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Sons Of The Morning

Abstract HiphopElectronicaNoise

Sons Of The Morning

Speak Soon Vol.1

Yellow Year

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デンシノオト   Jan 24,2014 UP
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 00年代エレクトロニカの記憶と技法は、いま、どのように伝承されているのだろうか。

 1990年代末から2000年代初頭、ハードの飛躍的な向上によって、PC内での音色の徹底的なエディットが可能になり、それまでの機材では不可能であった音色のエディットや運動感覚の生成、音響デザイン(それらのエラーの活用も含めて)が行えるようになったとき、いわゆる、ポスト・デジタル・ミュージック=初期エレクトロニカのフォームは完成したといえるのだが、同時に、音色や音響の運動に対する聴き手の聴覚もまた大幅に拡張させていった。ミュージック・コンクレートや電子音楽など現代音楽のフィールドに属するアカデミズム内ではなく、クラブ・ミュージック/テクノ・フィールドから派生したからこそ、よりポピュラーな形で聴き手の聴覚を更新させたのだろう。キム・カスコーンの語る「失敗の美学」が作り手と聴き手の間に一気に浸透していったのだ。

 そして、00年代初頭には、90年代末期の「実験」の成果を踏まえて、よりポップでありながらも、グリッチなどのソフト・ノイズを活用したミニマルな和声進行の瀟洒な電子音で織り成す応用型エレクトロニカが一世を風靡したわけだが、2000年代末期~2010年代初頭のドローン/アンビエント・ブーム以降(しかし、これは「音楽」への回帰でもあったと思う)、そういったエレクトロニカは、わずかな例外を除いて音の海に溶けていった。

 だが、昨年あたりからだろうか、大きな変化の兆候を感じるのである。まるで音の海に溶けていた音響が再び形を取り戻してきたかのように。たとえば日本のエレクトロニカ・シーンにおいて、00年代初頭のエレクトロニカ・ムーヴメントからの影響を受けた(間接的であっても。たとえば2003年のスケッチショウ『ループホール』以降の環境とも)音楽家たちが、極めて高品質な作品を相次いでリリースしている。〈プログレッシブフォーム〉からリリースされたポウン/ヒデキ・ウメザワ『ポートレイト・リ:スケッチ』(2013)などは必聴だ。

 では、海外はどうか。確かに近年のエレクトロニクス・ミュージックのトレンドは、インダストリアル/ノイズとの交錯であったり、ミニマル・ダブであったり、ジュークであったりするなど、00年代的なソフト・グリッチなエレクトロニカはシーンの中心にいるわけではない。だが、〈ラスター・ノートン〉は未だ健在だし、多くのアーティストが作品のリリースを続けていることを見逃してはならない。

 ビート・シーンからエレクトロニカ・ムーヴメントの交錯を実現したプレフューズ73ことギルモア・スコット・ヘレンもその一人である。デジタル・エディットだからこそ可能なボーカル・チョップの手法でシーンにその名を知らしめた彼は、トレンドとなったその手法に固執することなく、音楽的にも音響的にも作風を拡張してきた。彼は9枚のオリジナル・アルバムをリリースし、さらにはピアノ・オーヴァーロード、アーマッド・ザボ、サヴァス&サヴァラス、クラウド・ミレヤなどの別名義・別グループなどで大量の作品を生み出しきた。連名コラボレーション作品としてはザ・ブックスとのEP『プレフューズ 73 リーズ・ザ・ブックス E.P』(2005)もある。2012年には、突如、ピアノ・オーヴァーロード名義のアルバムをリリースし、われわれを驚かせたものだ。

 本作『スピーク・スーン Vol.1』は、ギルモア・スコット・ヘレンと写真家エンジェル・サバリョスによって設立された新レーベル〈イエロー・イヤー・レコーズ〉からのリリース第一作であり、LAビート・シーンの俊英ティーブスとのコラボレーションである。ティーブスといえば、2010年にリリースされたファースト・アルバム『Ardour』は未だ多くのリスナーに愛されている名盤だ。そのロマンティックな音響とクリッキーなビートを聴いていると、桃源郷へと連れていかれるような気分になる。画家でもある彼のトラックには、聴くペインティングとも形容したい色彩感を感じるのだ。フライング・ロータス以降、注目すべきビートメイカーの一人といえよう。

 プレフューズとティーブス。そんな二人のコラボレーション作品となれば、どれほどの作品に仕上がるのかと聴き手は思わず身構えてしまいそうになるが、本作は、そんな聴き手の想像などを軽やかにかわしたリラクシンなアルバムであった。まるで初夏の空気のように柔らかく、同時に夏の終わりのようなを淡い記憶を刺激するノスタルジアが緩やかにゆれる。何度聴いても聴き飽きない、何年先も聴けるような普遍的な作品である。

 同時に私は、先に書いたような00年代エレクトロニカの技法が、極めて自然な形で鳴っていることにも驚いてしまった。LAビート・シーンとエレクトロニカ? 確かに戸惑うだろうが、前述したプレフューズ以降(そしてフライング・ロータス以降)、エレクトロクスの使用方法において共通する点も多い。過度に圧縮された軽やかに蠢く電子音のエディットと、細やかな動き。それらがステレオに配置(デザイン)されていくことで耳をくすぐり、時にムード・ミュージックのように甘くドリーミーな和声感覚も鳴り響き、細やかなビートが絡むのだ。

 そもそも90年代のアブストラクト・ヒップホップの流れを受ける彼らが、00年代的エレクトロニカと交錯するのも極めて当然であった。00年代のエレクトロニカ的音響とは、サンプリング・ミュージック以降、もっとも大きなサウンド・テクノロジーの進化であるのだから。全7曲、どのトラックも、00年代的なデジタル・コンプレッションが多用された音が、デザインされ、軽やかに鳴っている。甘いコード。ソフトなグリッチ・ノイズ。大きな円環を描くようなクリッキーなビート。時に断片的なギターが鳴り響き、時にアンビエント/ドローンが持続する。あらゆるものからフローティングしているデジタル・サウンドがもたらす音の運動と色彩をめぐる音の快楽。ミニマルなスタイルと、適度にセンチメンタルで、ポップな音。夏の終わりの記憶を刺激する白昼の夢のようなサイケデリア。それらが日常の片隅で不意に鳴り続けること。

 このコラボレーションには、そんな00年代的音響の最良の部分が鳴っている。デジタル・サウンドに封じ込められた夏の終わりの記憶に、グリッチ・ノイズやサウンドが介入する。それが、私たちの、21世紀の音楽である。エンドレス・サマーは終わっていないし、終わらないのだ。現在と過去はノイズとデジタルと音楽/音響の狭間に、並列に、ある。00年代エレクトロニカ/音響は、いまも、これからも私たちの耳元で、波の記憶とデジタルなソフト・ノイズと共に鳴り続けるだろう。

デンシノオト