ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Beyoncé - Cowboy Carter | ビヨンセ
  2. The Jesus And Mary Chain - Glasgow Eyes | ジーザス・アンド・メリー・チェイン
  3. interview with Larry Heard 社会にはつねに問題がある、だから私は音楽に美を吹き込む | ラリー・ハード、来日直前インタヴュー
  4. Columns 4月のジャズ Jazz in April 2024
  5. interview with Martin Terefe (London Brew) 『ビッチェズ・ブリュー』50周年を祝福するセッション | シャバカ・ハッチングス、ヌバイア・ガルシアら12名による白熱の再解釈
  6. interview with Shabaka シャバカ・ハッチングス、フルートと尺八に活路を開く
  7. Columns ♯5:いまブルース・スプリングスティーンを聴く
  8. claire rousay ──近年のアンビエントにおける注目株のひとり、クレア・ラウジーの新作は〈スリル・ジョッキー〉から
  9. interview with Keiji Haino 灰野敬二 インタヴュー抜粋シリーズ 第2回
  10. Larry Heard ——シカゴ・ディープ・ハウスの伝説、ラリー・ハード13年ぶりに来日
  11. 壊れかけのテープレコーダーズ - 楽園から遠く離れて | HALF-BROKEN TAPERECORDS
  12. Bingo Fury - Bats Feet For A Widow | ビンゴ・フューリー
  13. 『ファルコン・レイク』 -
  14. レア盤落札・情報
  15. Jeff Mills × Jun Togawa ──ジェフ・ミルズと戸川純によるコラボ曲がリリース
  16. 『成功したオタク』 -
  17. まだ名前のない、日本のポスト・クラウド・ラップの現在地 -
  18. Free Soul ──コンピ・シリーズ30周年を記念し30種類のTシャツが発売
  19. CAN ——お次はバンドの後期、1977年のライヴをパッケージ!
  20. Columns 3月のジャズ Jazz in March 2024

Home >  Reviews >  Album Reviews > Blastro- From the Beginning to the End

Blastro

HardcoreNoise

Blastro

From the Beginning to the End

doubtmusic,

Amazon

大久保潤   Sep 16,2013 UP

 「良いライヴハウス」の条件というのは色々あるだろうけども、最近は「店ブッキングが面白い」というのが重要なんじゃないかと思うに至った。

 ご存知の方も多いと思うがライヴハウスのブッキングには大きく分けて2種類ある。所謂「企画」と「店ブッキング」で、前者はオーガナイザー(自身が出演者であることもあるし、純粋にオーガナイズに徹することもある)が店を借り、出演者を集めて開催するというもので、週末のパーティなんかはこちらが多い。
 対して後者はライヴハウスのスタッフがブッキングするもの。往々にして平日の空白を埋めて出演バンドにノルマを課すことだけが目的で、組み合わせについても相性もへったくれもない出鱈目だ、みたいな非難を浴びることが多い。まあそういう店が多いのも事実なんだろう。
 とはいえ例えば〈四ツ谷アウトブレイク〉なんかも突拍子もない企画(最近ではガムテープの寺岡とのコラボTシャツ制作とか、茹で卵食べ放題とか)が目を惹く反面、バンドへの理解あるブッキングができるスタッフを揃えているという前提があってのものだ。でもって、平日ブッキングが熱いと以前から思っているのがハードコアシーンの聖地、〈新大久保EARTHDOM〉である。

 「大久保くんはアングラだからね」とは野田編集長の弁で、まあたしかにぼくは客が10人くらいの平日のライヴハウスに喜々として通っているようなタイプではある。知ってるバンド/好きなバンドが複数出ていて、知らないバンドもちょっとは含まれている、というようなバランスが好きで、平日の〈EARTHDOM〉では知らないバンドにガツンとやられることがとても多い。ここ数年でもレッドスキンズ、カルキ、ウラジオストック・パワー・ジェノサイド、ガラクタ等々、世間ではほとんど知られていない数々の名バンドに出会ってきた(知らないでしょ?)。

 そんな中でも昨年最大の衝撃だったのがブラストロだ。マシンガンTVのギターで現在はビデカズ2のMiyano、ジャパノイズを代表するバンドのひとつであったC.C.C.C.のメンバーで現在は個人名義やASTRO、C.C.といったユニットで世界を飛び回るノイズ・エレクトロニクス奏者Hiroshi Hasegawa、そして「速けりゃいいんだよクソッタレ」というキャッチコピーを掲げたDie You Bastard!をはじめとする数々のバンドやノイズ系インプロヴィゼーションなどで強烈に速いブラストビートを叩き出すスーパー・ドラマー、Ironfist辰嶋の3人という、ある種のスーパーバンドである。
 もともとノイズとハードコアはそのアグレッションから相性がいいようで、死ぬほど歪んだギターによるノイズ・コア(カオスUKとか)や、ノイズバンドとハードコアバンドの合体セッション(S.O.B.階段とか)、ノイズ担当者をメンバーに含むハードコアバンド(ゴア・ビヨンド・ネクロプシーとか)など様々な形態が過去にも存在するが、ブラストロによりその決定版と言える一手が打たれたと言っていい。
 要するにひたすら速いブラストビートにものすごい爆音ノイズが被さるというシンプルというか「出オチ」みたいなコンセプトなのだが(バンド名からして駄洒落みたいなもんだし)、ノイズの強烈さもドラムの速さもその筋の頂点と言える面々によるものであり、しかもぼくは初ライブ以降かなりの回数を観てるのだが「出オチ」に留まることなく観るたびに凄みを増している。

 あまりの爆音にハードディスクが振動でやられたりして録音も難航を極めたようなのだが、ついにファースト・アルバムが完成。2回の録音失敗を経た上で〈EARTHDOM〉でのライヴ演奏をまるごと収録し、ルインズの吉田達也によるマスタリングが施されている。
 実際、この録音がされたライヴはぼくも観ているはずなのだけど、印象が全然違うので驚いた。音塊が振動となって物理的にぶつかってくるようなライヴ体験とはまた違い、壮絶な爆音ながらも細部に注意の行き届いた電子音響の面白さが堪能できる。
 Miyanoは数台のカシオトーンを斜めに立てて固定しワウなどをかませたりしたセット、Hasegawaは発信機、アナログシンセなどの電子音に鉄板などを組み合わせる。ライヴではダマになってしまいがちなところがクリアーに記録されているので30分ノンストップでも変化に富んでおりダレるところがない。
 そして何と言っても聞き所はドラムですよ。イントロのスネア一発の後、一気にマシーンのような怒涛のブラストビートに雪崩込み、軽くビートダウンしたパートを挟んだ後に更に速くなる! トータル30分強のうち最後の7分くらいが特に速いとかもう笑うしかないですよ。くどいようだがライヴ録音ですからね。

 ちなみにリリース元は大友良英作品の数々やジャズ/インプロヴィゼーション系の作品をリリースする一方でJAZZ非常階段やボルビトマグース関連のユニットなどでも知られる〈ダウト・ミュージック〉。別なバンドを観に〈EARTHDOM〉に訪れた沼田社長が彼らの初ライヴを観て一発で惚れ込みリリースが決定したという次第。ふらっと行っていきなりこんなバンドにガツンと不意打ちされるのが良いライヴハウスってものなのである。


2013.9.18(wed) @新大久保Earthdom
w/Galaxy Express 666、マニアオルガン、カルキ、アダア

2013.10.11(fri)@東高円寺二万電圧
w/ Napalm Death Is Dead、ZENANDS GOTS、O.G.D.、西之カオティック

大久保潤