは病院へ忍び込み、弟を取り返そうとするが……。

出演:ロバート・パティンソン(『トワイライト』『ディーン、君がいた瞬間』)、ベニー・サフディ(監督兼任)、ジェニファー・ジェイソン・リー(『ヘイト・フルエイト』)、バーカッド・アブティ(『キャプテン・フィリップス』)
監督:ジョシュア&ベニー・サフディ兄弟(『神様なんかくそくらえ』)

2017/アメリカ/カラー/英語/100分
(C) 2017 Hercules Film Investments, SARL

配給ファインフィルムズ

Oneohtrix Point Never - ele-king

 2015年11月13日。その日は『Garden Of Delete』の発売日だった。フランスの〈Warp〉のレーベル・マネージャーはツイッターで、OPN宛てに「ハッピー・リリース・デイ!」とリプライを送った。その夜、事件は起こった。ポップ・ミュージックのグロテスクな側面を暴くというある種のメタフィクション的な試みは、図らずも凄惨な現実のサウンドトラックとなってしまったのである。
 事件発生後、LAにいたコールドプレイは公演の予定を変更し、「イマジン」を演奏した。また、現場であるバタクランには名もなきピアニストが訪れ、「イマジン」を弾いて帰っていった。1か月後にレピュブリック広場を訪れたマドンナもまた「イマジン」を歌い、当地の人々に寄り添おうとした。猫も杓子も「イマジン」だった。それはあまりにも惨めな光景だった。テロのような出来事を前にして無難に適切に機能してくれる曲が「イマジン」をおいて他にないということ、すなわちいまだ「イマジン」に取って代わる曲が生み出されていないということ、それゆえ皆が同じように「イマジン」を持ち出さざるをえないということ。そこには、人は音楽を通して何かを共有することができるのだ、人は音楽を通してユナイトすることができるのだという、あまりにも不気味なイマジネイションが見え隠れしていた。
 昨年のパリでの出来事のもっとも重要な点のひとつは、ライヴ会場=音楽の「現場」がテロの標的となったということである。たしかに、これまでにもポップ・ミュージックが攻撃されることはあった。けれど、クリミナル・ジャスティス・アクトにしろ風営法にしろ、それらはいつも決まって「体制」側からの「弾圧」だった。カウンター・カルチャーとしての音楽は、そのような「弾圧」に抗い「体制」と闘う人びとと手を取り合うものであった。だが今回は違う。音楽それ自体が「体制」側のものであると見做されたのである。テロリストたちが攻撃したのは、まさに上述したような偽善的なイマジネイションの横溢だったのではないか。そしてそれは、まさにOPNが切り取ってみせようとしたポップ・ミュージックの醜悪な側面のひとつだったのではないか。

 『R Plus Seven』以降のOPNの歩みを、叙情性からの撤退およびポップへの旋回として捉えるならば、『Garden Of Delete』はそれをさらに過激に推し進めたものだと言うことができる。『Garden Of Delete』ではメタルという意匠や音声合成ソフトのチップスピーチが採用され、かつてないダイナミックなエレクトロニック・ミュージックが呈示されていたけれど、それは一言で言ってしまえば「過剰な」音楽だった。そこには、ともにツアーを回ったナイン・インチ・ネイルズからの影響よりもむしろ、アノーニのアルバムで共同作業をおこなったハドソン・モホークからの影響が色濃く反映されていた。
 それともうひとつ『Garden Of Delete』で重要だったのは、メタ的な視点の導入である。ポップ・ミュージックの煌びやかな装いを過激に演出し直してみせることでOPNは、通常は意識されることのないポップ・ミュージックの醜い側面、そしてそれによって引き起こされる不気味なイマジネイションを露わにするのである(おそらくそれは「思春期」的なものでもあるのだろう)。OPNはアラン・ソーカルであり、彼は自作のでたらめさが見破られるかどうかを試しているのだ、とアグラフは言い当てていたけれど、これはいまのOPNのある部分を的確に捉えた指摘だろう。
 過剰さの獲得およびメタ的視点の導入という点において、いまのOPNは、かつてのいわゆる露悪的とされた時期のエイフェックスと極めて似た立ち位置にいるのだと言うこともできる。では彼は、ポップ・ミュージックの醜さや自作のでたらめさを呈示してみせて、一体何をしようとしているのか? OPNの音楽とは一体何なのか?

 今回リイシューされた3作は、彼がそのような過剰さやメタ的視点を取り入れる前の作品である。とくに『Drawn And Quartered』と『The Fall Into Time』は彼のキャリアのなかでもかなり初期の音源によって構成されたものであるが、それらの作品からも、後の『Garden Of Delete』にまで通底するOPNの音楽的な問いかけを聴き取ることができる。

 通算5作目となる『Replica』では、彼にとって出世作となった前作『Returnal』で呈示された叙情性が引き継がれつつも、そこに正体不明のノイズや謎めいた音声など、様々な音の素材が縦横無尽にサンプリングされていく。実際には体験したことがないはずなのに、どこかで聞いたことがあるようなマテリアルの埋め込みは、今日インターネットを介して断片的に集積される膨大な量の情報と対応し、聴き手ひとりひとりの生とは別の集合的な生の記憶を呼び覚ます。OPNは、美しいドローンやメランコリーで聴き手がいま生きている「ここ」のリアリティを浮かび上がらせながら、そこに夾雑物を差し挟むことで「ここ」ではないどこか別の場所を喚起させようとする。それによって生み出されるのは、どこか遠くの出来事のようで、いま目の前の出来事のようでもあるという絶妙な距離感だ。それゆえ聴き手は決して彼の音楽に逃避することができない。そのようにOPNは、聴き手がいま立っている場所に揺さぶりをかけるのである(それと『Replica』のもうひとつの特徴は、彼の声への志向性が露わになったことだ。それは後に『R Plus Seven』において大々的に展開され、『Garden Of Delete』にも継承されることになる。先日のジャネット・ジャクソンのカヴァーなどはその志向のひとつの到達点なのではないだろうか)。
 このような「ここ」と「どこか」との境界の撹乱は、ひとつ前の作品である『Returnal』でも聴き取ることができたものだ。『Returnal』においてOPNは、その冒頭で圧倒的な強度のノイズをぶちかましておきながら、それ以降はひたすら叙情的なアンビエントで聴き手の薄汚れた「ここ」を呈示する。要するに、『Returnal』冒頭のノイズが果たしていた役割を、『Replica』では様々な音のサンプリングが果たしているのである。

