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Budamunky & S.L.A.C.K.

Budamunky & S.L.A.C.K.

Buda Space

Dogear Records

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野田 努   Jul 02,2010 UP
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 『My Space』は、言わば日本における『オリジナル・パイレート・マテリアル』である。何か気の利いたことを言うわけでもなく、ただひたすら彼らの日常のみが描かれているのだ。

 車ではなく電車に乗って東京を移動する、仕事はないが時間はある、梅酒や発泡酒を飲み、そして夜の街を徘徊する、友だちの連れきた女の子に動揺する、夜に自転車をこいで彼女の家まで行く、吸いながら思い切り空想する......そんな「たわいのない話」がいっぱい詰まったアルバムだ。情にすがりつくような感傷主義もなければ、まどろっこしい陰気さもない。何か実のあることを言わなければならないというオブセッションもなければ、経済的な貧しさを売りにすることもない。ラップの自己中心主義とは1億光年離れながら(このアルバムにおける"主語"の少なさといったら......)、S.L.A.C.K.は特徴的な舌足らずの声で彼の日常を淡々と描写する。友だちや恋人、クラブ、朝帰りのまぶしい太陽、やる気のないバイト、怠惰と嫌悪、希望と絶望、愛情と冷酷さが入り交じりながら、しかし感情の起伏は抑えられ、池袋、新宿、渋谷、あるいは足立区から板橋区あたりを、彼はたいした目的もなくぶらぶら歩いているようだ。そんなアンチ・ドラマに満ちた『My Space』は、見通しが決して明るいとは言えない彼らの(そしてわれわれの)日常における、なんとも心地よい夜風のようなアルバムだった。

 去る6月14日、DOMMUNEに登場したS.L.A.C.K.とそしてPunpeeは、彼らの音楽さながら、実に飄々としたものだった。いつの間にか彼らはそこにいて、S.L.A.C.K.はバッグを背負ったままマイクを握ると、いつの間にか消えていた。作為的ではないだろうけれど、自分を懸命にアピールするというよりは、控えめにすることで微妙に際だつというその逆説的な態度は、なるほど『My Space』の柔らかなチルアウトとも繋がっているのかもしれない。


 『Buda Space』は『My Space』のリミックス盤である。リミキサーはブダモンキーというL.A.在住の日本人のトラックメイカーで、『WHATABOUT』にも参加している。その筋ではずいぶんと評判の人らしい。実際、『Buda Space』は力のある作品で、『My Space』をある種のサイケデリックな領域にまで引き延ばしている。メロウだったあの音楽に毒を注ぎ、涼しかったあの音楽に熱と寒さを与えている。『Buda Space』は『My Space』のリミックス盤であることに違いないが、S.L.A.C.K.のラップも録り直しされ、音楽から見える世界は別物となった。

 オウテカにスクラッチを入れたような1曲目の"Enter the BudaSpace"からしてぶっ飛んだプロダクションだが、"Good More"のリミックス・ヴァージョン"Good for"を聴けば、この作品がヘッズたちの実験室で生まれたポスト・ジェイディラの領域で鳴りなっていることがわかるだろう。オリジナル・ヴァージョンでは気取りなく語られた「たわいのない話」が、このアルバムでは暗く冷たいコンクリートの上に投射されているように感じられる。

 痙攣するコンピュータ・ファンクの"Super Kichen Brothers"や"the Third"にも『My Space』にはなかった刺々しさがあるが、もっとも挑発的なのは銃声の音からはじまる"Deep Shit"だろう。ファンのあいだでは人気曲のひとつだと思われる、日常の甘いひとコマを描いたこの原曲を、ブダモンキーはあたかも張り付けにして、ドレクシア流の暗い光沢に塗り替えているようなのだ。これが『My Space』において最高にロマンティックなラヴァーズ・ラップ"Deep Kiss"のヴァージョンであることに一瞬たじろぐかもしれないが、こうした"さかしま"こそがこの作品の魅力というわけだ。

 "I Know Club Bitches"は"I Know About Shit"のヴァージョンである。梅酒と渋谷の空が耳に残るこの曲の叙情主義もまた、ねじ曲げられた映像のように歪んだ世界となってあらわれる。ルーツ・レゲエのドープなダブを響かせる"B.U.D.S."は、『My Space』では最後に収録されていた"S.H.O.C.K"のヴァージョンだ。そこには『My Space』ではひた隠されていたと思われる、なにか強い感情が見え隠れする。

 アルバムは、ブダモンキーによる"Bangin Underground Dimensional Stereo"の不穏なトリップで締めくくられる。「電車で行こう」の"Train On The Tokyo"や爆笑ものの"Dream In Marijuana"はリミックスの対象からはぶかれている。

 『Buda Space』は、好みが分かれるかもしれないが、ずいぶん野心的な試みである。〈ストーンズ・スロウ〉を追っていたというS.L.A.C.K.とブダモンキーの冒険心の賜物と言えよう。限定1000枚なので、すでに売り切れの店も多いと聞くが、まだ探せばあるところにはある。善は急げ。

野田 努