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磯部 凉   Jan 12,2010 UP
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E王

 広義のダンス・ミュージック・シーンにおける屈指のポップ・メーカー、マックス・タンドラことベン・ジェイコブスのサード・アルバム。とりあえずおさらいとしてディスコグラフィーを振り返れば、彼はまず、00年のファースト『サム・ベスト・フレンド・ユー・ターンド・アウト・トゥ・ビィー』で、ご他聞に漏れずエイフェックス・ツイン・フォロワーとしてそのキャリアをスタートさせている。ただし、同作は、リチャード・デイヴィッド・ジェイムスの内省性を引き継いだのが所謂エレクトロニカで、攻撃性を引き継いだのがブレイクコアだったとしたら、それはそのどちらでもない、かといって本人のように両面性を持っているわけでもない、しかし明らかにある一面を引き継いでいるという、そういう意味でオリジナリティのあるアルバムだった。あるいは、『アイ・ケア・ビコーズ・ユウ・ドゥー』を生演奏でカヴァーしたような内容は、突然変異と思われていたRDJをカンタベリー・シーンやレコメンデッド・レコーズと歴史的にではなく、音楽的に接続するミッシング・リンクの役割を果たしていたと言えるかもしれない。しかし、そんな知る人ぞ知る存在だったジェイコブスは、2年後のセカンド『マスタード・バイ・ガイ・アット・ジ・エクスチェンジ』でそのスタイルを一変、本人自らヴォーカルを取り、トラック・メイキングに加えてソング・ライティングの才能を披露、一躍名を上げることになる。もし、RDJにチャーミングなヴォーカルを乗せたあの"ミルクマン"のその先があったとしたら――いや、正確にはその先には"カム・トゥ・ダディ"と"ウインドリッカー"があるのだが、あのようなポップ・ミュージックに対するネガティヴィティではなく、ポジティヴィティを表現したものがあったとしたら――それこそがこれだった。

 そして、その後、何故か7年もの沈黙を経て届いた今作は、方向性としては順当に前作の延長線を歩んでいる。当初、『マスタード~』の諧謔性が自家中毒を呼んで時間がこんなにもかかったのだろうかと勘ぐったのだが、背後の事情はともかく、普通に聴く分には、むしろ、前作で食べ散らかしたポップ・ミュージックがしっかりと血や肉になった印象がある。かと言って、ダンス・ミュージックから遠く離れてしまったわけでもなく、例えばベスト・トラックに挙げたい、その名も"ジ・エンターテインメント"等は、ロバート・ワイアットのような繊細なヴォーカルから高揚感に満ちたトランス・テクノに突入していく、文字で書くと何とも奇妙な、それでいて普遍的な楽曲に仕上がっている。また、細部には相変わらず偏執的なエディットへの拘りが見られものの、かつて同じことを試みたブレイクコアのような行き詰まり感はまったくない。ひとつそこに理由があるとしたら、"カム・トゥ・ダディ""ウィンドリッカー"が指向したポップ・ミュージックの相対化を突き詰めたが故にブレイクコアがデット・エンドを迎えたのに対し、ジェイコブスはもっと無邪気にポップ・ミュージックのポテンシャリティを信じているということなのだろう。その点では、彼は日本のデ・デ・マウスやイモウトイドともアティテュードを共有しているのだ。

磯部 凉