ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with COM.A パンク・ミーツ・IDM! (interviews)
  2. Tenderlonious - The Piccolo - Tender Plays Tubby / Tenderlonious - Tender in Lahore (review)
  3. Sun Araw ──サン・アロウ『ロック経典』の日本盤が登場 (news)
  4. Kevin Richard Martin - Frequencies for Leaving Earth - Vol​.​1 / Kevin Richard Martin - Frequencies for Leaving Earth - Vol​.​2 / Kevin Richard Martin - Frequencies for Leaving Earth - Vol​.​3 (review)
  5. interview with Trickfinger (John Frusciante) ジョン・フルシアンテ、テクノを語りまくる (interviews)
  6. John Carroll Kirby ──LAの鍵盤奏者ジョン・キャロル・カービーが奏でるアンビエント・ジャズ、〈Stones Throw〉より (news)
  7. R.I.P.:エンニオ・モリコーネ (news)
  8. interview with Julianna Barwick 聞きたくない声は、怒りのラップ、怒りのメタル。“グォォォーッ”みたいなやつ (interviews)
  9. すずえり - Fata Morgana (review)
  10. There are many many alternatives. 道なら腐るほどある 第11回 町外れの幽霊たち (columns)
  11. Run The Jewels ラン・ザ・ジュエルズは何がすごいのか (interviews)
  12. Moodymann - Take Away (review)
  13. Hiroshi Yoshimura ──入手困難だった吉村弘の1986年作『Green』がリイシュー (news)
  14. Jun Togawa──戸川純がまさかのユーチューバーになった! (news)
  15. interview with Wool & The Pants 東京の底から (interviews)
  16. Politics 都知事選直前座談会 「今回の都知事選、どう見ればいいか」 (columns)
  17. interview with KANDYTOWN 俺らのライフが止まることはないし、そのつもりで街を歩く (interviews)
  18. Speaker Music - Black Nationalist Sonic Weaponry (review)
  19. interview with BORIS 往復するノイズ (interviews)
  20. Boris ──世界的に評価の高いヘヴィロック・バンド、ボリスが完全自主制作による新作をリリース (news)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Machinedrum- Vapor City

Machinedrum

AmbientDubstepElectronicJuke

Machinedrum

Vapor City

Ninja Tune / ビート

Amazon

木津 毅   Oct 07,2013 UP
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 アルーナジョージを聴いていて僕が思ったのは、ポスト・ダブステップと呼ばれるフェーズは終わりを迎えたんだろうということで、"ユア・ドラムス・ユア・ラヴ"のよくできたポップスぶりを聴いていると、もしくは、僕は行けなかったがディスクロージャーと共演したライヴの盛り上がりぶりを思えば、文字通りダブステップの「ポスト」で起こったことは、ポップへと移行し消費される段階に来たのだろうと、と(もちろん、ダブステップはEDMとしてすでに消費されている)。それ自体は決して悪いことではないと思う。表舞台でガツガツひとを踊らせるアクトもいれば、たとえばマウント・キンビーのように、まだ名前のついていないその先を目指す探求者もいるからだ。移ろうときのなかで、それでも新しいものが出てくる可能性はいつでも潜んでいる......メディアがそれにうまく名前をつけられなくても。

 そのタイミングで聴くマシーンドラムの通産10作目にして〈ニンジャチューン〉移籍後第1作となる『ヴェイパー・シティ』にはどこか、ポスト・ダブステップ時代を総括するようなムードがある。『ele-king vol.11』のインタヴューで「ポスト・ダブステップっていう呼び方はキライだ」と笑っていた彼、トラヴィス・スチュワートは優れた批評家でもあるのだろう。それは感覚的なものかもしれないが、ここからはダブステップ、ジューク、IDM、アンビエント、さらにはチルウェイヴやチル&ビーの反響も聞こえてくる。そして何よりも、それらの横断を滑らかな手つきで編集している。
 本作のコンセプトはスチュワートが夢で見たという大都市であり、トラックのそれぞれがその都市の一区画を示しているそうだが、そのこと自体が現在のエレクトロニック・ミュージック・シーンのメタファーとして機能しているようだ。ハイブリッドなアルバムだが、トラックごとにとてもよく整理されている。まず、ジュークからの影響が色濃いリード・シングル"アイズドントライ"や、オープニングの"ガンショッタ"。アブストラクト・ヒップホップの出自を思わせる"ドント・1・2・ルーズ・ユー"。ビートレスのアンビエント"ヴィジョン"。そして、スペイシーなシンセ・トリップ"シーシー"......この耽美なまでの陶酔感はアルバムのなかでもハイライトだ。抜きん出てドリーミーな"ユー・スティル・ライ"があれば、クロージング"ベイビー・イッツ・ユー"ではジェシー・ボイキンス3世の歌声によってソウルにまで分け入っていく。夢というキーワードによるサイケデリアはたしかにあるが、それらはごちゃ混ぜにならない。この都市はきちんと区分けされている。
 ここに彼自身の強い個性を発見するのはたしかに難しいかもしれない。が、特定のジャンルやムードに入り込んでしまわない慎ましさこそが、いくつもの名義を持ち、また、スキューバ主宰の〈ホットフラッシュ〉や〈プラネット・ミュー〉、〈ラッキー・ミー〉とさまざまな先鋭的なレーベルを渡ってきたスチュワートらしさと逆説的に言える部分もあるだろう。エレクトロニック・ミュージックの移り変わりの速さやジャンルの細分化は何かと好意的に見られないことが多いが、マシーンドラムの『ヴェイパー・シティ』においては、それらこそが内包されてひとつのコンセプトになっているように感じられる。そしてそれは、インターネット時代の21世紀のリスナーの感覚とスムースにシンクロしている。情報量の多さがしかし、洗練されて心地よいアルバムだ。

木津 毅