ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with Larry Heard 社会にはつねに問題がある、だから私は音楽に美を吹き込む | ラリー・ハード、来日直前インタヴュー
  2. interview with Shabaka シャバカ・ハッチングス、フルートと尺八に活路を開く
  3. Beyoncé - Cowboy Carter | ビヨンセ
  4. interview with Keiji Haino 灰野敬二 インタヴュー抜粋シリーズ 第2回
  5. interview with Martin Terefe (London Brew) 『ビッチェズ・ブリュー』50周年を祝福するセッション | シャバカ・ハッチングス、ヌバイア・ガルシアら12名による白熱の再解釈
  6. The Jesus And Mary Chain - Glasgow Eyes | ジーザス・アンド・メリー・チェイン
  7. interview with Keiji Haino 灰野敬二 インタヴュー抜粋シリーズ 第1回  | 「エレクトリック・ピュアランドと水谷孝」そして「ダムハウス」について
  8. Columns ♯5:いまブルース・スプリングスティーンを聴く
  9. claire rousay ──近年のアンビエントにおける注目株のひとり、クレア・ラウジーの新作は〈スリル・ジョッキー〉から
  10. Free Soul ──コンピ・シリーズ30周年を記念し30種類のTシャツが発売
  11. tofubeats ──ハウスに振り切ったEP「NOBODY」がリリース
  12. 壊れかけのテープレコーダーズ - 楽園から遠く離れて | HALF-BROKEN TAPERECORDS
  13. まだ名前のない、日本のポスト・クラウド・ラップの現在地 -
  14. Rafael Toral - Spectral Evolution | ラファエル・トラル
  15. 『成功したオタク』 -
  16. Bobby Gillespie on CAN ──ボビー・ギレスピー、CANについて語る
  17. Larry Heard ——シカゴ・ディープ・ハウスの伝説、ラリー・ハード13年ぶりに来日
  18. Bingo Fury - Bats Feet For A Widow | ビンゴ・フューリー
  19. ソルトバーン -
  20. Claire Rousay - a softer focus  | クレア・ラウジー

Home >  Reviews >  Album Reviews > Katusi from El Skunk DI Yawdie & Extravaganza- Rhythm Messenger

Katusi from El Skunk DI Yawdie & Extravaganza

Katusi from El Skunk DI Yawdie & Extravaganza

Rhythm Messenger

Pヴァイン

Amazon iTunes

野田 努   Apr 02,2012 UP
E王

 これは......お洒落な音楽。だいたい日本のインディ・シーンでカホン(ペルーの箱形の打楽器)を叩く人間なんてものは、町でも名が知れた洒落者に違いない。
 1曲目の最初の30秒を聴いて好きになれる。レゲエを入口としながら、クンビアやメキシコのマリアッチ、それらラテン・アメリカの叙情とブルース/ジャズ、こうしたものへの文化的アプローチの格好良さを僕にたたき込んだのはザ・クラッシュだった。とくに決定打となったのはジョー・ストラマーの『ウォーカー』......ゆえにカツシ・フロム・エル・スカンク・ディ・ヤーディ&エクストラヴァガンザ(長げぇー)の『リズム・メッセンジャー』を嫌いになれるはずがない。
 くどいようだが、中南米の格好の付け方をインディ・シーンに最初に広めたのはジョー・ストラマーだ。ザ・クラッシュがズート・スーツでめかし込んだときから、その授業ははじまっている。ズート・スーツとはメキシコ系のギャングスタ・ファッションで、1940年代のロサンジェルスにおけるラテン・ユースの暴動の名前にもなっている。いわばアメリカ政府への反乱のシンボルだ。ストラマーは、それをファッションとして引用すると同時に、音楽的にもラテンを取り入れて、レーガン政権の情け容赦ない仕打ちにあっていた中南米諸国、有色移民たちと精神的に結ばれようとした。ロックという当時は若者文化の最大公約数だった闘技場のなかでそれをやり遂げる際に、ストラマーはこの方向性がファッショナブルで格好良いんだということを忘れなかったし、実際、彼はそれを思い切り格好良いものとして見せた。

 そうした格好良さをカツシ・フロム・エル・スカンク・ディ・ヤーディ&エクストラヴァガンザの『リズム・メッセンジャー』から感じる。さらに、アルバムを聴きながら僕が思ったのは、これだけの恐怖を経験して、そしていまもなお(いち部の恵まれた連中をのぞけば)その恐怖から簡単に逃れることができないという現実に生きながら、なんてはつらつとした愛情と生命力をもった音楽なんだろう......ということだ。
 中心となっているのは岩手県で暮らすミュージシャン、カホン奏者カツシ(エル・スカンク・ディ・ヤーディ)だが、たくさんのゲストが参加している。MCやヴォーカリストだけでもジャーゲジョージ(RUB A DUB MARKET)、リクルマイ、千尋、CHAN-MIKA、青谷明日香......、演奏者も小西英理(copa salvo)をはじめ、ザ・K、森俊介、櫻井響、長崎真吾、EKD......などなど多くの人たちの名前がクレジットされている。偏狭な地方主義ではなく、音楽を媒介に広まったネットワークによる成果だ。

 ところで、日本の地方都市でこうしたカリブ海の音楽、中米の香りが広く根付いていることは、静岡出身の僕にも実感できる。いくつかの大都市を除けば、日本の地方都市なんてものは、本当に慎ましいものだ。DJカルチャーとともに中南米音楽はそういうなかでただ好まれているのではない。"共同体的に"好まれているのだ。多少問題はあっても、基本的には気が良い連中による繋がりがある。ひょっとしたら『リズム・メッセンジャー』はいまのところその最良の成果かもしれない。歴史と苦難が刻まれたこのアルバム、しかも全曲がお洒落で、そして全曲がブリリアント!

追記:もうすぐアルバムを出す、Tam Tamというバンドもすごく良い。

野田 努