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Traxman

Traxman

Da Mind Of Traxman

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野田 努   Jun 06,2012 UP
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 8歳といえば、日本では小学2年生だ。シカゴのトラックスマンは、小2か小3のときにDJをはじめているという。早熟というには度が過ぎているように思えるが、ブラック・コミュニティではそれだけDJの地位が高いのも事実だ。子供にとっても憧れの存在。うちの子供はいま7歳だけれど、家に2台のターンテーブルとミキサーがあっても、はっきり言ってまだDJという存在すらよくわかっていない。この文化に触れさせるため、メタモルフォーゼに連れて行ったりとか、自分なりに努力はしているが、これは僕の教育の問題ばかりでもないだろう。日本社会全体として、まだDJの地位が欧米にくらべて低いのだ。
 たとえばデトロイト・テクノの連中は、毎年8月に、デトロイト川に浮かぶベルアイルという島で、子供のためのフェスティヴァルを開いている。デリック・メイ、UR、ムーディーマン、ホアン・アトキンス、テレンス・パーカー......ビッグネームたちがみんなで協力しあっている。今年ですでに7回目で、小学生たちにDJカルチャーとテクノ/ハウス・ミュージックの面白さを伝えているのだ(入場料もたしか1500円ぐらい)。8歳の子供がローランドのシンセサイザーに興味を持って、ラップトップと同時にターンテーブルとミキサーを操れたとしても不思議ではない。

 トラックスマンにとっての最初のアルバムは、ベテランDJだけあって、『フライト・ミュージック』にくらべて洗練――この言葉ほどフットワークに似合わないものはないけれど、敢えて言えば――洗練されているように聴こえる。おそらくは本能的に生まれたであろうフットワーク/ジュークのリズム・パターンを対象化し、咀嚼しているのだ。曲によってはメロウなサックスやソウル・ヴォーカルまでミックスされている。それが違和感なくまとまっている。
 日本盤のライナーにはトラックスマンのインタヴューが載っている。面白いのは、彼がフランキー・ナックルズやロン・ハーディの時代のことを知っていることだ。たしかに『ダ・マインド・オブ・トラックスマン』には、ディスコからハウスへの時代の記憶がある。そして、フットワーク/ジュークの高速ハイハットやスネアからはずっと遠い昔のジャズのドラミングの記憶を喚起させる。そういう意味でこのアルバムは、殺気立つフットワーク/ジュークの攻撃性、DJダイヤモンドの『フライト・ミュージック』における破壊的な展開とは別の方向性を見出している。マッドリブめいたループ使いもあるし、ジェフ・ミルズのようなストリングスもある。ゲットー・ハウスならでのファンクネスがあり、伝統的なブラック・ミュージックとしての光沢がある......また、何よりもここには控えめながら性的衝動がある。そう、ディスコ/ハウスの記憶どころではない、現在進行形の衝動である。エロティシズム......、これもまたゲットー・ハウスからフットワークに受け継がれた重要な遺伝子だ。
 もちろん『ダ・マインド・オブ・トラックスマン』はフットワークのアルバムだ。ループするソウル・ヴォーカルの向こう側で、メロウなジャズのサックスの傍らで、激しい倍速のマシン・ビートが、分解されて鳴っている。アルバムのところどころで、盟友DJラシャドほど露骨ではないにせよ、性へのほとばしりも顔を出す。8歳が聴くにはまだまだ早いが、あと5年も経てば毎日聴いているはずだ。

野田 努