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Keith Rowe / Graham Lambkin

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Making A

Erstwhile Records

MinimalTechnoAmbient

ExperimentalMusique Concrète

Toshimaru Nakamura, Ken Ikeda, Tomoyoshi Date

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Green Heights

Baskaru

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野田 努   Oct 31,2013 UP

 ここ10年、若い人らの音楽を聴いていて思うのは、みんなうまいなあということ。演奏がうまい。しっかりしている。真面目だ。松村だ。そんな風に感心するいっぽうで、型にハマり過ぎているんじゃ……と思うときがある。
 音楽だけの話でもない。最近はたまに電車のなかで絵を描いてらっしゃる学生さんを見かけるが、そーっとのぞき見すると、まあ、たいてい誰もが似たような絵柄で、でもたしかに電車のなかでジャクソン・ポロックみたいなことしていたら危ない人かもしれないし。何にせよ、下手でもガッツのあったドーハ世代が好きで、技術を捨てることができたパンク/ポストパンクとか、あるいは素人ディスコなどと揶揄されたハウスなんかに感化されている人間は、うまさというものを否定はしないけれど、型にハマり過ぎていると何かと警戒しがちでいけない。
 AMMの影響は、今日にいたって、さらにまた、地味~に地味~に浸透し続けているように感じる。「最近はAMMみたいなのばっかりだからさ」と松村がいつもの調子でぼやいていたが、ノン・ミュージシャンというコンセプトの下地がなければポストパンクもああはならなかったろうし、実際コーネリアス・カーデューの再発盤は、レコード店の、もはや現代音楽でもフリーでもなく、もっとガキんちょが集まるようなポップなコーナーにある……いやいや、でもこういうのは、背伸びしたいガキんちょだからこそ聴くものだよな。基本、人間おっさんになれば趣味はますます保守化するし、若いからこそ、がんばって、無理して背伸びして、自分が入り込めない世界に侵入したいと思うもの。グラハム・ラムキンも、イギリスに住んでいた若い頃にAMMを聴いて、多大な影響を受けている。
 『Making A』はラムキンとキース・ロウとのコラボレーション作品である。作品においてロウはギターを使っていない(彼はギターを発信器のように使うことで知られている)。クレジットには「コンタクト・マイク/オブジェクト(物)/フィールド・レコーディング」とある。いっぽうラムキンの担当は、「コンタクト・マイク/オブジェクト(物)/ルーム(部屋)」。楽器を使わず、ただここには音がある。そして、ここには作者の存在感さえもない。姿を消したふたりの男が残した音のみが鳴っている、そんな感じだ。柔道で言うところの空気投げ……というのは我ながらひどいたとえだが、しかし『Making A』を聴いていると、万がいち長生きできたら、人生のどこかで、自分もビル・ドラモンドのように音楽をまったく聴かないという年月を過ごしてみたいという願望に駆られるのだった。

 そのキース・ロウとのコラボレーション作品もあるベテランの中村としまる(ノーインプット・ミキシング・ボード奏者で知られる)、そしてKen Ikeda(〈Spekk〉や〈Touch〉からの作品で知られる)、そして伊達伯欣 (畠山地平とのOPITOPE、コーリー・フラー とのイルハで知られる)の3人による『Green Heights』(リリースはフランスの〈Baskaru〉)は、まったく美しい時間を誘発してくれる。四方八方散っていく音色は、彼らがこの作品を楽しみながら作ったことを告げているのだろう。リラックスした音楽だが、いわゆるリラクゼーション系の爽やかな、パッケージされた「さあ、リラックスして下さいね〜」とは違う。フェネスを美術館から引っ張り出しながら、3人の男が静寂という畑を耕しているような、そんなこと思わせる。休日の昼間に聴こう。気配が変わる、しかもたぶん良い方向に。
no non-music, no life...

野田 努