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Album Reviews

Four Tet

Four Tet

Pink

Text/ホステス

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木津毅   Oct 22,2012 UP
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 そろそろ出ると噂されているボーズ・オブ・カナダの新作はどうなっているのだろう。ひょっとして、これまでよりもダンス・オリエンテッドな作風になっていたりするのだろうか。そんなことを今年ふと思ったのは、はじめはローンの『ギャラクシー・ガーデン』を聴いたときで、次がダン・スナイスによるダフニの『ジャオロン』と、フォー・テットによるシングルのコンパイル盤である本作『ピンク』を聴いたときである。エレクトロニック・ミュージックの移り変わりははやいとよく言われるけれど、そうとも思えないことが自分にはときどきある。『ミュージック・ハズ・ライト・トゥ・チルドレン』の醒めた夢の続きが、いまでも反響し続けているような心地がする......ローンやマウント・キンビービビオ、そしてキエラン・ヘブデンが生み出す色彩感覚のなかに。だがそれらが、一様にいまダンスフロアを目指しているのは、ベッドルーム・ミュージックと微妙な距離を取るかのようで興味深い。

 『ゼア・イズ・ラヴ・イン・ユー』は美しいアルバムで、タイトルに示されているようにヘブデンの叙情性を強調するものであった。ビートは4/4を刻んでいるけれども、そこには透き通った光が反射するようなメロディがあり、めくるめくサイケデリアがあり、女性ヴォーカルによる甘い歌があり......それらはダーティなフロアでのダンスよりも、ごくパーソナルな恍惚を思わせた。「愛」はあくまで「あなたのなか」にあるのだ。フォー・テットが『ポーズ』『ラウンズ』で保っていたダンスフロアとの距離を思うとき、そのダンスへの接近の仕方はごく自然な回答だったはずである。
 だが『ピンク』では、ヘブデンのダンスフロアを揺らしたいという欲望がより正直に吐露されているようである。もちろん12インチ・シングルの編集盤だから、ではあるが、ブリアルとの一連の共作と〈ファブリック〉シリーズへの参加を経て、彼のモードがよりそちらの方向へと向かっているように感じられる。ダン・スナイスのように名義を変えてもいない。曲順もじつは配慮されていて、冒頭を飾る"ロックト"は反復するリズムがメロウな旋律と出会う、まさに前作の続きのようなトラックだ。おや、と思うのは続く"ライオン"で、ボトムががっしりとしたミニマル・ハウスとして展開される。やがて得意の鍵盤打楽器を思わせる高音が入ってきて辻褄が合うようにはなっているが、『ポーズ』のフォークトロニカとは身体への響き方がまるで異なっている。

 "ジュピター"のコズミックな感覚もフォー・テットのトラックとしては新鮮だが、なかでも妙なのは声ネタとファンキーなカットアップとハープの繊細なアルペジオが同居する"128ハープス"だ。"ピラミッド"のディープ・ハウスないしはカットアップ・ハウス的展開にしてもそうだが、これまではあまり見せなかった野性味を披露している。ヒップホップからの影響をようやく上手く出せるようになったということかもしれない。それが、これまでじゅうぶん培ってきた清潔な音の煌きとどうにかして肩を寄せようとしている。だから、まだ完成形ではないのではないかとは思うが、彼の挑戦の跡を見るようで頼もしい。
 ブライアン・イーノめいた"ピース・フォー・アース"のチルアウトを経た、本作ではラスト・トラックとなる"ピナックルス"が白眉だ。ダン・スナイスとアーサー・ラッセルの素晴らしさについて日々語り合っているのかは知らない......が、群を抜いてグルーヴィーなディスコ・トラックで、シカゴ・ハウスの猥雑でセクシーなエネルギーがエレクトロニカの音響の冒険と時空を超えて出会うかのようである。曲は反復を繰り返し、時折ピアノの大胆な和音を挟みながら、6分を過ぎた辺りでついにエクスタシーへとリーチする。これは......絶対にフロアで目を閉じて味わいたい。
 かつてフォー・テットはエレクトロニック・ミュージックのもっとも細やかな感性を探り当てようとしていた。それはジェイミーXXらに受け継がれ、ヘブデンはその成果を手放すことはなく、そこに肉体を与えようと試みている。夢の続きはいまダンスフロアにあり、我々はそこでサイケデリアに朦朧としながらもたしかに身体を揺らすことができる。

木津毅