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dj sniff

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dj sniff、ダウトミュージックを斬る。

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細田成嗣   Jul 23,2014 UP
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 オランダの電子音楽研究所STEIMは、ミシャ・メンゲルベルクやディック・ライマーカスら錚々たる顔ぶれによって電子楽器の開発施設として1969年に創設され、自主運営という形態をとりながらワークショップやライヴ・イベント、アーティストの住み込みでの創作活動の支援なども行う、実験的な音楽に携わる人々をつなぐ類稀な場所である。dj sniffはこの歴史ある研究所において長らくアーティスティック・ディレクターの任に就き、国際的な電子音楽祭を手がけるとともに、他方ではクリスチャン・マークレーに連なるターンテーブル奏者としても活動を続け、これまでに3枚のソロ名義のアルバムを世に送り出している。現在は香港に居を構えて活動する彼による新たなアルバムが、一部異なる楽曲が収録されたCDとレコードの両媒体で、〈ダウトミュージック〉からリリースされた。『dj sniff、ダウトミュージックを斬る。』という刺激的な題が冠された本作品は、どの音楽のどの部分を切り出そうともその作者の同一性へと回収されてしまうような強烈な個性を湛えているとも言える〈ダウトミュージック〉の過去作品に対して、dj sniffの緻密な解体/再構築の作業が冴えわたるものとなっている。

 それは素材を即物的に捉える透徹した眼差しから生まれているように思われる。たとえば“クチセサイザー”という楽曲。声に付随する多様なノイズを用いたヴォイス・パフォーマンスで知られる巻上公一の音楽がここでは素材となっている。dj sniffはまず、唇が開くときに出る音や舌を使ったクチュクチュいう音、吐息に伴う唸り声といったノイズの側面が強い素材を、非常に短い断片として取り出している。もともと物質的な音の響きを有するとはいえ、その特異なありようは巻上に固有のものである。しかしそうした素材を彼はつぎに、短いスパンで執拗に反復するような演奏で提示することによって、もはや人間が発した響きとは思えぬような音の肌理細やかさを際立たせるようにしている。そこへさらに声色にも似たシンセサイザーを被せることによって、声と声ならざるものが縺れ合うように鳴り響く。ここにはまるで巻上公一の姿は何もないかのようにみえる。だが特筆すべきは楽曲の前半にリップノイズを散りばめ、後半に声音が入った素材を持ってくることによって、聴き手がそれを人間の声ではなく、はじめから反復される音響として認識してしまうような仕掛けを施している点である。だから楽曲の終結部にあらわれる一度きりの歌声は、完全に巻上公一のものでありながら、構築された響きの終着点としても機能している。いわば素材の強度を保ちつつ、新たな音楽の創造にも成功しているのである。

 他の楽曲においても上で記したような態度を見出すことができる。それは素材とする音楽の固有性に敬意を表しながらも、同時に音具として扱うことによって創造の源泉とするような態度である。広い意味での楽器=発音体という音楽の根本とも言えるものから思考をはじめようとするSTEIMにも通じるそれから生み出された音楽によって聴き手の前に立ち現れるのは、だから強度をもった素材を自由に操るdj sniffの身振りである。その意味では〈ダウトミュージック〉を見事に切り刻み、このレーベルの前作で垣間見えた変化が決定的なかたちをもってあらわされていると言える。しかしながら全トラックに楽曲名が付され、完結した作品として提示されているCDに対して、レコードには素材となっている音のパターンも収められており、この音盤自体が斬られる対象としてレーベルのカタログに加わったことを宣言するような性格のものとなっている。音楽の生成の終わりなき連鎖は、レコードB面の最後のトラック、大友良英のギター・フィードバックが半永久的に再生可能なものとなっていることからも示唆されていよう。採算を度外視して、〈ダウトミュージック〉初の試みとなるレコード・リリースに踏み切ったことの意味を、なんとか汲み取りたいものである。

細田成嗣