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Lucrecia Dalt

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Lucrecia Dalt

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橋元優歩   Apr 09,2013 UP
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 きわめて感性的な表現を論理的に解題しようとする。その瞬間に、論理だと錯覚されたものが感性として解ける。自立的で意識の高い、アーティスティックで「進歩的」な女性アーティストのもっともエロティックな瞬間だ。ローレル・ヘイローなどにもそれを感じる。もしかするとちょっと意地悪な見方なのかもしれないが、その途端に一気に彼女らの世界にアクセスしやすくなるということがある。これには筆者自身の投影があるのかもしれない。こうしたタイプではなくとも、ジュリア・ホルターやエラ・オーリンズ、メデリン・マーキー、マリア・ミネルヴァ、グルーパー、U.S.ガールズ......女性アーティストの表現における「ロジック」のあり方は、男性のそれよりもずっと細かく彼女たちの魅力を彫り出すものであるように思う。

 そしてルクレシア・ダルトに感じるのはやはり論理のかたちをした感性。彼女らの多くが既存のジャンルによって名状し難いスタイルを持っているのも、そもそも音楽をジャンルとして認識し、受け止めていないからだろう。「(音楽の)スタイルについては考えないの。録音をはじめるときは、ある状態、ある空気のなかに到るための道筋について考えるの。」よって部分的にはミュージック・コンクレート的であり、音響的であり、ポスト・パンク的であり、ノイズ・ポップ的であり、本人が公言するようにグトルン・グートからの強い影響を聴きとることもできる。〈モニカ〉を心からリスペクトしているらしく、同レーベルの女性コンピ・シリーズ『4ウィメン・ノー・クライ』への思い入れも大きいようだ。Vol.3には自らも参加の栄誉を得ている。音は優雅な手弱女(たおやめ)ぶりであっても、それぞれに主張を感じさせるこの「男まさりな」コンピレーションは、まさにダルトが活躍する舞台としてふさわしい。

 アートワークとして用いられている写真は、本作の内容やコンセプトに深く関わっている。家々をのむ恐ろしい砂嵐は合成やグラフィックスではない。1930年代にグレートプレーンズを襲った最悪のダスト・ストーム。黄砂だ黄砂ではないと騒いだ先月の異様な天候など比較にも値しない、まさに悪夢のような光景である。第一次世界大戦が直接的な引き金となり、ぎりぎりまで農地開拓が進められた結果、大地を覆っていた草がむしりとられてしまった。そのために嵐が大量の砂を巻き込むようになった。やがてフランクリン・ルーズベルトによってそうした環境を修復すべく特別なプログラムが政府によって発表されるにいたるのだが、ほとんど10年のあいだ、土地の人々はこれに苦しめられることになり、大量の移住者を生み出した......そうした歴史的な災害を記録するフォトグラフである。土地とコミュニティのあり方を根本から引っ掻き回したこの出来事を題材として用い、ダルトはアルバムのタイトルを『コモタス』としている。ラテン語のようだが、意味は「扇動」「覚醒」「動乱」。苦痛や悲しみの記憶としてではなく、物事を揺り動かす契機とするようにこの写真を解釈するのはなかなか剛毅な態度である。そして本作は勇ましい音遣いなどではなく、粗く汚れたような色合いの音響とさまざまなサウンド・コラージュ、深くリヴァーブのかけられたヴォーカル、そして特徴的なベースによって静かに、繊細に、まさに砂地が持つ熱のように表現する。

 構築物というよりはもう少し気まぐれに寄せ集められた音がゆらゆらと揺曳するなかを、すっきりとしたベースが舵をとって進んでいく。ラテン風の旋律をゆったりと、どこか不穏な調子で奏でながら、耳ざわりのよいコーラスをのせて、いつ終わるとも知れない旅路をゆくような佇まいを見せている。"シレンシオ"ではジュリア・ホルターがハーモニウムで参加。大真面目でとぼけるような、柔らかくて人のいい、肉厚な情感が彼女らしいが、この荒涼とした世界観においてはどこかミスマッチで、それがまた異様な魅力を付け加えている。「ゴーストと生命の間で凍結した音楽」。そうした半死半生の世界を描いたというのは本人の弁である。

 リリースは〈ヒューマン・イヤー・ミュージック〉。主宰はアリエル・ピンク周辺の人物でもあり、ジュリア・ホルターの彼氏だという話については確かなことは知らないが、ダルとはこうした人脈図と〈モニカ〉とがクロスする地点に浮かび上がる今日的な宅録女子の例として、興味深いアーティストである。現在はスペインに住んでいるようだが、生地コロンビアを離れて異国に住まうなかで、土地を離れて生きる魂のモチーフを見つけたのかもしれない。

橋元優歩