 『Drawn And Quartered』と『The Fall Into Time』の2枚は、かなりリリースの経緯がややこしい。
 OPNは2007年に1作目となる『Betrayed In The Octagon』を、2009年には2作目『Zones Without People』と3作目『Russian Mind』をそれぞれLPでリリースしているが、他にも2008年から2009年にかけてカセットやCD-Rで様々な音源を発表している。それら最初の3枚のアルバムと、散発的に発表されていた音源とをまとめたのが、〈No Fun Productions〉からCD2枚組の形でリリースされた『Rifts』(2009年)である。
 その後4作目『Returnal』(2010年)と5作目『Replica』(2011年)を経て、知名度が高まった頃合いを見計らったのか、2012年にOPNは『Rifts』を自身のレーベルである〈Software〉からリリースし直している。その際、〈No Fun〉盤ではCD2枚組だったものがLP5枚組に編集し直され、LPのそれぞれ1枚がオリジナル・アルバムとして機能するように組み直された(ジャケットも新調されている)。その5枚組LPの1枚目から3枚目には最初の3枚のアルバムが丸ごと収められ、4枚目と5枚目にはカセットなどで発表されていた音源がまとめられている。その際、4枚目と5枚目に新たに与えられたのが『Drawn And Quartered』と『The Fall Into Time』というタイトル(とアートワーク)である。因みに後者は〈No Fun〉盤の『Rifts』には収録されていなかった音源で構成されているが、それらはすべてすでに2009年に発表されていた音源である。
 そして翌2013年には、LP5枚組だった『Rifts』から4枚目『Drawn And Quartered』と5枚目『The Fall Into Time』がそれぞれ単独の作品として改めてLPでリリースし直された。今回CD化されたのはその2枚である。なお、LP5枚組だった〈Software〉盤『Rifts』はCD3枚組としてもリリースされているので(『Drawn And Quartered』と『The Fall Into Time』のトラックは、各ディスクに分散されて収録されている)、音源自体は今回が初CD化というわけではない。
 とにかく、『Drawn And Quartered』も『The Fall Into Time』も、時系列で言えば、すべて『Returnal』(2010年)より前に発表されていた音源で構成されているということである。

 このようにややこしい経緯を経て届けられた『Drawn And Quartered』と『The Fall Into Time』だが、単に入手困難だった音源が広く世に出たということ以外にも注目すべき点がある。それは、それまでばらばらに散らばっていた音源に、曲順という新たなオーダーが与えられたことだ。
 テクノ寄りの『Drawn And Quartered』は、メロディアスな "Lovergirls Precinct" で幕を開け、シンセサイザーが波のように歌う "Ships Without Meaning" や、怪しげな音階の反復する "Terminator Lake" を経て、おそらくはデリック・メイのレーベルを指しているのだと思われるタイトルの "Transmat Memories" で前半を終える。後半は、蝉や鳥の鳴き声を模した電子音が物悲しい主旋律を際立てるノスタルジックな "A Pact Between Strangers" に始まり、16分にも及ぶ長大な "When I Get Back From New York" を経由して、唐突にロウファイなギター・ソングの "I Know It’s Taking Pictures From Another Plane (Inside Your Sun)" で終わる。
 アンビエント寄りの『The Fall Into Time』は、海中を散策するかのような "Blue Drive"で幕を開け、RPGのBGMのような "The Trouble With Being Born" を経て、透明感の美しい "Sand Partina" で前半を終える。後半は、反復するメロディが印象的な "Melancholy Descriptions Of Simple 3D Environments" に始まり、叙情的な "Memory Vague" を経て、一転してきな臭い "KGB Nights" で幕を下ろす。
 この2作に共通しているのは、1曲目から続く流れが最後の曲で裏切られるという構成だ。冒頭から音の中へと没入してきた聴き手は、最後に唐突に違和を突きつけられ、「ここ」ではない「どこか」へと意識を飛ばされる。ここでもOPNは、聴き手の居場所を揺さぶるという罠を仕掛けているのである。

 貧困が深刻化し、差別が蔓延し、テロが頻発し、虐殺が横行する現代。自身の送る過酷な生と自身とは直接的には関係のない世界各地の戦場とが、インターネットを介して直にリンクし合い、同一の強度で迫ってくる時代。そのような時代のアクチュアリティをOPNは、聴き手の立ち位置をかき乱すことで呈示してみせる。近年のOPNはスタイルの上ではアンビエントから離れつつあるけれど、「ここ」と「どこか」との境界を攪乱するという意味で、いまでも彼はアンビエントの生産者であり続けている。あなたがいる場所はどこですか、とそのキャリアの初期から彼は、自身の作品を通して問いかけ続けているのだ。聴き手が、音楽産業が用意したのとは別の仕方で、世界を「イマジン」できるように。

