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トリプルファイヤー

Indie Rock

トリプルファイヤー

スキルアップ

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竹内正太郎   Apr 03,2014 UP
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 ふわふわしたものとの、ふわふわした戦い。人によっては、それは、ただ虚空を舞っているだけの悲しいダンスに見えてしまうかもしれない。なぜならば、彼らの音楽は徹底してノンポリティカルで、(ノー・ウェーヴやギャング・オブ・フォーを評するときの海外のライター風に言うなら)パンク・ファンクのダンサブルな反復演奏を基調とし、メロディをほぼ排したうえでの、ヴォーカル、吉田による意味深な独白がただひたすらに続いていくものでしかないからだ……一義的には。だが、おそらく、トリプルファイヤーは何かと戦っている。もっと些細で、微妙で、小さい何かと。あるいはそれは、かつて山本七平が論じた「空気」のようなものだろうか。
 そうに違いないと決め込み、自分なりに吉田の言葉を解釈しきった気になってパソコンを立ち上げると、何も書き出せず、ドツボにはまっている自分にただ気づくのである。何を書いても「いや、そんな細かいこと考えてないすね(笑)」と流されそうだし、「いや、本当はそういうことが言いたいんじゃないんですけどね(苦笑)」とも返されそうだ。それくらい、歌詞(?)はメタフォリカルな弾力に富んでいる。こんな字数稼ぎまがいのことを断らなければ何も書けないような、解釈とその裏との無限ループに徒労を感じつつも、なお何かを語りたくなる、そんな魔力を余白と行間に忍ばせた9曲32分、トリプルファイヤーのセカンド・アルバム『スキルアップ』が恐ろしい!

 昨年の〈DUM-DUM PARTY 2013〉で観た30分足らずのライヴ。没個性的なポップ・スターのパロディなのだろう、両手を挙げ、唐突に「カモン!」と連呼し、フロアを煽りはじめるヴォーカルの吉田は終始、真顔であった。その動きにキレや真剣さというものはまったく感じられず、その目はただあさっての方向を凝視している。再三の「カモン!」コール。まったく反応のないフロアに、ときどき笑い声が漏れる。額面通りに観察すれば、彼はデフォルメされた、ある種の「普通」に擬態しようとしていた。だが、彼にそんな気がないのは誰の目にも明らかで、建前として取られたポーズと実際の意気込みのズレによって、聴き手の腰はいちど抜ける。それを立て直そうとするうちに、またリズムに乗り遅れる。トリプルファイヤーの虚空を舞うようなダンスは、そうやってよろめくようにはじまる。
 たとえば、友だち至上主義的にパーティーに明け暮れる人間になりきる“おもしろいパーティー”、あるがままの自分を懸命に自己アピールしてみる“ちゃんとしないと死ぬ”、観光地の土産によくある、穴を覗くと絵や写真が見えるキーホルダーを日本人が好きそうな権威主義的な煽り文句で真剣に売り込んでみる“本物のキーホルダー”などは、その典型だろう。そう思うと、ノー・ウェーヴ/『Solid Gold』あたりの頃のギャング・オブ・フォー/後期のゆらゆら帝国を混ぜ合わせたような、タイトなパンク・ファンク・サウンドも、ある種の勤勉さのパロディというか、ストイシズムに水を差すための反復演奏というか、マニュアル漬けにされた学生アルバイトの仕事のようにも見えてきて、いったいどこまでが天然でどこまでが計算されたバンドなのだろうと、僕は勝手な解釈を重ねながらもまたドツボにはまるのである……。

 この際だ、ドツボついでに行くところまで行ってしまおう。かつて鶴見俊輔が、戦後における漫才を評してこんなことを書いている。「官僚制度と教育制度の要求する機械のような正確さを一拍はずして受け止めるような、それに乗り遅れることを通してその流儀を批判するというスタイル」、それは物言えない人びとの知恵であると(『戦後日本の大衆文化史(1945~1980年)』より引用)。
 そう、トリプルファイヤーに僕が感じるのも、強い言葉を持たない人間ならではの知恵だ。「あえて・空気・読まない」という真っ向からの反発ではなく、「(まったくその気がないのに)あえて・空気・読んでみる」ことによって、なし崩し的に迫ってくる空気をふとシラケさせてしまうこと。超大手の就活サイトの広告にインスパイアされた例のアー写に象徴的だが、あのような「類型化された個性への同調圧力」なんて手合いはいまさらまともに取り合っていられないから、あえて適応してみる道だけが残るのだろう。そこでは演奏だけが勤勉で、表現に両義性を持たせている。そうした文脈で聴けば、タイトル曲“スキルアップ”は、格差社会と官僚制度のなかで成長していくサラリーマンを生温かく祝うような歌だ。

 真面目な話、これは案外、役者の揃った観のあるいまのインディ・ロックのシーンに一石を投じる存在になるかもしれない。あとは、たとえば5月28日にリリースされるという坂本慎太郎のセカンド・アルバム『ナマで踊ろう』が出た後でも、果たして本作を同じ思いで聴くことができているか。聴いている方が勝手に気負っているようで恥ずかしいが、しかし僕は、そんな乱暴な比較が成り立つくらいのポテンシャルをこのバンドの将来に感じていたい。

竹内正太郎