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巻紗葉   Aug 29,2013 UP
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 前作『眠る男』の"1week feat. Watashi"が大好きでいまでも年がら年中聴いているせいか、あまり時が経ったように感じない。自分が中年になったせいか。いや、しかし。6年といえば小1が小6に、中1が高3になるわけで。やはり長い。PRIMALはいったい6年も何をやっていたのだろうか?

「バンドでアルバムやろうとしてたけど、ベースができないって言いはじめてポシャって、クルーでアルバムって話もあったけどそれもダメで。2009年の夏から1年ぐらいはラップはもうフィーチャリングとライヴ言ってくれたのをやるだけでした。ラップやめる気はありませんでしたけど、病んだり、働いたりの繰り返しでしたね。その生活の打破を目指したのがこのアルバム製作です」(『Proletariat』資料より)

 なるほど。この話を聞くとリード曲"Proletariat feat. PONY"の「働き蜂 磨く己の暮らし 勝ち取る価値 親から巣立ち 猫からタチ」というパンチラインが素直に頭に入ってくる。――まったくうまくいかない。生活の歯車が噛み合ない。空回る。だけど気合い入れなきゃいけない。

 そんなおのれを鼓舞する表現に「猫からタチ」って言葉を選ぶあたりはさすがの一言。「てめえがマグロじゃオンナはイカせらんねえぞ」と。PRIMALも悶々としてたんだなあ。でもそんななかからひねり出したきた言葉だから強い。ラッパーのリリックにおいて最も重要なのはリアルだ。

 たとえばKOHEI JAPANのアルバム『Family』。このアルバムでKOHEI JAPANは、リアルの定義を文字通りの意味に置き換えた。つまり、当時の彼のとってのリアルは、ドラッグディールでも、デカい車でも、セクシーな女でもなく、小さな子どもとの生活、そして家族との日常だった。たとえ刺激的ではないトピックであっても、それを自分にとってウソのない言葉でおもしろく表現することこそがリアルなのだと宣言した。

 この『Family』がリリースされたのは奇しくもPRIMALのファースト・アルバム『眠る男』が発売される3カ月前、2007年6月。『Proletariat』には表現の方向性こそ違うが、『Family』と同じベクトルのリアルが込められている。子どもができて以前よりも自由になる金も少なくなり、おまけに景気はどんどん悪くなっていく。「IQ高くてもThank You 言えぬ奴」(「Proletariat feat. PONY」)が跋扈し、生きるだけでストレスが溜まる。だが「ぶっちゃけ病んでるRapperのパパ」は「必死にやってる一児のママ」と息子のために、「働き蜂 磨く己の暮らし 勝ち取る価値 親から巣立ち 猫からタチ」と『眠る男』とは違う意味での武闘宣言、"武闘宣言 2.0"を叫ぶのだ。

 最後に。最終曲"岐路 feat. TABOO1, 漢, RUMI"について。この曲はThe Anticipation Illicit Tsuboiがプロデュースしたもので、Theo Parrishの"Friendly Children"を思わせる子どもの歌声がサンプリングされた、メランコリックなナンバーだ。この曲の冒頭でPRIMALは先日急逝したMAKI THE MAGICへの弔辞ともいえるフリースタイルを披露する。本編のリリックでは、TABOO1、漢、RUMIとともに友情をテーマにしたラップを聴かせてくれる。そして最後の最後に収められているIllicit Tsuboiの約1分以上におよぶスクラッチはクレイジーで美しく、悲しい。

 今後どんな作品がリリースされるかわからないが、俺はこのアルバムが2013年最高のアルバムだと断言する。

巻紗葉