interview with Oneohtrix Point Never - ele-king


Oneohtrix Point Never
GARDEN OF DELETE

Warp/ビート

ElectronicaGrotesque Pop

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 今度はB級趣味に振り切れた……と思った。ソフィア・コッポラ監督『ブリング・リング』にサウンドトラックを提供したことやナイン・インチ・ネイル ズとのツアーがダニエル・ロパティンのスノビズムに火をつけまくり、これまで彼の作品を覆っていたアカデミズムから彼を引き剥がしたのかと。俗っ ぽさというものは誰にでもあるし、それを隠す人もいれば隠さない人もいる。彼にもそのような二面性があり、『ガーデン・オブ・ディリート』ではいままでとは違う側面を曝け出したのだと。
 話を聞いてみると、しかし、必ずしもそういうことではなかった。アルバムのテーマを「不安とグロテスク」にしたことはそうだし、ナイン・インチ・ネイルズとのツアーが様々な面に多大な影響を及ぼしたことはたしかで、音楽面での影響から音楽産業のあり方にも、その認識は波及していた。彼自身、まだ自分の内面に何が起きたのか、そのすべてを語ることはできていないと思わせるほど混乱があり、高揚に満ちていた。新作をつくることでトレント・レズナーから受けた影響がさらに増幅したということも考えられる。本人に「パーカッシヴな作品が増え、かつてなくダイナミックな印象を与えるし、ナイン・インチ・ネイルズのエレクトロニック・ヴァージョンに聴こえる」と伝えると、ロパティンも「そうだと思う」と、まったく否定する様子はなかった。変名でガバのDJもはじめたみたいだし、彼の衝動はおそらく、いまだに拡大し続けているのだろう。
しかし、ロパティンはB級趣味では なく、ナイン・インチ・ネイルズから受けた影響が彼を自らの思春期へ舞い戻らせるきっかけとなったらしいのである。それは曖昧な記憶でしかなく、非常に抽象的な観念の昇華ともいえ、フロイトの抑圧ではないけれど、どこかトラウマを炙り出すような作業だったのかもしれない。そう、彼の口からはメタリカにラッシュ、あるいは、サウンド・ガーデンにデフ・レパードの名前まで飛び出してきた。

僕には世界に対する考え方というのがあって、それはなんというか……「物質性に対するアイディア」というかな。世界というのはすべて物質性によって繫がり合っているものだ、と。したがって、僕にとってはあらゆるものはマテリアル/物質ということになるし、何もかもが物体になる。要するに、僕からすれば何もかもが利用可能なもの、柔軟に形を変えるプラスチックだ、みたいな。

イントロを聴いてなんとなく思い出しましたが、NBCは『ハンニバル』の打ち切りを発表しました。

ダニエル・ロパティン(以下、DL):へえ……なんとなく知ってるよ……実際に観たことはないけど。

で、最近あのショウはキャンセルされたんです。

DL:(苦笑)ああ、そうなんだ?

毎回、ブライアン・ライツェルのクレジットを見るたびにあなたのことを思い出すのですが──

DL:ああ〜! あのドラマ、『ハンニバル』のことね! うんうん。

だから、クレジットの彼の名前を見るとあなたを思い出す、と。

DL:そうなんだ、それは面白いや(笑)。

で、『ブリング・リング組曲』を内省的な曲調にしたのはどっちのアイディアだったのですか?

DL:うーん、とにかく映画そのものに対する僕たちの自然な反応があれだった、ってだけのことなんだけどね。というのも、僕たちには……実はあんまり時間がなかったんだよ。そうは言っても、電話を通じて音楽のコンセプチュアルな面についてはふたりでさんざん話し合っていて──僕はニューヨークにいて、一方で彼はロサンジェルスにいたからね。で、ある時点まで来て、「オーケイ、とにかく何日か一緒にやってみて、それでどうなってみるか見てみよう」ということになった。だからコラボの当初の段階では、僕たちふたりで作ったものなら何だってアリだ、それが即、映画にマッチしたものになるだろう、みたいな見込みはまったくなかったわけ。それよりもあれは、どういう方向に向かいたいか自分にはわかっていて、でも、まずはブライアンと実際に、初めて彼に会ってみることにして、そこでまた色々と話し合うことになった──みたいなもので。で、僕たちはどちらも一緒にコラボレーションすることに興味があったし、あの当時、彼は『ブリング・リング』のサントラをまとめる作業に取り組んでいてね。
 というわけで、とにかく彼のスタジオに入り、そこで彼の方でいくつかの主題をプレゼンしてくれて、僕に向かって『はい、この音楽に反応してみて!』と。で……彼が最初に聴かせてくれたもののひとつは、実はセックス場面で流れるテーマ曲だったんだ。そこで、僕はものすごく……圧倒されちゃったというのかな。だから、セックスの場面で流れるスコアを作るのがどれだけ難しいことなのか、その点に気づいて気圧されてしまったという。

(笑)。

OPN :(笑)いや、だって、セックス場面の音楽なんて考えたこともなかったからさぁ! というわけで、僕はあのスタジオで呆然としたまましばしじっとしていて、彼に向かって――だから、「……えーと、ブライアン、こういう音楽をやる時に何か参考になることとか、アドバイスはもらえるかい?」と訊いてみたわけ。で、彼の答えは「何言ってんの〜、ノーでしょ」で。

ハハハハハッ!

DL:(笑)(ボソボソと低い声でゆっくりつぶやく:おそらくブライアンの口調を真似ていると思われます)。「とにかくまあ〜、やってみなよ……」みたいな。でもまあ、うん、僕にとってはあれが良かったんだと思う。彼は僕を信頼してくれたってことだし、同時に彼はただ主題を聴かせてみて、そこでの僕の反応を待つって具合に、僕にチャレンジを仕掛けていたわけだから。あれは僕にとってはとてもハッピーな瞬間だったな。で、そのおかげでそこから先はお互いにリラックスでき、気持ちよく一緒に作業しはじめるようになったという。うん、あれは良い経験だったよ。

アメリカではブリング・リング窃盗団をボニー&クライドのように持ち上げ、実際、そのような風潮にのってTVドラマまでつくられたことにソフィア・コッポラは違和感を表明したと受け取れました。

DL:ああ。

あなた自身はあの映画をどのように受け止めましたか。

DL:あの映画は大好きだね! とても好きだし、大事にしたい作品だと思ってる。ってのも、僕が思うにあの映画ってのは……自分に思い出せる限りって意味だけど、あの映画は……僕の世代のすぐ後に続いた世代、そういう連中を描き出した、おそらく最初の作品のひとつなんじゃないか、と。まあ、僕はいま33歳だし、彼らが実際に何歳なのかは知らないよ。ただ、確実に僕よりは若い子たちだろうね。それでも、僕自身とはそんなに年齢差のないキッズだと思う。だけど……とにかくあの作品は実際、僕にとっては初めての経験だったんじゃないか? と。
 だから……インターネットというものがどんな風に、若い人たちを非常に……非常におっかない意味で変容させてしまう存在なのか、それを映画というメディアで観たのはあれが最初だった、と。要するに、ああいう子たちは実に安直に……(苦笑)ネットを通じてセレブたちの情報をあれこれ探ってみて、それらのいろんな情報を照合したところで、「彼女は今週末、ラス・ヴェガスでのDJ出演が決まってる。だから家にいないはず」って結論に至るわけだよ。

