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Minks

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橋元優歩   Feb 17,2011 UP
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 ドーピングされた音楽。それがこのアルバムについて抱いた印象だ。麻薬やドラッグの影響があると言うのではない。一般にサイケデリックと呼びならわしているような幻覚的な音だと言うのでもない。それらは人の身体や脳に引き起こされる作用のことだ。そうではなくて、音楽そのものの細胞や機能を異常に膨らませたり麻痺させたりする何か、ミンクスの場合はメロディを用いて音楽をドーピングする。「ワーグナーは音楽を病気にした」とはニーチェの言葉だ。その十全な理解にいたるには筆者はあまりにも無知だが、「音楽を病気にするもの」というアイディアには刺激を受ける。ミンクスのメロディはやがて彼らの音自体を病にしてしまうだろう。あるいは過度のドーピングによってぼろぼろに疲弊してしまうに違いない。ファースト・シングルである"フューネラル・ソング"には、そうした危険さがある。

 ブランク・ドッグス主宰にしてダム・ダム・ガールズやビーチ・フォッシルズ、またワイルド・ナッシングなどをリリースする新世代ローファイの震源地ブルックリンの〈キャプチャード・トラックス〉の新人、ミンクス。レーベル・カラーとも言えるリヴァービーなガレージ・ポップとは異なる傾向の男女デュオだ。ジョイ・ディヴィジョンやキュアーと比較され、また初期〈クリエイション〉のギター・ポップ色や〈4AD〉的な耽美性も感じさせるあたりはワイルド・ナッシング、そしてペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハートを思わせる。とくに後者と対で考えたい。

 メロディに、非常に強いインパクトがある。良いメロディを持ったロック・バンドは数いるが、ふつうはリズムや音色との調和がとれているものだ。ロックには自分対世界(/社会)というモチーフがあり、いまを生きているということ、他ならぬこの自分がその音を鳴らしているということへの感動が表現の根本にある。それをめぐって音色がありリズムがあり、メロディがある。しかしミンクスやペインズはそうしたバランスを欠いているように思われる。「良いメロディ」と言うときにイメージされる音全体の有機性よりは、気持ちいいツボをピンポイントで刺激するマシンのようだ。ツマミを上げたところだけ突出する。そしてメロディのツマミだけが異常に上がっている。ポップ職人という言い方もはまらないだろう。職人としての意地や目的意識をとくに感じない。曲調はペインズが陽、ミンクスが陰だ。しかし同じひとつのものの両面である。

 こうしたいびつな性質の音楽が支持を受けるのは、前回ダックテイルズのレヴューで述べたように、シーン全体に音の意味性ではなく音の機能性へのフォーカス・シフトがあることを象徴している。大きくとらえれば、2000年代後半を象徴する柔らかなサイケデリック・ムードやグローファイ的な潮流もそれに数えられるだろう。それが良いことか悪いかということは別の議論であるが、ペインズやミンクスはその流れの中で生まれてきた一種の異形、あるいはバイプロダクトであるというのが筆者の見解である。
 とはいえ、サウンドにもそれなりのヴァリエーションがある。"フューネラル・ソング"のコーラスのたっぷりかかったギターや時代のついたペラペラのシンセ・リフは大きな特徴だが、この曲自体はアルバム中盤でやっとの登場となる。冒頭の"クスミ"など王道的な疾走シューゲイズや、続く"アウト・オブ・チューン"のピクシーズを思わせるオッドなドリーム・ポップ、リアル・エステイトやギャングリアンズのようなトロトロのギター・インスト・ナンバー"インディアン・オーシャン"などをはさみながら、ポスト・パンクに出会ったベル・アンド・セバスチャンといった雰囲気のギター・ポップ・チューン"セメタリー・レイン"などに突き抜ける。いずれも心地よく、適度に翳りがあって、うざくない程度にメランコリック。「聴きたかった音」が詰まっている。

 整った顔立ちのふたりでもあり、やや厭世的に佇むヴィジュアル・イメージも申し分ない。ではマーケティングと資本の力で生み出された操り人形かといえばまったくそうではない。〈キャプチャード・トラックス〉周りのまったくのインディ・バンドだ。黒幕など存在せず、ふたりはやりたいことをやっているだけなのだろう。まるで擦りガラスのように、細かな傷でくもってしまったナイーヴなシューゲイズ・サウンドだが、ハードな現実に心が擦り切れてしまったというわけでもなさそうだ。ハードな現実にヴァーチャルに擦り切れるという感覚。わざとでも天然でもない。嘘でもほんとでもない。なるほど、こうした意味での不透明さが現代のシューゲイズ要素だと考えれば、非常に納得がいく。あるインタヴューで、取材者がミンクスについてこう表現している。「あなたの曲は過去と現在のあいだ、そして暗闇から明るみへの移り変わりのあいだに生まれる揺らぎを感じさせる。」(「デリシャス・スコーピトン」)
 筆者が指摘したいのもこうした曖昧さに近い。インタヴューの締めとして訊ねられた「ミンクスを色か香りで例えると何になる?」という問いに、彼らはこう答えている。「ミンクスはいつも黒と白のコントラストだよ」
 二元的なものの狭間で、メロディ要素を暴発させる危ういデュオ。この筆者の解釈をどのように思われるだろうか?

橋元優歩