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野田 努   Dec 31,2011 UP
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 ポスト・チルウェイヴにひとつ顕著なのは、たとえばハイプ・ウィリアムスがその良い例だが、肥大な電子の、あわよくば非言語的な海へとまっしぐらであること。その海はこの20年、電子機材の一般化やインターネットの普及に比例するように、絶えず膨張している。サン・ラーのコズミック・ヴィジョンからクラウトロック、ザ・KLFの『チルアウト』、キング・タビーのスタジオ、他方ではアフリカの大地などなど音楽のあらゆる場面へと、なかば気まぐれにリンクし合っている。

 僕はあまりにも長い年月を、夢想状態を支持する音楽とともに生きている。この世界には、前向きな停滞----めっちゃやたら変化しないこと、するとしても時間をかけてゆっくりとする変化----があるということをミニマル・ミュージックやアンビエント・ミュージックを通じて知った。セカンド・サマー・オブ・ラヴの酩酊を通して、根拠のない前向きさの素晴らしさというものも知った。シカゴのハウス・ミュージックが欧州に渡って、あっち行ったりこっち行ったりと流動的かつ多様な展開を見せてからのエレクトロニック・ミュージックのこの20年は、デヴィッド・トゥープの"海の音(ocean of sound)"というたとえが合っている。ふたりの英国人によるシーホークス(ウミタカ)もその海からの使者かもしれない。

 レーベル名からして〈オーシャン・ムーン〉。アルバム・タイトルは『目に見えない陽光』。とにかく海にちなんだ曲名をふくむ言葉の選び方からすると、彼らの夢想のイメージは、実にわかりやすく、素直なものだと言えよう。この2年、彼らの作品は精力的に発表され、じょじょにだがリスナーも増やしていると聞く。およそ1年前にリリースされたファースト・アルバム『オーシャン・トリッピン』や限定盤のピクチャー・レコードが意外なほど早く売り切れたのは、彼らの音楽にはチルウェイヴ/ヒプナゴジック・ポップのネクストがあるからだろう。
 オープニング・トラックこそバレアリックなブレイクビートが展開されるが、シーホークスの根底にひとつあるのは、サイケデリック・ロックだ。多くの曲には8ビートのリズムがあり、またスペース・ロックめいたトリッキーな上物がある。全曲ダウンテンポで、クラブ・ミュージックからの影響もあるにはあるのだろうが、決して強くはない。
 というよりも......面白いのは彼らのミックスCDの選曲リストだ。ドナルド・フェイゲンやダリル・ホールといったAOR、ないしはネッド・ドヒニーのようなソフト・ロックばかりが挙がっている。『オーシャン・トリッピン』は、ことビートに関しては、80年代AORからの影響が今作より強く出ている。こうしたアプローチは(トロ・イ・モワのセカンドと共通する感覚を有すると同時に)シーホークスのアンビエントやサイケデリックといったジャンルへのシニカルな眼差しをほのめかしている。そもそもスティーリー・ダンがどうして菫色と紅色の混じった空に結びつこうか。『イヴィジブル・サンシャイン』はチルアウト/アンビエント・アルバムでありながら、〈アポロ〉よりは〈クルーエル〉に近く、ジャズのテイストも入っているがサン・ラーではなく『ザ・ナイトフライ』なのだ。
 素直に見えるこの夢想の背後には、彼らなりの遊び心があるわけだ。が、そのドリーミーな志向がぶれることはない。少々80年代的で、ずいぶんとスタイリッシュな海からの使者である。そういう意味でこれはザ・KLFの『チルアウト』とは別物だけれど(そういうコピーが製品には書かれている)、くらくらするような浜辺、なま温かい夢を誘発する音楽であるのは事実。僕もいまから音の旅を楽しもう。それではみなさん、良いお年を!

野田 努