(笑)だったらじゃあ、空き巣に入ってやれ、と。

DL:そう、ほんとそう! 「無人の家だから押し入っちゃえ!」みたいな。だから、僕からしてみれば、あの作品はとても重要な映画なんだ。というのも、僕の母親にあの映画の感想を訊いたところ、彼女が言っていたのは「途方もないことだわね」ってことで。だから、この……「情報の高速道路」みたいなものが登場する以前の時代だったら、こんな事件は絶対に起こりえなかっただろう、と。かつ、彼ら(窃盗団)は実に自由気ままで、なんというのか……犯罪につきもののあらゆるリスクに対する意識もすっかり欠如していて、彼らにとってはほとんどもう、すべてが「ハリウッド産映画の中の幻想」に過ぎないというか、自分の好きなときに浸ってみて、飽きたら勝手に抜け出せばいい、そういうものだったって感覚のある映画で。だからとても説得力のある、正直な映画だと僕は思うし、彼女(ソフィア・コッポラ)は一歩引いたスタンスから彼らを描いているよね……
 まあ、そうは言いつつ、さっき君が言ったように、たとえ現実のブリング・リング窃盗団の理想化/美化といったメディアによる操作についての意見を述べた映画であっても、その映画を観ている人間をまた、作り手の考えに沿ってマニピュレートするのは楽なことなんだけどさ(苦笑)。でも、是か非かの判断を下すのではなく、彼女が両方入り交じったアンビヴァレントさを残したところは好きだね。だから、とにかく彼女は「こういう事件がありました」、と作品を世に送り出してみて……

あとは観る側次第、彼らの解釈や判断に任せた、と。

DL:そういうこと。

また、ヴァンサン・カッセルが主演の新作映画『Partisan』もあなたが音楽を担当したそうですが、それにはどのようなサウンドトラックをつけたのでしょう?

DL:あのサントラはこう、非常に……そうだね、いつもと同じことだけど、とてもシンセに重点を置いた内容で。僕の創作モードはまあ、大概そういうものだしね。ただし、あの映画で僕が用いた音楽的な参照ポイントというのは…これはまあ、監督(Ariel Kleiman)と僕とがとても似た生い立ちの持ち主だからってところから来ているんだけどね。どっちもロシアからの移民の血筋なんだよ。

ああ、そうなんですか。

DL:というわけで、僕たちはなんというか……お互いのルーツにあるような作品について多く話し合ったんだ。たとえばタルコフスキー映画やタルコフスキー作品のスコアをいくつか担当した(エドゥアルド・)アルテミエフの音楽といったもので、あれはある種、あのサントラの出発点になったね。それから……それとはまた別のファクターとして、彼(アリエル・クレイマン)に早いうちにこう言われたんだよ、「これは空想的なファンタジー映画だから、背景でおとなしく鳴っているだけのサントラだとか、控えめな音にする必要は一切ないから」と。要するに、「とにかく、どんなやり方を使ってくれても構わない。ただ、君にできる限り最高にエモーショナルな音楽をつくり出してほしい」って注文されたわけ。それって、映画向けのスコアという意味ではとくに、とてもユニークなリクエストでね。ってのも、いまどきの映画で多いのはむしろその逆、ほとんどもう「観客がそれと意識しないような、さりげない音楽を」みたいなものを求められるわけで。だから……アリエルはその正反対を求めていたっていう。彼はとにかく、僕に1970年代調に大げさなスコアを書いてもらいたかったんだよ。

(苦笑)。

DL:だから、それが僕にとってのあのサントラに対する意見になるかな。

わかりました、映画/音楽ともども、楽しみにしています。

DL:ありがとう!

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そういう曲ってのはいったい何なんだろう? と。たとえそんな曲であっても、聴けばどこかしら心が動かされるだろうか? ……それこそ今から300年後くらいの世界で、楽器や音源を再生する手段が一切ないような状況であっても、やっぱり誰かに対して鼻歌でハミングしてあげたくなる、そういう曲だろうか? と。

ちなみに『ブリング・リング』や森本晃司『Magnetic Rose』のプレミア・ショーにヴィトルト・ルトスワフスキのエレクトロニックな解釈と、あなたの活動範囲は広すぎて脈絡がどこにあるのかまったくわかりません。

