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Björk

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Bastards

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Neneh Cherry & The Thing

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野田 努   Dec 10,2012 UP

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 2012年は、女性によるベッドルーム・エレクトロニック・ミュージックが目立った1年だったけれど、女性のラップトップ音楽においてビョークが先駆者なのはみなさんよくご存じの通り。特徴ある声と節回しのある歌手として(そして若かりし頃はキュートな女性として)評価されていた彼女は、DJカルチャーを味方につけたばかりでなく、10年前にはIDMを自分のものとしている。そして、ラップトップ音楽のDIYを実践してきた彼女は、前作『バイオフィリア』で(iPadのような)タッチパネル・スクリーンにも早速目をつけて、一応インタラクティヴな音楽のあり方(コンセプト)を提示している。僕は彼女のファンなので、勢いでソフトまで買ってしまったが、結局はそれで遊ぶことはほとんどなかった......ま、そういうものだろう。リミックス盤もこうしてまとめてCD化されるなら......いやいや、こちらは今年の春ぐらいから発表され続けている最新のリミックス・ヴァージョンも収録されているので、まとめて聴けて嬉しい。

 最初に「クリスタライズ」のマシュー・ハーバートのリミックス盤が出たときは、都内のレコ屋ではあっという間に売り切れた。同時期に出たレディオヘッドのリミックス盤がいつまでも売れ残っていたのとは対照的だった。リスナーのリミックス盤に対するリスペクトがちゃんとあるのだ。
 『バスタード』は、そのマシュー・ハーバートのリミックス盤に次いでリリースされたオマー・ソウレイマンの「クリスタライズ」のリミックスからはじまる。キャスティングそのものも最高だが、実際、シリアの人気歌手の手がけたヴァージョンは、トラックが差し替えられているだけではなく、ソウレイマン本人も一緒に歌っていて、実に愉快な再解釈となっている。ソウレイマンのリミックス(という名の共作)は、もうひとつ"サンダーボルト"も収録されている。こちらはもう一段階ハチャメチャで、報道されるシリアの内戦状態から考えられないほどの躁状態というか、中東の乾いたグルーヴ感に惹きつけられる。ソウレイマンは『バスタード』において、間違いなく陰の主役だ。

 そして、『バイオフィリア』のリミックス・シリーズの3枚目として今年発表された"ヴァイルス"のハドソン・モホークのリミックスも実に素晴らしい。デス・グリップスによる"サクリファイス"はリミキサーの人選においても「さすがビョーク」と言わせたヴァージョンだが、このインダストリアルな質感のビートとスリリングなエディットもモダンで格好いい。
 ほかにジーズ・ニュー・ピューリタンズやアルヴァ・ノトといった大物、そしてクラブ系ではダブステッパーの16ビット、ドラムンベースのカレント・ヴァリュー、エレクトロのザ・スリップスといった新世代らの手がけた瑞々しいヴァージョンが収録されている。どのリミックスでもビョークの歌は活かされているが、僕のベストはハドソン・モホーク。彼は、ビョークの魅力をとてもよく理解している。

 『バスタード』とほぼ時期を同じくしてリリースされたネナ・チェリー&ザ・シングの『チェリー・シング・リミックスド』も良いリミックス盤だ。ネナ・チェリーは、変なたとえだがビョークがソロ・デビューするまでビョークのポジションにいた女性シンガーである。ビョークが出てきたとき我々の世代は、あ、ネナ・チェリーが出てきた、と思ったものだった。ドン・チェリーを継父に持った彼女は、古くはニュー・エイジ・ステッパーズのアリ・アップのパートナーとして、そしてリップ・リグ&パニックの作品にも参加しているが、やはりボム・ザ・ベースがプロデュースした「バッファロー・スタンス」(1988年)が強烈だった。

 ネナ・チェリーは、今年、スウェーデンのジャズ・トリオ、ザ・シング(ジム・オルークや大友良英らとの共作でも知られる)と一緒に素晴らしいカヴァー・アルバム『チェリー・シング』を出している。これ、自分でライナーを書いたこともあって紹介そびれたが、僕は自分と同世代の人間に会うたびに推薦していた。収録曲は、スーサイドの1979年の名作"ドリーム・ベイビー・ドリーム"、1995年のトリッキーのデビュー・アルバムにおける準主役で、ソロ・アーティストとしてもキャリアを積んでいるマルティナ・トプレイ・バードの2010年のアルバム『サム・プレイス・シンプル』から"トゥ・タフ・トゥ・ダイ"、2004年に発表されたアンダーグラウンド・ヒップホップの名作、マッドヴィリアン(MFドゥーム+マッドリブ)の『マッドヴィリアニー』から"アコーディオン"、ドン・チェリーの1973年のアルバム『コンプリート・コミュニオン』から"ゴールデン・ハート"、ザ・ストゥージズの1970年のセカンド・アルバム『ファン・ハウス』から"ダート"、オーネット・コールマンの1972年のアルバム『サイエンス・フィクション』から"ホワット・リーズン"、ニコの1967年の最初のソロ・アルバム『チェルシー・ガール』から"ラップ・ユア・トラブルス・イン・ドリームス"(作詞作曲はルー・リード)......。
 『チェリー・シング・リミックスド』はそのリミックス盤で、リミキサーは、ジム・オルーク、メルツバウ、フォー・テット、キム・ヨーソイ、リンドストローム&プリンス・トーマス、ホートラックス・コブラ(ピーター・ビョーン&ジョンのジョン・エリクソン)、クリストフ・クルツマン(オーストリアの電子音楽家)、ラッセ・マーハーグ......などとかなり良いメンツが揃っている。ノルウェーの〈スモールタウン・スーパーサウンド〉はつくづく目利きのあるレーベルだと思う。

 とりあえず、アルバムに先駆けてリリースされたフォー・テットの"ドリーム・ベイビー・ドリーム"のトライバル・ハウス・ヴァージョンを聴いて欲しい。

 『チェリー・シング・リミックスド』はクラブ系と実験音楽系との真っ二つに分かれている。リンドストロームのようなアッパーなディスコ/ハウスのなかにインプロヴィゼーションとノイズが混在しているわけだが、こんなユニークなリミックス盤が成立するほど、欧州ではDJカルチャーが息を吹き返している。音楽を愛しているのか金を愛しているのか、前者でなければこんなコンピレーションは成立しない。ネナ・チェリーはアンダーグラウンドでもマニアックな人でもなく、歴としたポップスターである。

野田 努