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Talib kweli

Talib kweli

Gutter Rainbows

Javotti Media/3D/Module Japan

Amazon iTunes

二木 信   Feb 23,2011 UP

 ハイイロ・デ・ロッシはモス・デフやタリブ・クウェリを尊敬するラッパーとして挙げていたが、彼のインタヴュー記事をめぐる議論を僕はインターネット上などで目撃し、酒を飲みながら友人とも意見を交換した。素直に面白かったし、いろんな考え方を知れたことがなにより有意義だった。だが実のところ、僕がもうひとつ期待していたのは、「これは1本取られたな!」と思うような自分とまったく正反対の主張なり、切実な感情から発生する意見に出会うことだった。それが生粋の愛国主義者の意見であろうとも。これは本当だ。残念ながら、いまだその手のものには出会えていない。

 タリブ・クウェリは1975年生まれのNYブルックリン出身のラッパーで、90年代後半、モス・デフとのユニット、ブラック・スターで一躍脚光を浴びる。彼らがNYのインディ・レーベル〈ロウカス〉から98年に発表した『モス・デフ&タリブ・クウェリ・アー・ブラック・スター』は当時のNYのアンダーグラウンド・ヒップホップを象徴する1枚だ。2パックとノートリアスB.I.G.が何者かに銃殺され、アメリカのヒップホップにおける暴力が最悪の結末を迎えた後、彼らはアンチ・バイオレンスの"知性派"として登場した。彼らはアフロ・アメリカンとしての歴史を掘り下げ、ルーツであるアフリカ的な価値やイメージを散りばめながら、いわゆるアフロセントリック・ヒップホップの新鮮な風をシーンに送り込んだ。ブラック・スターというグループ名は、20世紀初頭に活躍したジャマイカの黒人指導者でアフリカ回帰運動の始祖と言われるマーカス・ガーヴェイの貿易会社「ブラック・スター・ライン」から取られている。ガーヴェイの思想はラスタファリアニズムや公民権運動に大きな影響を与えている。

 それにしても、タリブ・クウェリの4年ぶりとなる通算4作目のソロ・アルバム『ガター・レインボウズ』は実に素晴らしい! サウンド、ライミング、リリックにおいて確実に磨きをかけてきている。驚くほど斬新なことをやっているわけではないが、聴くたびに良さが滲み出てくる。スキー・ビーツ、オー・ノー、アウタサイトといった人選も成功している。ある意味、ジャネル・モナエ『ジ・アークアンドロイド』ビッグ・ボーイ『サー・ルシャス・レフト・フット:ザ・サン・オブ・チコ・ダスティ』とは異なる未来にブラック・ミュージックを導こうとしているかのようであり、暗闇のなかでそっと火を灯すような音楽だ。ビッグ・ボーイの乱痴気騒ぎをPファンクの系譜と考えるならば、『ガター・レインボウズ』のメロドラマはニュー・ソウルの系譜にあると言える。
 ジェイ・Zやカニエ・ウェストにその卓越した詩的センスと華麗なライミングを評価されながらも、タリブは実力に見合った商業的成功や大衆的評価を得てきたとは言い難い。売れっ子のトラックメイカーを起用し、流行のサウンドを取り入れただけで一時は商業主義に迎合したと批判されている。カニエ・ウェストがプロデュースし、商業的成功を収めたヒット・シングル「ゲット・バイ」(『クオリティ』収録)のなかでかつてタリブは、大胆にも「オレは世のなかのシステムを変えようとしているアクティヴィストだ」とラップしたが、彼のような「コンシャス・ラップ」といわれるジャンルの政治性は、過去の黒人革命の毒気を抜いた抵抗のイメージでしかないという意見もある。要は、スタジオ・アクティヴィスト(口だけの活動家)ではないかという手厳しい批判である。
 とはいえ、タリブ・クウェリとモス・デフは、2000年に閉店寸前だったブラック・カルチャー系の書籍を取り揃えるブルックリンの本屋を買い取り、カルチャー・センターとして再生させているし、賛否両論はあったものの、タリブは南アフリカの人種差別撤廃の運動にも参加している。それなりに頑張っていると思うのだけど、政治的態度を厳密に問われるほど、アメリカのヒップホップ文化が成熟しているとも言える。「コンシャス・ラップ」というレッテルが音楽表現と別の次元で彼の葛藤を生んできたのは事実だ。酷な話だとは思う。
 前作『イヤー・ドラム』とハイ・テックとのユニット、リフレクション・エタナールのセカンド『レヴォリューションズ・パー・ミニット』(10年)をリリースした〈ワーナー〉と配給をめぐって揉めた結果、決裂、本作は彼が初めてレコード契約がない状態で制作されている。当初はフィジカル・リリースの予定さえなかったというが、なんとかCDの発売まで漕ぎ着けている。まずは彼の不屈の精神に拍手しよう。

 14曲すべてが魅力的だが、ハイライトは7曲目から10曲目だろう。女性ソウル・シンガー、ケンドラ・ロスをフィーチャーしたネオ・ソウル風の"ウェイト・フォー・ユー"(スラム・ヴィレッジの名曲"アイ・ドント・ノウ"を想起させる!)からはじまり、プレジャーをサンプリングしたジャズ・ファンク"アント・ウェイティング"が勢い良く疾走し、力強いピアノ、ゴスペル・ソウル調のコーラス、たたみかけるビートとタリブのライミングのポリリズムが生み出すブルージーな"コールド・レイン"からぬくもりのあるメロウ・ソウル風の"フレンズ&ファミリー"へといっきに雪崩れ込む。この流れは何度聴いてもぐっとくる。そして、このベテラン・ラッパーはこれまでの人生を振り返りながら、より普遍的な言葉で自由や希望についてラップすることを試み、「ギャングスターに憧れるということは死んだも同然/知性で勝負する時代」と相変わらず真っ直ぐなメッセージを放っている。ラヴ・ソングもあれば、ポリティカル・ラップもあり、まるで『タクシー・ドライバー』のような帰還兵の狂気を描くストーリーテリング・ラップもある。日本盤を買うと歌詞の読めるサイトにアクセスできる。歌詞を読んでいるだけでも楽しめるし、勇気づけられる言葉もたくさんある。たとえば、タリブ・クウェリは孤立を恐れない、剛毅な精神についてこんな風にラップしている――。いや、これはほんとに良い言葉でしょ。

声なき声
希望なき希望
自分から声をかけるなんて性に合わない
 
そんなことしなくても
向こうから自然に近づいてくる
反対側から
眺めていても
ガソリンの虹がギラギラ光っている "ガター・レインボウズ"

二木 信