DL:ヘッヘッヘッヘッヘッ(ひとしきり笑っている)! あー、そうなんだろうねえ……

で、あなた自身にはいつでも戻れるポイントのようなものはあるのでしょうか。

DL:うん。で、ある意味そういうポイントがあるからこそ、自分はああやって、一見不釣り合いで多種多様なプロジェクトに関与することができるんじゃないか? と。っていうのも……僕からすれば、自分の中にはある種の「形式主義」というか、テクニックに対するフォルムが存在するんだよ。だから、まず素材になるのが何かを眺めてみるわけ。自分が取り組むことになった、あるいは自分に提供された素材というのは──それは、他の誰かが書いた音楽作品ってケースもあれば、あるいはまた、ある種のシナリオを渡される、というか……たとえば共演相手のパートナーが何らかの「声」を求めている、ヴィデオ・スカルプチャーやヴィデオ・アートに取り組むってこともある。だから、僕はいくらでもいろんなインプットを受け付けられるわけだけど、実際のところ……概して言えば、そのアウトプット、結果というのは概して似通ったものでね。
 というのも、僕には世界に対する考え方というのがあって、それはなんというか……この、「物質性に対するアイディア」というかな。だから、世界というのはすべて物質性によって繫がり合っているものだ、と。したがって、僕にとってはあらゆるものはマテリアル/物質ということになるし、何もかもが物体になる。要するに、僕からすれば何もかもが利用可能なもの、柔軟に形を変えるプラスチックだ、みたいな。
 だから自分にもっとも興味があるのは、じゃあ、この物体/オブジェはどれだけ興味深いものなのか? この物体、あるいはマテリアルの持つ個性の、その何が僕をエキサイトさせるんだろう?という点なわけ。その対象に触れることによって、僕の中に何らかの感情的な反応がもたらされる、自分に何かを感じさせてくれる、そういうものかどうか、だね。
 で、いったんそういった物体群にインデックスをつけて整理してみると、自分でもほんと、「ああ、なるほど。こういうことが起きてるんだな」と納得できる。そうすることで僕は、かなり自然に仕事に取り組むことができるようになるんだよ。だから、様々なプロジェクトに対する僕のアプローチの仕方というのは、実は概して似通っている傾向があるっていう。それはとにかくこう、もっとも感情面でばっちり充填された、そういうマテリアルを見つけ出そうとすること、みたいな。そうして、とにかく自分がそれに対してどう反応するか、そこを見てみるっていう。

ここのところあなたは新作をリリースする度にきちんとコンセプトを練り、方法論も刷新していますが、今回のコンセプトは「ポップ・ミュージックのグロテスクで不安な側面」という理解でよろしいでしょうか?

DL:うん、その通りだね。

また、前作ではサンプリングから離れたと話していましたが、新しいコンセプトを実現するための制作方法がどんなものだったかも教えて下さい。

DL:ああ。それは……ごく単純なテクニックだったんだけど、それはなんというか、その作品ピースがどんな風に聞こえるかという点はあまり気にせずに、とにかく「歌を書く」という点に注意するってことだった。そこは、違ったよ。だから多くの場合……僕はただこう、キーボードの前に座って曲作りに取り組みながら、自分自身に対して「もしも余計な飾りや付属物をここからすべて取り去ったら、いじったり遊ぶ余地は一切残らないだろうか?」と問いかけていた、みたいな。だから、あれらの楽曲を飾り立てて遊んでみることはできないし、曲に何らかのスタイルを与えたり、何であれ手を加えることすらできない、と。では、そういう曲ってのはいったい何なんだろう? と。たとえそんな曲であっても、聴けばどこかしら心が動かされるだろうか? ……それこそ今から300年後くらいの世界で、楽器や音源を再生する手段が一切ないような状況であっても、やっぱり誰かに対して鼻歌でハミングしてあげたくなる、そういう曲だろうか? と。
 そうだね、僕が求めていたのはそういうことだった。本当に、これらの楽曲そのものを充分力強いものにしたかったし、それ以外の部分はそれこそもう、「建築物」に過ぎない、みたいな。その点は今回、自分にとって重要だったし、だからそこにはかなりフォーカスして気を配った。そうは言っても、まず曲群を書いてみた上で、そういう方向に向かったんだけどね。思うに、以前の自分というのは、もうちょっと……自分自身のソングライティング、そして自分が発するメッセージというものに対して臆病だったんじゃないかな。だから、そっちの面は少しばかり曖昧に留めておいて、むしろ建築物を組み立てる方に集中していたっていう。
 ……というわけで、それが今回の制作テクニックだったと言えるけれど、他の点、より実際的な音楽作りの手法という意味では……なんというか、もっとテクニカルな面から言えば、今回やったことに……ヴォーカルの合成があったね。前のアルバムをやっていた頃から考え始めていたテクニックだったんだけど、あの時点ではシンセーシスの技術としてまだちゃんと広げられていなくて。だから、うん……実際、あれはボーカロイドから影響を受けているし、あれがきっかけで僕も、なんというか、シンセで合成された人工の音色を使って、とてもヒューマンな何かを表現することができるじゃないか、そう考えさせられるようになったという。どこにでも遍在するサウンドをいかにマニピュレートしていくか──コンピュータのつくり出す個性のないヴォイスをひねって、それをエモーショナルな何かへ変化させていくってことを考えたね。

機械が感情を表そうとするのは、エモーショナルであると同時に、とても奇妙、かつ不思議に聞こえもしますよね?

DL:うんうん、でもほんと、そこなんだよ! だから、いったんそうやっていろいろとひねり始めていくと……僕からしてみれば、自分のやっていることというは単に、ビルボード・トップ40に入っているような音楽、それらをどぎつく誇張したものに過ぎないっていう。

(笑)はあ。

DL:もちろん、彼らだって彼らなりにひねりを加えてはいるんだけど、そのやり方ってのは非常に巧妙で……だから、聴く側が軽く酔っぱらったような、ちょっとイカれた状態になるまで、実はあれらがどれだけ奇妙な音楽なのかを感知できないっていう。だけど僕からすると、僕は音楽に対する感覚がとても鋭いから、たとえばVEVOなんかを眺めていると……日本で言えばそれが何に当たるかはわからないけども、まあとにかく、トップ40に入るヒット曲みたいなものを眺めてみる。で、僕からすればああいう楽曲こそグロテスクに聞こえるんだよね。それこそもう、あらゆる類いのひねりを加えられた人工合成のヴォイスが、他の音楽の模倣/パスティーシュにくっつけられている、みたいな。で、それらはつくり手が狙った通りのフィーリングをずばりそのまま、聴き手に毎回感じさせるべくつくられているっていうさ(苦笑)。

ははははは…!

DL:(笑)僕は本当に、その部分を誇張したくて仕方なかったんだよ。そういう風にして、とにかく……ポップ・ミュージックをヒエロニムス・ボッシュの絵(※ボッシュの有名な絵画に「Garden Of Earthly Delight」がある)か何かみたく見せたかった、と。

メッセージは、ポップ・ミュージックにおいて非常に重要な存在なんだよ。で、自分が音楽をつくるときというのは、得てしてこれまではこう……メッセージについてはちょっと曖昧なまま、回避していたっていうか。だから今回は──これは初めてに近かったけど、自問せざるを得なかったんだよ、「これっていったい何のことだ? 自分がここで言わんとしているのは何なんだ?」と。

なるほどね。で、あなたの考えるポップ・ミュージックとは、たとえば、どんなものでしょう?

