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Kurt Vile

Kurt Vile

Wakin on a Pretty Daze

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橋元優歩   Apr 19,2013 UP
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 「唯一の真実の愛/それはぼくの心にある」「たったひとりの男/それはぼく」("スノーフレークス・アー・ダンシング")、そんなふうに言い切るところがカート・ヴァイルのすごいところだ。日常で口にすると警戒されるかもしれないが、歌や架空の人物が発したものならばすんなりかっこいいと思える言葉。警戒されるのは、こうした強い断定から立ち上るナルシシズムや自己中心性がときとして共同体の脅威となるから。かっこいいと思えるのは、われわれが本当はその"ナルシシズム"に共感していたり、そうしたありかたを理想としていたりするから。はったりではなく本当にそう思っているのだなということが伝わったときには、カリスマさえ宿る。ともあれ、口には出せないある真実を乗せられる、それは歌や創作の持つ大きな力のひとつではないだろうか。そして、そのように歌にしかできないことを歌にするフォーク・シンガー、カート・ヴァイルが多くの尊敬を集めるのも、よく理解できることだ。

 この詞は次のようにつづく。「出かけると/家に帰りたくなる/家にいると/脳は外に置きざり」。リテラルに意味をとるとへそまがりのように見えるけれど、冒頭の詞をくっつけると、家にかえりたい気持ちや、脳が外に置きっぱなしになっている感覚の方にリアリティが宿る。反対のことがしたくなるんじゃなくて、天は自分を中心に回ってくれない、ということに対する違和が歌われているのだと感じる。「君は絶対逃げ出したりしないよね」とみずからへの帰属を強迫的にうながす"ネヴァー・ラン・アウェイ"なども似ているのではないだろうか。自分が世界から疎外されているという感覚はわりと一般的だが、世界が自分についてこないという感覚は、平凡の線をはみ出てわずかに狂気を光らせる。それが、サイケ・フォークというスタイルにしっくり溶け込んでいる。ジャケット・デザインはカラフルだが、壁面に描かれたグラフィック・アートのひとつひとつはシド・バレット『バレット』の虫を彷彿させた。

 2008年『コンスタント・ヒットメーカー』から数えて5枚め。いまのところ明るくなったと評されることの多い本作だが、歌われている内容はけっしてそうも言えない。ただ、音のヴァリエーションは豊かになっている。"ワズ・オール・トーク"のシンセづかいやハンマー・ビート、"トゥ・ハード"や"エアー・バッド"などに挿入されるノイズや上モノは、彼の楽曲にスペーシーな表情を加えている。空間性のあるプロダクションで、薄霧のようなリヴァーブが頭のなかと外の世界との境界をかく乱している。そしてどんな曲でも、ファズの効いたエレキ・ギターのかたわらにあっても、アコースティック・ギターの冴えた音が他のどの音にも混じりあわずに白々と輝いている。これがヴァイルのアイデンティティなのだろう。

 レコーディングに前作より多彩なミュージシャンが参加しているのも特筆すべき点だ。ツアー中に制作されたという本作は、アメリカ国内3ヶ所で録音が行われ、各地のミュージシャンが〈ウッディスト〉主宰のジェレミー・アールからウォーペイント、ビーチウッド・スパークスのファーマー・デイヴ・シェアーらを筆頭に名を連ねている。サーストン・ムーアやJ・マスキス、パンダ・ベアからも愛される、ミュージシャンズ・ミュージシャンといった趣も強いヴァイルだが、本当に「周囲の助けによって支えられる」アーティストなのだろう。人づきあいがうまいのだとはどうしても想像できない。リスペクトすべき音楽家として慕われ、よくしてあげたくなるような孤独な危うさを持っている、そんなふうに想像しておきたい。

 セッションが充実したものだったのだろう。長尺の曲も目立つ。まさに〈ウッディスト〉なとろとろのドリーミー・サイケ、"ゴールドトーン"が10分展開されてアルバムは閉じる。「心の奥に金色のトーンを探す」という、やはり外には出ない構えだ。まったく歪みない。

橋元優歩