MOST READ

  1. JAWS - Keys To The Universe (review)287
  2. Faust - Just Us (review)258
  3. ギーク母さんの21世紀女児カルチャー観察記 ピンクに塗れ!~現代女児のキラデコ事情~ 第9回:戦わない男の子、トロフィーにならない女の子 - ~アニメ『妖怪ウォッチ』にみるアサーティブネス (columns)164
  4. Arto Lindsay, Paal Nilssen-Love - Scarcity (review)148
  5. ハリー・ポッターが左翼って本当? - ──ブレイディみかこ待望の新刊、『ザ・レフト──UK左翼セレブ列伝』来月発売! (news)136
  6. アナキズム・イン・ザ・UK 第24回:異邦の人 (columns)114
  7. interview with Untold - 僕はミュージシャンに転職した (interviews)86
  8. interview with MC Kan - ヒップホップ・ドリーム・アゲイン (interviews)82
  9. interview with Ben Watt - 31年目のメランコリー (interviews)62
  10. 王舟の7インチをレコード・バッグに追加すべし! - 王舟 - Ward/虹 (review)54
  11. Slackk - Palm Tree Fire (review)53
  12. Genesis Hull - Who Feels It, Know It (review)48
  13. interview with Takagi Masakatsu - かみさまのいるところ (interviews)46
  14. interview with Vashti Bunyan - 旅から歌へ、伝説のフォーク・シンガー、最後のアルバム (interviews)45
  15. interview with MARIA - 音楽と、ちょっとセクシーな話 (interviews)42
  16. interview with Arca - ベネズエラ、性、ゼンとの出会い (interviews)41
  17. interview with Fennesz - “アフター”の音響 (interviews)38
  18. じゃがたらから、森へ - ──元じゃがたらのギタリスト、OTOが語る『つながった世界──僕のじゃがたら物語』、11月26日刊行 (news)33
  19. Nas - Illmatic (review)32
  20. ギーク母さんの21世紀女児カルチャー観察記 ピンクに塗れ!~現代女児のキラデコ事情~ 第1回:ピンクに塗れ! (columns)31

Home >  Reviews >  Album Reviews > Illuha- Interstices

Album Reviews

AbstractAmbientField RecordingModern Classical

Illuha

Illuha

Interstices

12k

iTunes

野田 努   Jul 19,2013 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加

 来週26日に書店に並ぶ『AMBIENT definitive 1958-2013』では、その年々にリリースされた代表作に選定された1枚だけが大きく扱われているのだが、2011年度のそれは、伊達伯欣の『Otoha』だ。同じく2011年には、伊達伯欣+コーリー・フラーによるイルハのデビュー・アルバム『Shizuku』も〈12k〉から出ているので、そちらにするべきだったかもしれないが、こういう選択は監修者(=三田格)に委ねられる。
 『Shizuku』は、リリース当時は欧米ではいきなり評判となった作品で、いまではダウンロードでしか聴けないのが残念と言えるほど、いわゆる非日常的なサイケデリックではない側のアンビエントとしての質が高い。『ミュージック・フォー・エアポーツ』が好きな人が好む作品だろう。まる1ヶ月、アンビエントを聴いて書くために部屋に籠もっていた三田格も舌を巻いたように、イルハは何か持っている。何を持っているのだろう......。僕が彼らの音楽に触れたのは、2012年4月21日の養源寺だったが、たしかに印象に残っている。最初の音が鳴ったその瞬間から、何の説明もなく、音は聴き手の気持ちを押し広げる。すると、イルハの音響を特徴付ける多彩な音の断片(ピアノ、チェロ、ギター、あるいは自然音や具体音等々)が、まさに音の「しずく」となって、いろんな角度から聴こえるのだ。

 『Shizuku』は、米国北部ベリングハムの古教会での録音を東京で編集した作品で、チェロの生演奏を活かし、モダン・クラシカルな感性が東洋的な間の宇宙に注がれている、最高に美しいアルバムだったが、それは「音楽が聴こえる」「音が鳴っている」というよりも、具体音やフィールド・レコーディングを効果的に使った、「音のしずくが舞っている」感じなのだ。『Interstices』には、僕が本堂の畳の上で聴いたライヴの前日の演奏が1曲目に収録されている。『Shizuku』のクライマックスとなっている、和歌を詠む"聖夜"は2曲目に収録。それぞれ長尺の全3曲はライヴ演奏ならではの......というか、イルハのライヴならではの、細かい音々が、心地よい夜風に吹かれながら、散りゆく花びらのように舞っているのである。七尾旅人はかつて「ゆれている/ゆれている」と歌ったが、音は舞い、景色はゆれて、現実世界が官能的に見える、こんな気分にさせる音楽はなかなかない。彼らの新しいアルバムが楽しみだ。

野田 努