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Sufjan Stevens

Sufjan Stevens

Silver & Gold

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木津 毅   Dec 19,2012 UP
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 まず、このボックス・セット自体がクリスマス・プレゼントのような豪華な作りになっている......が、わくわくしながら箱を開けると、微かな戦慄を覚える。EP5枚、ガイコツのサンタや気持ち悪い顔のキリストのイラストのステッカーが4枚、そのタトゥー・シールが4枚、恐ろしく描きこまれた不気味でしかない白黒の絵のポスター、手作りのオーナメント、そして80ページに渡るブックレットが入っている。そこにはほとんど毎ページに夥しい量のコラージュ・アートが載せられ、本人によるクリスマス・ソングへの想いや「クリスマス・ツリー・フェティッシュの調査」と題された長文(なんだか怖くてまだ読んでいない)、すべての曲の歌詞とコード表が掲載されていて、とにかく尋常ではない入れ込みようだ。だがスフィアン・スティーヴンスが過剰なのは、いまにはじまったことではない。このプレゼントを受け取ったリスナーはうっすら寒気を感じながらも、ひとつひとつ、じっくり味わうしかない。今年のクリスマスは、このアルバムのおかげで濃密なものになりそうだ。

 2006年のクリスマス・アルバム『ソングス・フォー・クリスマス』の続編に当たる本作は、美しいアコースティック・ギターのイントロに導かれて"きよしこの夜"で幕を開ける。クリスマスの定番ナンバーをスフィアンが調理した曲を中心にしながら、オリジナル曲をところどころに差し込んでいる作りだ。音楽的にはこれまでの集大成といった趣で、(アシッド・)フォーク、オーケストラル・ポップ、宅録エレクトロニカ、ゴスペル・クワイアなどなど......が合流している。アレンジは総じてかわいらしく、温かく、創意工夫に満ちていて、とても楽しい曲が並ぶ。なにしろクリスマス・アルバムなのだから。が、同時にそれでは済まされないパラノイアックな気配が漂っていて、つい、そちらのほうを耳と頭が探り当てようとしてしまう。単純に分量の多さが生半可ではないし(全58曲)、何よりも、この「楽しさ」はどこかが壊れている。ひたすら同じフレーズをヴォコーダー・ヴォイスで繰り返すサイケデリックなエレクトロニカ・ポップ"ドゥ・ユー・ヒア・ホワット・アイ・ヒア?"にアルバムがたどりつく頃には、このひとがクリスマスのことを何だと思っているのかわからなくなってくる。
 だがそもそも、クリスマスほどスフィアン・スティーヴンスという例のない才能にマッチするモチーフはない。掘れば掘るほどさらなる深みに潜っていかざるを得ない伝承と、喜びときらびやかさの背後で見え隠れする歪みや死の香り。21世紀のポップ・ミュージックにおいて、アメリカをモチーフにしたすべての作品の最高傑作のひとつと断言していい『イリノイ』はたとえば、UFOの目撃事件とスフィアン自身の感傷的な青春の思い出が同居するようなアルバムだったが、そのなかに"ジョン・ウェイン・ゲイシーJr"というもの悲しく壊れそうに美しいフォーク・ソングある。数十人の少年をレイプし、殺害した人物について「なんてことだ」と言いながら、歌はやがてその殺人鬼の感情に同化していく......「行儀良く振る舞うときの僕は、彼にとてもよく似ている」。アメリカの大地に流された血の歴史と感情的に同化することも厭わず、その底のない深みに入り込んでいくこと。『ジ・エイジ・オブ・アッズ』ではその探求先が自己の内面に向かった結果、恐ろしくいびつな、もっともフォルムが破綻した作品になっていた。この愉快なアルバムでもスフィアン・スティーヴンスは自分をそこに差し出し、溶けていく。だから僕は、"ジョイ・トゥ・ザ・ワールド"の途中で、『ジ・エイジ・オブ・アッズ』において25分以上に渡って錯乱していたかのような"インポッシブル・ソウル"のフレーズが差し込まれる瞬間に、背筋がぞくりとする興奮を覚えるのだ。

 だけど繰り返すが、基本的には楽しいアルバムである......なにしろクリスマス・アルバムなのだから。"そりすべり"も、"サンタが町にやってくる"も"ウィ・ウィッシュ・ユア・メリー・クリスマス"も、"ジングル・ベル"もあるし、マイナー・キーになった"レット・イット・スノウ!"だって面白い。きっとスフィアン・スティーヴンスはクリスマス・ソングを使って、仲間たちと温かい時間を過ごすことを実践してみせている。それは、『オール・ディライティッド・ピープルEP』の表題曲において、「たとえ世界が壊れていても」、「アイ・ラヴー・ユー!」と叫んでいたこととも繋がっている。その意味において、最後の最後の一曲となるオリジナル曲"クリスマス・ユニコーン"が、すべての期待に応えてくれるだろう。優しい演奏と優しいメロディ、「僕はクリスマス・ユニコーン、きみもクリスマス・ユニコーン」と繰り返す謎めいたコーラスが、ビートの高まりと転調でバーストする......「イッツ・オールライト! アイ・ラヴ・ユー!」。その瞬間、理性は吹き飛び、すべてがクリスマスの魔法に置き換えられてしまう。
 僕たちがスフィアン・スティーヴンスを愛するのは、彼の知性とウィットとユーモアや、その豊富「すぎる」音楽的な語彙や複雑で洗練されたアレンジの楽曲とともに、そこに天真爛漫な狂気が宿っているからだ。この執念めいた愛は、世界が壊れているという認識に確実に裏打ちされている。だから、ああ、そうだ、ジョイ・トゥ・ザ・ワールド。コネチカットのあまりにも凄惨な銃乱射事件、この国の散々な選挙結果の直後のクリスマスを、僕はやっぱり祝おうと思う、このソング・ブックと共に。ブックレットの目次のページには、スフィアンからこんなふうに記されている。「きみの友だちと、敵といっしょに歌おう」。ウィ・ウィッシュ・ユア・メリー・クリスマス。よいクリスマスを。

木津 毅