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Pure X

Pure X

Angel

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橋元優歩   Apr 17,2014 UP
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 リアル・エステイトのマーティン・コートニーはいつのまにかジョージ・ハリスンのようなひげをたくわえ、先日のインタヴューでそのあたりをぼかしつつ訊ねると、「ジョージ・ハリスンのコスプレだよ(笑)」との答えが返ってきた。むろんのこと、レイドバックした音は同時代への批評とともにある。ふるいものが純粋に新鮮だったり、そのなかの普遍的な魅力に打たれる体験もふくめて、それは必ず、どこかで時代や社会と接続する回路をもっているものだ。
 だから、たとえばピッチフォーク誌のように、ピュア・Xの3枚めとなるフル・アルバム『エンジェル』について、「そのエスケーピズムや、現実との葛藤を拒否するような部分について批判するのはたやすい」と言うことこそたやすい。むしろそのエスケーピズムが社会や「現実」というものにすっかりと包摂されてしまっていることを音楽(=アート)は許容するべきかどうか、というところが重要で、そこまで踏み込まないとポスト・チルウェイヴは実りを生まない。筆者は、リスクなく、いい感じに社会とベタオリする逃避感覚が、それでも清潔な情感をもって鳴らされていたことがチルウェイヴのおもしろみであり、リアリティであったと認識している。さて、その種子たちはその後の時間をどのように生きているのか。
 マック・デマルコは(チルウェイヴの嫡流だと言うつもりはないが)、そのうちほんとうに社会や現実から離り、いわゆるアウトサイダー・アート的な領域をゆくことになるのかと思っていたが、新作『サラダ・デイズ』においては音楽的な一種の充実とともに、強烈な弧を描いて「現実」側に戻ってきた。これに近い感触はリアル・エステイトにもある。プレイヤビリティと洗練──マシュー・モンデナイルのギターが後景に退き、ドラムを正式に迎え、セッションとメンバー個々のたしかなプレイヤビリティが各楽曲を支え、アレンジやプロダクションにも洗練が加えられた──は、彼らの今作の特徴であり、リアリティだ。この種の洗練はえてしてとても地味な外見をしているが、中身は豊かで、年代を耐えていける充実がある。だが、彼らのその地に足のついた上質なソフト・サイケは、『リアル・エステイト』(2009年)の浮遊感やエクスペリメンタリズムを経て手にされたものであり、逃避的なモチーフと対立するものではない。逆に、社会の中に築いた逃げ場を守るべくして得られた洗練だというふうに思えてくる。デマルコの洗練も同様に、ただそれがトレンドだから、それがミュージシャンとしての成長だから、ということ以上に、鋭く研ぎ澄まされたエスケーピズムを感じさせる。光学迷彩のように、完璧に姿を隠してしまうのではない。そこに見えながら、どこまで逃避を容認してもらうのか、そのためのひとつのソフィスティケイトされたマナーが彼らにはあり、時代は『ライフ・オブ・レジャー』(ウォッシュト・アウト、2008年)から進んだのだとあらためて思う。

 さて、この点、ピュア・Xはどうか。オースティンのインディ・ロック・バンド、ピュア・X。2011年にリリースされた最初のフル・アルバム『プレジャー』は、ジョイ・ディヴィジョンやポストパンクの埋もれた名盤というようなたたずまいのジャケットにつつまれ、ジーザス&メリーチェインと比較され、現代のウォール・オブ・サウンドと評される深くウォーミーな残響を生み、リアル・エステイトやウッズらと地つづきのシーンで愛されていた。スリープ∞オーヴァーのステファニー・フランコッティともいっしょに活動していたりと、2000年代後期のドリーミーなローファイ・バンドたちの盛り上がりのただなかで輝いていたバンドのひとつである。
 あの当時のどろりとまどろむようなリヴァーブ感や歪んだギター・サウンドは、今作ではあまり聴こえてこない。果てもきりもないセッションは、整った輪郭と洒落たアレンジを持った楽曲にとってかわられた。“リヴィン・ザ・ドリーム”などのタイトでシックなドラミングは、「ドリーム」を生きることが、陽炎のように立つ残響のなかで過ごすイメージではなくなったことを告げている。海とハートが溶け出すジャケットのアートワークは、サマー・オブ・ラヴへの皮肉でも思慕でもあるだろうが、このアルバムの聴きやすさは、あくまでもそれが社会の内側で鳴る音であること──内側に外を築き、守るための繊細な工夫のひとつであることを感じさせた。とはいえ、その洗練の度合いにおいては、リアル・エステイトらに一歩遅れをとるかもしれない。この方向で生まれてくるであろう、次の音にさらに美しい知恵をみることができるのではないかと期待がふくらむ。

橋元優歩