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Tropics

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野田 努   Sep 27,2011 UP
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 これこそヒプナゴジック・ポップ(入眠ポップ)と言うべきだろう......。良く晴れた秋の昼下がりに本作を聴いていると、アルバムの最後までいく前に寝てしまっている。しかも何回も何回も、聴いては寝て、聴いては寝て、繰り返し寝てしまう。どこまでも生ぬるく、麻酔的で、気持ちが良すぎるのだ。いずれにせよ、トロピックスのこのデビュー・アルバムを聴けば、マイケル・パラディナスと〈プラネット・ミュー〉が本気でチルウェイヴにアプローチしていることがよくわかる。そしてUKの22歳の青年、クリス・ウォードはレーベルの期待に応えるべく、実に魅力的なアルバムを完成させたと言えるだろう。
 さまざまな要素が混合されている。バレアリック、ミニマル・ビート、ポスト・ダブステップ、シューゲイザー、アンビエント・ポップ......ひとつ特徴を言えば、セカンド・アルバムの頃のフォー・テットのフォーキーなテキスチャーとディアハンターのダウナーで靄のかかったようなサイケデリックを往復するような感覚だ。タイトル曲の"パロディア・フレア"がそれで、ウォードは控えめだが味のあるメロウなギター・ソロを弾いている。
 他にもいろんな楽器を弾けるようだし、歌も歌っているが、トロピックスはまどろみを壊すことはない。"ウェア・アウト"の歌メロはまるで70年代初頭のピンク・フロイドのようだが、深いリヴァーブとぼやけた音像が言葉を掻き消し、そしてまたリスナーの微酔をうながす。"セレブレート"のような曲は、たとえは悪いがいわばケイタミンめいた陶酔で、つまりもう身体は微動だにしないのである。ダブステップのビートを取り入れた"フィギュアーズ"にしても......リスナーは部屋の白い壁をただ虚ろに眺めるだけかもしれない。
 そして僕は、ふだんまったく飲まないコーヒーを胃に流し込んで、アルバムを最後まで聴いた。チルウェイヴをジ・オーブがリミックスしたような"アフター・ヴィジティング"、ウォッシュト・アウトを頽廃的にしたような"サファイア"も面白いが、リズミックな躍動感のある最後の曲"オン・ザ・ムーヴ"が、僕はアルバムのなかで一等気に入っている。まさに"スエーニョ・ラティーノ"のような人を惑わすようなウワモノの反復が10分以上も続く。
 日本盤のおまけに付いているキープ・シェリー・イン・アセンス(アテネのシンセ・ポップ)のバレアリック・ミックス、フォルティDLのリミックスも、トロピックスの危険なまでに恍惚としたサウンドを彼らなりに咀嚼している。リスナーは秋の落ち日を凝視しながら、もう何もしたくなくなるかもしれない。そしてエール・フランスが歌謡曲に思えてくるだろう。



Tropics - Mouves (Official Music Video) from Yasuyuki Kubota 久保田恭之 on Vimeo.

野田 努