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野田 努   Oct 10,2013 UP
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 駄作だろうと秀作だろうと作品さえ出れば聴く、そういうアーティストは稀にいるが、マジー・スターはそのひとつ。ホープ・サンドヴァルの声があり、デイヴィッド・ロバックのギターがある。まあ、筆者にとってはホープ・サンドヴァルの声さえあればいいのだが、ロバックのチョーキングとビブラート、そしてアコースティック・ギターの音色は、なんかもうマンネリというより、ひとつのトレードマークにもなっている。
 マジー・スターのデビューは1990年、UKではセカンド・サマー・オブ・ラヴの余韻が充分にあって、同年ストーン・ローゼズがスパイクアイランドでライヴをやったときは「サード・サマー・オブ・ラヴ」などとメディアが囃し立てたり、とにかくそんな太陽と愛とダンスの季節である。
 そして、ファースト・サマー・オブ・ラヴでは賑わったであろうアメリカ西海岸の彼らの孤独と影は、ダンスから離れ、実にかったるそうな曲調とともに時代のなかで異質な光沢を帯びていた。バンドは3枚の美しいアルバムを残して活動休止しているが、その後ジーザス&メリー・チェインやケミカル・ブラザースの作品にヴォーカリストとして招かれたサンドヴァルは、2001年に素晴らしいソロ・アルバムを発表している。
 ペンタングルのオリジナル・メンバーだったバート・ヤンシュ(ジミー・ペイジも影響されたスコットランドのギタリスト)が参加したそのアルバム『バーバリアン・フルート・ブレッド』を筆者はいちばん好んでいる。当時のフォーク・リヴァイヴァルというよりも、ライ・クーダーをさらにもう一段ストーンさせたような、青白い美しさはいまでもまったく色あせていない。何にもやる気のでない日に聴いたら最高の1枚だし、何にもやる気のでないことを肯定する音楽としてはずいぶんエレガントだ。バックの演奏も良いが、サンドヴァルの歌声が他に類を見ないほど魅力的だからである。
 サンドヴァルは、それからデス・イン・ヴェガスやマッシヴ・アタックの作品にも参加している。人気は衰えるどころかじわじわゆっくり上昇し、寡作であるのにかかわらず年々ファンを増やしているように思う。2009年には2枚目のソロ・アルバムを地味~に出しているが、商売っ気のなさは彼女のヴォーカリゼーションの気怠さの品性を補完している。勝ち気でガツガツしているサンドヴァルなど想像できないし、かつてはその美貌っぷりでも知られた彼女だが、すでに隠者の風格すら感じる。
 『シーズンズ・オブ・ユア・デイ』は、マジー・スターとしては17年ぶりの通算4枚目のアルバムで、またもやバート・ヤンシュをはじめとする数人のギタリストが参加している。何も変わっていない。サッカーには「勝っているときには変えるな」という格言があるが、彼らも変わらなくていいのだ。マジー・スターは最初から最高だったし、最初から怠惰な日々の輝ける栄光だった。甘美さも変わっちゃいないが、ロバックのギターが研磨されている気がする。アコースティックの度合いは増して、"低く飛ぶ"という、いかにマジー・スターらしい曲名の最後のブルース・ナンバーにおけるスライドギターは聴き所のひとつとなっている。まあ、筆者にとってはサンドヴァルの声さえあればいいのだが。
 何にもやる気が出ないのは、夢を見れないからではない。マジー・スターはどう考えても、静かに夢見る音楽なのである。日々こんなにもドリーミーでいいんでしょうか。かつてトム・ヴァーレインはこう歌った。「夢は夢見る者を夢見る」と。ビーチハウスの3枚目のアルバムが好きな人は聴いて損はない。

野田 努