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Cold Specks

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I Predict a Graceful Expulsion

Mute

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竹内正太郎   Jun 21,2012 UP
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 夢を見ることさえ虚しく思えるこの時代に、それでも夢の世界を自由に、あるいは華麗に歩いて見せたのが、仮にビーチ・ハウスによるドリーミー・ソウルだったとすれば、コールド・スペックスは、数十年前にソウル・ミュージックが見た夢、その甘い記憶に耳を澄ませながら、沸き起こる余韻のいっさいを保留して、ささくれだった荒野を颯爽と、それも堂々と歩いている。素晴らしいモダン・ソウルの登場だ。ある時代を、しかもその時代のユースとされる世代が、同時代から消去された時代遅れなスタイルで生きること。それは二度と戻らない人生において、ある重要な季節を異邦人として生きることと言えよう。『ガーディアン』曰く、「過去100年のうちのどの時点で録音されたものだと言われても信じてしまいそうな」、なるほどたしかに同時代性の薄いオールドスクール・ソウルであるが、単なる懐古趣味とは言わせない気合、「私は誇りを持ってこのスタイルを選んでいるの」という迫力のようなものがある。

 『ピッチフォーク』によれば、コールド・スペックスを名乗るAl Spxは、現在24歳の女性シンガー/ソングライター(かつギタリスト)であり、「デモ音源が放つ強烈な印象」によって、今年早々に〈Mute〉と契約している。今月29日発売、エレクトロニック・ミュージックにおける"浮女子"特集を組んだ本誌紙版『vol.6』。そこに登場する先端的なアーティストとほぼ同年代であるが、彼女は彼女の道を行っている。そこでは、ビル・キャラハン(a.k.a. スモッグ)めいたミニマルなインディ・フォークが丁寧に紡がれている。あるいは、アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズのようなディープ・ソウルが、優美な弦アレンジとともに夜を照らしている。バンドはときに、エレクトリック編成とエモーショナルなコーラスによって、アーケード・ファイヤーを彷彿するロックの高揚感を打ち出してもいる。ホーン・アレンジも情熱の花を咲かせている。そして、ほぼすべての曲において、ゴスペルの祝福が舞い降りている。

 大げさではなく、『I Predict a Graceful Expulsion』は、モダン・ソウル・ミュージックの偉大なる1年となった2008年の火照りを少し思い出させてくれる。TV・オン・ザ・レディオの『Dear Science』、そして、ボン・イヴェールの『For Emma, Forever Ago』から譲り受けたような、情熱の手触りによって。惜しむらくは......アルバムに収録された約半分の曲が、オーヴァー・アレンジメントの装飾性に微妙に絡み取られている点である。これは作者に敬意を欠いた言い方だろうか? もちろん、インディのシーンから出発してさらに大きな世界を目指す過程において、すでに実績を積んだ人物たちと協働するのは、悪いことではないと思う。多くの人に会う前に、最低限の外装、身だしなみ、その清潔さに気を使うのは、むしろ自然なことだ。「メイシー・グレイのウィスパー版」なんて評が出るくらい洗練されたヴェルヴェット・ソウル、ないしはインディ・ゴスペルというべき本作の完成度は、リード・ギター以外のほとんどのサウンド・プロダクションに大きく関与したというジム・アンダーソン抜きには成し得なかったものだろう。

 だが、このポスト・インターネットの時代にあって、聴衆を広く集めるひとつの手段は、(矛盾するようだが)聴衆の一部を想定から捨てることでもあるのではないか。「売りたくてウズウズしている音楽」には、やはりどこか類型的な出力があり、仮にアーティストが古いイメージのリスナー像を想定しているとすれば、敏感なリスナーにはすぐバレてしまう。「この音楽は自分に向けられたものではない」と。私が言うのではあまりにも生意気だが、ポップ・ミュージックの短くも長い歴史は、そんな聴き手を相当数、すでに育てているはずである。事実、ナイトメア・ロックの"Hector"などをジ・XXと比較する評論家さえ、いるのだ。無名の段階で〈Mute〉とサインするような逸材だ、いるかもわからない不特定の聴衆に目配せをする前に、もっと小規模で親密なリスナーを信頼してもいい。『I Predict a Graceful Expulsion』には、少しだけ勇気が足りていない。日本語で書いても伝わらないのはわかっているが、それでも書く。あなたの素顔、装飾の裏側、そのほころびがもっと見たい。

竹内正太郎