DL:思うに……エモーショナルなところと抽象的なマニピュレーションとの間のバランスが完璧なもの、そういうものじゃないかな。それはだから、「心を惑わす究極のフォルム」みたいなものであって……僕にとっての音楽パートというのは、その聴き手がミュージシャンじゃない限り、彼らにとってミステリーであり謎である、そういうものだ、と。だから、音楽がどんな風に機能するものかを聴き手は知らないし、彼らはとにかく、(音楽を聴いて)感情面で揺さぶられるけれども、どうして自分がそう感じるのかはわからない、と。
 その一方で、メッセージというのがあって……メッセージは、ポップ・ミュージックにおいて非常に重要な存在なんだよ。で、自分が音楽をつくるときというのは、得てしてこれまではこう……メッセージについてはちょっと曖昧なまま、回避していたっていうか。だから今回は──これは初めてに近かったけど、自問せざるを得なかったんだよ、「これっていったい何のことだ? 自分がここで言わんとしているのは何なんだ?」と。で、そこから歌詞を始めとする色んなものが浮上してきたわけだし……そう、僕からすれば本当に、バランスってことなんだ。ポップ・ミュージックが最上の形をとると、そこには素晴らしいバランス、アンセム調のメッセージと心を惑わせ引き込むような抽象的なフォルム、その両者の間の素晴らしいバランスが生まれるっていう。

なるほど。“STICKY DRAMA”はR&Bとスラッシュ・メタルのマッシュ・アップのようにも聴こえましたが、あれはあなたがいまおっしゃった形容にマッチする曲かもしれませんね。R&Bの魅力と、ノイズが混じり合っていて。

DL:うんうん、その通りだね(笑)!

“MUTANT STANDARD”はインダストリアル・プログレッシヴ・ロックとでも言うべきもので――

DL:わあ、そう言ってもらえるのはクールだな。

また、バロック調の“FREAKY EYES”にはエイフェックス・ツインがシンフォニック・テクノをやっているような折衷感覚があります。

DL:アハハハハハッ!

『Betrayed In The Octagon』や『Zones Without People』にも “LIFT”を思わせるクラシカルな曲調はあったと思うのですが……

DL:へえ〜、なるほど?

で、この辺りはやはり母親の影響があるんですか? 

DL:……ああ、たぶんね、うん。っていうのも、彼女は……彼女には聴き取れるようなサムシング、そういうのがあるんだよ。たとえば……僕のつくった音楽を聴いていて、「お前、シューマンのことは知ってる? シューマンの作品は聴いたことがあるの?」なんて言ってくるんだよなぁ。

(笑)。

DL:で、こっちとしては、「あー……うん。たぶん、YouTubeか何かを観ているうちに行き当たったことはあったの……かも?」みたいな(苦笑)。「母さん、頼むよ〜。そんなのよくわかんないし!」ってもんでさ。ところが彼女の方はマジで、「そうは言うけども、お前のやってることの中には同じこと、シューマンの音楽の中で起きていたのと同じことがあるのよねぇ」とかなんとか、いろいろ言われるわけだ。

はははははっ!

DL:でも、明らかにそこには繫がりがないわけで……というのも、正直、僕は彼女にとってあんまり良い生徒じゃなかったし、母さんにもずっとそう言われてきたしね。ただ、それでも僕が彼女から学んだことというのは……基本的な音楽理論やある種のモードに基づく、彼女の持つ和声への感性というかな。それもあったけど、と同時になんというか、うちの家族の間で重用されている価値観みたいなものも受け取ったんだろうね。
 ってのも、僕の父親もミュージシャンだったわけで、だから僕の家族の中にはとてもはっきりした、「我々はどんな音楽が好みか」みたいなスタイルが存在していたっていう。で、うちの家族が好むのはいつだって、気が滅入るような音楽で……

(爆笑)。

DL:だから、とにかく「とんでもなく美しい音楽じゃないと受け付けない」みたいな。それがなんであれ、色いろんな意味で極端なものじゃなくちゃいけないっていう。たとえばほら、ショパンの曲だとか……とにかくこう、エクストリームな音楽ね。なんというか、中庸な音楽が入り込む余地は一切なし! みたいな。

(笑)なるほど。

DL:というわけで彼女は、常に非常に極端なものを好んできた、と。で、自分はそこをちょっとばかり受け継いだんじゃないかと思ってる。ただ、実際に“LIFT”を書いていた間は、あの曲にそういう面があるなんて、まったく頭に浮かばなかったけどね。僕としては、こう……「自分はバラードを書いてるんだ」みたいに考えていたからさ。ほんと……シンディ・ローパーとデフ・レパードをずっと頭に描いていたし。

(笑)マジに?

DL:ああ、マジだよ。冗談じゃなくてほんとの話。

(笑)ああいう、いわゆる「パワー・バラード」をイメージしていた、と。

DL:そういうこと! まあ、そもそもデフ・レパードに良い曲は少ないんだけど、ただ、いざ彼らが良い曲やるときってのは、たいていミッド・テンポのバラードだっていう。

しかも、やたら派手な(苦笑)。

DL:うん。アッハッハッハッハッハッ! しかもちょっとメランコリックだったりしてさ(笑)……いわゆる、ヨーロピアンな哀感があって。

(笑)うわー、きついなぁ。

DL:だよねぇ。たしかにすごくクサい音楽だけど、とにかく、僕は大好きなんだ!

まあ、誰でも「良いと認めるのに罪悪感を感じるけど、でも好きな音楽」はありますしね。

DL:(笑)その通り!

第一話【了】

※これに続く、「不安やグロテスクを主題にしようと思ったきっかけは何ですか?」から先の回答は、12月末に発売される紙『ele-king vol.17号』に掲載されます。こうご期待!


