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Home >  News > 即興的最前線 - ──池田若菜、岡田拓郎ら出演のイベントが開催、入場無料

即興的最前線

即興的最前線

──池田若菜、岡田拓郎ら出演のイベントが開催、入場無料

Nov 20,2018 UP

 これはじつに興味深いイベントです。その名も「即興的最前線」。池田若菜、岡田拓郎、加藤綾子、時里充、野川菜つみ、山田光らの異才たちが「即興」をテーマに思い思いのパフォーマンスを繰り広げます。10年代の即興音楽の流れについては細田成嗣による入魂の記事「即興音楽の新しい波」を参照していただきたいですが、何を隠そう、今回のイベントはまさに彼の企画によるものなのです! 熱いステートメントも届いております。入場無料とのことなので、ぜひ会場まで足を運んで「即興」のいまを目撃しましょう。

即興的最前線
次世代の素描、あるいはイディオムの狭間に循環の機序を聴く

日時:11月24日(土)12:00~18:00
会場:EFAG East Factory Art Gallery/東葛西(東京)
住所:〒134-0084東京都江戸川区東葛西1-11-6
料金:無料(入退場自由)
出演:池田若菜、岡田拓郎、加藤綾子、時里充、野川菜つみ、山田光
企画:細田成嗣

12:00~15:00 ソロおよびデュオ
15:00~16:00 集団即興
16:00~16:30 休憩
16:30~18:00 トークセッション

出演者プロフィール:

池田若菜 / Wakana Ikeda
桐朋学園大フルート専攻卒。古楽と現代音楽について学ぶ。後にロックバンド「吉田ヨウヘイgroup」に加入/脱退。ロック、ポップスの中でフルート演奏の可能性を探る。現在は作曲作品を扱う室内楽グループ「Suidobashi Chamber Ensemble」を主宰するほか、ヨーロッパツアーなど海外でも精力的に演奏活動を行う。また、2018年3月より新たなバンド「THE RATEL」を始動。

岡田拓郎 / Takuro Okada
1991年生まれ。福生育ち。東京を拠点にギター、ペダルスティール、マンドリン、エレクトロニクスなどを扱うマルチ楽器奏者/作曲家。2012年にバンド「森は生きている」を結成。2枚のアルバムを残し15年に解散。17年にソロ・アルバム『ノスタルジア』、18年に『The Beach EP』をリリース。映画音楽、実験音楽などでも活動。

加藤綾子 / Ayako Kato
洗足学園音楽大学音楽学部弦楽器コース、および同大学院器楽研究科弦楽器コースをそれぞれ首席で卒業(修了)。同大学院グランプリ特別演奏会にてグランプリ(最優秀賞)及び審査員特別賞を受賞。市川市文化振興財団・即興オーディションにて『優秀賞』を受賞。ヴァイオリンを有馬玲子、佐近協子、瀬戸瑤子、沼田園子、安永徹、川田知子の各氏に、室内楽を沼田園子、安永徹、須田祥子の各氏に師事。

時里充 / Mitsuru Tokisato
画面やカメラに関する実験と観察を行い、認知や計量化といったデジタル性に関する作品を制作発表。展覧会に、「エマージェンシーズ!022『視点ユニット』」(東京/2014)、「見た目カウント」(東京/2016)、「見た目カウント トレーニング#2」(東京/2017)。小林椋とのバンド「正直」や、Tokisato Miztsuru(Miztとのユニット)などでライブ活動を行う。

野川菜つみ / Natsumi Nogawa
神奈川県横浜市出身。木、水、石、木の実などの自然物や様々な素材の音具、マリンバ等の音盤打楽器、エレクトロニクス、フィールドレコーディング等を主に用いた演奏・音楽制作を行う。 桐朋学園大学音楽学部打楽器専攻にてマリンバを安倍圭子、加藤訓子、中村友子、打楽器を塚田吉幸、各氏に師事。卒業後、同大学研究科を修了。現在、東京藝術大学大学院音楽研究科音楽音響創造領域に在籍中。

山田光 / Hikaru Yamada
サックスの内部/外部奏法を追求する即興演奏家にしてサンプリング・ポップ・ユニット「ライブラリアンズ」を率いるトラックメイカー。2010年から2年間ロシアのサンクトペテルブルグで活動、現地のフリー・ジャズ・シーンで多数のミュージシャンと共演を重ねる。帰国後の2012年からは都内の即興音楽シーンで活躍する傍ら、入江陽、毛玉、POWER、さとうもか、前野健太らの楽曲にも参加。

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「アポリア」の跳躍

 「即興演奏家は音楽創造における最古の方法を用いている」とデレク・ベイリーが述べたように、即興それ自体は先端的でも前衛的でもなくむしろ遥かに原初的な営みであり、だからそれをテーマに最前線を見出そうとすることは正しくないように思えるかもしれない。だが二〇世紀半ばを端緒とする即興それ自体に対する自覚——その契機には録音再生技術による記号化されざる音響の反復聴取という経験があっただろう——から紡がれてきた複数の系譜を考えるとき、そこでは「音に何ができるか」とでも言うべき問いに応えようとするいくつもの実践が歴史的に積み重ねられてきたということもたしかである。そしてまた少なくとも現在を眺めわたすならば、それらの複数の系譜が即興というテーマを介して交差し合う先端部のひとつとして、テン年代に台頭してきた東京の新しい世代の即興演奏家たちの試みを捉えることもできる。

 ここで留意しなければならないのは即興という用語がすでに辞書的な意味——現在に集中し、心に浮かぶ想いもしくは構想にそのまま従って、それを外に現実化してゆくこと——をのみ担っているわけではないということだ。そこには構想を現実化するための自由や制度的なるものに対する批判、あるいは未知なるものとの出会いといった様々な含みがまとわりついており、そしてかつては「即興すること」がそのままそれらの含みと互いに手と手を取り合いながら歩みゆくかのようにも思われていた。だがいまやこれら複数の要素を素朴に一括りにして即興に賭けることはできなくなっている。とりわけ即興の原理として抽出された「意想外であること」が、歴史的/個人的な記憶によって不可能である、すなわち「即興は原理的に非即興的たらざるを得ない」とされたテン年代以降、字義通りの即興に関わることはある種の反動であるかのようにさえ見做されてきた。あるいは「即興」を原理的に遂行するためには非即興的なものに、さらには非音楽的なものに賭けなければならないとされてきた。だが本当にそうだろうか?

 「即興」は原理的に矛盾を抱えている。しかしながらそれでもなお、いたるところで即興は実践されている。原理的矛盾など意に介することなく刺激的な演奏が繰り広げられ、ときには新鮮な響きを届けてくれる。わたしたちは思考のアポリアに突き当たるまえに、意識的にせよ無意識的にせよそれを軽々と飛び越えていく具体的な実践にまずは少なくない驚きとともに触れるべきだろう。彼ら/彼女らはどのように「アポリア」を跳躍しているのか。無論その跳躍の仕方は様々だ。「即興音楽」といえども一塊のものとしてあるのではなく、とりわけ都市部では交わることの少ない複数の流れが並走している。それぞれの文脈の最前線における個々別々のアプローチがもたらす跳躍、そしてそれらの実践が滲み交わるところにアンサンブルと言い得るものが生まれるのだとしたら、それもまた原理的不能とはまるで異なる姿をしたひとつの跳躍の実践であることだろう。わたしたちはおそらく「即興」の原理をあらためて設定し直すこと、あるいは原理には還元し得ない別の価値を聴き取ることへと、感覚と思考の配置編成を組み換えながら向かわなければならない。

細田成嗣(ライター/音楽批評)

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