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RIP

R.I.P. Little Richard

R.I.P. Little Richard

三田格 May 16,2020 UP

 スパイダースのマネージャーだった奥田義行は高校生の忌野清志郎が歌っているところを見て「リトル・リチャードだ!」と思ったという。ラジオで週に1時間しか洋楽が流れなかった時代、奥田さんは日劇(現有楽町マリオン)の地下に米兵しか入ることができないバーがあり、その店に潜り込むとジュークボックスの裏に隠れてアメリカン・ポップスを聴き漁ったと言っていた。和田アキ子や萩原健一がデビュー前にどれだけ人の噂になっていたかなど60年代のことをあれこれと話してくれた奥田さんは、同じように若き忌野清志郎のインパクトがさらに凄まじく、思わず「君はリトル・リチャードだ!」と本人に告げたところ、清志郎からは「違うよ、オーティス・レディングだよ」と未知のソウル・シンガーの存在を教えられ、それに共感したことでRCサクセションのマネージメントをすることになったという。しかし、若き忌野清志郎を見てリトル・リチャードを連想するというのはとてもよくわかる話である。清志郎がオーティス・レディングのようなパッションとソウルを併せ持つ歌い方になっていくのはもう少し後のことで、ナイフのような歌声だと評された初期の頃はソウル色よりも勢いに溢れんばかりだったリトル・リチャードと言われた方がイメージが湧きやすい。何かに急き立てられているようなリトル・リチャードの歌い方。清志郎もよくスタジオなどで“Tutti-Frutti”をふざけて演奏していたけれど、それは早すぎて口が回らないというパロディであることが多く、真面目に最後まで演奏したところは一度しか見たことがない。奥田さんが芸能界に入って最初に坊やを務めたスウィング・ウエストというカントリー・バンドが結成50周年を祝うライヴ(つーか、ディナー・ショー)を観に行った時はホリプロを起こした堀威夫や田辺エージェンシーの田邊昭知などメンバーがすでにご高齢に達していたため、「今日はテンポを落として“Long Tall Sally”を演奏します」などと言っていたぐらいで、リトル・リチャードはとにかく「早い」ロックンローラーだったのである。「早い」どころか、リトル・リチャードの全盛期は僕が生まれる前に終わっている。“Tutti-Frutti”や“Long Tall Sally”のヒットが1956年、最後のヒット曲といえる“Good Golly, Miss Molly”でも1958年である。スプートニク・ショックすらまだ起きていない。

 僕がリトル・リチャードのことを知ったのはビートルズがカヴァーしていたからである。ビートルズによる吐き捨てるような解釈も悪くはなかったけれど、オリジナルのリトル・リチャードに感じられる張りの良さが僕は気に入ってしまい、それはクライド・マクファターやロイド・プライスといった同時期のロックンロールやリズム&ブルーズにも共通して思うことだった。清志郎さんの影響だったのかもしれないけれど、どちらかというと陰のあるサウンドが好みだった僕にしては珍しい趣向となった(やさぐれたムードだったらパンクを聴いた方がいいというか)。カントリーやソウルといった要素を含まないリズム&ブルーズやロックンロールには「疲れた」感じがなく、意味もなく明るくなれた。それがとにかく良かった。〈スペシャリティ〉から3枚のロックンロール・アルバムをリリースした後、ロックは悪魔の音楽だといって牧師になってしまい、ゴスペルに転向したリトル・リチャードが5年ぶりに『Little Richard Is Back』(64)でロックンロールに戻ってきた際はバック・バンドにジミ・ヘンドリックスが紛れ込んでいたり、エリック・クラプトンが一時期、活動を共にしていたデラニー&ボニーもリトル・リチャードとつながりがあったために“I Don't Want To Discuss It”などをライヴで取り上げることもあって、スワンプ・ロックが好きだった僕は60年代後半のリトル・リチャードにも自然と耳馴染むことになった。最後に聴いたのはクインシー・ジョーンズのサントラ盤『$』(72)に収められていた“Money Is”だろうか。これもインスト・ヴァージョンの“Money Runner”をフレンチ・タッチのボブ・サンクラーが”Disco 2000 Selector”(96)としてド派手にサンプリングしたためにまたしてもヘヴィー・ローテーションと化すことに(あのベースラインはいい!)。そういえば彼がゲイだったということは、この頃まで知らなかった。ジェームズ・ブラウンの伝記映画にも言われてみればそのような雰囲気で描かれていたけれど……。むしろ気になったのはリトル・リチャードが彼の使っていた聖書をプリンスにプレゼントしたというエピソードで、調べてみると2人はセヴェンデイ・アドヴェンティストという異端の宗派に属していた。エホバの証人を産んだ母体であり、世界が終わりの時を迎えていると本気で信じている宗派である(リトル・リチャードがスプートニクに恐怖し、プリンスがスペースシャトルの爆発事故を受けて“Sign "O" The Times”をつくったのも世界の終わりを信じていたから)。菜食主義で、死んでも復活すると信じており、本当ならドラッグやダンスも許されない宗派である。

 リトル・リチャードについて、あるいは彼の精神生活についてはあまり詳しいことは語られていないのではないだろうか。音楽はシンプルだけれど、ゲイで牧師になったというだけで充分に複雑だし、「悪魔の音楽」とまで毛嫌いすることになったロックンロールに再び回帰したという感覚(サム・クックへの嫉妬?)もやはり常人の感覚では理解が追いつかない。よくよく考えてみるとナゾだらけである。87歳まで生きたというのは悪くない人生だったのかなと思うものの、ロックの偉人としてこのままきれいに葬り去るのではなく、彼が本当に抱えていた葛藤などが明らかになる日が来ることも僕は望みたい。ちなみに“Tutti-Frutti”というのはドラムの音を表したものだそうで、最近でいえば南アのゴムもスネアを叩く音に由来し、グルーパーやJ・リンが自然科学の用語を音楽に引用することも興味深いけれど、音楽の現場からしか出てこない言葉が使われるのはもっと好きなんです。Tutti-Frutti!

三田格

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