Oneohtrix Point Never - ele-king

 僕はいま、ロープウェイを乗り継いでやって来た箱根の山奥のホテルの一室で、世にも美しく、しかし名状しがたい音楽を聴いている。ブルックリン・ベースのワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、OPNとして知られるダニエル・ロパーティンは、〈ワープ〉からの新作において、我々に新たな音響体験を提示している。80年代の、賞味期限切れのCMをカット&ペースト&ルーピングして作られた前作『複製(Replica)』から露骨な変化は感じないが、予想外の変化はある。
 20世紀のデジタルの墓場、彼いわく「ポスト黙示録的世界における社会の残滓」から音源を拾い、カット&ペースト&ルーピングして作られるOPNの音楽は、ライナーノーツで三田格がいみじくも書いているように「ここ数年、とんでもない勢いで変貌し続けるUSアンダーグラウンドの中心」だと言えよう。『リターナル』以降、我々は可能な限りダニエル・ロパーティンを追いかけている。あのアルバムの1曲目のノイズに度肝を抜かれ、そしてそれ以降の彼の静寂にやや緊張しながら耳を傾けている。
 前作『レプリカ』になくて『Rプラス・セヴン』にあるもの、それは官能である。『レプリカ』には、アートワークが暗示するようにある種の悪意が混じっている。アイロニカルな響きがあり、音もローファイだった。それに比べると新作はずいぶんとクリーンな音だ。とっちらかっているのに関わらず、信じられないほどの調和があり、美がある。

 1曲目の"退屈な天使"は、驚異的な曲のひとつだ。薄ぼんやりとしたデジタルのルーピングは、輪のように重なり、神聖な響きと冗長さを合成させる。ロパーティンの音楽はおおよそリスナーの解釈に関わっている。少年だとか夢だとか、あるいは何かの具象性もなく、ダンス・ミュージックを当てにすることもない。タルコフスキーやヘルツォークといったヨーロッパの映画を好んでいるようだが、とくに映像的だとも思えない。とはいえ、『サクリファイス』ではないが、ユートピアとディトピアの断片が混線しているようにも感じる。ひどく分裂的で、スピード感があるというのに平穏でもある。落ち着きがないのに陶酔的で、醒めていながら瞑想的でもある。"アメリカ人たち"や"彼・彼女"、"内側の世界"といった曲のカット&ペースト&ルーピング&エディティング(スタッターリング)には、分裂的なイメージが散文的に展開されている。そして、アンビエントでもなくダンスでもないこの音楽は、耳を飽きさせないどころか、僕に不思議な心地よさをもたらす。
 5曲目の"ゼブラ"には彼らしいユーモアがはっきり見える。〈ワープ〉へのオマージュかと思わずにはいられないほどベタな循環コードのシンセリフではじまるものの、曲は支離滅裂に崩れていく。また、"問題の領域"のベタなシーケンスも、クラウトロック・リヴァイヴァルがノスタルジックに思えるほど、パロディと言うよりは新鮮な世界に誘導する。
 たとえばリチャード・D・ジェイムスのアンビエントのような、ロパーティンにはごく当たり前の、誰もが馴染みやすいメロディを作ろうという意識はないのかもしれない。だが、交錯するルーピングは恍惚を帯びた美しいメロディを描いている。その描写は、アナログ機材への郷愁によるものではない。インターネット世代のデジタル・アーティストがなしうるそれである......などと言いたくほど、90年代テクノとは根本が違っているように思う。エモーショナルだとも言えるのだが、だとしたらこの感情表現はあまりにも新しい。さもなければ、いま新しく引き起こされるファンタジーだ。
 最後の2曲"静かな生活"と"クロームの国"には、この傑作を締めるのに相応しい、感動的な分裂と静寂がある。アートワークが物語るように、このアルバムは音のシュールレアリズムだ。それは、TMTが言うように「非宗教的かつユートピア的理想主義」を思わせる。『Rプラス・セヴン』は、間違いなく2013年のベスト・アルバムである。いわゆる実験音楽と括ってしまうのがもったいないほど煌めいている。いや、本当に素晴らしい作品だと思います。朝方、窓の外に見える芦ノ湖を囲む木々は、ひと晩を経て黄色に近づいてきた。

Oneohtrix Point Never - ele-king

 『Returnal』の最初の2曲を聴いて欲しい。とくに1曲目の、嵐のようなノイズ──ノイズなどと書くとマニアが好むところのノイズだと思われそうだが、オウテカからマイブラまでを含む広義のノイズだとお考えいただきたい──は圧巻で、メドレーとなっている2曲目の重たいドローンへの展開は、テクノと呼ばれる音楽に興奮したことのある感性であるならば打ちのめされるだろう。
 2010年、〈エディションズ・メゴ〉は、エメラルズの『Does It Look Like I'm Here?』とともにワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、通称OPNの『Returnal』をリリースした。この2枚のアルバムが、当時のUSアンダーグラウンド・シーンの素晴らしい豊かさを世界に知らしめたのである。快楽原則の支配から逃れられないクラブを拠点としたエレクトロニック・ミュージックから生まれようのない音楽である。そもそも、ノイズ、アンビエント、ドローンなどという、言葉だけ見るといかにもマニアックで地味な音楽が、これほど魅惑的に響くとは、僕には思いも寄らなかった。〈ワープ〉もアプローチが遅い! 
 だいたい、ジェシー・ルインズには最初に謝っておくが、僕の嫌いな......、いや、嫌いじゃない、だいっ嫌いな(とあまり繰り返すと、それは好きだという意味だと言われるのでもう言わない)ソフィア・コプラが映画で起用するようになったこの年、OPNの新譜が〈ワープ〉から出る。『R Plus Seven』は、アンビエント色を強めた前作『Replica』の延長線上にある作風で、ピアノの音色が印象的な、豪快な『Returnal』と比較して控えめだが深い作品となっている。ノイズはないが、OPN流サティ解釈と言うと大げさだが、いままで見せなかった美しい旋律がある。早い話、いままででもっとも幅広く聴かれそうな内容だ。待望の新作は9月21日に発売。

