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Neon Neon

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木津 毅   Jun 27,2013 UP
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 「きみは死ぬべきだね」......グリフ・リスが当時の首脳たちに向けてそう歌っていたのは、スーパー・ファーリーズ・アニマルズの『リングス・アラウンド・ザ・ワールド』の"ノー・シンパシー"だった。2001年のことだ。テーマのひとつとしてグローバリズムが深く根を張ったアルバム......前年のレディオヘッド『キッドA』と同じように。冒頭の言葉は、ある瞬間の偽りのない気持ちを口に出したものだろう。だがそのアルバムでは他の曲で、ポール・マッカートニーがセロリを齧る音で参加させられていた。カリッ、カリッ、カリッ......。僕はこのエピソードがたまらなく好きだ。スーパー・ファーリー・アニマルズのあり方が、とてもよく表れているように思うから。怒りは感情で、ユーモアは理性。そのふたつをリスナーへの深い思いやりで結びつける彼らのようなミュージシャンがいることを、僕にはちょっとした奇跡のように感じられる。彼らはちょっとした笑いが音楽に、あるいは人生にどれほど大切かを優しく教えてくれる。

 ネオン・ネオンはファーリーズのフロントマン、グリフ・リスとLAのビート・メイカーであるブーム・ビップによるコンセプチュアルなシンセ・ポップ・ユニットで、本作が2作目。前作『ステインレス・スタイル』は自動車発明家のジョン・デロリアンのスキャンダラスな人生にインスパイアされた作品で、それはつまり、商業主義やセレブリティ・カルチャーと、デュラン・デュランの80sシンセ・ポップや21世紀のヒップホップを結びつけた知的な風刺表現であった。だが、そこには揶揄や断罪よりもどこかメランコリーや慈愛のようなフィーリングがあって、それがグリフ・リスらしい非常に両義的な印象を生んでいた。その時代の商業主義の「後日譚」がわたしたちの生きる現在であることを彼は自覚していて、そんな愚かなわたしたちの姿に苦笑いをしているのだ。
 本作『プラクシス・メイクス・パーフェクト』のモチーフは、大戦後のイタリアを生きた共産党員ジャンジャコモ・フェルトリネッリ。なるほど簡単なバイオを読んだだけであまりにも興味深い、かなり特異な人物である。一族の莫大な資産を受け継ぎ、それを資産としてソビエトの社会主義古典を蒐集、また反ファシズムや(当時で言うところの)第三世界にまつわる書籍などを自分の出版社から出している(ソビエト関連では、ボリス・パステルナークの『ドクトル・ジバゴ』を西側にもっとも早く紹介したことで有名)。ネオン・ネオンは丸みを帯びたシンセの太い音を鳴らしながら、フェルトリネッリの風変わりな人生のトピックを次々と持ち出していく。『ドクトル・ジバゴ』、60年代にカストロとしたバスケットボール、事故なのか他殺なのか未だに解明されていない爆死、そして共産主義......。冷戦時代の歴史のダイナミズムとある種のエクストリームさが、キッチュでフェティッシュなシンセ・ポップに込められている。キャッチーなメロディが繰り返される"ドクトル・ジバゴ"ではこんなフレーズがどこか寂しげに歌われる。「1956年から57年になるころ、僕はまだ(共産主義者の)パーティ・アニマルだった/でも長くは続かない」。
 ネオン・ネオンはここで共産主義が燃え盛った時代を切なく見返しながら、理想やイデオロギーが止まらなくなってしまったときの奇妙な可笑しさを浮かび上がらせる。序盤の"ザ・ジャガー"、"ドクトル・ジバゴ"の穏やかなメランコリーも染みるが、ユーモアという点での真骨頂は中盤、"ショッピング(アイ・ライク・トゥ)"からハイ・テンポの"ミッド・センチュリー・モダン・ナイトメア"へ間髪入れずに至る流れだろう。前者の「買い物(するのが好き)」というデュエットに合わせつつ、ヨーロッパのレトロな映画のワン・シーンを真似して思いっきり身体を揺らしてみるといい。ひとを食ったような転調に、思わず肩の力が抜けずにはいられない。その脱力感はなにも特異な時代や人物だけを風刺しているわけではなく、ある理想やイデオロギーの失敗の「その後」を生きるわたしたちの哀しさと滑稽さをも笑っているのだろう。だが、同時にそれを抱擁しているようでもある。
 60年代に生きていたら、まっすぐに理想に燃えられたのだろうか?......愚かにも、そんな風に夢想することが僕には時折ある。けれども、フェルトリネッリの理想に燃えた数奇な人生が幸福/不幸の二元論で語れるものでないように、理想に燃えることが難しいわたしたちの時代が良いのか悪いのかなんて誰にもわからない。だから、グリフ・リス、ネオン・ネオンは優しいメロディと心地よく踊れるビートに乗せて、複雑な現代、哀しい後日譚を生きることをちょっとした笑いとして差し出してみせる。それは理性であり知恵であり、そしてやっぱり、何よりも思いやりなのだと僕は思う。

木津 毅