ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Wen - EPHEM:ERA (review)
  2. John Grant - Love Is Magic (review)
  3. Eli Keszler - Stadium (review)
  4. Kankyō Ongaku ──日本のアンビエントにフォーカスしたコンピレーションが発売 (news)
  5. Kode9 & Burial - Fabriclive 100 (review)
  6. 栗原康 × 大谷能生 ──ともにele-king booksから新著を刊行したふたりによるトークショウが開催 (news)
  7. 冬にわかれて - なんにもいらない (review)
  8. interview with GillesPeterson UKジャズ宣言 (interviews)
  9. Columns はてなフランセ 第17回 フレンチ・ポップの王道からあえてズレる (columns)
  10. Norhern Soul ──『ノーザン・ソウル』、この最高な映画を見たらスリムのデニムを履けなくなる (news)
  11. God Said Give 'Em Drum Machines ──デトロイト・テクノの新たなドキュメンタリーがローンチ (news)
  12. interview with Cornelius 新作『Ripple Waves』を語る (interviews)
  13. interview with Kelly Moran プリペアド・ピアノの新星 (interviews)
  14. Elecktroids ──ドレクシアがエレクトロイズ名義で残した唯一のアルバムがリイシュー (news)
  15. Brainfeeder X ──〈ブレインフィーダー〉10周年を記念した強力なコンピレーションが発売 (news)
  16. Sun Araw - Guarda in Alto (review)
  17. Wiley - Evolve Or Be Extinct (review)
  18. interview with Primal 性、家族、労働 (interviews)
  19. James Ferraro - Four Pieces For Mirai (review)
  20. Laurel Halo - Raw Silk Uncut Wood / Chevel - In A Rush And Mercurial (review)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Bruce Gilbert And BAW- Diluvial

Bruce Gilbert And BAW

AmbientIndustrialNoise

Bruce Gilbert And BAW

Diluvial

Touch

Amazon iTunes

久保正樹   Sep 27,2013 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加

 パンクの波が押し寄せる76年。三十路に差し掛かる頃にギターをはじめ、「ロックでなければ何でもよかった」バンド、ワイヤーに加入(←この発言、どうもメンバーによるものではないようだが、そんなことはどうでもいい。とにかく彼らのすべてを言い得ているのだから)。その特異なグループのなかでもひと際異才を放っていた男がブルース・ギルバートだ。79年に放送されたドイツのTV番組「Rockpalast」出演時の演奏を収録したCD+DVDアルバム『WIRE on the BOX:1979』で動く彼をたっぷりと堪能できるのだが、このプレイが異様にぎこちない。というか何をやっているのかわからない。ほとんどヴォーカルのコリン・ニューマンのギターしか聴こえなかったりするのだが、時折現れるブルース・ギルバートのギター・フレーズ、その誰にも真似のできない音色は、演奏を彩るというよりは楽曲に鋭利で潤いのあるメスを入れ、冷たく金属的な切断面をひりひりと露呈させる。ああ、なんて美しい耳触り。
 
 軋みと振動。80年初頭にブルースがワイヤーのベーシスト、グレアム・ルイスと結成したウルトラ実験音響デュオ、ドームに対するノイズ/インダストリアル愛好家からの羨望は言わずもがな。ブルースのアヴァン・サイドが容赦なく発揮されたソロ・ワークはいつの時代も好奇心旺盛な音フェチ諸氏の耳の内奥をくすぐり、心の臓を突き破る。そして、〈ミュート〉~〈テーブル・オブ・ザ・エレメンツ〉~〈エディションズ・メゴ〉と名だたる実験音楽レーベルを渡り歩き、現在はイギリスの名門〈タッチ〉から作品をリリースするなど、つねに時代の最深部で試みに没頭するブルース・ギルバート。御年67歳が4年ぶりにアルバムを発表した。

 名義を見てわかるように、今作はロンドンを拠点に活動するヴィジュアル/サウンド・アーティスト、デヴィッド・クロウフォースとナオミ・サイダーフィンによるユニットBAW(Beaconsfield ArtWorks)とのコラボレーションである。最初、アートワークにあるように、洗面器に流れる水が排水口にじゅぼぼぼぼぼぼぼと回転しながら吸い込まれていくような音を想像したりしていたのだがこいつはスケールが違う。全然違う。なんでも地球温暖化による海面の上昇、それがもたらす大洪水をテーマにしているのだから。しかもこのプロジェクト、2011年よりスタートして①インスタレーション②エキシヴィジョン③サウンド・リリース(本作)という3ステップを経て完成した大作であり、天地創造にまつわる作品とまで宣うものだから、こちらの耳も少し襟を正し、行儀よろしく構えてしまうわけだ。
 が、しかし。ぽっかり空いた虚空を渦巻くような電子音、シャープで即物的な音粒とともに折り重なるダーク・アンビエントはまさにブルースのサウンド。凝りまくった音響というよりも、少々無骨でたとえようのない気配がじわじわとにじみ寄りざわざわと動揺する。耳をくすぐる細かいノイズ、大きくうねるエレクトロニクス。かつての軋みと振動から間を置きつつも、洗練とはほど遠いラディカルな突起がそこここに仕掛けられているから不安で安心だ。そして、本作をこれまでの彼の作品とひと味違うものにしているのは、やはりBAWの参加によるところが大きい。ナオミ・サイダーフィンによってサフォークとロンドンの海岸で採集されたフィールドレコーディング----穏やかな波のせせらぎからはじまり、天地を揺るがす大洪水、やがて訪れる静寂、さらに周辺の生き物たちの生態音を切り取り/加工されてブルースとデヴィッドが生成した電子音と合流。そう、それは電子音+フィールドレコーディングにありがちな「さもありなんなもどかしさ」とは無縁の「風味のある実験」であり、てっぺんから先っちょまで明確な意識の下に置かれた合流。ラッセル・ハズウェルの巧妙なマスタリングも手伝い、そのコントラストは75分近くにも及ぶ物語の輪郭をあいまいにすることなく時間をあいまいにし、すれ違いと摩擦が産み出す冷めたミニマリズムを吐息のようにほとばしらせる。

 奇しくも、今年〈タッチ〉からリリースされたクリス・ワトソンの新作『IN ST CUTHBERT'S TIME』もイギリスの辺境の地にある海辺の絶景音をとらえたフィールドレコーディング作品であり、こちらはあくまで自然音のみでコンポジションされたものであった。クリスの耳を通した音をさらにリスナーの耳に通して初めて記録が音楽として成り立つ作品、とでもいえるだろうか。これと比較して本作『ディルーヴィアル』を聴いてみると、音楽家の耳、フィールドレコーディングの素材に対する哲学の違いを顕著に聴きとれておもしろい。現実世界に対する新世界。本アルバム中で最もノイジーな"ドライ・ランド"では、すべてをなぎ倒す暴風雨のような電子音とフィールドレコーディングの境界が失われ、こちらの意識は濁流とともに人ばなれした新しい世界にもっていかれる。恐れとも希望ともつかないまったく新しい世界。そして気がつけば、我々は暗い色調を帯びた、しかしクリアな開放感に包まれた海と陸をゆるやかに円環している。

久保正樹