ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Mira Calix - Absent Origin (review)
  2. MAZEUM × BLACK SMOKER × Goethe-Institut ──東京ドイツ文化センターにアートと音楽の迷宮が出現 (news)
  3. Marcus J. Moore ──ケンドリック・ラマーの評伝が刊行 (news)
  4. interview with Nightmares on Wax (George Evelyn) いま音楽を感じる喜び (interviews)
  5. Hand Habits - Fun House (review)
  6. Pendant - To All Sides They Will Stretch Out Their Hands (review)
  7. 〈Advanced Public Listening〉 ──レデリウス、ハーバート、ヴィラロボスら錚々たる面々が参加したコンピがリリース (news)
  8. interview with Terre Thaemlitz 移民、ジェンダー、クラブ・カルチャーと本質主義への抵抗 (interviews)
  9. 3D ──マッシヴ・アタックの3D、気候に関する虚偽の情報に注意を促すAIシステムを開発 (news)
  10. ralph - 24oz (review)
  11. Courtney Barnett ──コートニー・バーネットが3年ぶりの新作をリリース (news)
  12. Aya - Im Hole (review)
  13. D.A.N. - NO MOON (review)
  14. The Bug × Jason Williamson (Sleaford Mods) ──強力なコラボが実現、ザ・バグとスリーフォード・モッズのジェイソン・ウィリアムソン (news)
  15. interview with Jon Hopkins 21世紀の今日サイケデリックであること (interviews)
  16. House music - (review)
  17. Nav Katze ──メジャー・デビュー30周年を迎えるナーヴ・カッツェ、全作品が配信開始 (news)
  18. There are many many alternatives. 道なら腐るほどある 第6回 笑う流浪者、あるいはルッキズムに抗うための破壊 (columns)
  19. interview with Meitei 海外で評判の新進電子音楽家、日本文化を語る (interviews)
  20. 山本精一 - selfy (review)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Pinch & Shackleton- Pinch & Shackleton

Pinch & Shackleton

Pinch & Shackleton

Pinch & Shackleton

Honest Jon's Records

Amazon iTunes

野田 努   Dec 22,2011 UP
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 シャックルトンといえば、5~6年前のデビュー時は怪奇趣味を弄ぶダブステップ界の異端児、変わり種だった。彼がロンドンでアップルブリムといっしょに営んでいた〈スカル・ディスコ〉は、アメリカのメタル・キッズが好むようなB級ホラー映画めいたヴィジュアルとエキゾティズム(アフロ・パーカッション、アジア、中近東の音楽からのサンプリングなど)をベース・ミュージックに調合することで、その当時も多くの目と耳を惹きつけていた。ほどなくして、その怪しげなミニマル・サウンドはリカルド・ヴィラロヴォスと結ばれている(それはベース・ミュージックが初めてベルリンのミニマルと接触した瞬間でもある)。
 10枚目の12インチ・シングルを発表すると、2008年、〈スカル・ディスコ〉は4年の寿命を終えた。アップルブリムはブリストルへ、そしてシャックルトンはベルリンへ移住した。そして"ノー・モア・ネガティヴ・ソーツ"という、それまでの〈スカル・ディスコ〉のイメージをひっくり返すかのようなタイトル名のトラックではじまる『Three EPs』(2009年)は、しかし確実に、〈スカル・ディスコ〉サウンドをアップデートしたものだった。彼のトレードマークであるパーカッションとベースラインはより有機的に絡みつき、ほかの誰とも違った独特のヒプノティックなグルーヴを編み出していた。ポスト・ダブステップにおけるデトロイト回帰でも、そしてベーシック・チャンネル回帰でもない......いや、ベーシック・チャンネルは少々入っているか。とはいえ、地下室に閉じこもっていた博士が研究の成果を見せるように、それは「まだこの手があったのか!」というサウンドであることはたしかで、多少気味が悪いかもしれないが、『Three EPs』以降のシャックルトンはダブステップから離れてオリジナルなサウンドを作ることのできた数少ないひとりとして、ずいぶん幅広く聴かれている。2010年にはすべてを自分の曲でミックスした『Fabric 55』(ある意味では、これがファースト・アルバムとも言える)を発表しているが、これは当時、ヴィラロヴォスのミックスCD以来の話題作になっている。

 本作は、そのタイトルが言うように、ブリストルのダブステップ・シーンにおけるパイオニア、〈テクトニック〉レーベルを主宰するピンチとシャックルトンのふたりによるコラボレーション・アルバムである。これが予想を上回るできの良さで、幽霊屋敷めいたはじまりは相変わらずだが、頭蓋骨を叩いているような2ステップ・ビートに超低音のダブのベースが響くオープニング・トラックの"Cracks In The Pleasuredome"からして最高だ。ダークウェイヴ、ネオゴシック、ウィッチハウスといった暗闇を歓迎する時代のモードともシンクロしているからだろうか、それともやはり彼らのグルーヴが特別に優秀なのか、とにかく身の毛もよだつこの音楽のなかに吸い込まれるように入っていける。
 骨がガチガチ鳴っているような"Jellybones"にしてもそうだが、この音楽をひとつ強いものにしているのは、音圧や音質、録音といったものの気の使いようにある。言うなればイヤフォンやパソコンで聴かれることを拒んでいるかのような、クラブ仕様の迫力のある音だ。それゆえにDJに好まれるのだろうけれど、この体感的なサウンドの魅力は家のスピーカーからも伝わります。
 "Burning Blood"から最後の"Monks On The Rum / Boracay Drift"までの展開はサイケデリックであるばかりか、不吉であることこのうえない。バッドトリップしがちな人ないしは暗いところが苦手な人にはオススメできないが、ダブの新しい展開、ダブステップのネクストのひとつを覗いてみたい人はぜひ聴いてみよう。トランスするならここまで徹底的にやって欲しいし、もう1ヶ月早く聴いていたら2011年のトップ10......いや、少なくともトップ20、いや、まあ、少なくともトップ50には入れていたであろうマスターピース。

野田 努