世界中を見回したうえで、なお天才と呼ぶにふさわしい(本気でそう思う!)OMSBが、セカンド・アルバム『Think Good』をドロップした。音楽ファンの期待と予想を軽々と超える、余裕の傑作だ! サウンドの鳴りかた、リズムの作りかた、ラップの乗せかた――どこを取っても、随所に「こんなの聴いたことない!」という驚きをもたらしてくれる。オリジナリティなど幻想? もはや新しいものなどない? OMSBを聴いてからもう一度考えて欲しい、マジで。フレッシュネスとユニークネスが詰まった本作には、未知の喜びが詰まっている。そして同時に、堂々たるヒップホップのたたずまいでもある。OMSB自身が口にした「なににも劣っていない」という言葉は、大げさではない。ナチュラルに「なににも劣っていない」。『Think Good』を中心に、天才・OMSBの、現時点でのスタンスや音楽に対する考えを聞かせてもらった。
■OMSB / オムスビーツ
日本のヒップホップの新世代としてシーンを牽引するSIMI LABのメンバー、Mr. "All Bad" Jordan a.k.a. OMSB。SIMI LABにおいてはMC/Producerとして活動。2012年にソロ・アーティストとしてのファースト・アルバム『Mr. "All Bad" Jordan』を発表。2014年には、自身も所属するグループSIMI LABとしてのセカンド・アルバム『Page 2 : Mind Over Matter』をリリース。多数のフリー・ダウンロード企画のほか、2014年には〈BLACKSMOKER〉よりインスト作品集『OMBS』も発表。その他、KOHH、ZORN、Campanella,、PRIMAL等、様々なアーティストへの楽曲提供・客演参加を果たしている。
ケンドリック・ラマ―はまだ聴けていないのですが、ぜんぜん負けているとは思っていないですね。
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■新作『Think Good』は、かなりの傑作だと思いました。前作『Mr. “All Bad” Jordan』があって、SIMI LABのセカンド・アルバムも出て、『OMBS』というビート・アルバムも出て、そして、今作になるわけですが、なにか特別に意識したことはありますか。
OMSB:いつも通り、ヤバいのを更新したいという感じですね。全包囲的にヤバいのを。ただ、いまの段階だと、自分の内面についてのことが多かったかなと思います。
■リリックとかビートとかは、作り置きが多かったんですか。
OMSB:ビートは普段から作っていて、その中で自分用と決めたものをストックしているんです。それで、そこからリリックを書いていって、曲になるやつとならないやつを決めていく感じです。
■最近は、菊地凛子さんや入江陽さんの作品での客演など、他ジャンルとの関わりも印象的でした。そういう経験が作品にフィードバックするようなことはありましたか。
OMSB:少なからずありますけど、直接的ではないと思います。洋邦問わず、「やられた!」と思ったものに、刺激をもらっているということのほうが大きいです。菊地凛子さんや入江さんにも「やられた!」という感じがあって、そういうものからどんどん盗むというか、越えようとする。そういう意識のほうが強いです。
■最近、「やられた!」というものはなにかありましたか? ケンドリック・ラマ―(Kendric Lamar)の新作など話題ですが、聴かれましたか?
