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WITHOUT YOUR LOVE

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橋元優歩   Jul 31,2013 UP
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「ウィッチハウス」という名が歴史の引き出しのなかに格納されてしまったあとに、『ウィズアウト・ユア・ラヴ』は忽然と姿を現した。まさに遅れてきたファースト・アルバム......過去数枚のEPはすでに大きなインパクトを残し終え、気分としてはセカンド・アルバムを迎えるようなタイミングだ。『オー』(2010)や『アワ・ラヴィング・イズ・ハーティング・アス』(2012)のジャケット写真は、まるでチルウェイヴにおける『ライフ・オブ・レジャー』ジャケのように、「ウィッチ」なる概念に視覚的な肉づけを与え、ジャンルを超えてインスピレーションの源泉となった。〈4AD〉が息を吹き返したようにミステリアスで「ウィッチな」雰囲気のサイケデリック・ポップを繚乱とリリースしていたのもこの間であったし、のちのアンディ・ストットの誕生を準備するような流れであったと考えることもできるだろう。

 もちろん、当人にとってはウイッチだろうがポスト・ダブステップだろうが関係なく、こうしたことは聴く側の楽しみ方の問題でしかないことは間違いない。しかし共通するモチーフや音像(ゴーストリーと形容されるオーヴァー・コンプ気味のローファイなプロダクション)を持つハウ・トゥ・ドレス・ウェルの本年作などは、そうした個性を残しつつも、よりスムーズで、ポップスとしての洗練度を上げる方向に向かい、インクやライのR&Bと共鳴しながら、個人のテーマとしても新しい局面をひらいている。「ウィッチ」にまつわる諸々が、表面的にもすっかりいまの音のなかに消化され溶けてしまっているこのタイミングで、その名を象徴して(させられて)きたオーのファースト・アルバムを聴くというのはやっぱり少し奇妙な感じを抱く。

 ホーリー・アザーやクラムス・カジノ、ハウ・トゥ・ドレス・ウェルなどこうした界隈に際立ったキャラクターを打ち立てた〈トライアングル〉を離れ、『ウィズアウト・ユア・ラヴ』は自身のレーベルからリリースされている。「次の一手」ではなく、自身にとってのいまのすべてを純粋にかたちにしたかったのかもしれない。遅れてきたファースト・アルバムは、真っ黒い影をシミのように引きずってきた。音の様子はいまだ異様な姿かたちで、真夏のヘッドホンには洞窟のつめたさが降りてくる。

 ロマンティックでホラーなヒス・ノイズに覆われ、ピアノの旋律が感傷的に散らされ、少しずつピッチを狂わされ、ドローン風の音の壁に囲われた"サイレン"。この壁のなかに、一生すらを囲われたというようなきれぎれのアルトが響いて消える。そこですでにわれわれはこのアルバムの全体を知るかもしれない。サンフランシスコのプロデューサー(現在はトルコなのだろうか?)、オーことクリス・デクスターは、この作品のジャケットの黒を「エンプティネス(空っぽさ/空虚さ/空白)」の感覚だと説明する。デクスターによれば、音色やリズムに並んで音楽のほとんどを占めるものがそうした空虚・空白であるそうだ。「クラシック音楽や、そんなにパーカッションの入っていないタイプの音楽を聴くと、僕の心のなかには黒い背景が浮かぶ」。そして「このアルバムの曲はたくさんの黒い背景を持っている」。そのイメージを端的に具象化するのがこの冒頭だ。これは終曲に次いで2番めに尺の長いトラックとなっている。彼にとって音楽的に大きな要素である空虚=空白=黒のイメージは、彼の音楽の設計図のなかにきちんと線を引かれたものだということが感じられる。

 "3;51 A.M."の音飛びするようなラストでビクッとするかもしれない。作品を統べる暗さ冷たさの正体が空白だと知るときに、音の温度はまたもう1度と下がる。EPに比べて全体に歌モノ感が出ているが、先ごろソロもリリースしたパートナー的シンガー、バタークロックの洞にこもる空気のようなヴォーカルが、音の破片をソングとしてつなぐようでつながない、奇妙な緊張感を生み出している。シンセが単音でなぞる旋律と追いかけ合いながら彼女の声もデクスターの空白の一部となっていく。黒い空白......"ミスアンダーストッド"の脈のようなキックを聴きながら、そして"5;51 A.M."の白明を感じながら、時系列をいじるミステリー小説を読み終わるように、われわれはいまオーのはじまりの場所にたどりつく。

橋元優歩