ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Brian Eno - FOREVERANDEVERNOMORE (review)
  2. Mansur Brown - NAQI Mixtape (review)
  3. Loraine James - Building Something Beautiful For Me (review)
  4. Natalie Beridze - Of Which One Knows (review)
  5. 幾何学模様 - クモヨ島 (review)
  6. interview with Gusokumuzu 勝ち組でも負け組でもない若者のリアル (interviews)
  7. Cholie Jo ──沖縄のラッパーCHOUJIとOlive Oilによるデュオがアルバムをリリース (news)
  8. 김도언 Kim Doeon(キム・ドオン) - Damage (review)
  9. interview with Dry Cleaning 壊れたるもののテクスチャー (interviews)
  10. 追悼:キース・レヴィン R.I.P. Keith Levene (news)
  11. グソクムズ ──秋に吹く爽やかな一陣の風、吉祥寺から注目のバンドが登場 (news)
  12. TAAHLIAH and Loraine James ──ロレイン・ジェイムズの新曲はグラスゴーの新人プロデューサーとのコラボ (news)
  13. Björk - Fossora (review)
  14. Soundwalk Collective with Patti Smith ──ブライアン・イーノ、ルクレシア・ダルト、ケイトリン・オーレリア・スミス、ロティックなどユニークな面子が参加したリミックス盤が登場 (news)
  15. interview with Louis Cole 〈ブレインフィーダー〉が贈る超絶技巧ファンキー・ドラマー (interviews)
  16. Kukangendai ——エクスペリメンタル・ロック・バンドの空間現代による新たな試みに注目 (news)
  17. Crack Cloud Japan Tour 2022 ——インディ・ロック好きがいま大注目しているバンド、Crack Cloudが初来日 (news)
  18. interview with Mount Kimbie マウント・キンビー、3.5枚目にして特殊な新作について語る (interviews)
  19. ファイブ・デビルズ - (review)
  20. 今年気に入っているミニ・アルバム - (review)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Melt Yourself Down- Melt Yourself Down

Melt Yourself Down

ExperimentalFunkJazzPunkWorld

Melt Yourself Down

Melt Yourself Down

Leaf

Amazon

ブレイディみかこ   Jun 25,2013 UP

 セックス・ピストルズから脳天に風穴をぶち抜かれ、その後の人生でその穴を埋めようと必死で地道に生きて来たアラフィフのばばあが、過去10年間で最もやられた音楽は、Acoustic Ladylandというジャズ畑の人々のものだった。ということは、昨年末の紙エレキングでも書いたところで、彼らのサウンドを髣髴とさせるというそれだけの理由で、Trio VDの『Maze』を2012年私的ベスト10アルバムの1位に選んだのだったが、いよいよ本家本元のリーダーだったPete Warehamがシーンに帰還した。それも、Melt Yourself Downなどという大胆不敵な名前のバンドを引き連れて。
 己をメルトダウンさせろ。とは、また何ということを言うのだろう、この人たちは。いい大人が、メルトダウンなんかしちゃいけません。
 が、実際、このアルバムでは、さまざまのものがメルトダウンしている。だいたいこれ、ジャズなのか、ワールド・ミュージックなのか、ロック&ポップなのか、ダンスなのか、もうジャンルがさっぱりわからない。異種をかけ合わせて、ハイブリッドを作りました。とかいうようなレヴェルの話ではない。カテゴリーの境界線がぐにゃぐにゃになって溶解している。そもそも、レコード屋に行ったとき、何処に彼らのCDを探しに行けば良いのかわからない(ブライトンのレコ屋では、ジャズじゃなくてワールドのコーナーにあった)。
 「キャプテン・ビーフハートみたい」(野田さん)、「渋さ知らズを思い出した。高揚感ではNortec Collective」(habakari-cinema+recordsの岩佐さん)、「こっそりカン。&ジョン・ケイジも」(成人向け算数教室講師R)という、諸氏が連想したアーティストを並べるだけでも国籍が日本からメキシコまでバラバラだが、バンド自身は「1957年のカイロ。1972年のケルン。1978年のニューヨーク。2013年のロンドン」がキーワードだと語っている。国境のメルトダウンである。多国籍すぎて、無国籍。みたいな。中近東のクラブのDJみたいな煽り方をするヴォーカルのKushalは、モーリシャス出身なのでフランス語&クレオール語も混ざっており、勝手に自分で作った何語とも知れない言葉を叫んだりもしているそうで、もはや言語すら溶解している。

 Pete Wareham 率いるAcoustic Ladylandは、実は卓越したジャズ・ミュージシャンの集団(わたしにはこの道は全くわからんので、文献に卓越したと書かれていれば、そのまま書き写すしかない)であり、2005年のBBC ジャズ・アワードでベスト・バンドに選ばれている。彼らがパンク・ジャズ・サウンドを確立した2ndの『Last Chance Disco』は、英ジャズ誌「Jazzwise」の2005年ベスト・アルバムにも選ばれた。この頃はまだジャズと呼ばれていた彼らの音楽には、何か得体の知れない起爆力があった。で、その原因は各人が一流の音楽家であったからというか、素人耳にもめっちゃ巧いとわかる人々が、ぐわんぐわんにそれを破壊しようとしているというか、それは、楽器が弾けなくとも気合だけで音楽を奏でようとしたパンクとは真逆のルートでありながら、同様のエネルギーを噴出させていた。
 Acoustic LadylandのドラマーだったSeb Rochford率いるPolar Bearや、前述のTrio VDも含め、ここら辺のUKのジャズ界の人びとの音楽が、日本にあまり紹介されていないというのは、大変に残念なことである。小規模なハコでのギグなどに行くと、ちょっとやばいほど熱く盛り上がっているシーンだからだ。

 白いパンク・ジャズだったAcoustic Ladylandが、いきなりアフロになって、駱駝まで引きながら帰ってきたようなMelt Yourself Downは、それこそパンクからポストパンクへの流れを体現しているとも言える。Acoustic Ladylandがセックス・ピストルズだったとすれば、Melt Yourself Downはジャマイカ帰りのジョン・ライドンが結成したPILのようなものだ。36分のデビュー・アルバムは、激烈にダンサブルな"Fix Your Life"から怒涛のアラビアンナイト"Camel"まで、ジャズやワールド・ミュージックはわかりづらいと思っておられる方々も、このキャッチーで淫猥な音のライオットには驚くはずだ。
 ナショナリティーも、ランゲージも、カテゴリーも、コンセプトですらメルトダウンして、どろどろとマグマのように混ざり合いグルーヴしている彼らのサウンドは、レイシストとカウンターが街頭でぶつかり、世界各地で政府への抗議デモが拡大している2013年夏のテーマ・ミュージックに相応しい。排他。衝突。抑圧。抵抗。憎悪。闘争。を反復しながら、世界がやがて混沌とひとつに溶け合う方向に進んでいるのは誰にも止められない。LET'S MELT OURSELVES DOWN.

ブレイディみかこ