OMSB:じつはまだ聴いていないんですよ。
■ケンドリック・ラマ―の新作を聴いて「すごい傑作だ!」と思ったのですが、そのあとOMSBさんの新作を聴いたら、「余裕で匹敵しているよ!」と思って、うれしくなりました。
OMSB:まだ聴けていないのですが、ぜんぜん負けているとは思っていないですね。
■その態度には、本当に説得力があります。ナチュラルに勝負していますよね。
ファーストで届きづらかったものがたくさんあると思うので、それを届けるのはどうしたらいいかと考えました。自分のことを歌っていても人に届く余地があるんじゃないか、とか。
■今作を聴いたとき、すごく王道のヒップホップっぽいという気がしました。いままではジャンルの外へ外へ行く意識みたいなものを感じ取っていたのですが、今回は、ビートやリリックやスタンスなど、もう少しヒップホップのマナーみたいなものを意識されていたように思いました。
OMSB:ファーストも「外へ」というよりは、単純に好きなヒップホップがそれだった、という感じですよ。好きなヒップホップの感じを自分でトレースしていました。ただ今作に関しては、音の鳴りかたとかトラックの中での振る舞いとか、あと自分の内側について語っていたりもするので、ヒップホップらしさ――これは説明できないですけど――を感じる部分はたくさんあると思いますね。
■“Think Good”とかもポジティヴですよね。ヒップホップ的なポジティヴさ、というか。SIMILABのアルバムには“Roots”という曲があって、メンバーがそれぞれ自分のルーツについてラップしています。“Think Good”も、その続編として聴いていたところがあります。そうやって自分の内側を語ろうというモードになっていることについては、理由はあるんですか。
OMSB:ファーストで届きづらかったものがたくさんあると思うので、それを届けるのはどうしたらいいかと考えました。自分のことを歌っていても人に届く余地があるんじゃないか、とか。ファーストは喚き散らしていたように受け取られていたようです、俺はそんなつもりはなかったんですけど(笑)。
■ファーストは鮮烈だったし、たしかにそういう印象があったかもしれませんね(笑)。
OMSB:べつに隠居しているわけではないし、そのくらいガツンと行っていいと思うんですけどね。ファーストからすでに達観しているのも気持ち悪いと思うし。ファーストはそういう意味で、若気のいたりみたいですごい好きです。
■もともとウータンに衝撃を受けたという話は、よくされていますよね。ファーストとかSIMI LABのトラックなどを聴いていると、僕なんかはRZAやカンパニー・フロウを思い出します。今回は、曲中にEL-Pの名前が出てきますよね。90年代のサンプリング主体のヒップホップと2000年代前後のビートがもっと変態的になっていくヒップホップと、同時に摂取していたんですか。
OMSB:周期がある感じですね。90'sなら90'sだけを聴く時期、サウスならサウスだけを聴く時期、ウエッサイならウエッサイを聴く時期……という周期がずっとあります。季節とかも関係なく、レゲエとかダブとか、ひとつ聴くとそれをずっと聴いています。それこそ、椎名林檎だったら椎名林檎だとか。そのサイクルがずっとあって、その中に新しいものが入ってきたりします。
■なるほど。僕なんかからすると、「なんでこんなサウンドが出きちゃうんだ!?」って思ったりします。どういうサウンドに影響を受けて、どういうサウンドを目指すと、こういう音になるんだろう、と。
OMSB:ビートを作るさいは、たとえばRZAとかEL-Pのトラックを真似ようというよりも、イズムみたいな部分を意識していますね。どうしてこの人たちがヤバいと言われるのかを考える、というか。あの人たちのヤバさは、変なところでループさせるとか奇怪なドラムだとか、そういうところだけではないと思うので、それを自分なりにやります。その人たちを頼りにしているんではなくて、自分の中で鳴らしたい音を、レコード聴いて刺激をもらいながら想像する感じです。
たとえばRZAとかEL-Pのトラックを真似ようというよりも、イズムみたいな部分を意識していますね。どうしてこの人たちがヤバいと言われるのかを考える、というか。
■そういえば、“Ride Or Die”のサビで“Tom's Diner”のメロディが歌われていますよね。これも、すごく意表を突かれました。
