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Album Reviews

Youth Lagoon

Youth Lagoon

The Year Of Hibernation

Fat Possum Records

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竹内正太郎   Dec 28,2011 UP
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E王

 かつてはなりたかった
 もっとも特別な何かに
 どんな滝の勢いも
 私を止めることはできなかった
 やがて水の塊がどっと押し寄せて
 夜の星たちは深くのまれていった"The Greatest"(キャット・パワー、2006、筆者訳)

そして暖かい夢の名残りも、まるで細い川筋のように秋の砂地の底に跡かたもなく吸い込まれていった。
『1973年のピンボール』(村上春樹著、初版1980、講談社)

 米音楽メディア『ピッチフォーク』は、「近頃のベッドルーム・ポップに求められるもの」として、貧弱なプロダクション、幼少時代を想起させるリリック、ノスタルジア、親密さ、過剰なリヴァーブなどを挙げているが、筆者がいささかの詩情を盛って言い換えるのなら、それは、「あなたがかつて去った子供部屋からいま、聴こえてくる音」となる。例えば、『Person Pitch』(Panda Bear、2007)が見せた少年の秘密の空想や、『Teen Dream』(Beach House、2010)における、黄昏の波打ち際に優しく訪れる甘いさざ波など、それらはデフォルメされたノスタルジアのイメージを強烈に焼き付ける。そして、それらの過去は、実際には聴き手に経験されていない、という点で、フィクションないしはファンタジーなのである。誰しもが去った子供部屋のドアは固く閉ざされ、窓はすべてカーテンで覆い隠されている。そんな外界から閉ざされた場所にもたらされる共犯的な親密さとして、いま、ベッドルーム・ポップが強く求められているのだとしたら、いい加減、現実と非現実をきれいに分けてばかりはいられないのであろう私たちは、その素朴な分別を享受しているだけではいけないのかもしれない。(311後の日本には、「拡張現実」なんて概念も提出されている(宇野、2011))

 Youth Lagoonを名乗るトレヴァー・パワーズ(22歳、アイダホ州)の処女作となった『The Year of Hibernation』には、ベッドルーム・ポップに期待されるすべての音があり、現実を遠ざけている。女性のようにさえ聞こえるような、柔らかく、高い声は、カーテンで遮られた風呂場で録音されたように靄がかり、曲によってはプロダクションの大半を占めるまでに淡く膨らんで響いている。夢の隙間できらめくようなギター、様々な音色を優しく奏でるシンセは、どちらがリードを取るでもなく、哀調のメロディをささやかにアレンジしていく。閉ざされた部屋で、それらの調和は実にさまざまな表情を見せる。あるときは輪郭のボヤけたフォーキィ・ポップ、あるときは漂白されたシューゲイズ、またあるときはマシン・ビートが4/4を軽やかに刻み、ある種の浮遊性を志向する。それは、誰も踊りたがらない悲しみのダンス・ポップのよう。まさしく、今年のベッドルーム・ポップにおける真打ちで、たとえるのなら、それは敗れ(破れ)た愛や夢のなかを生きる人びとの心象を描いた『The Greatest』(Cat Power、2006)と、ささやかな月明かりとともに夜間の親密な空中遊泳に出かける『The xx』(The xx、2009)のあいだで静かに響き合っている。

 ところで、ここ日本では、1980年代後半生まれの言論人では最初のスターである古市憲寿(26歳、東京大学大学院)が、「若者は不幸ではない」ということをしきりに強調しているが、アメリカやイギリスでは、アンダークラスからミドルクラスの若者までもが街に出て、変化を要求している。報道各社はその無内容ぶりにしらけ切っているが、朝日新聞が報じるところによると、ウォール街の占拠デモンストレーションに参加した19歳の男子学生は、「いまよりマシな世界をつくるにはどうしたらいいか」を議論したいのだという(2011/10/16朝刊)。パワーズは、恐らくその運動には馴染めていないのだろう。『remix』誌の元編集部・桑田真吾から言葉を借りるなら、パワーズのノスタルジアは、「共闘の経験を持たないにもかかわらず、挫折や断念や絶望の感覚は共有している」、そんな音楽である。パワーズはいま、何に怯え、何から逃げているのだろう? パワーズが用意した本作の隠れ家は、絶対に傷つかないことが保障されているという点で、致命的に退屈では、ある。それは、田中宗一郎がWashed Outを批判した理由と同じかもしれない。強く、正しい指摘だとは思う。恐らく、彼の生活圏はいまだ外部には侵されていないのだろう。その境界が交わってしまうまでの短い季節に生み出された音楽を、まずは祝福しようと思うことは、愚かだろうか。

 あらかじめ決められた敗北のなかで、パワーズが見られる夢というのは、いったいどんなものなのだろう。それが本作に仮託されているのだとしたら、あまりにも切ない。何がこの頼りない音楽を求めたのだろう。この臆病さが、仮に過剰さに反転していれば、神聖かまってちゃんのようにも鳴り得たであろう、パワーズの正直な音楽の前で、私は批判の言葉をどうしても選べずにいる。

竹内正太郎