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High Places

High Places

High Places Vs Mankind

Thrill Jockey

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橋元優歩   May 04,2010 UP

 ポリフォニックな世界観に揺さぶりをかけるかのようなフォースフリーなギター・リフ。驚きだ。ハイ・プレイシズにまったく期待していない要素である。アルバム全編を支配する4つ打ちの力強さにも同様の意外性がある。が、このギターの重用と明確なビート感覚こそが、ハイ・プレイシズらしさの裏をかく今作の2大要素である。

 アニマル・コレクティヴやギャング・ギャング・ダンス、ダーティー・プロジェクターズをはじめとしたブルックリン・アクトたちは、昨今のモードであるトライバル/プリミティヴィズムに先鞭をつけている。彼らはギター・リフという力の象徴のような方法論、「伴奏と歌」というような西洋音楽的でホモフォニックな構成を避け、4つ打ちなどもってのほか、小節線の見えるような截然としたリズム・パターンを避け、やわらかく世界と対峙する姿勢をひらいた。この手のスタイルの先例ならいくつもあるが、彼らには急速に進行するハイブリッドな世界にさらされた若者たちの、新しい態度表明のようでもあった。世界の底は抜け、拡張している。この世界をそれでも愛していくとすれば、どのような方法が可能だろうか。もちろんボアダムスからの影響も大きかったと思うが、その問いの上でチョイスされた"トライバル"でもあったのではないか......。

 〈スリル・ジョッキー〉の男女デュオ、ハイ・プレイシズもブルックリン・アクトの重要なひとつである。『ハイ・プレイシズ・ヴァーサス・マンカインド』は2008年の『ハイ・プレイシズ』以来のフル・アルバムで、ふたりは今作であっと驚くモード・チェンジを果たしている。

 スティールパンと抜けのいいメアリー・ピアソンのヴォーカル、わずかなディレイを伴ってひろがるサイケデリア、軽やかな打楽器。あのソフトでミニマルなハイ・プレイシズ・サウンド、そこに突如としてギター・リフと4つ打ちが闖入する。二元論的なアナロジーになるが、あらゆるものが融け合って存在する"女性的"な世界がこれまでのハイ・プレイシズなら、分節し、統制し、世界を動かす"男性的"な力が今作を色づけていると言えるだろう。これがタイトルにある「ヴァーサス・マンカインド」ということなのかもしれない。"マンカインド"は"人類"また"男性"の意だ。

 冒頭の"ザ・ロンゲスト・シャドウズ"、続く"オン・ギヴィング・アップ"の2曲を聴いただけでも、そう解釈するのに充分だと思われる。独特の残響とスティールパン、トライバルなパーカッション、そして浮遊感あるヴォーカルという彼らのスタイルはもちろん生きている。だが、シンプルだが印象的なベース、圧倒的なヘゲモニーを持って打ち鳴らされる4分音符のキック――ぐっとロック寄りなサウンドになっている。ファズがかったギターとディレイの効いたスネアはセクシーでもある。"男性性"が強調されたからだろうか、メアリーのヴォーカルもとくに2曲目など随分と艶やかだ。〈イタリアンズ・ドゥー・イット・ベター〉あたりのつやっぽい女性ヴォーカルと並べても違和感がないだろう。

 アルバムは、彼ららしいカリビアンで小作りなエクスペリメンタル・ポップを折々に交えながら進む。それでもやはり耳に残るのは"コンスタント・ウインター"や"ホエン・イット・カムズ"などのダンサブルでアシッドなロック・ナンバーだ。曲によっては『スクリーマデリカ』をも彷彿させる。

 こうした傾向がいったい何を意味するのか、"マンカインド"との対決はどういう結末を導くのか、その点は判然としない部分もある。が、それでも、この10年トライバル・サウンドにつき合ってきた耳には、本作を新鮮に聴くことができる。

 トライバルに関してはファッション・ブランドがいまになって追随しているようだが、今年に入ってアニマル・コレクティヴ・フォロワー(あくまでフォロワーに限る)を筆頭に、同傾向の新人バンドは急激に新鮮味を失っている。いまは何か新しいものをと人びとの心がはやるには、難しいタイミングかもしれない。さて、本作は今後10年にとって何かの火種となり得るだろうか。少なくとも、今年はじめて微かな異質さを聴き取った作品だった。

橋元優歩