OMSB:あれは、頭の中で鳴っていたから、「じゃあ、リリック付けよう」というノリですね(笑)。合いそうだったので。
■そういう遊び心を感じて楽しかったです。ファンキーなネタも多かったですが、レア・グルーヴなどは好きなんですか。
OMSB:好きというか、好きなネタを探しているときにレア・グルーヴが多い、という感じですね。
■今作はけっこうサンプリングが多めですよね。
OMSB:サンプリングばっかりですね。
■具体的に、ネタとして抜きやすいミュージシャンとかはいるんですか。
OMSB:けっこう無理矢理抜くことが多いので、いちがいになにがいいとかは言えないですね。ラテンが入っているのが好きなので、〈フライング・ダッチマン(flying dutchman)〉レーベルとかは好きです。あとは、〈キャデット(Cadet)〉レーベルとか。
■たとえば、元ネタの定番があって、定番の抜きかたがあって、そこにビートを重ねて……みたいな方法論が少なからずあったと思うんです。でも、OMSBさんに限らず、若い世代の人たちは、そういうものからすごく自由だという印象があって、とても新鮮です。これは、必ずしも世代的なものではないかもしれませんが。
OMSB:「自分は他とはちがう」という思いは誰でもあると思うんです。かぶりたくないからちがうものにする、というすごくシンプルな態度。ただ、ちがうものにしたらそれがかっこいいかといえば、そういうわけでもないので、今度はそれをかっこよくする。
■聴いたことないようなかっこいいものを作る、ということですよね。そのときに、どういうところを重要視するんですか。
OMSB:音色とリズムと、あとは質感ですかね。でも、作っている段階で変わってきます。替えがきかないものを目指している感じです。
■今作は、ラップもすごく多彩なスタイルに挑戦していますよね。
OMSB:そうですね。いろいろやりました。いろいろ挑戦した中でも、間を使って余裕を持たせるという意味では、“Gami Holla Bullshit”がいちばんバシっときたかなと思います。“Think Good”も尺が長いので、いろいろやりました。
■“Gami Holla Bullshit”は、途中でテンポが変わっておもしろいですよね。この曲はMUJO情さんのトラックですが、今作はトラックメイカーの起用がいくつかありますね。
OMSB:MUJO情は、たまにトラックを送ってきてくれるんです。送ってもらった中で速攻リリックが書けたものがあって、アルバムに使いたいと思いました。それが“Gami Holla Bullshit”です。あと、Hi’Specのトラックなんかも、聴かせてもらった中でいいなと思ったやつです。
■「Scream」ですね。あのギュルギュルなるトラックは、そうとうヤバいですよね。
OMSB:まともじゃない(笑)。
■あれは、かなりいいグルーヴになっていましたよね。あのトラックにラップを乗せるのも、すごく楽しそうでした。
OMSB:あれは、自分の曲の中でもけっこう好きですね。
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「ここにいてどれだけ平静を保てるかゲーム」みたいな曲になりました。
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■“Goin' Crazy”のトラックを手がけたAB$ Da Butchaさんは、どういう人なんですか。
OMSB:AB$は、Sound Cloudで見つけた外人さんです。自分のほうから「聴かせてほしい」って連絡して、トラックを送ってもらいました。
■あのトラックも、ものすごくよかったです。サンプリングの気持ちよさと、すごく歪(ひず)んだ質感が最高でした。あのトラックを聴いたとき、どういうふうに思いましたか。
OMSB:「これはもうリリックを乗せるしかない!」という感じでした。というか、すぐにリリックが思いついて書けたので、もう「これ、ください」という感じです(笑)。
■Sound Cloudで聴いて、「このトラックはもう俺がやるしかない!」という感じだったんですね。Sound Cloudはけっこうチェックしているんですか。
OMSB:そうですね。
■しかも、“Goin' Crazy”はポッセカットみたいになっていますよね。あの曲のコンセプトは、どういうふうに出来上がったんですか。
