ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Moritz Von Oswald Trio - Dissent (review)
  2. Lucrecia Dalt & Aaron Dilloway - Lucy & Aaron (review)
  3. Autechre × Humanoid ──オウテカがヒューマノイドのレイヴ・アンセムをリミックス (news)
  4. interview with Lucy Railton 〈モダーン・ラヴ〉からデビューした革新的チェリストの現在 (interviews)
  5. Abstract Mindstate - Dreams Still Inspire (review)
  6. interview with Jeff Mills + Rafael Leafar 我らは駆け抜ける、ジャズとテクノの向こう側へ (interviews)
  7. Marisa Anderson / William Tyler - Lost Futures (review)
  8. There are many many alternatives. 道なら腐るほどある 第6回 笑う流浪者、あるいはルッキズムに抗うための破壊 (columns)
  9. Cleo Sol - Mother (review)
  10. 地点×空間現代 ——ゴーリキーやドストエフスキー、ブレヒトや太宰の作品を連続上映 (news)
  11. Tirzah - Colourgrade (review)
  12. Juan Atkins & Moritz von Oswald - Borderland / Moritz von Oswald Trio - Blue (review)
  13. interview with Joy Orbison ダンス・ミュージックは反エリート、万人のためにある (interviews)
  14. Lawrence English - Observation Of Breath (review)
  15. Moritz von Oswald & Ordo Sakhna - Moritz Von Oswald & Ordo Sakhna (review)
  16. House music - (review)
  17. P-VINE & PRKS9 Presents The Nexxxt ──ヒップホップの次世代を担う才能にフォーカスしたコンピがリリース (news)
  18. DJ TASAKA - KICK ON (review)
  19. Little Simz - Sometimes I Might Be Introvert (review)
  20. Nav Katze ──メジャー・デビュー30周年を迎えるナーヴ・カッツェ、全作品が配信開始 (news)

Home >  Reviews >  Album Reviews > 桜井芳樹・西脇一弘- far home

桜井芳樹・西脇一弘

桜井芳樹・西脇一弘

far home

My Best Records / DIW

Amazon

野田 努   May 12,2010 UP
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 烈しくもなく弱々しくもない演奏、軽くもなく重たくもなく、暑くもなく寒くもない音楽だ。アンビエントでもチルアウトでもない。これはふたりのギタリスト――ロンサム・ストリングスの桜井芳樹とサカナの西脇一弘によるコラボレーション・アルバムで、ふたりのギター以外のいっさいはない。フェクトもなく、ポスト・ロック的な展開もない。ダブ処理されているわけでもない。ポップの史学が言うようにヴェルヴェッツの『III』のルー・リード・ミックスをローファイの青写真とするのであるならこれはまさしくローファイな録音の作品で、二本のギターの音のみで構成されたアルバムだ。どちらかが伴奏で、どちらかがリードを担当している。ギターのインストゥルメンタルの作品を、われわれはこの20年いろいろなスタイルで聴いてきているけれど(その多くは、大雑把に言ってメロウなチルアウト感覚に導かれている)、そうしたどれとも違っている。ケレンミなく、いっさいの装飾性はない。きわめて素朴なギター演奏集で、それはまあ、ベタといえばベタな音楽かもしれないけれど、"現在"において不思議なほど説得力を持っているように思われる。

 ジョン・フェイヒィのようにその絶対的なルーツがあるとは思えないふたりは、ブルースやワルツやジャズなど、さまざまなスタイルを演奏する。偉大なるキップ・ハンラハンがデビュー・アルバムでカヴァーした"インディア・ソング"もやっている(オリジナルは1974年のマルグリット・デュラスの監督による『インディア・ソング』の主題歌)。他にもいろいろとネタはあるのかもしれないが、周到に計画されたものと言うよりも、ふたりの好みが混合したものだと思われる。
 曲によってはメランコリックである。桜井芳樹はこだま和文のバックでも演奏していたというが、こだま和文やダブステップやブリストル・サウンドといったメランコリーに特徴を持つ音楽を好む者にとっても嬉しいアルバムと言えよう。そして、あまたのアッパーな音楽にどうしても心の底からのめり込めないリスナーにとっても大切な1枚となり得るだろう。

 われわれの住んでいる世界では、街を歩けば、テレビを付ければ、やけにアッパーな音楽で溢れている。それは何かを隠し、何かを感じることを麻痺させるように、どこか暴力的に鳴っている......としか思えないほどアッパーだ。そんな世界において、このアルバムのような抒情主義は信じられないほど美しく響くのである。

野田 努