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Arne Deforce & Mika Vainio

Arne Deforce & Mika Vainio

Hephaestus

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デンシノオト   Jul 22,2014 UP

 現在活動休止中というフィンランドのテクノイズ・ユニット、パン・ソニック。彼らはテクノというコンテクストに、ノイズ/ミュージックを導入した偉大な先駆者である。

 そのパン・ソニックの(元?)メンバー、ミカ・ヴァイニオとイルポ・ヴァイネサンが、ほぼ同時期にノイズ/ドローン・アルバムをリリースした。ミカ・ヴァイニオはチェロ奏者アルネ・デフォルスとのコラボレーション・アルバム『ヘーパイストス』、イルポ・ヴァイネサンはディルク・ドレッセルハウス(シュナイダーTM)とのユニット、エンジェルの新作『テラ・ヌル.』を発表したのだ(両者ともレーベルは〈エディションズ・メゴ〉)。
 もっともふたりがソロ・ワークでドローン/ノイズ的なサウンドを聴かせるのは以前からのこと。特にミカはパン・ソニック的なビートとは違う非反復的なリズムをソロ作品で展開してきたのだからとくに目新しいことではない。だが、この2作品を聴き比べていくことで、ふたりのアーティストの個性があらためて浮き彫りにもなる。
 それほどまでにこの2作品は対照的だ。まず、『ヘーパイストス』において、ミカ・ヴァイニオはアルネ・デフォルスとのふたりだけで音を生成している。対してイルポ・ヴァイネサンのエンジェルは、ディルク・ドレッセルハウスとのユニットであるが、複数の音楽家がゲスト参加をしており、彼らとの共闘によって録音されたものである。
 さらには、ミカはソロ・別名義・コラボレーションと旺盛なソロ活動を展開しているが、イルポは寡作だ。エンジェルとしても2011年『26000』以来、約3年ぶりの新作リリースというのも対照的ともいえよう。
 
 それぞれの作品を検討してみよう。まず、ミカ・ヴァイニオとアルネ・デフォルスのアルバムは、チェロと電子音の極めて物質的な交錯による音響作品だ。チェロ奏者アルネ・デフォルスはヤニス・クセナキスやモートン・フェルドマンの難曲も弾きこなし、フランスの現代音楽・古楽レーベル〈イーオン〉からアルバムもリリースしている名演奏家だ。もはや「出せない音はない」とまでいわれている人である。
 『ヘーパイストス』においても、アルネはミカの繰り出す強烈な電気ノイズに真っ向から対峙し、弦が芯から震えるような強烈な音響=ノイズを鳴らしている。それはチェロという楽器の極限への挑戦のようである。さらにその轟音の狭間に不意にチェロ特有の繊細な美音をたおやかに奏でもするのだ。
そしてミカの発する電気ノイズも、アルネが鳴らす弦のハードコア・サウンドに呼応するように、マテリアルな電気雑音を放出していく。まさに電気と弦の物質的恍惚。ちなみに「ヘーパイストス」とは炎と鍛冶の神ということだが、炎をアルネ、鍛冶をミカと置き換えることも可能かも知れない。
 また、本作に通低するリズムは、ミカのほかのソロと同じく非反復的な感覚が濃厚だ。二人の音はぶつかりあい、衝突し、そこから新たな音が生まれていく。その意味で、本作は、ここ数年のミカ・ヴァイニオ作品の中でも、もっともハードコアな音響作品といえよう。ミカは現代音楽と電子音響以降のノイズ・ミュージックの融合/交錯に成功している。

 では、イルポ・ヴァイネサンとディルク・ドレッセルハウスによるエンジェルはどうか。このユニットも基本的にはノイズ/ドローンな音響を聴かせてくれる。とはいえ、2002年のファースト・アルバム『エンジェル』(〈ビップーホップ〉)にもディルクのギターはフィーチャーされており、2006年の『イン・トランスメディアーレ』(2005年にクラブ・トランスメディアーレでの録音)でも、チェロ奏者・作曲家ヒルドゥル・グズナドッティルをコラボレーターに迎えていることからもわかるように、そもそもこのユニットは活動当初から電子・電気ノイズと生楽器の融合を目的として活動していたといえる。〈エディションズ・メゴ〉より2008年にリリースされた『カルムイク』でも、ヒルドゥル・グズナドッティルはアルバム全編を通して演奏し圧倒的な存在感を示している。前作『26000』(2011)にもヒルドゥルは参加しており、もはや準メンバーといっていいほどだ(ちなみにこの『26000』には、BJ・ニルセンがエレクトロニクス、オーレン・アンバーチがギターで参加!)。
 そして最新作『テラ・ヌル.』においては、ヒルドゥル・グズナドッティルに加え、ミカとの競演経験もあるアルゼンチン出身のベテラン・インプロヴァイザー、ルチオ・カペーチェがソプラノ・サックスやクラリネットなどで参加しているのだ。なんという豪華さ。

 そんな『テラ・ヌル.』は、ディルク・ドレッセルハウスのどこか寂しげなギターからはじまる。やがて電子ノイズが絡まり、4者は音楽/音響を行き来しながら、ノイズ/ドローンの洪水を生み出していく。彼らは本作を「ダーウィン的な進化のドローン」と語っているようだが、ある種の生命の進化のように、互いに呼応しながら生成と淘汰を繰り返し、ある必然性を持って音響が生まれているように思える。とても演奏的なドローンだと思った。

 端的にいって、同じように楽器を導入したドローン/ノイズ作品でも、ミカ(たち)の作品は、マテリアル/マシニックな音響であり、対してイルポ(たち)のサウンドは、より音楽的な反復を聴きとることができるのだ。いわば「演奏」を感じるのである。そう、ふたつに分裂したパン・ソニックは、ドローン/ノイズという共通項を持ちつつも、非反復と反復、音響と音楽、放出と演奏、テクスチャアルとコンセプチュアルという両極でサウンドを発生しているといえる。

 まるでプラスとマイナスのように対極/対照的な音を生み出すミカとイルポの現在。その音は、90年代から現在の音響シーンを貫く貴重な存在である。ゆえにわれわれパン・ソニック・マニアは、いまも彼らの動向から目が離せないのだ。

デンシノオト