Home > Reviews > Album Reviews > Alessandro Cortini- Sonno
基本ノリで決定する、というような後先をいっさい考慮しない行動規範で生きていると、まったくワケのわからない状況に陥っていることが多々ある。〈プーバー・レコーズ〉のヴィクトリアとマシューデイヴィッドの元ルームメイトでもあるダウナー系トラックメーカー、EMVことエリックにリトル・パブリッシュのブックフェアのためにMOCA(The Museum of Contemporary Art)に連れてきてもらった僕が迷子になり(携帯持ってません)、気がつくとアレッサンドロ・コルティーニに一杯20ドル弱もするふざけたラーメンを奢っていただけるという不可思議な状況に陥ることもある。
と言うと話を飛ばしすぎで、実際は迷子になった後にシンセヲタ繋がりの仕事で交流のあるメイクノイズのふたりと会い、そのまま仕事の話がてらメシでもということで同行していたアレッサンドロのお気にのニセ日本料理屋へきているわけだ。なぜラーメンが20ドル弱もするのか? ということはさておき、僕はせっかくだからとここぞとばかりにメシを喰らいながらアレッサンドロとキモ・シンセ・トークを炸裂させた。ナイン・インチ・ネイルズや彼のソロ作はこれでもかというほどのブルジョワ・シンセ、具体的にはモダン・ブックラ・システムやミュージック・イーゼル等で作り込まれている。さすがはセレブリティ、ラーメンに20ドル弱払うことなどヘッチャラであるのだ。
寿司のニセモノを喰らいながら、シーケンサー内蔵の80'S和製シンセ、MC202へ話題が移る。MC202はアシッド系の廉価版シンセではあるがTB-303ほどありがたがられてはいない地味な存在である。デジタル黎明期の代物で最高にシーケンスが打ち込みにくくてメチャむかつくみたいなことを僕が抜かすと、アレッサンドロ曰く、あれは何も考えずに超テキトーに打ち込むもんなんだ、先日アレだけでアルバムを作った。素晴らしいマシンさ! とのこと。そんなもんかねぇ〜、と鼻を鳴らしつつ皿に残った最後のニセ寿司に手を伸ばした。
ホテルの一室でMC202とディレイペダルのみ、モニターからの出力のスイート・スポットを探して部屋の中を歩きながらハンディ・レコーダーで採取し、蛇口をひねってみたり、ドアや窓を開け閉めすることのアンビエンスがサウンドにどのような影響をおよぼすじゃろか、と最高に自由でリラックスした音楽制作であったという本作品。また件のドミニク・フェルノウのホスピタル・プロダクションからのリリースということも相まって、ロン・モレリや彼のL.I.E.S.が象徴する昨今のインダストリアル・レトロ・ハウスとも共鳴するインスタントな方法論。ミニマルかつダークでレトロ・フィーチャリスティックな心地よいアンビエンスが全編通して堪能できる。
ちなみにアレッサンドロらと別れた後、家路につくと、ヴィクトリアとエリック、それから家人が迷子の僕を心配してくれていたらしく、面目ないなーなんて言ってみたもののなんだか話が噛み合ない。ふとダイニング・テーブルを見るとキノコの破片が大量に散らばっているではないか。あ〜あ、ブッ飛び損ねた。
ラーメンに20ドル弱とかどうかと思うよマジで。
倉本諒