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野田 努   Feb 18,2014 UP
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 あたかも極限状態を試すかのように、このところハウス・ミュージックばかりを聴いている人間が日本に少なくとも5人いるはずである。彼らは日夜『HOUSE definitive 1974-2014』のため、なかばマゾヒスティックなまでに4/4キックドラムを浴びているのだ。雪が降ろうと快晴だろうと、腹が減ろうと満たされていようと、外へは一歩も出ずに……

 長年音楽を聴いてきて、大衆音楽史においてもっとも大きな分水嶺となっているがディスコ/ハウス・ミュージックだったというのは確信がある。数ヶ月前も、たまたまある場所で、ある高名な音楽評論家と目があった瞬間に「俺はクラブは嫌いだから」と言われたが、こういうことは西暦2014年になろうが珍しいことではない。ノイズ/インダストリアルの愛好家でも、80年代半ばにそれがディスコを意識するようになってから離れていった人は少なくないが、僕も最初からディスコ/ハウス・ミュージックを素直に受け入れたわけではないので、その気持ちがわかる。10代~20代前半の若い頃は、ダンス・ミュージックなんてものはナンパで軽くて、低俗だと思っていた時期がある。恥ずかしくて聴けたものではないと。たんに自分がその超然とした優雅さを理解できなかっただけのことだが。

 ディスコは一時期商業的に大ブレイクしたので、1975年までのアンダーグラウンド時代を、そして流行が終わった後のアンダーグラウンド回帰時代(代表的なのがアーサー・ラッセル)を顧みずして、先入観や偏見だけで出来上がってしまったイメージがまだある。ダンスがうまくて、やたらキラキラしたイメージだ。実際は、音響装置の実験もあり、また、ゲイの運動家たちの拠点としての政治的な側面も併せ持っていたりと多様だが、たぶんどんな人にもざっくりとしたイメージがあるだろう。ところがハウス・ミュージックには、ディスコほど明確なイメージがない。ハウスはディスコから来ているが、しかしそれが出てきたとき、ディスコと違って匿名的で、つまり妖しく、より異質に見えた。

 ラリー・ハードの超名曲がほのめかしたように、ハウス・ミュージックは「ミステリアス」だった。ジョン・サヴェージが言うように、80年代半ばのレアグルーヴ(昔のファンク崇拝)が支配するダンスフロアにとっては、あり得ない何かに思えたものだ。この日常世界のどこかには、自分たちのまだ知らない感性による何かが始動している。まだ知らない世界がある。〈トラックス〉や〈DJインターナショナル〉、〈ニュー・グルーヴ〉のレーベル面の素っ気ないロゴ、ラフなデザインと印刷もそうだが、クレジットには初めて見るような名前ばかりが印刷されている。同時代のニューウェイヴ・ディスコの洒落たデザインとは対極で、しかも事前の情報もなく、ただそこに1枚の12インチがある。
 そこには好き勝手に録音された得体の知れない音が彫られている。ときにはセクシャルなトーチ・ソング、ときには狂ったかのようなドラッギーな反復、ときにはディープな思いを誘発する音が、名も無き人たちによって作られる。世界のどこかで醸成されるその「ミステリアス」さ、これがハウスと括られるジャンルの大きな魅力だった。
 かつて、ベルリンのベーシック・チャンネルというレーベルは確信犯として、その「ミステリアス」さを継承した。アーティスト名が読めないくらいがちょうど良いのだ。誰が作ったかという情報を明記するよりも、どんな音がそこにあるのかということへの関心を高めるほうが、このジャンルでは最高の効果を果たす。今日、東欧(ルーマニアやブルガニア、ロシアなど)のミニマルなハウスが異常に人気なのも、「ミステリアス」さと大いに関係があるのだろう。そしてNYのレーベル〈L.I.E.S.〉もまた「ミステリアス」であることに自覚的だ。

 本作は、昨年末のリリースで、レーベルにとって2作目のコンピレーションとなる(1枚目は『ピッチフォーク』いわく「スクリレックスの口のなかに尖った棒をぶっ込んでいるかのような」作品。どんなものかわかるでしょ?)。先日、NYでクリス&コージーがライヴを披露したときにサポートしたのがこのレーベルだったというが、彼らの音は明白なまでにアシッド・ハウス寄りで、ガラージ・ハウスもしくはディープ・ハウスなどよりはノイズ/インダストリアルに近い。ディスクロージャーではなく、ファクトリー・フロアやBEBの側……いや、それ以上に衝動的な何か。レーベルを主宰するロン・モレッリは、自身の作品はノイズ/インダストリアル系の〈ホスピタル〉から出している。
 紙エレキングで島田嘉孝氏が書いているが、〈L.I.E.S.〉は、昨年から日本でも人気レーベルなっているそうだ。レゴヴェルトはテクノ・リスナーにはそこそこ知られているだろうし、昨年話題になったトーン・ホークもこのレーベルから出している。が、基本「リリース経験の乏しい名の知れないようなアーチストばかり」の作品を出しているというのに売れているのは、レーベルへの信頼度や極めて衝動的(ガレージ・ロック的)であるがゆえの楽曲のユニークさもさることながら、そこで何が起きているのか知りたいという欲望が駆り立てられているからなのだろう。ハウスは難しい音楽ではないが、これが意外と気持ち良ければいいって音楽でもない。『Music For Shut Ins』には挑戦的な若々しさ、毒々しさ、激しさがある。

 NYは、ディープ・ハウスよりの〈Mister Saturday Night〉も調子が良い。NYは、アレックス・フロム・トーキョーによれば、のぼり調子だという。なにせ新しいNY市長ビル・デブラシオへの期待が大きい。民主党から(左よりの)NY市長が当選するのは24年ぶりだそうだ。前々市長のジュリアーニや富裕層を優遇した前ブルームバーグ市長に真っ向から対立する低所得者層支援の政策を掲げている彼は、これまで日常化していた警察の職務質問まで緩和させる方向らしい。デブラシオはイタリア系で、ディスコもディスコティックのイタリア語風の読みだし……。何にせよ、ウォール街のデモは無駄ではなかったわけだし、NYのクラブ・カルチャーも盛り上がるわけだ。〈L.I.E.S.〉の流通をベルリンのハードワックス(マーク・エルネストゥスが経営する世界的人気のレコ屋)が手がけるということも島田氏のくだんの原稿に書かれているが、さすがに鼻のきく連中だと感心する。時代の風向きはここにあるのだ。

 そういえば、ディスクロージャーのリミックス・アルバムの人選にラリー・ハードの名前があった。EDMとの違いを見せつけているが、それが通って話ではなく、読者にはハウス・ミュージックの「ミステリアス」さに注意を払って欲しい。これはレトリックの問題でもあるが、アティチュードと音楽性に関わる話でもある。ハウス・ミュージック以降の電子音楽の実験系でもそれは踏襲されている(3~4年前のOPNもそうだった)。「ミステリアス」とは辞書的に訳されるところの「神秘的」ということではない。「より多くを知りたくなる何か」であり、「咄嗟に説明の付かない何か」であり、それは安易に長いものには巻かれないことで保たれる。ま、『Music For Shut Ins』は僕のようないい歳の人間が聴くにはドラッギー過ぎるのだが、この1週間、ディープ・ハウスばかり聴いていたので、口に直しにはちょうど良かった。

野田 努