ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Bon Iver ──ボン・イヴェールの来日公演が決定 (news)
  2. interview with (Sandy) Alex G 塩と砂糖の誘惑 (interviews)
  3. Laraaji ──ララージがまさかの再来日、ブライアン・イーノとの名作を再現 (news)
  4. Leo Svirsky - River Without Banks (review)
  5. Columns JPEGMAFIA『Veteran』の衝撃とは何だったのか (columns)
  6. Random Access N.Y. vol. 119:玄人インディ・ロック界の王子たち Deerhunter and Dirty Projectors @webster hall (columns)
  7. Tohji ──いま若い世代から圧倒的な支持を集めるラッパーが、初のミックステープをリリース (news)
  8. Aphex Twin ──エイフェックス・ツイン最新公演のライヴ・ストリーミングが決定 (news)
  9. interview with For Tracy Hyde シティ・ポップ・リヴァイヴァルから「シティ」を奪還する (interviews)
  10. Lafawndah - Ancestor Boy (review)
  11. Squarepusher, Oneohtrix Point Never & Bibio ──〈Warp〉30周年イベントが開催決定! スクエアプッシャー、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、ビビオが一挙来日 (news)
  12. Columns ダブステップ・シーンへ日本からの新風 ──City1について (columns)
  13. イギリスでは高校生に授業参観でレイヴの歴史を教えています (news)
  14. For Tracy Hyde - New Young City (review)
  15. Nkisi - 7 Directions (review)
  16. interview with Kindness 音楽である必要すらないんです (interviews)
  17. Flying Lotus ──衝撃を与えた映画『KUSO』がまさかの再上映決定 (news)
  18. BJ The Chicago Kid - 1123 (review)
  19. interview with Yosuke Yamashita 誰にでも開かれた過激 (interviews)
  20. Thom Yorke - Anima (review)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Black To Comm- Alphabet 1968

Black To Comm

Black To Comm

Alphabet 1968

Type

Amazon

野田 努   Dec 09,2009 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加

 クラウトロックの巨星たちの影がちらつく。クラスターないしはポポル・ヴー。それらがモダンなエレクトロニカ、アブストラクト、フィールド・レコーディング、ドローンなどと結合した音楽だ。ハンブルグで〈Dekorder〉レーベルを主宰するマーク・リヒター(日本でも根強いファンを持つ)によるソロ・プロジェクトで、リリース元は〈TYPE〉――5年前にギターのアンビエントでエレクトロニカのファンから支持されたXelaが主宰するレーベルだ。ブラック・トゥ・カム名義では、2009年はUSの〈Digitalis Recordings〉からドローンのアルバムを出し、〈Dekorder〉からも『Wave UFO』というアルバムを出しているが、僕はまだ聴いていない。この手の音楽は、買うか買わないかつねに迷う。僕の場合は。

 2008年の『Fractal Hair Geometry』における、かつてのトーマス・ケナーとも似たアブストラクトな音と比較すると、新作はずいぶんと牧歌的で、ヨーロッパ的情緒に傾いている。ある意味彼のロマン派的な側面が強調された作品だと言えよう。ヨーロッパの美しい田園風景と薄気味悪い幽霊屋敷が交わっているようである。とにかく1曲目"Jonathan"が素晴らしいのだ。彼のフィールド・レコーディング、そのコラージュされる音、そして単音で弾かれるピアノのメロディ。僕はこの1曲のためにアルバムを買ったといっても過言ではない。ピアノの入ったアンビエントが好きなので、ついつい。

 2曲目の"Forst"も悪くない。基本的にはドローンだが、遠くで単調なキックの音が鳴り、そしてだんだんと厚みを増していく。"Trapez"は"Jonathan"に次いで気に入った曲で、オルゴールの音楽ような幼少期の煌めきが展開される。とても美しい曲で、途中から入る低い弦の音が素晴らしい効果を出している。続く"Rauschen"の奇妙なメリーゴーランドも面白い。"Amateur"もピアノが印象的な曲だ。ところが、7曲目の"Tram GmbH"ような、古風なヨーロッパが重みを増していく展開は僕にはつらい(そこがまた、ポポル・ヴーと似ている)。それはしかし、彼のエモーションなのだろう。

 アルバムは後半、ダーク・アンビエントの様相を見せる。それは深いトリップへの入口だ。そしてそれは目覚めることのできない悪夢のように聴こえる。アルバムの最後の曲は、その着地点である。僕には決して居心地が良いとは思えない。もうあと少しで、このアルバムは傑作となったのではないかと思ってしまう。本当にあと少しのところで。

野田 努