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 紙ele-kingの「0号」に載ったダニエル・ロパーティンのインタヴューを読んで、彼がたとえるところの「歯医者の治療音とその場に流れるBGMのソフト・ロック」という言葉のなかに、三田格が文中で指摘する「ノイズとアンビエントも等価」もさることながら、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(OPN)のユーモア体質を確認した。フォード&ロパーティン名義の作品におけるシニカルな風刺ないしはその低俗さもそれを思えば「なるほど」といった感じである。ところが、アメリカのあるレヴュワーときたら「『リターナル』が(不確実的シナリオを基礎としたオープンスペースの超認識ヴィジョンにおける)ルソー的作品であるなら『レプリカ』はデュシャン的だと言えよう」などと書いている。最初にこの一文を目にしたときに「ルソー的」というたとえをてっきり「社会契約論」のルソーのことだと思いこんで、「おー、そこまで言うかー」と思案してみたものの、考えてみればデュシャンと対比しているわけだから印象派の画家のルソーのことかと理解した。当たり前のことかもしれないが、「Rousseau record」という欧文だけでは我々にとっては人文学者のルソーのほうが身近だと思える(?)......というか、『リターナル』というアルバムはデジタル・ミュージックにおける新たな社会契約論めいた大きなインパクトとして2010年にリリースされている。

 そもそも......サンプリングが応用されてから久しい現代のポップには「デュシャン的」な展開はずっとある。卑近な例のひとつを言うなら11年前に咳止めシロップと大麻の幻覚とターンテーブルの実験の果てに他界したDJスクリューが発見した"スクリュー"の急速な拡大がある。ジェームス・ブレイクの"CMYK"もウォッシュト・アウトの"Feel It All Around"も、既製品を面白くいじくることが作品のアイデアの中心にある。そしてOPNの新作『レプリカ』も、ガラクタをそれなりにきちんと陳列した「デュシャン的」作品だと言えよう。歯科医院の摩擦音をはじめ、TVゲーム、くっだらない深夜のムード音楽、音楽ファンからは見向きもされないような安っぽいジャズ......とてもディスクユニオンでは買い取ってもらえそうにない価値のない音ばかりが『レプリカ』ではセックスアピールを持った亡霊のように拾われ、ループとなって、エディットされる。
 いかにも欧州的な芸術趣味を押し通すウィーンの〈エンディションズ・メゴ〉でのリリースを経て、どちらかと言えば俗っぽいブルックリンの〈メキシカン・サマー〉傘下に自ら指揮する〈ソフトウェア〉からのリリースということもあるのだろうけれど、たとえば『ピッチフォーク』が収録曲の"Sleep Dealer"を「スティーヴ・ライヒのポップ・ヴァージョン」と形容してしまうように、『リターナル』を起点とするなら『レプリカ』はフレンドリーに聴こえる。低俗さを創造的なポップとして展開することは、それこそレジデンツや中原昌也もすでにやっていることではあるけれど、『レプリカ』という作品はハイプ・ウィリアムスのようなポスト・チルウェイヴ......、いや、ポスト・スクリューという明日に開いている。エイフェックス・ツインの"ウィンドウリッカー"の次を狙っているのは、本当にロパーティンかもしれない。

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 このところエディションズ・メゴが急進的なイメージを強めている。昨年のシンディトークに続いてエメラルズまでリクルートさせ、フェン・オバーグの新作に続いてOPNまで移籍させた。思えばKTLをリリースした辺りからそれは はじまっていたのかもしれない。いっしょにレーベルをはじめたラモン・バウアーが音楽業界から去ってしまい、〈エディションズ・メゴ〉とレーベル名を改め、ひとりで再出発だとピーター・レーバーグは教えてくれたけれど、過去のバック・カタログがデラックス・エディションで再発される機会が多く、それに気をとられて過去を見ているレーベルのような気までしていたというのに。

 OPNは昨09年末、ファースト・アルバムにあたる『ビトレイド・イン・ジ・アクタゴン』(07年)と2作目の『ゾーンズ・ウイズアウト・ピープル』(09年)、3作目の『ラシアン・マインド』(09年)に7曲を加えたコンピレイション2CD『リフツ』をリリースし(マスタリングはジェイムズ・プロトキン)、いっきに認知度を高めたプロデューサーである。全体的にはアンビエント・テイストなのに、シンセ-ポップやノイズなどエレクトロニック・ミュージックのさまざまなフォームが詰め込まれた『リフツ』は全27曲というヴォリウムもあって、なかなか全体像には迫れず、どこがポイントなのかをすぐには絞りきれないアルバムだった。しかし、これはもう、これからは初期音源集という位置づけになっていくに違いない。通算では4作目となる『リターナル』はこれを凝縮させ、OPNのいいところが見事にリプレゼンテイションされた内容になっていたからである。

 オープニングがまず◎。10年前のピタを思わせるシャープなノイズ・ワークで幕を開け、エイフェックス・ツインの不在を印象付ける。中原昌也もこれはライバル視していいかも。そのまま何事もなかったようにアンビエント・ドローンになだれ込み、メリハリの付け方がいままでとはまったく違うことに驚かされる。簡単にいえば構成力がアップし、ムダがなくなっている。ドローンもどんどん表情を変え、ポップな曲調=タイトル曲へのスライドも実にスムーズ。後半はまたそれらを全体にひっくり返したような感情表現へと導き、手法だけではないヴァリエイションにも人を誘い込む。素晴らしい。

 〈メゴ〉のようなレーベルを実験音楽としてしか捉えられない人には難しいかもしれないけれど(それはむしろ実験音楽を知らないといった方がいいんだけど)、ここで展開されているノイズはとてもポップだし、ドローンを媒介にしてアンビエントとノイズが等価になってしまった事態をOPNは非常に上手く作品に反映させているといえる。これだけ柔軟に音のテクスチャーと向き合える感性はやはり新しいといわざるを得ない。あまり使いたくない紋切りだけど、このような柔軟さこそ若い人に聴いて欲しい。

 スリーヴ・デザインはサン O)))の......というか、KTLのスティーヴン・オモリー。

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