ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Billie Eilish - Happier Than Ever (review)
  2. SHAKKAZOMBIE - BIG-O DA ULTIMATE (review)
  3. Li Yilei - 之 / OF (review)
  4. David Sylvian ──デイヴィッド・シルヴィアンによるフォト・エッセイが発売、全世界550部限定 (news)
  5. Nic TVG - I Know Where the Vultures Live (review)
  6. interview with Amyl & the Sniffers いざ、パンクな一撃 (interviews)
  7. Radiohead ──レディオヘッド『Kid A』『Amnesiac』20周年記念リイシュー企画 (news)
  8. KM - EVERYTHING INSIDE (review)
  9. ガールズ・メディア・スタディーズ - 田中東子(編著) (review)
  10. Lee Perry 追悼リー・ペリー (news)
  11. interview with Richard H. Kirk(Cabaret Voltaire) キャバレー・ヴォルテールの完全復活 (interviews)
  12. LNS & DJ Sotofett - Sputters (review)
  13. The Bug - Fire (review)
  14. DJ Seinfeld - Mirrors (review)
  15. R.I.P. BIG-O / OSUMI 追悼 オオスミタケシ(BIG-O/OSUMI) (news)
  16. interview with Joy Orbison ダンス・ミュージックは反エリート、万人のためにある (interviews)
  17. There are many many alternatives. 道なら腐るほどある 第3回 映画『金子文子と朴烈』が描かなかったこと (columns)
  18. こんにちでもなお ガイガーカウンターを手にすれば「ラジウム・ガールズ」たちの音を 聞くことができる - ──映画『ラジウム・シティ~文字盤と放射線・知らされなかった少女たち~』、アルバム『Radium Girls 2011』 (review)
  19. Post-Pandemic Memories 第8回 雨、粗悪な肉、衛星軌道上のユートピア (columns)
  20. Pa Salieu - Send Them To Coventry (review)

