ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Primitive World - The Revolt Of Aphrodite (review)
  2. interview with Sonic Boom サイケデリック・ロックの重鎮が30年ぶりのソロについて語る (interviews)
  3. スチャダラパー - シン・スチャダラ大作戦 (review)
  4. interview with Darkstar 失われたレイヴに代わるもの (interviews)
  5. ralph ──気鋭の若手ラッパーがファーストEPをリリース、プロデュースは Double Clapperz (news)
  6. Jun Togawa──戸川純がまさかのユーチューバーになった! (news)
  7. Wire - Mind Hive (review)
  8. The Soft Pink Truth ──マトモスの片割れ、ドリュー・ダニエルによるザ・ソフト・ピンク・トゥルースがクラストコアのカヴァー集をリリース (news)
  9. Walls - Coracle (review)
  10. Ralph ──東京の気鋭のラッパーが新曲を発表、プロデュースは Double Clapperz (news)
  11. Run The Jewels ラン・ザ・ジュエルズは何がすごいのか (interviews)
  12. Knxwledge - 1988 (review)
  13. Play For SCOOL ──三鷹のスペース SCOOL を救済するためのコンピがリリース (news)
  14. Various Artists - Gilles Peterson Presents MV4 (Live from Maida Vale) (review)
  15. Columns Stereolab ステレオラブはなぜ偉大だったのか (columns)
  16. interview with Kensuke Ide サイケ詩人、空想の物語 (interviews)
  17. Aphex Twin ──エイフェックス・ツインが現在の状況を警告 (news)
  18. Tomas Phillips Pulse Bit Silt (style)
  19. Shabaka And The Ancestors - We Are Sent Here By History (review)
  20. interview with Laurent Garnier & Eric Morand 祝・Fコミ25周年、ダンスフロアでまた会おう! (interviews)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Shigeto- No Better Time Than Now

Shigeto

AmbientDowntempoFusion

Shigeto

No Better Time Than Now

Ghostly International/アートユニオン

Amazon iTunes

野田 努   Sep 10,2013 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加
E王

 日本人の名前を使ったザック・サギーノは、日系アメリカ人である。デトロイト在住というが、生まれと育ちはアナーバーで、アナーバーとデトロイトとは距離は近いが文化や環境は別モノ。デトロイトは、10万ちょいも出せば体育館ぐらいの部屋を借りられるような、地価があってないような都市だから、かつてのリクルーズのように敢えてそこを拠点に選ぶ若者もいると言えばいる。そして、かつてのリクルーズのように、シゲトの音楽からも彼がデトロイトにいることの影響がうかがえる。
 『No Better Time Than Now(いまよりマシな時代はない)』なる意味深なタイトルの今作は、シゲトにとって3枚目。2枚目では、彼の日本人の祖父の広島の実家の戦前の写真をアートワークに使っている。そのタイトルは『lineage(血統)』、彼の血筋へのロマンティックな思いが込められた詩的なアルバムだ。

 エレクトロニック・ミュージックは、ベース・ミュージック・シーンではなくとも、あらかじめハイブリッド音楽として展開している。デトロイト・テクノ自体が黒い土壌で白い文化(あるいはYMO)を受け止めながら醸成されているし、また、ヒップホップの方法論があらかじめ何でもアリと言えば何でもアリなのところがあるので、文化的に開かれていることの快感がある。シゲトが文化的空想に耽ることが許される音楽と言えるわけで、そして彼は自身の甘い空想力を音に変換することに長けている。
 
 『No Better Time Than Now』は、フライング・ロータス『アンティル・ザ・クワイエット・カムズ』以降のもっとも美しい作品ではないだろうか。ジャズ/アンビエントへとアプローチしたLAビーツを、言わばロニー・リストン・スミスの方向にハンドルを回している。マシーンドラムの新作のように、今日のビート・シーン/クラブ・ミュージックのいち部が「洗練」へと向かっていることにも同期しているのだろうけれど、シゲトのコレは、あまりにもロマンティックなのである。アルバムを通してやけに滑らかで、一時期のビビオや昔のボーズ・オブ・カナダにあったものがここにあるというか。
 だが、しかし彼はこの甘ったるい音楽で、昔は良かったなどとは言わせない。ドラム・プログラミングの多彩さ、フワフワの音響とエレピの甘いメロディとの掛け合いは、たった1回聴いただけで持っていかれる。ゴールド・パンダとオリーヴ・オイルとの溝を、いや、デトロイト・テクノとフライング・ロータスとの溝を埋める音楽を探している人にはこれを推薦したい。本当、いいっすよ。

野田 努