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Dinky

Dinky

Anemik

Wagon Repair / Octave-lab

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渡辺健吾   Nov 14,2009 UP
E王

 ディンキーことアレハンドラ・イグレシアスとの出会いは、渋谷タワーのエレクトロクラッシュ特設コーナーだったと思う。まだあの頃の渋谷のレコード店はバイヤーが趣味丸出しで売れそうもないレコードをプッシュしていて、彼女の02年の2作目『Black Cabaret』もそんな感じでピックアップされていた。黒のスーツに細身のネクタイ、咥え煙草にオールバックの髪のディンキーはまるで若きアニー・レノックスみたいで、その姿に一目惚れしてCDを買ったのだった。

 チリ生まれの彼女が97年にニューヨークに移ったのはマーサ・グラハムのコンテンポラリー・ダンスの学校に通うためで、一時は真剣にダンサーを目指していたようだ。しかし、彼女は夜のマンハッタンに吸い込まれ、ついには踊るのでなく踊らせる側により興味を持つようになり、数年後にはドイツの〈トラウム〉や地元NYの老舗〈ソニック・グルーヴ〉から12インチを出すようになっていた。パッとしない暗い実験エレポップという印象だったアルバムと、その後ビザ切れでアメリカにいられなくなったからと移住したベルリンを拠点にばりばりとミニマルを作りはじめた彼女のことがしばらく一致しなかったのも仕方あるまい。05年にスヴェンの〈コクーン〉から出てスマッシュ・ヒットを記録した「Acid In My Fridge」は、ストレートで力強くファンキーなトラックに「冷蔵庫にアシッドが隠してあるの! トリップしたら...」と訛りのキツイ英語で彼女が呟くアホ丸出しの曲だった。それで、昨年話題になった大人びた出世作『May Be Later』だ、まさに変幻自在とはこの女のことを言うのではないかと。

 マシュー・ジョンソンの熱烈なラヴ・コールで実現したという〈ワゴン・リペアー〉からの発売となった4作目のアルバムは前作を遙かに凌ぐ実験精神に溢れ、しかしそれが小難しくは聞こえないという魔法のレシピでも使ったかのようにキュートに響く。ジャズ的なシンコペーションや、アフリカ音楽的でジャストなマシンビートとは真逆の太鼓が、妙な声色や気持ち悪いエフェクトと共に不協和音を奏でるがごとく、不思議な音空間を形作る。もちろん、それだけでなくしっかり踊らせるための4つ打ちキックと最低限の機能性を備えたツール的な曲もいくつかあって、前作のディープ・ミニマル路線を継承したド頭の"Childish"、ブリーピーな音とエロ可愛い彼女の歌が絶妙なタイトル曲の"Anemik"(英語で解釈すると「貧血っぽい」「気力ない」)、それからいい意味で「トランス!」と叫びたくなる"Epepsia"などは、どんなフロアでも活躍しそうだ。

 女性DJというだけで、曲作ってるって実際はアイディアだけ出して片腕的なプロデューサーに全部やってもらってるんだろう?なんて誤解されるかもしれないが、ディンキーはかなりの機材マニアで、すべての打ち込みとレコーディング、ギターやエレピといった楽器演奏、もちろん歌もベルリンの自分の小さなスタジオで完全に自分の手で行っている。なんというか、ここまで嫌味なく「アート」の域に達したことをやられてしまうと、血とか育ちからくる豊穣なものをもっていてしかも華のある女性、どうやってもこんなひとに勝てる気がしねーと完敗宣言したくなるというもの。もし、日本のアーティストで匹敵するようなものが作れる存在と考えたらツジコノリコくらいだろうか。彼女、ダンスには興味なさそうだけど......。

渡辺健吾