OMSB:最初に考えていたことが、「人の前に出る人はおかしくなってしまうのかな?」っていうことだったんです。クスリやっちゃうとか奇行に走っちゃう、とか。でも、「そうはなりたくない」と思って。「というか、おかしくなっちゃうヤツのほうが普通だろう」とか。そんなことを考えていたから、「ここにいてどれだけ平静を保てるかゲーム」みたいな曲になりました。
■この曲には、B.I.G. JOEさんのほかに、野崎りこんさんがラップで参加していますよね。僕も以前からYou Tubeなどで見ていたのですが、このトラックの野崎りこん映えはハンパないと思いました。今回、いちばんハッとしたかもしれません。
OMSB:喰いにきてくれたなと思いました。
■野崎さんのラップって、けっこう繊細なイメージがありました。だから、きれいなピアノ・ループのトラックとかに映えるのかな、とか勝手に思っていたんです。でも、今回“Goin' Crazy”を聴いて、「このファンキーなトラックと相性のいいラッパーは誰だろう?」と思ったら、野崎りこんさんで驚きました。
OMSB:かなり、かましてくれましたよね。
■しかも、かなりエグい言葉とか固有名を入れてきてますよね。「俺だってパスピエにフィーチャリング呼ばれたい」とか、ヒップホップ以外ではあまり歌詞にできないような内容じゃないですか。
OMSB:野崎くんに関しては、他人のネームドロップをできるのはいまだけだと思うので、今回は内容含めとてもよかったと思います。
■なるほど。ところで、“Lose Myself”には、G.RINAさんと藤井洋平さんが参加していて、ラストは藤井さんのエレキ・ギターが入ってきます。あのギターもかなりドキっとするのですが、あのアイデアはどこから出てきたんですか。
OMSB:最初はひとりでやろうと思っていたのですが、そのままだと平坦な曲で終わっちゃう気がしました。それで、ギターが欲しいなと思ったときに、少しまえに紹介してもらっていた藤井さんに頼むことにしたんです。藤井さんは、今年の元旦にリキッドルームでソロをやっていて、それを観て「これだ!」と思ったんです。あと、女の人の声が欲しいとも思って、ここにフィットする声と言ったらやっぱりG.RINAさんだろうということで頼みました。
■G.RINAさんも藤井さんも、すごくハマっていますよね。曲として聴くと、「こういう発想があったんだ!」と思って、すごくドキっとします。とくに、最後にギターソロでアガっていく展開は、本当に新鮮でした。それで、最後の“World Tour”にいくわけですが、ここでのOMSBさんのラップも新鮮ですよね。
OMSB:そうですね。この曲に関しては、フラットにラップしてもつまらないというところがありました。「自分にはこれが向いていない」「自分にはこれはできない」って言ってなにかをやらないのはもったいない、と思って、いろいろやりました。
■そうですよね。「こういう引き出しもあるのか!」という感じで、すごく楽しかったです。ブルースっぽさもあるし、これはこれで黒いグルーヴ感がありますよね。
OMSB:ありがとうございます。いちばん好きなのが“World Tour”かもしれません。あと、それに近いくらい“Think Good”も好きです。もちろん、どの曲もかなり思い入れがあるのですが。
■“World Tour”のたたみかけるようなラストは、すごく感動的ですよね。
OMSB:“World Tour”では、単純にピースで終わりたいと思いました。自分で言うのもなんですが、明るい曲なのに涙が出るものを作りたい、という気持ちがあって、自分の中のそういう部分を探しました。
“World Tour”では、単純にピースで終わりたいと思いました。自分で言うのもなんですが、明るい曲なのに涙が出るものを作りたい、という気持ちがあって、自分の中のそういう部分を探しました。
■“World Tour”や“Think Good”を含め、リスナーは今作について、すごくポジティヴな感触を受けると思うんです。OMSBさんは、ここ数年で自分を取り巻く状況なども変わったと思うのですが、気持ちの部分で変わったこととかあったりするんですか。
