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二木 信   Mar 29,2010 UP
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 これは素晴らしい発見のあるコンピレーションだ。キッド・カディやドレイクらの華々しいデビューの裏側で、USヒップホップのニュー・ジェネレーションの才能がこういう形でも開花していたのかと知れるだけで面白い。ほとんどのアーティストが、ミックステープ・サーキットで名を馳せてはいるものの、日本でも、そして本国でもたいして知られていない。ミックステープ・サーキットからメジャー契約に漕ぎ着けたラッパーと言えば、先日、グッチ・メインが所属するワーナー・グループ傘下の〈アサイラム〉と契約したアトランタのピルなどがいるが、『LTYS』は、USヒップホップのお馴染みの記号――セックス、ドラッグ、ヴァイオレンスから離れ、よりポップなサウンドとリラックスしたアティチュードを特徴としたアーティストを紹介している。

 ア・トライブ・コールド・クエスト『ミッドナイト・マローダーズ』を引用したジャケットが示すように、ニュースクール・リヴァイヴァル的な要素も多分にある。が、まず耳を引くのがその豊かな文化的混交性だ。それは、グッチ・メインやピル、ヤング・ジージィら、アトランタ在住の不良ラッパーたちの既発曲をフライング・ロータス、ハドソン・モホーク、エル・P、プレフューズ73らがリミックスして話題になったミックステープ『アダルトスウィム&ビートレーター・プレゼント ― ATL Rmx』の真逆を行くようなレイドバックした感性に支えられている。ポップス、ソウル、ロック、エレクトロニカ、ハウス、エレクトロ、それら雑食的な音のメリーゴーランドがくるくると無邪気に回転している。PSG鎮座DOPENESSの、旧来的な慣習やルールに縛られない、あっけらかんとしたノリとシンクロしているようにも聴ける。さらに、『LYTS』を編集したのが日本人のDJであるというのも僕を喜ばせた。エグゼクティヴ・プロデューサーのShoez(彼は元CIAのDJだ)は、NYやLAまで足を運び、アーティストやレーベルと直接交渉してライセンスを取得したという。まったく素晴らしい熱意である。

 また、ジャケットは、画家の清田弘らが率いる〈FUTURE DAZE〉というエクスペリメンタル・ヒップホップ・アート・コレクティヴとでも形容できる集団のデザインによるものだ。彼らはかつてDJ BAKU×灰野敬二のセッションを企画し、WRENCH、CORRUPTED、GREENMACHiNEなどのロック/ハードコア勢からMERZBOWまでをブッキングする一方、鎮座DOPENESSとSKYFISHのライヴDVD『RETURN OF THE FUTURE DAZE』(07年)を自主でリリースしている。ジャンレスにユニークな活動を展開する〈FUTURE DAZE〉が、ここに収録されるようなアーティストと接点を持つのは合点がいく。

 さて、アルバムの中身はと言うと......、U-N-Iが、「自由の国へようこそ、俺は今日とてもいい気分だ/ところで君はどうだい?(Welcome to the land of free, I'm feelin' good today.By the way, how you?)」と軽快にラップするダンサンブルなナンバー"ランド・オブ・ザ・キングス"で始まる。U-N-Iは、ウータン・クランの"C.R.E.A.M."をコミカルにリメイクした"K.R.E.A.M."でその批評性を評価されメジャー契約の話が舞い込むも、今でもインディペンデントで活動するLAのラップ・デュオだ。エレクトロニカ・シーンでお馴染みのマシーンドラムことトラヴィス・スチュワートは、ソフトなエレクトロ・サウンド"フレッシュキッズ"や、"エンジョイ・ザ・サン"といった曲を手がける。"エンジョイ~"でラップするセオフィラス・ロンドンは、マーク・ロンソンやサム・スパロウとも共演するブルックリンのラッパーだ。彼の、マイケル・ジャクソン"ジャム"のリメイクから幕を開けるミックステープ『ジャム!』のベタベタなポップ・センスはかなりユニークだ(別のミックステープではホイットニー・ヒューストンのヴォーカルをエディットしたりしている)。メイヤー・ホーソーンを彷彿とさせるアウタサイトのソウル・ナンバー"アナザー・レイト・ナイト"も素晴らしい。彼はすでに〈ユニバーサル〉との契約が決まっているという。ボーナス・トラックとして収録されたNYのフィメール・ラップ・デュオ、ノラ・ダーリンの"ステップ・トゥ・ミー"がまた良い。"ステップ~"のPVを見れば、彼女たちが、MTVで表象されるビッチ系ともクイーン・ラティファのような姐御系とも違った、スタイリッシュなフィメール・ラッパーの新境地を開拓しようとしているのがわかる。ちなみにグループ名は、スパイク・リーの映画『シーズ・ガッタ・ハヴ・イット』(1985年)の登場人物に由来するという。

 さらりと聴き流そうと思えば、聴き流せてしまうコンピレーションではある。が、しかし、あれこれ調べてみて、USのヒップホップにまだこんな領域があったのかと驚かされた。意外にもいろんな発見があった。ということで、『LTYS』を聴いた後、U-N-Iとセオフィラス・ロンドンのミックステープをチェックすることをまずお勧めしたい。

二木 信