Home >  News >  RIP > R.I.P. 南正人

RIP

R.I.P. 南正人

R.I.P. 南正人

松村正人 Jan 18,2021 UP

 年明けからほどない1月7日夜、シンガーソングライターの南正人氏が亡くなられた。facebookの公式アカウントにご子息泰人氏がよせた動画内の説明によれば、横浜のライヴハウスでの演奏中、2曲目の途中でハーモニカを交換しようと椅子にすわりなおしたさい倒れ、バンドメンバーとしてドラムを叩いていた泰人氏の腕のなかで帰らぬひととなったという。直後からネットにも舞台で息をひきとった南氏をさして音楽家冥利につきるとする投稿も散見できたが、私は自由な反骨のひとがまたひとり、音楽の場を離れることに下唇を噛む思いだった。いや南氏の場合、「離れた」というより「旅立った」というべきかもしれない。なんとなれば、本邦音楽史彼ほど旅を愛し、愛された音楽家はいないからである。
 南正人は終戦の1年前の1944年のひな祭りの日に杉並区阿佐ヶ谷で産声をあげた。中学、高校と順調な学生生活をおくるも、東京外語大のスペイン語学科に入学したころには身中に眠っていた旅への思いやみがたく、大学を休学した南は日本を飛び出したのが1965年あたり。前年の10月10日に東京ではオリンピックが開催し、さらにさかのぼること半年前の4月1日には渡航制限の緩和により海外旅行も自由化していた。すなわち南正人はみずからの目と足と意思で世界をみてまわった最初の世代だったのである。南北アメリカ大陸から欧州をめぐった旅をきりあげ帰国したのは1967年ごろ。滞在先のニューヨークではディランらピート・シーガーらのフォークを知り、大学を卒業するころにはギター片手に人前で歌いはじめていたという。68、69年の時代状況を背景にフォークは政治性と密接だったが、南の歌は直截的なプロテスト・ソングともちがう肌合いだったのは69年のデビュー・シングルのA面の “ジャン” に明らかである。無法と無情の物語を描き、等身大の心情吐露を述べるでも共感による結びつきをもとめるでもない “ジャン” は60年代当時、アンダーグラウンドを約めたアングラの呼び名でとおったオルタナティヴなフォーク・シンガーたちの歌でもどこか毛色のちがうものだった。じっさい南正人はこの時期、高田渡、遠藤賢司、のちに翻訳家に転身し多くの海外文学を日本に紹介する真崎義博らで結成したアゴラの一員として関西フォークキャンプなどにも参加したが、〈URC〉から次々とアルバムを世に問う高田、遠藤を尻目に、南はふたりのあとを追うことはなかった。手近の『G-Modern』1999年の20号のインタヴューによれば、〈URC〉に商業主義のにおいを感じたというのがいかにもこのひとらしいが、しんがりをつとめるかのようにファースト・アルバム『回帰線』を〈RCA〉からリリースしたのは1971年。このレコードと2年後の『南正人ファーストアルバム』(〈RCA〉)2作をさして南の代表作とみなすファンは少なくない。
 細野晴臣、林立夫のリズムセクションに六文銭の石川鷹彦らが参加した前者のおさめる楽曲の基調はフォーク~ロックでブルージーな南の歌声とハードボイルドタッチなことばが加わった途端、サイケデリックな空間がひらけくる。真っ黒な汽車を語り手に歌いはじめる “Train Blue”、歌い手のみならず聴くものの来し方を彷彿させる “こんなに遠くまで”、“愛の絆” “青い面影” などにつづく後半では苦いラヴ・ソングが耳を惹くが、それらはやがて具体的な対象をもたず、無償の愛というより愛の象徴を歌い上げる終曲 “果てしない流れに咲く胸いっぱいの愛” の渦巻く混沌にのみこまれ幕を引く。この曲には裸のラリーズの水谷孝が客演しており、“ヘイ・ジュード” 風のリフレインに突入する後半で水谷がファズを踏み込むと同時に全体のタガは外れた具合になる。細野と水谷という本邦ロック史の両極ともいえるふたりが同居する楽曲のフェイドアウトはまことに惜しいが、私どもはこれが記録にのこったことを言祝ぐべきか。それもこれも南正人の存在あったればこそ。南正人は功績に比して作品数こそ多くはないが、黎明期から今日にいたる日本のロックの重要な局面にかかわり、幅広い人脈を交通させる媒介の役割も担っていた。
 先にあげた水谷孝は73年のオムニバス『Oz Days Live』でも南と一緒になっている。70年代初頭のアンダーグラウンドなロックのドキュメントの風合いもあるこの2枚組のレコードは吉祥寺のロック喫茶OZの閉店を惜しみ制作した記念盤で、南のほかに裸のラリーズ、タージマハル旅行団からアシッドセブンや都おちなどをおさめている。南はここで『回帰線』から “愛の絆” や “夜をくぐり抜けるまで”、ディランとバンドの持ち歌 “I Shall Be Released” のカヴァーなどを披露し、名実ともに終の住処となったライヴという場での躍動ぶりを印象づけている。また『Oz Days Live』の出た73年は2作目にあたる『南正人ファーストアルバム』のリリース年でもあった。2作目なのにファーストなのは『回帰線』のリリース後に八王子の山に入り友人たちとの共同生活をおくったことで生まれ変わったということらしい。アルバムの録音も当地で演奏家をよびよせおこなった。メンバーは前作にも参加した細野、林に加え、鈴木茂と松任谷正隆、すなわちキャラメル・ママであり、その点では同年の荒井由実の『ひこうき雲』や吉田美奈子の『扉の冬』と『南正人ファーストアルバム』は遠い縁戚関係ともいえるが、中身と外見で一脈通じるのは同年同レーベル(〈ベルウッド〉)の『HOSONO HOUSE』のバックトゥカントリー感覚であろう。細野氏の名演は数多あれど、僭越ながら、音色ではリック・ダンコとチャック・レイニーが背中合わせになったようなこの時期が最高だと思う私としてはこの2作はあわせてお聴きいただきたい。むろんそこにはベアズヴィルないしウッドストックのニュアンスが篭もり、それらは『回帰線』のニューロック感覚とも異同があるが、米国を発祥とする対抗文化がわが国へ土着化する過程で必然的に土のにおいをたかめていく過程を記録した趣もある。
 その後も、南正人は独立独歩のひととして音楽史を歩みつづけた。前例のない試みをつづけるなかでときに沈黙におちいっても、同伴者があらわれ、なににも似ていない人柄のつまった音を私たちにとどけてきた。昔なじみの浅川マキが音頭をとり、79年の『Lady Let Me Go』以来10年ぶりのアルバムとなった『スタートアゲイン』では柴田浩や白井幹夫などからなるリヴァーがおおらかに脇をかためていたし、93年に不破大輔、川下直広、大沼志朗のフェダインと、加藤崇之とジョイントし彼らの活動拠点だった〈ナツメグ〉から出した『Joint』なども、私はこの時期にナミさんの歌をナマではじめて聴いたので思い入れもひとしおである。
 世紀の変わり目にもラリーズの高橋ヨーカイをふくむ布陣で〈キャプテン・トリップ〉から『馬尾・馬尾』をとどけ、衰えるどころか鈍色の光沢をますばかりのその歌声を耳にするにつけ、最長不倒距離はのびつづけるかにみえただけに、逝去の報は残念でならないが、南正人ののこした歌の数々はプレイヤーのスタートボタンを押すたび何度でもよみがえるだろう、まるではじめてのように訪れるだろう。

松村正人

NEWS