OMSB:たとえば、SIMI LABのセカンドのときなんかはQNが辞めるとかいう話のあとだったから、すごく疑心暗鬼な部分があって――ファーストのときからそういう感じはあったのですが――「音楽作る以外なにをする必要あんの?」とか「頭下げる必要あんの?」とか思っていました。そういう気持ちは現在もなくはないですが、いまはもう少し、いろんな人とつながっていけたらいいな、という気持ちがあります。それが、変化と言えば変化かな。
■なるほど。“World Tour”には、そういう雰囲気を感じます。作品を発表すれば、単純に人のつながりとかも出てきますもんね。そのような人との関わりについては、どのように感じていたんですか。
OMSB:単純に1対1で挨拶して話すときに、そういうことができない人もいて、それはめんどくさいと思ったりすることもあります。でも、基本的にはおもしろい人が多いと思いますね。ただ、やりたいことをやるだけで食える世界ではないように見えてきてしまっているのは、嫌ですね。人とつながって「どうも、よろしくお願いします」って言ったりとか、そういうのが少なからず必要だというのが、ちょっと……。やってもらっていてそういうふうに感じてしまうのは、申し訳ないですけどね。「作って、人に聴かせて、それがヤバい」で済む話ではない。そこは、夢を持ち過ぎていたかなと思います。
■意外と社会的なつながりがあった、ということですね。
OMSB:すごい金持ちになったら会計士とかいうのが必要になるかもしれない。そういうことを考えると、「めんどくせー!」って思います(笑)。単純に、仲良いヤツとか大事な人とか、そういう人たちといろんなことを共有しながら、ヤバい音楽を発信できればそれだけでいいのにな、と。なんか、無駄が多すぎる気がしちゃいます。そういうことだったら、音楽抜きで関わりたいかもしれません。たまたま出会った人がめちゃくちゃヤバい人だった、みたいな。
■“Orange Way”という曲も、ちょっとシリアスでちょっとポジティヴですよね。この曲も、“Think Good”や“World Tour”と同じようなモチヴェーションで書いたものですか。
OMSB:もう少し暗い気分だったかもしれません。
■将来生まれてくるかもしれない子どもに対して、最後に「あと、MPCも教えたい」とあるのは、けっこうグっときました(笑)。
OMSB:それが、いちばん本音です(笑)。クソ生意気でも尊敬できなくても最悪しょうがないから、МPCを教えて、そこだけかっこよかったら「よし!」みたいな(笑)。
最近、わりと主流が生音っぽくなっていると思うんですよ。ヒップホップもそれ以外も、じわじわと生音が強くなってきて、それがけっこういい感じだなと思っています。
■最近、おもしろい音楽はありますか。
OMSB:最近、わりと主流が生音っぽくなっていると思うんですよ。ヒップホップもそれ以外も、じわじわと生音が強くなってきて、それがけっこういい感じだなと思っています。このあいだのBADBADNOTGOODとGhostface Killahが組んだアルバムとか。そのへんの音の出かたは、気持ちいいなと思います。
■バッドバッドノットグッド(BADBADNOTGOOD)とゴーストフェイス・キラ(Ghostface Killah)のアルバムは、ジャズっぽい質感とヒップホップっぽいビート感、それとラップの混ざりかたがおもしろいですよね。ケンドリック・ラマ―のアルバムにもロバート・グラスパー(Robert Glasper)が参加していたりとか、たしかに生音をいかに使っていくかという試みは、じわじわきているように思います。OMSBさん自身は、そういう生音の試みをやろうというつもりはあるんですか。これは、まさに質問しようとしていたことなので、そういう展開になって驚いているのですが。
OMSB:自分のアルバムやSIMI LABのセカンドでも、生音を出してもらっている部分はあるんですよね。だから、そういうプレイヤーともっといっしょにできれば、とは思っています。やっぱり自分が再現できない部分もあるので、トラックを作るうえで頼みたいという気持ちもあります。「自分でここまでやったから、あとはこうしてほしい」みたいな絡みかたをしたいです。世界標準みたいなものを考えたとき、ヒップホップの中に生音が入ることというのは、けっこう大きなポイントだと思います。
■そこは本当に同感です。生音のヒップホップというのは、もちろんこれまでもたくさんあったわけですが、それはヒップホップっぽいビートを生音でギリギリまで再現する、という感じでした。いまはもう少し進んでいて、「生音でしか出ないヒップホップっぽいグルーヴ感」みたいな段階にきている印象があります。
