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Akron/Family

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S/T II: the Cosmic Birth and Journey of Shinju TNT

DEAD OCEANS/Pヴァイン

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木津 毅   Mar 25,2011 UP
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 2009年に観たアクロン/ファミリーのライヴは、僕が観たなかでその年最高のものだったと断言できる。ガタイのいいヒゲ面の兄ちゃん3人が楽器をやかましく打ち鳴らし、オーディエンスをステージの上に上げて踊らせ、かと思えば分厚いコーラスを披露しうっとりさせた。東京ではステージ上で花火が舞ったと言うし、僕が観た大阪のライヴはドラムのダナが誕生日ということもあって終始ハッピーなヴァイブに満ち満ちていた。
 それは一言で言えば祭だった。身体を踊らせる打楽器を鳴らしまくり、心を躍らせるために美しいコーラスをオーディエンスと一緒に奏でる。たった一度しかないその夜をそこに集った全員で分かち合おうという姿勢に感動したし、何よりも陽気でパワフルで爆発的なエネルギーに圧倒された。そして、前作『セッテム・ワイルド、セッテム・フリー』は、そのライヴを観ることで完成するアルバムなのだとそのときに思った。彼らの「野性的になれ、自由になれ」というメッセージはその祭を体験すれば容易に理解できるが、逆に言えばそのエネルギーが音源にまで封じ込められているかと問われれば、そこには至っていないというのが正直なところだった。

 その点、アルバムとしては4作目となる『S/T?:ザ・コズミック・バース・アンド・ジャーニー・オブ・シンジュ・TNT』は、彼らのライヴの熱がかなり近いところまで感じられるパワフルな1枚だ。力強く太鼓が叩きつけられ、猛々しいエレクトリック・ギターが轟き、高揚感に満ちたコーラスが響く"シリー・ベアーズ"は完璧なオープニングで、彼らの良さが全て詰まっている。童話のような歌詞も面白い。1匹の間抜けな熊がもう1匹の熊に「そのハチミツをどこで手に入れたの? そのハチミツは甘いの?」と尋ねるところから物語ははじまる。「間抜けな熊」というのが自分たちの風貌に対する冗談なのかはわからないが、「ハチミツ」は間違いなく大いなる喜びのことだろう。「あのね、あそこで見つけたんだよ、太古の昔からある巨大な花のそばで」「どうやったらそこへ行けるの?」「谷を下り、山を越えて、深い川を渡り、また山を登って」......とにかく、熊たちはハチミツを求めてそのリズムと踊りだす。「僕と一緒に行かないか 一緒について来ておくれよ/笑って踊りながら その古い森を見つけよう/そこに笑いと踊りとハチミツさえあれば」――ここでブレイク。「I'll be there!!」――祭のはじまりだ。
 陽気で賑やかなことだけがアクロン/ファミリーの魅力ではない。前作で目立っていたアフロ・ファンク、ハードコア、ノイズの要素は後退し、初期のアシッド・フォークよりもリッチなコーラス・ワークで聞かせる"アイランド"や"キャスト・ア・ネット"、"キャノピー"などスピリチュアルで美しいフォーク・ソングもこのアルバムの目玉になっている。雑多な音楽性はより整頓され、全体として緩急のつけ方も見事だ。とにかくすべての曲に言えるのは、サイケデリックで、大らかで、前向きなエネルギーに満ちているということ。「そんなものさ」というタイトルの"ソー・イット・ゴーズ"はホームレスに小銭をあげることについての歌だ。ヒッピー・カルチャーの良き部分をいまなお信じ、そのコミューナルな感覚を忘れることはない。アルバムを通して自然や光のイメージが繰り返され、ラストの"クリエイター"で「僕らは創造主の通り道をだどっている」という境地に辿り着く。60年代の無邪気な模倣というひともいるかもしれないが、それをここまで伸び伸びとできるのはそこに価値があると信じているからだろう。彼らの大らかさと前向きさは、教条めいた押しつけがましさを必要とせずに、共感でこそ緩やかな連帯感を生み出すことの現実的なやり方であるように思える。

 『セッテム・ワイルド、セッテム・フリー』のアートワークは実に大雑把な、サイケデリックな星条旗を掲げたものだった。バンドは「そこに政治的な意図はない」と語っていたが、それは恐らく本当だ。その旗が象徴していたのは国家に対する批判や抵抗ではなく、彼らのその雑多な音楽性と大らかさからもわかるように、別のアメリカを提示することだったのだろう。閉塞的で排他的ではない、さまざまな文化や人種が混在しぶつかり合って、そして共存するアメリカを。そこでこそ、彼らは「太陽は輝くだろう、そして僕は隠れない」と歌っていた。
 この新作は、少なからず日本にインスパイアされたものだという。北海道の雌阿寒岳の麓の山小屋で曲作りをしたというエピソードを僕はジョークとばかり思っていたが、本人たちは本当だと言い張っている。その真偽はともかく、彼らが考える日本は山と言えば富士山だし、そもそもタイトルの「シンジュ爆弾」というのもよく意味がわからないし、実に大雑把でいい加減なものだ。"フジ"と題された曲では笛がスピリチュアルなムードを醸しているが、日本にそんなものを見出す日本人がいまどれほどいるだろうか。だが、それはきっとアクロン/ファミリーの誤解も含んだ解釈による「別の日本」なのだ。ボアダムスを思わせるトライバルなドラムが炸裂する"セイ・ホワット・ユー・ウォント・トゥ"の「言え、言え、言え、言え、言いたいことを何でも!」という力強いメッセージは、無闇なパワーが不足している日本に向けられているように聞こえる。

 とはいえ、いま、震災で受けた不安と悲しみに覆われた僕たちにとっては、アクロン/ファミリーの呑気さ、大らかさ、楽天性......は、とても遠くのもののように思える。それでも、連日の報道で落ち着かない気分のままでいる僕も"アナザー・スカイ"の躍動するリズムを聴けば少しばかり元気が出るし、美しい"フジ・ツー"には陶酔する。そんな音楽好きがほかにもいると思いたい。そしてアクロン/ファミリーが謳う楽天性に、日本に住む人びとが共感できる日がいつか訪れれば......と、僕はせいぜい願うことしかできない。
 彼らの音楽は、何も強要しない。無理にひとつにならなくたっていいし、それぞれがそれぞれのタイミングで勝手に踊り出せばいい、というようなその寛容な態度が何だかいま、僕にはとてもありがたく思える。能天気でいることの逞しさを、このアルバムは思い出させてくれる。時間はかかるだろうけれど、アクロン/ファミリーの前向きなエネルギーが日本にも湧き上がってくることを僕は願っている。そして、あの陽気で賑やかな祭が、この日本で再び開かれることを。

木津 毅