OMSB:本当にそうですよね。おもしろい音になっていると思います。
■OMSBさんって、ドラムを打ち込むときにクォンタイズは使うんですか。
OMSB:使うときも使わないときもあります。「ここはかっちりハメたいから使う」とか「ハズしたいから使わない」とか、いろいろです。「ハズしたいけど入れる」とか。
■なるほど。あと、ドラムの位置や響かせかたとかも、自分が聴いてきたヒップホップの記憶からすると、やっぱりそうとう異質な感じがするんですよね。そのドラムの歪(ひず)みが、またよかったりするのですが。
OMSB:俺自身としては、そんなに異質だとは思わないです。ただ単純に、聴いてきてヤバいと思ったドラムを自分のMPCに取り込んだとき、どれだけ鍛えられるかだと思うんです。単純に、ガツンとくるかどうか。
■もちろん、曲によってもちがいますしね。“Storm”とかはドラムがかっちりしていて、気持ちよかったですし。
自分の生活だけできればいいとか、そんなチマチマしたことを俺は言いたくないです。
■“Touch The Sky”は、「これが売れねえとか認めたくねえ」というフックになっています。そういう「売れる/売れない」については、どのように考えていますか。
OMSB:「売れる/売れない」は、絶対に重要だと思っています。それが何人だろうが、野心があるヤツや自分がいちばんだと思っているヤツがいないと、どんどん縮こまってしまうので。自分の生活だけできればいいとか、そんなチマチマしたことを俺は言いたくないです。そういうクオリティに達しているから、そういう言葉が出るんだろうとも思っているし。
■これが売れたら、最高ですね。普通に流れていてほしいですよね。
OMSB:違和感はたしかにあるんだろうと思うんです。でも、ポップスっていうのは、それがポピュラーなものとしてずっと流れているから「これがポップなんだ」って思っているだけですよね。仮に、血なまぐさい曲とかが茶の間で流れまくっていたら、みんな感化されているはずで、そんなものなんだと思うんですよね。
■そうですよね。いま流れている音楽も、少しまえだったらエグかったかもしれません。そもそも、ディアンジェロ(D’Angelo)が売れまくっている現状とかすごいことですし。だから、売れるために曲を作ることと、自分が作った曲が売れることはぜんぜんちがいますよね。OMSBさんは、曲を作るときに宛先みたいなものは考えるんですか。
OMSB:宛先というか、自分がヤバいと思って消化しているものを、自分のフィルターを通して「こういうのありますよ!」と言っている感じです。「超ウケないっすか?」みたいな(笑)。
■まさに、最初の“WALKMAN”のときなんて、みんなそういうふうに反応したのではないかと思います。僕自身も、若い友人に「すごいのありますよ!」という感じで教えてもらいました。SIMI LABの面々は、そういう感覚は共有しているんですか。
OMSB:だと思います。ただ、全員としょっちゅう遊ぶわけではないので、うまくは言えませんが。でもとにかく、楽しんでもらいたいですね。それで、めちゃくちゃ売れてほしいですね(笑)。すごくシンプルです。
■単純に楽しいアルバムでもありますよね。僕がSIMI LABやOMSBさんを人に薦めるときは、「ユーモアがあって良いんだ」ということをよく言います。今回も、ふたつのインタールードがあって、とくに“Shaolin Training Day”の素と演技が入り交じった感じには笑っちゃいました。
OMSB:考えさせる部分ばかりを作りたくはないですね。考えないで聴いてもらっていいくらいです。そう思って、インタールードなんかは入れています。そこで楽しんでもらって、不意に入ってきた言葉が刺さって、その人のためになればいいのかな、と。
■アルバム一枚の中にすごいフロウの振れ幅があるので、ふとしたときに引っかかりを感じてそのまま歌詞を聴いてしまう、ということがすごくありました。本当に、いろんな人に聴いてほしいですよね。
OMSB:というか、マジでかっこいいと思うんですよね! なににも劣っていない!
――随所に「こんなの聴いたことないよ!」という部分があるので、チェックしてほしいですよね。試聴機で聴くだけでもいいので、聴いてください!